732話 約束
「空港や船舶への呼びかけは?国内ならいくらでも揉み消せますが流石に外に出るのはマズイ。」
「既に実施しています。ただ未確認ですが施設の壁を破ったと言う報告も・・・。」
「流石に厄介ですね。隠遁者で格闘家。身体能力と暗殺能力の権化の様な組み合わせでしたか。」
「鑑定師はそう話しています。しかし、その職名さえ偽装されている可能性もあるとも・・・。」
「今回も猶予は10時間とします。それは拘束を担当する者も分かっているでしょう?それを過ぎれば私からクロエ氏の方へ連絡を入れます。」
かつてなら隠すべき不祥事ですが、今はそんな時代ではない。知るべき人間はその事実を知らなければ問題になる。特に政治家や権力者をその思想が強くなり、後に発覚すれば文字通り取り返しのつかない事態となります。
それこそ不祥事を隠すなら死ぬ気で死ぬまで隠すしかない。それこそ隠し事が隠し事として機能しなくなり、問題が発生せず知る者がいなくなり何もなかったと宣言出来るまで。秘密を暴くと言う話は文字通りパンドラの箱ですが、それはクロエ氏の暴露で嫌と言う程世界は知った。
それこそ最初の交渉とされる文章は我が国でも主席と7人でのみ共有された状態ですね。インターネットが発達し、憶測が飛び交う中で正解を話す者もいますが、そういう者の意見ほど消さずに残す。不都合な事実は消せば消すほど疑惑が出て来ます。見習う見習わないは別として、日本の誤情報による情報統制はかなり有効ですね。
「今回も捕らえられるでしょう。流石にあの包囲を突破出来るとは・・・。軍人を使い中位を使い、それを突破されれば今度は沿岸や空港を封鎖する。」
「ヌルいですよチン。封鎖されても走れば済む。目標としての1点に括るスィーパーとは、言わば特化した人間です。その為だけにイメージを養い機を伺い阻まれ様と折れずに進む。日本が出したり至るプロセス、それに当てはめればリャンは間違いなくやり手のスィーパーです。」
早くに挫けるなら多分、スィーパーとしては脅威ではないでしょう。それこそ挫折を味わい囚われ、再起出来なければイメージは弱り勝手に自滅する。獣人憲章ではないですが、働かざる者食うべからず。それと一緒でスィーパーである限りモンスターと戦い職を使い、イメージを鍛えて立ち向かう。負けっぱなしや挑戦しないと言う選択肢ははなっから存在しない。
惨めでも悔しくても前を見て進むしかないんですよね・・・。それこそ私は不死薬を飲み、そこで満足して立ち止まった。永遠である事の万能感や他者とは違うと言う幸福感、そして何よりいずれは私がトップとなると言う時間的な優位性。
クロエ氏は権力に興味がない。それはリーと言うスパイからも聞かされましたが、なら他の者が権力を握りその権力を持って動かせばいい。長い長い時の中でそれは必ず訪れる。しかし、それはクロエ氏の問いで砕かれて歩くしかなくなった。まぁ、毒言にしても早期に盛られたからいいとしましょう。
「ヌルいですか・・・、殺害は?」
「出来るならすると宜しい。手に負えない犬はさっさと処分する・・・。いえ、その前に1度クロエ氏に連絡してみましょうか。」
「チャン!それは国家の恥では?手に負えないスィーパーを押し付けたと合っては流石に彼女も怒る。」
「いえ、リャンと言う人物は確か最強と言うモノを目指し、クロエ氏と手合わせを願ったのでしょう?その上でゲート内で行方不明となった。つまり、目標からそれた行動を取った上で亡霊の様に現世に現れた。不思議思いません?彷徨い続けるきっかけ、亡霊となるきっかけは何だったのか?私はクロエ氏が何かしたのではないかと考えています。」
「それは推測でしょう!無闇矢鱈と連絡をして・・・。」
「私はクロエ氏に愚痴くらいなら聞くと言質を取ったんですよ。暴走するスィーパーは愚痴の種でしょう?何度も脱走し、拘束する度に同じ手は食わなくなる。流石にこれ以上は殺害しかし道はないんじゃないですか?毎回脱走する度に何人も殺されてますし。」
リャンの殺害数、既に5度の脱走を行い延べ300名。負傷者は数えるに値しませんが、全て撲殺と言う形で殆どの職のスィーパーも殺してしまいましたね。これが多いのか少ないのかと問われれば微妙としか言えませんが、彼がまだ本気ですらないと言うのが救いとも言える。
『弱い・・・、我より弱い者に振るう拳なし。悟りてここまでしか来れなかったならまた、我も弱し。』
何をもって彼が止まるかは彼次第ですが、そう言い残しまた拘束される。対戦相手を求めるだけならば、いい教材と言えるのでしょうが彼は殺してしまう。まぁ、それで釣も出るのでいいとしましょう。弱さを罪とは言いませんが、対峙して負けたならそれは罪ですし。
確かに国家としての面子はありますが、既にその面子は紙で尻を拭くくらいしか価値がありません。そう、面子を気にするのは事実から目を逸らしたい強がり。出来ないなら出来ないと言い、努力の過程は血肉にして結果を出すのは任せられるなら任せてしまう。
個人が力を持つと言う事は管理者の我は弱くなり、その個人の願いをどう誘導するかにかかってくる。仮にコレでクロエ氏が対応しないとするなら、最終手段として殺害は残されてますしねぇ。
「もしもし、クロエ氏?」
『もしもし、チャンさん?』
祭りを数日後に控えた朝、執務室で1人仕事をしているとスマホが鳴った。プライベート用のそれに表示された名はチャン。面倒事の気配がするが、出ない訳にもいかない。なにせ彼が電話を掛けてくるとすれば愚痴だ。それも結構面倒なタイプの。
彼には地位もあり国を背負うと言う立場もある。ワンチャン不死薬関連かもしれないが、そうそう進展があるのかと聞かれれば微妙。なにせ本数が少ない薬は研究するのか飲むのかで意見が割れるだろうし、研究するよりも飲む派の方が圧倒的に強い。
『繋がってよかった。つかぬことをお伺いしますがリャンと言う人物を知っていますか?』
「リャンさん?リャンリャンリャン・・・、あぁ。私の客人ですね。なんです?会いたがっているなら会いますけど。武術家のリャンさんですよね?」
『・・・、本気ですか?』
「本気も何も会うと約束しましたからね。」
本音を言えばゲートの藻屑になっていて欲しかったけど青山はリャンを見つけていたし、チャンからその名が出たなら中層まで行って納得して出てきたのだろう。そうなると今度は俺と言うか魔女が約束を果たす番。流石にここまで来て会わないと言う選択肢はない。
しかし、最強狙いのスィーパーか。適当にあしらうのが一番だけど魔女が扇動した手前どうなってるやら。と、言うかいつ出てきたのだろう?わざわざチャンがその名を出すと言うからには問題でも起こした?
『本人に会えると伝えても構わないんですよね?』
「構いませんよ?えっ?もしかして暴れてます?それなら電話越しにでも約束は果たすと伝えますけど。」
『いえ、今は近くにいないので再度連絡しても?』
「ええ、構いませんよ。電話には何時でも出られる様にしておきましょう。」
そう言って電話を切る。さてと、リャンの相手は俺ではなく魔女だよな?最終的に扇動したのは魔女で中層行けと言ったのも魔女だし。と、言うか扇動って解けるのだろうか?
(魔女〜、武術家のリャンが約束果たしたから会いたいそうだぞ〜。)
(あの雑魚?別にいいけどいつかしら?戦うに値するほど強くなっているのかしら?)
(さぁ?でもまぁ、中層までは行ったんじゃないか?って、それって至って中位に・・・。)
(それはそれでいいじゃない。なんなら貴女が相手をする?対人戦が〜なんて考えていたのだし。)
(対人戦はなぁ・・・。そもそも何でもありでいいんだろうか・・・。)
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「チン、私は施設に行きます。」
「リャンの所ですか?流石に危なくは・・・。」
「今の私はパシリですよパシリ。クロエ氏はリャンと会う約束をしていた。我々はリャンの行動を阻止して、その約束を反故にさせていた。なら、いつ会うのかの部分に噛まないとマズイ。後の事は貴方に任せました。」
リャンが会う理由は手合わせ。その手合わせがどこまでのモノなのか?クロエ氏は永遠を示しリャンは永遠ではない。その永遠に対して人が挑む。結果だけ言うならリャンが死んで終わりなのでしょうが、そのリャンにしても不明な点は多い。
ヘリに乗りリャンがいると思しき施設へ。一部からは火の手が上がり銃撃音も怒号も聞こえてきますね・・・。不死となる前はこの様な所に来るなど絶対に拒否しましたが、不死であるならそのカードも使う。寧ろ、座して時間を使うだけなら置物で良いでしょう?
「パイロット、マイクは使えますね?」
「はっ!」
『リャン!私はクロエ氏との連絡役として来た!ただちに敵対行動を辞め、出て来なさい。そうすればクロエ氏との直接連絡を許す!今からヘリを降ろすからそこに来なさい!追跡する兵士は戦闘行動を中止!繰り返す!』
パイロットにヘリを降ろす様に指示をだしつつ呼びかける。そんな中で兵士達を引き連れて全裸の男が1人、ヘリに近づいてくる。報告書で見慣れた男、リャンだ。
ふと、この場である事が頭をよぎる。全てが嘘と話し、私がリャンの拳を受けたらどうなるのか?と。胸を貫かれくらいでは死なない。心臓が止まったくらいでは死なない。なら、この男の拳を貰ったとして私はどうなるのか?
「来た、連絡を。」
「少し待ちなさい、私は・・・。」
「些事だ。我は約束を果たしクロエと会う。そこには権力も距離も国も何もかも関係ない。あるのは我とクロエとの間にある約束だけだ。」
「・・・、分かりました。」
スマホを取り出しクロエ氏へ連絡をいれると2コールで出ましたし。約束は違わす本当に待っていたのでしょうね。スピーカーモードでリャンに手渡し聞き耳を立てるとしましょう。
「クロエか。我、今だと高みに登れず。去れど約束を果たし手合わせを願う。」
『ええ。約束を果たしたなら会いましょう。』




