729話 身勝手な思い
「水源地全般警備は分かりました、その他は連携を密にして進めていきましょう。他に何か懸念事項は?」
「それの方から。スィーパー派遣会社と言いつつ今回私が担当するのは会場全般の管理です。メインは警察となりますが、それを抜きにしても最新技術の展示会は要注意警備対処と考えています。」
「それは具体的にどの国とは?」
「今打診されている限りでは全てとしか。」
おいおいと言いたいが、一体なに持ち込むつもりだよ。いや、想定の範囲内ではある。そもそも設計図も理論書も日本だけのものではなく、全体を見るならスィーパーの物であり人類のもの。つまり、日本以外がとんでも装備やら機材やらを作っていてもおかしくない。
「そんなヤバ気な兵器の祭典やるつもりのんですか?」
「いえ、今回展示されるのは兵器や武器と言うのもではありません。どちらかと言えば便利品や・・・、時代を先取りする様な物が多い。」
「時代を先取りする様なモノ?」
「木崎本部長、神崎本部長には話しましたが米国は米国産飛行ユニットを。中露は様子見ですが英国は魔法の杖技術を転用した便利品を。その他の国も独自に開発し、他国に売り込みたいモノを持ち出してきます。」
「う〜ん・・・、神崎本部長視点でなにかコレはと思うものは?」
「僕はそれ程ですけど、パワードスーツに組み込んで使う排泄杖は欲しい人が多いですね。」
「排泄杖?」
「ええ。単純にトイレを肩代わりしてくれる杖です。」
「なにそれ普通に欲しい!」
「私も欲しい・・・、パワードスーツ使う組としては色々試したけど、そんな便利な杖があれば欲しい!えっ?兵藤本部長とか宮藤さんは作れない?」
「俺かよ!確かに中位として古参だとしてもなぁ・・・。モンスターから脱水しての風化やらは出来る。それは講習会で見せてもらったし俺も練習した。けどな、それを無害化するってかなり面倒だぞ?なぁ、宮藤さん。」
「はっきり言えば苦行ですね・・・。自分達はモンスターを倒す、殺す、徹底的に破壊して動かなくする。それを念頭に講習を受けたモンスター討伐のプロです。だからこそ、手加減して緩いイメージと言うのは持ちづらいんですよ。匙加減と言うモノは確かに出来ますけど、それを形として残すと言うのは忌避感があリますね。」
「その辺りクロエさんはどうです?」
増田が話を振るが黙秘してもいいかな?この話の振り方は悪手だと思う。確かに人は色々と考える色々とイメージする。でも、それには優先順位と言うか本人として衝撃的な事をどうしても先に考える。
俺ははっきり言ってしまえばゲートに囚われた事が1番の衝撃ではない。そんな事よりも美人な妻が俺になびいた事の方が衝撃的だ。何に囚われて変な体験をする、それははっきり言えばキャトルシミュレーション的な何かだとおき変えられる。しかし、妻との出会いと結婚はそれ以上に衝撃的で子も産まれたと言う事実もある。
既婚者も未婚者もいる本部長連中への説明にかなり手間取るし、何よりも俺の体験と彼等の体験は必ずしも同一でもない。子が産まれ屋上で泣く。それはあるかもしれないし、同時にないかもしれない。感情の振れ幅は個人差がある。それは当然の事で、魔女達がそれを指標にしたのは褒めると同時に俺からすればキレる事だ。
「得手不得手です。モンスターを倒す事を念頭に置いて教育と言うか、助言役としてあれば攻撃的な話をする。それはどの様な形であれ、明確にやる事が定まっているからです。だからこそ本部長達はしぶといし簡単に死は選ばずに戦う。しかし、それは同時に戦う事に特化した本部長を産むとも言える。」
「戦う事に特化した本部長?」
「全ての助言がと言う話ではありません。しかし、大多数はスタンピード後に求められた戦う為の力と言う話です。現にどうすれば効率的なのか?どうすれば活かせるのか?どうすれば仲間を助けられるのか?悪い話をするなら夏目さんの様に自身を変え果てても、誰かを助けると言う高潔な精神を持つ人もいた。」
コソッと夏目にメッセージを送るが、本人としては全く持って評価が上がるならいいらしい。実際本部長選出戦からの本部長達は、大分ギルドで鍛えられたと思われている夏目に助けられたと思う奴も多いし、女性が好きで男性に厳しい夏目はまだフェミニストに見える。
多分時代が進めばフェミニストと言う言葉は消えて男女同等思考が流行るし、それを持てないのは懐古主義者と言われるだかもな。身体的な能力差は16歳まであるにしても、職に就けばそれは逆転もするし16歳以上で性別で区別するのは悪手だ。
うん、非常な話をするならそこがターニングポイント。獣人についてはまだ職に就ける就けないはあやふやだし、明確に何かの指標が出るかもしれないが、出なければ見守るしかない。
人は指標が有り抜け出せるタイミングもある。そこが俺が人類を保護なんて言う烏滸がましい話から抜け出せるタイミング。人の未来は人が作るし、獣人が獣人の未来を作るならそれを見て離れるタイミング。お前は人だろう?なら、人に協力しろ。
言いたい事は分かるが進化と言うか、新しい事を始めるなら古い者は発言を控えるし去れと言われれば去る。積み上げだ歴史は残るんだよ、それは記録で残り否定しても周りが勝手に補強する。
「米国でも小型化するまでには身を削り小田と治癒に務めましたからね。男は我慢しろ持論ですけど、そればあくまで持論であって話しても指導や治癒は拒否しませんよ。」
「あ〜、だから最後まで付き合ってくれたの?その最後のメンバーが米国中位として活動してるけど?七海。」
「同じステージなら男は切り捨てられるだろう小春。手間を掛けて助けてまた同じ手間がかかるなら面倒だけど、それでも一皮剥けてジャンプするなら許す部分もあるさ。」
夏目がニヤリと笑うが多分その笑顔は正解で、長く生きるなら自身を持つのも大事。仮に長く生きるなら最大でも3つの工程に別れてくると思う。それは、育てるフェーズと、見守るフェーズと、最後に切り捨てるフェーズ。
長く生きるのに切り捨てるのか?それはとても単純で重石を捨てる作業。長く生きればしがらみも増えるし背負うモノも増える。しかし、背負うモノは限られていると俺は考えている。家族にしても孫なら2〜3世代。多分そこが孫にしても俺にしても関われる限界だろう。
「夏目さんの意見には賛成としましょう。何を守り何を助けるかは別として、人は戦いそこで育ち先に進む。私達が選ばれたのは闘争心から。ならばどんなに怖かろうと、どんなに気に食わない相手がいようと進むしかないんですよ。」




