閑話 143 とある会議室
「日本は精力的に動いていると言うか、首相さえパシリにされてもそれを黙認するだけの度量があると言うか、アライルにウィルソン君その辺りはどう考える?」
「そうですね・・・、知らないものは知らない。そう言う事を公で話せるだけの実証性を考えるなら、トップは知るべきでない話を部下に任せて知らないと堂々と言う。はっきり言ってしまえば信頼出来る部下は財産でしょう?」
「他者を信じる事の重さ・・・、クロエは最初から職に言われてたんじゃないかと分析してしまいますね。人をどれだけ理解しているかは分かりませんが、本人の弁だけ考えるなら野心もなく家族だけを見て他を切る。そうなれば権力も邪魔で安寧を必要と考える。本人がどう思おうと、私達は言われた言葉や行動や仕草からしか分析の指標を取れませんが、それを考えると言わないは防御でそれも家族の為、言うは必要のせいで・・・、或いは言うしかないから言わされたと考えられます。」
ゲート素材安定化への取り組み、それは我が国としても色々と考えていた。特にエマ大佐の功績も大きく米国中位は日本の中位と共に中層へ向かい甘い汁も大量に吸えた。しかし、政治として考えると非常に悩ましい。
ゲート内は抜きにして地球と言う限りある世界を考えると、我々はパンドラの箱を開け、その箱に弄ばれる形と考えてしまう。かつてなら米国と日本のパワーバランスは米国が上で日本をある程度制御下に置いて対中露の防波堤とし、分かりきったプロレスを取りつつ経済を回せばよかった。
中露の覇権?取っても構わんさ。取った後にプロレスを辞めるならその時が第三次世界大戦の引き金だからね。それはあちらのトップも理解している。しかし、理解しない国民は批判を飛ばしガス抜きの先を求める。それは中韓の反日然り、ロシアの首相が強硬な姿勢を示すこと然り。
何故メディアが支持率を毎度発表するのかと言えば、それはどれどけのガスが溜まり、どれだけ国のコントロールを離れ体外的な敵対活動が発生するかの指標でしかない。国に不満がなければ残るのは個人間のイザコザだろう?それを解決するのは警察の務めで国のコントロール下。
仮に不支持率を改ざんしてもそれに意味はない。日本人なら納得するかもしれないが、我々や他の国なら陰謀論で片が付き更に燃料を注ぐ。それを考えるなら、私は部下に恵まれ彼等を愛国者と言い放ってもいい。
クロエと言う特異点は本当にパンドラの箱でスタンピードが起こる前に私が敵対的、高圧的に話をしていれば今の関係もなくただの高圧的な国として日本人も批判するだろうし、クロエとしてもいつかは見限ると言う気持ちを待ちだす。
年末に押しかけたのは多分正解だ。まさか英国のメアリーとバッティングするとは思わなかったが、結果としてはこれも功を奏したし非公式ながら対談と言う形も取れた。世界は広いがそれでも狭い。人が定めた国境はあくまで、それに従う人間と守ろうとする人間が守るものであって、守らないと考えるならいくらでも今は崩せる。
それは既にクロエがシェンゲン協定と話す前から懸念された事であり、明確に口にされてからは言葉としての重さが増した。協定を結ばないと言う選択は確かにあるさ。だが、結ばない事での犯罪率の増加は増大だ。ビザなしでの渡航は犯罪、だが協定を結んでいれば無罪。
人が定めた罪は人が裁くが、それを許すのも人なら無罪を作るのも人さ。仮に中世に戻り魔女裁判をすると言うなら、クロエは有罪で我々は彼女を裁かなければならない。しかし、その罪は消えて裁く法もない。
仮に・・・、国が定める罪を個人間の罪だけとし、国家間がまとまればどうだろう?覇権はなくなり国は国から裁き管理するシステムに代わりに、国名は地域を指す言葉になる。
「ふ〜む・・・、仮の話をするが私が君達に全幅の信頼を置きメッセンジャーでもいいと言った場合、どれほどの効果がある?」
「プレジデント、それはミスィーズクファーストの後追いですか?それなら明確にやめろと私は言いますよ。」
「それはどうしてかアライル。現状、国のトップはすげ替え可能な首だろう?知らない、知る必要がない、責任は取るにしても無知なまま殺される豚は流石に堪える。しかし、それの有用性を説かれれば認めるかもしれない。」
「説かれて納得するなら聞かないでしょう?これはあくまでミスィーズファーストがいるから出来る方法ですよ。本人が認める認めないは別として、ミスィーズファーストは日本のギルドマスターをまとめる立場にあり、真上面から立ち向かい本人が認めたとしても間違いなら正す。その正す基準は本人の家族が安全か否か。」
「私としても大統領は大統領のままがいいと分析します。仮に後追いをすれば興味はなくします。それは国としての損失です。」
「興味をなくす?それはどうしてかウィルソン君。」
「分析官としてですが、常に対話する者は常に新しいモノに目が行きます。同化し同じ方向に舵を切る知人には、人としての友好はあっても国を見て助けると言う感覚はないでしょう。それなら、我々は我々独自の路線を取りつついい所を取り込む・・・、それこそ日本人的な発想の方がまだ長く付き合えます。」
「ふ〜む・・・、その日本人的な発想と言うのがネックだ。言葉で言われても簡単に出来るものではない。何か具体例は?」
「それなら宗教でしょう。大統領、日本の宗教は?」
「仏教だろう?エマ大佐も座禅を組むと言ったり、精進料理を食うと言っていたが?」
「違いますよ、仏教は世界三大宗教であって日本人にも多数いますが、宗派は多岐にわたりその宗派独自の作法もあります。更に言うなら歴史を考えると神道も出てくるでしょう?これは仏教とは違いアマテラスを祀る。我々の様にカトリックとプロテスタントのに代派閥が争うのではなく、混沌とした他宗教がありつつも認め取り込む。プレジデントはミスィーズファーストの家に赴いたのはクリスマス、それさえも祝っていたでしょう?」
「確かにクリスマスツリーを飾りチキンを食べていたな。そう考えるといい所を取り込めと言う事か。」
「違いますよ。取り込むのは前提でありつつそれを昇華する精神です。今の教会は獣人を受け入れた。過去なら異物として受け入れず、保護と言う話もしなかったでしょう。しかし、そう舵を切るしかない状況となり、受け入れても安定化はした。要はどれだけ多くのものを受け入れて我がものとし、それから更に考えつつ昇華出来るのかです。」
アライルの話には一理ある。確かにあの国は何時も何かを祝い何かを祭り、何かを楽しみつつ他宗教の催事も行う。それは多文化を取り込むと言う事であり、敬意を払いつつも楽しむと言う精神だろう。
実際イースターやハロウィンなんてものは日本に全く関係ない。しかし、彼等はそれを祝うとして勝手に祭りを開く。下手をすれば我々より賑やかなんじゃないか?ハロウィンなんて大都市でコスプレして規制をかけて練り歩くし。
「・・・、OKOK。アライルやウィルソン君の話は分かった。私は私として動きつつ、国の動きとしては楽しむ方向に舵を切る。」
「楽しむ?」
「だってそうだろう?国民からの不満は何をしても完全には消えない。国への不満は何らかの形で国内で解消しなければならない。なら、そこに企業を巻き込んで経済を回しつつ、協定拡大で来た者も楽しむ道を模索する。なら、祭りを開くのが最適だ。」
銃を持ち喧嘩っ早い国民性だとしても、まだ米国人には正義感もあれば一体感もあると信じている。そんな国民が他者を受け入れ、他者が受け入れられたと感じさせるなら祭りを行い多国籍料理の出店でも開かせるのがいい。
文化侵略なんてものは強硬な者が歌う音痴な歌で、その歌を歌わせて何が違うのかを聞きだせれば取り込む法もある。他者を受け入れる。それはかなり難しいが、それでもやってみせた国がおあるなら、我々も我々として取り入れて見せようではないか!




