731話 勾留者
素材フェスの人員を選定しつつ中層にも足を運びモンスターの映像を集め、更には獣人をゲートに入れたい人や獣人達の試験を行いつつ、千代田や増田から連絡貰って警備やらの打ち合わせ。割と忙しないが妻や子供達と生活出来てるしそこまで苦じゃない。
スタンピードやら宇宙行きやら国際会議に比べればねぇ、この程度なんともないんだよ！身体としても疲れ知らずで動けるし、魔法が使えるから猫の手も借りずに済む。あっ、獣人は手を貸してね？
スィーパー獣人は警察と組ませて事に当たらせると犯罪馬鹿らしい感が増すらしいし。そんな中で商工会から今年のギルド祭りの話が来た。去年は8月末くらいだったけど、今年は8月頭にやるらしい。らしいと言うのは素材フェスを避けられるならその辺りがいいと言う話から。
本来ならホコ天の許可取ったり神輿や櫓の準備なんて言う話もあるんだろうけど、やるのはギルドの敷地内と言うギルドしか建物がない土地だし広さも半径2.5kmあるので申し分ない。的屋も募ればすぐに集まるし、何より今年も夏になると意気込んで準備もしていたのだとか。
要は日程と俺の許可が出れば後は宣伝するだけとなる。別に祭りを潰す気もないし、ウチのゲートにスタンピードの兆候もなければ準備も商工会と有志がやるそうなので許可でいいな。肝心の日付は8/5日と決まり、決まったら決まったでバンバン宣伝しだした。
う〜ん、そんなにバンバン宣伝するもんかね？まぁ、俺は許可した側で運営側は商工会と有志なので好きにすればいい。ただ、またハッピ作るらしいけどいるか？なんでもそのハッピ取り合ってスィーパー達がR・U・Rで武道会してるらしいけど・・・。
「それで？エマとカオリ、後青山はなんでハッピ着てる？」
「ファンだからですが？」
「当日警備スタッフとして動くからですけど？」
「財産としてカウント出来るからだガ？ちゃんとし3着確保したゾ？」
「青山はペンライトしまえ、踊ろうとするな。カオリはまぁ、試着と考えればいい。エマの財産発言はなんでだよ！」
祭りのハッピなんて使い回しで色褪せて、太ってサイズが合わなくなって捨てるくらいだろ？なんでまたそれが財産に？確かに米国では珍しい物かもしれないが、財産と言うほどの価値はない。
「なんでも何もクロエが認めた公式グッズだろウ？アニメの市井ちゃんは市井ちゃン。クロエに似た造形物も市井ちゃン。そんな中でこのハッピだけはクロエがクロエの絵を使っていると認められたモノ。はっきり言ってしまえバ、本人認定グッズはこれしかなイ。オークションで使用済みでも売れば高値ダ。」
「あ〜、スタッフ限定としたのが仇に・・・。えっ？去年もハッピ作ったけど商工会が味しめた？確かにスタッフ用のハッピ作るからクロエ=ファースト公認にしていいかって聞かれたけど。」
「そのスタッフ自体が選ばれし者！数多のスィーパーを倒し実力を見せつけたスィーパーに逆らおうとする奴は少ないですよ！」
「警備する側としては楽ですね〜。青山に賛同するのは癪ですけど、去年の話だとこれ着てる人はギルド公認の実力者なんじゃって話もありましたし。」
「ハッピでハッピー抑止力かよ・・・。なんにしてもそれ着てると混乱は避けられる？小さい子とかも来るし、施設の子なんかも商工会は招待するみたいな話があったけど・・・。」
最近の養護施設はかなり潤っている。と、言うのも高槻がR・U・Rを施設に置いたと言う部分でスィーパーが寄付金出すから使わせてくれと、施設に顔を出したりスィーパーではない人材が欲しい企業が寄付金渡すからスィーパーでない子を企業としてウチで引き取りたいとか、後は元から施設の子を公務員にしたかった国が教育費や施設費給付金を出したりと、かなり金回りがいい。
そんな中で施設名を語って金だけせしめとろう動いた馬鹿者は摘発されたり、そもそも認可が降りなかったり、認可降りてもいきなりR・U・R寄越せなんて言う所は逆に監査対象になったりと様々。実際スィーパーとて人の子で人の子なら子もいる。
しかし、死は歪な不平等でありつつも不平等側に立たない限り平等で、誰かの親だからとその時を見逃してくれない。確かに死者数は緩やかに減っているし、その緩やかな中でも配信やら証言、或いは護衛や国のバックアップを駆使して進み16階層セーフスペースまでは安全に行けるのではないかと言う者も出て来た。
本人が何度もスキップせずにそこまで赴いて、誰かを守りながらも安全と感じるなら個人の見解なので言ってもいい。だが、机に齧り付いた上での空論なら辞めろ。行く行かないは本人の自由だが、情報を発信すると言う事は誰かがキャッチすると言う事で、そのキャッチした人間がみんなが行くからと実力もないのに行ってしまうかもしれない。
「実力者ねぇ・・・。いや、対人戦でも実力者は実力者か。」
「ン？前は対人戦に括るなと言っていたカ゚？」
「その考えは変わらないけど、モノの見方的にね・・・。私はモンスターを倒す事を念頭に置いて動くし、全くとは言わないけど人に対してそこまで職を使おうとは思わない。誇るものでもなければ、ライター代わりになる便利なモノ程度としか考えてない。でも、それは全員でもなければ全く逆で職を誇る人もいるし、モンスターじゃなくて人に勝ちたいって思う人もいるって事。」
米国スタンピードの緊張感は世界的に和らいでいるし、モンスター討伐は仕事でスィーパーと言うものも定着した。そうなると他人と比べだすんだよなぁ・・・。1つの目標に多数がまとまって向かうのは難しいが、個人の目標に個人が向かうのは簡単でそれは大きな力をもつ。プカリとタバコで一服。
「確かに彼奴より強いって言葉はでますもんね。最近は格闘技の試合とかも増えましたし。」
「確かに増えたね。まぁ、私はスポーツ全般に興味がないから流し見しかしないけどさ。まぁ、無駄話はいいとしてお祭りってどんな感じ？」
「そこまで去年と代わりはないですね〜。盆踊り踊ったりスィーパーのパフォーマンスやったり出店出たりとか。今年は花火も上がるし屋形船風に海に船を浮かべるなんて話もありますよ。」
「船の上で天ぷらカ。講習会時は味わえなかったガ、乙なものなんだろウ？」
「川はいいけど海だと波が・・・、もしかして浮かせてる？」
「そんな話もありますね。ホーバークラフト風に海面から浮かせるとか浮かせないとか。」
「また派手な。何にせよ職使って楽しむ方向ならいいさ。当日は私も警備側として動くよ。」
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「チャン！大変な事が！」
「どうしましたチン？大変な事とは財産の喪失ですか？それなら手助けする気はないので自力で回復して下さい。」
「違います！リャンが脱走しました！」
「またですか・・・。」
チンが騒ぎますがどうしましょうか・・・。リャンと言う男は1言で言えば迷惑な教材ですね。彼を運用していた軍人達は彼がファーストと戦う事を望んでいると言った。事実、彼は自力でゲートを進み若返り最高の状態を取り戻しモンスターと戦っていた。そんな彼に軍は目を付け対人戦の師範としていた。
そう、していたです。結合体騒ぎのさなかに行方不明となり、軍として捜索しても行方は分からず死亡したとされました。クロエ氏が彼を手にかけたのか？別にゲート内なら批判する事はありません。あそこでは殺されるのも自己責任ですから。だから我々は彼の事など忘れていた。それこそゲートに消えた様に。
しかしその消えた者はひょっこりとゲートから姿を現し国内で暴れた。ええ、それこそ全裸で空港へ向かい許可なき者は乗れない日本行きの飛行機に乗ろうとして止めに入ったスィーパーを鏖殺した。曰く、悲願の為にファーストに会うから邪魔するなと。
出た時期的に彼を野放しにするのは憚られ、しかし中位となり隠遁者となった彼を殺し尽くす事も出来ず、結果として国内の中位を差し向けどうにか鎮圧して拘束・・・。いえ、拷問の方が正しいですね。
常に電流を流して身体を弛緩させ、脳波を乱して職を使いづらくし、薬物投与で意識も混濁させる。その他にも様々な方法を使いましたが彼は隠遁者、大元がサバイバーなら自身がどうそこから逃げ、どうやって生き残ればいいのかを熟知している。
故に我々としてはどこまで逃げおおせるのかを試す教材であり、実験対象であり更に言えば国内サバイバーのイメージ増進剤とも言えます。質が悪い話をするなら彼は時折冷静で我々に協力する。その見返りはクロエ氏に会わせる事。
本人の弁を信じるなら約束があると言う話ですが、それの判断はつきません。彼と共に行動していた部隊は全員が口を揃えてクロエ氏と対峙した彼が逃げ出した言います。この場合どちらを信用するのか？解答はどちらも信用しないですね。
クロエ氏とは今でこそビジネスと言う面で協力関係を作りましたが、あの当時は敵対的で何をされるか分かったものではなかった。そして、その敵対的が終わり残された部隊とリャンをどうするのか？
部隊の方はまぁ、軍に任せましょう。軍閥に口を出すのは私としても面倒です。それに、それは私の仕事ではない。しかし、リャンに付いては我々の仕事だと言える。下手に逃がせば本当に日本まで行ってしまいますからね・・・。融和政策を取りコアに付いて4カ国会談を行い、その中で自国の人間がクロエ氏を襲撃する。コレは政治的にも国としても相当にマズイ。
「包囲網は？施設からは出ていないのでしょう？最悪勾留施設は高圧電流を流して中の人員ごと焼く予定ですが？」
「・・・、続報はまだありません。」
