728話 開催前会議
首相の諸国漫遊と言うか素材価格安定化の取り組み協力要請と言う名の旅は、文字通り近隣諸国だけではなく、北米、中南米やらにも足伸ばしで文字通り世界を回る規模の様だ。連日日本の首相はどこ?とニュースが流れているので追いやすい。
それを見るとテロやらの標的にされそうだが、初回の訪問先がロシアだったと言うのは結構大きいし、そこから中国を周ると言うルートを取った。コレが意味するのは暗に丁寧な無視の終わりである。
今まで無視した国々に最初に行く。パフォーマンスと叩かれるかもしれないが、事実としてお土産もって足を運んでいるので疑惑はあろうと下手は出来ない。ならどうするかと言えば、要人警護体制を最大限にして何事もなく送り出すに徹するしかないし、自国内で暗殺なんて事が起これば更に立場は悪くなる。
なにせ国の体制やリーダーの統率力が如実に問われるのだ。暗殺とまでは行かなくとも、襲撃テロだけなら今までは火消しでどうにかなったのかもしれないが、スタンピードやら今の国の運営やらで現内閣の支持率は高く、支持率が高いと言う事はそれだけ火が付けば燃え上がると言う事。
はっきり言ってしまえば来られるよりもweb会議の方が来られる国としてはありがたいのだろうが、表向きは国際会議等の場に首脳陣がこれからも安全に集まれる事をアピールする目的もあると言われている。
と、まぁ。コレが表の話で裏の話を言うならコアよろしくである。松田曰く鑑定防止の為に本物のコアはどれと言わず、フェイクコアを相当厳重に運んだのだとか。そして、それを運んだ事を隠す為に首相が世界を飛び回っているので後から文句言われないか心配だな・・・。
一応フェイク作る時にお願いされて鑑定防止用の杖と言うかボタン止めを作ったり、他の中位にも似たような物を頼んだらしい。ついでに言うと、首相のビジネススーツの下には小型飛行ユニットを付けて対物理障壁にしてみたり、指輪の中にはパワードスーツを入れたりと、万が一飛行機やらが襲われて墜落しても数ヶ月は生存出来るだけの物資やら衛星電話やらも入れてあれば、護衛には浦城さん達も付いていて不審機が接近して来たり未確認のパワードスーツが飛んできたら飛び出して迎撃するのだとか。
今時の要人専用機は相当改修されてレーダーなんかも積んであれば、武装こそネット弾何かの非殺傷武器も積んでいるし、随伴機がいなくても人が空を飛んで迎撃しに来る。戦闘機がやられた!よし脱出だ!ではなく、戦闘機がやられた?なら脱出して第2ラウンドだ!思想が増えているし、自衛隊も米軍もその考えで訓練している。
実際戦闘機1機で億の金が飛ぶなら、高速輸送機とかを作る方が楽かもしれない。まぁ・・・、効率的に人を倒す方法ばかり考えても仕方ないか。そんなもんよりモンスターを倒した方がよほど感謝されるし。
「素材フェスが8月末と決まりました。開催期間は5日と長丁場ですが我々本部長としては東京ギルド、ギルマスの木崎本部長を中心として無事に終わる事を目指します。」
「皆さん協力お願いします!」
「了解、了解。人員はどれくらい欲しい?」
「警備網の構築はある程度構想ある?警察側と連携するにしても主要施設への配置は苦心するだろう?」
「獣人スィーパーにも声かけるけど、早めに必要人数出して欲しいな。開催しても地方で追ってる事件がなくなるわけじゃないし。」
「その件で私から。今回本部長会議に増田さんと千代田さんを呼んでいます。」
「警視庁の秘匿回線からweb参加となる増田です。私は表方と言う立場ですが、スィーパー派遣会社の取締役として動きます。人員配置等の問い合わせは私の方へ。」
「同じく、今紹介された千代田です。私は裏方として犯罪発生時やブローカーの不審な行動、その他アクシデント全般等で動きます。」
若干千代田の方が緊張している様だがこの2人は外せない。素材フェスそのモノの主導は日本政府で、その警備体制も日本的には警察側と自衛隊側の人員が大多数となる。ならなんで自衛隊側からの出席者がいないかと言えば、傍聴と言う形で聞いてるからだよ!
基本的に自衛隊は国内の災害派遣やら戦争有事に対する専守防衛を念頭に置いているし、住み分けとして国内での犯罪取り締まりは警察に任せている。なので、ここでも口を挟まずに増田から上がった情報を元に松田やら官房長官やら首相やらが直轄指揮をすると言う形を取った。
まぁ、夏目やらの事を考えると公安と同じく表に出したくない人員は多いんだろうな。来るのが海外ブローカーで顔も覚えられたくないだろうし。
「警察計画としては私から。電子ペーパーですがご覧下さい。計画とし第1段階として水処理施設の警備を優先とし、次に発電施設、通信施設、国会議事堂となります。」
「水処理施設?・・・、毒か?」
「ええ。大気中への毒薬散布も懸念されますが、それはまだ大気成分分析装置により対処が可能とされています。開催地である東京には増産を行い20機を超える装置を配置予定ですが、水と言う物は大気以上に厄介で飛散する唾の一滴でさえ猛毒となる可能性もある。高槻社長と調合師の可能性と言う物を話し合った際、海にまで広まれば大気以上に除去は厳しいと結論が出ました。」
「あれじゃダメだったんですか?中層の木を使ったフィルターとか。」
「かなりの量をラボに渡しましたよ?」
「不可能ではないですが、生態系へのダメージが大きい。超純水を作るつもりならいいですが、除去しすぎてしまって生物のいない海になる可能性があると。」
「了解です。」
「なら、この水処理施設から伸びてる線は水源地?」
「ええ。ただ水源方面には公安を既に潜り込ませています。主要警備要地が水処理施設と想定された際、東京近郊の河川や山近くに最近よく来る旅行者や、アンテナショップに偽装した店を出店しました。」
「アンテナショップってぇと、地方の物販的なやつだよな?付け焼き刃じゃバレないか?」
「その点は問題ありません。大分のアンテナショップとして人員を配置しました。」
あぁ、新しく越して来た何々ですとか、旦那が出張行ったなんて言う井戸端会議はこれの為か。そりゃあ3年近く大分住んでれば方言だってイントネーションだって分かってくる。特産何と聞かれれば椎茸とかぼすと言うだろうし、からあげ作るかと聞かれれば、家族で食うなら買うと言う。
何気に市井ちゃんは唐揚げづくりに勤しんでるけど、大分の人って唐揚げ作るより買う方が多分多い。なにせ唐揚げ専門店も多いし、味付きなのでその店の味が楽しめる。それに、かぼすもかなりの生産量があるけど、ほぼ県内消費なんだよなぁ・・・。
「かぼすがいるな、クロエさん。」
「私の出身は別なのでかぼすよりレモンか塩で。ただ、お味噌汁にかぼす入れるのは好きですよ赤峰さん。刺し身にかぼすは勘弁願いたいですけど・・・。」
「アンテナショップ要員にはかぼすを大量に持たせて、焼き椎茸やらにもかける様に指示しています。話は逸れましたが、そのアンテナショップを中継地として水源地や普段見かけない方へ身を光らせます。また、アンテナショップにはラボで開発された装置も置くので、本当の観光者ならそれで大丈夫でしょう。」
「発電施設と通信施設への配置はどうなりますか?魔術師:雷とは言わず、大凡の魔術師なら建物への破壊活動は可能だと思いますけど。」
「そちらに対しては施設そのモノを囮とします。」
「施設そのモノを囮、ですか?」
「はい。兼ねてより老朽化した発電施設や通信施設も多く、新型発電施設や通信施設には現状迄の大きさは不要と言う発言が設計者等から出ていました。特に発電施設に付いては、個人宅でクリスタルを使い賄うと言う人も多い。なので、新型施設を急ピッチですが地下に建造し上部建屋が破壊されても能力を損なわない様にしています。また、原子炉は核燃料棒や放射性物質を全てゲートに入れ廃炉予定です。」
「到頭原発が消えるのか・・、昔は夢のエネルギーって持て囃されてたけど東海村やらの事故とかもあったしな・・・。スィーパーは別にいい、被害を受けるのは子供やスィーパーじゃない人だから危ないモノはとっとと捨ててしまおう。」
「疑問なんですけど、それって国としての決定なんですか?」
「国と言うより電力会社からの打診です。今ある施設をクリスタル方式に転換して運用していますが、部分改修よりも新造の方が遥かに効率的であると言う見解が出ています。会社側としても高い維持費を支払うより、小型化効率化を目指して再建する時期にあると・・・。」
「なるほど・・・。まぁ、そう決めたなら私達が何言っても変わらないかな?」
「せやけど後からまたいるっ!て話にならへん?こう・・・、技術伝承!とか、ノウハウが〜とか。」
「その点は既に建設時の図面だけではなく、稼働中の施設の図面や発電データやインシデントも含め、東京図書館のデータバンクに登録します。また、配電線に付いてもすぐにとは行きませんが埋設式をスタンダードにするとも。」
「ほへ〜、色々やっとるんやな。それで?通信施設も地下にやってまうんやろ?電波塔はどないするん?」
「S・Y・S実験により浮遊させている通信施設を使用します。ただEMP攻撃にはまだ弱い側面があるので、現状は攻撃させない、攻撃されたら速やかに安定化させると言う対処策しかありません。EMC(電磁両立性)機器を全て配置する訳にも行きませんので。」
「酒井ちゃんその辺りどうにかならへん?」
「う〜ん・・・、イメージかなぁ〜華ちゃん。お願いされて色々試したけどピアスの針を刺す的なイメージで、必要なモノを通す固定処理を試してみようと遥さんと色々やったけど、中々上手くいかない。」
「まだゆっくりやってもらって構いません。ウォーターファイバー技術により、施設が大破しない限りは早期の通信回復が見込めるとされています。最後に国会議事堂ですが・・・。」
「本会議でもやるんですか?わざわざ国会議事堂を主要警備施設に選定するなんて。」
「いえ。単純に要人シェルターです。ここの警護はぶっちゃげ下の下なので気にしなくていいです。」
「こら!千代田くん。」
「すいません増田さん。ちょっと本音がでました。」
ボケとツッコミの様にコントしているが、多分本気で下の下と思ってるな。まぁ、政治家と言えど全員スィーパー。裏切り者の炙り出しやら、内通者の炙り出し、その他個人的な海外との繋がりを見ると思えばある程度ザルにして観察に重きを置きたいんだろうな。
「国会議事堂の警備に付いては警察方面で行うので、本部長の方々は特に気にする必要はありません。ただ、集まって何もしないと言うのもおかしいので臨時国会と言う形で討論が行われます。」
「血税で食ってる分口は開いて貰わんとな。」
「最近の議員さんは忙しいみたいですけどね。地元で公演して小さな行事にも顔出せるなら顔出して・・・。まぁ、休みそのものは一般人程度には取ってるみたいですけど。」
「うちはたまに市議会議員の方がギルド前で獣人向けに炊き出しとかしてますね。演説は拒否しましたけど、社会貢献ならと言う事で。」
「アレも良し悪しだよ。下手に休みまくると心象が悪くなる。お金だけ出して任せるってのも手ではあるんだけどね。」
「下手したら議員や政治家よりもお金持ってるスィーパーもいるしなぁ・・・。本部長としてもクロエさんが私腹を肥やせって言うから結構太った。」
「肥えましたか?肥えたならどんどん運用して回して下さい。一応、設計図買取費にはまだ余裕がありますけど、理論書やらも出てくるのでお金があるに越した事はない。」




