727話 なぜそう思うのか?
「ちょっと松田さん?アレってマジでやってよかったんですか?」
「アレが1番マシだからそうしましたよ。変な通達も誤情報の疑いも・・・。大凡、不信感を抱かせる方向性が定まるなら逆手に取るのも当然で、私は見れば分かると言えばそれで片が付きますからね。」
「まぁ、確かにそうなんですけどね。」
裏方大好き松田が本当に裏方ムーブしてるなぁ・・・。素材フェスの協力呼び掛けの為に首相が諸国へ行く。それ自体は全く持っておかしくないし、お願いする立場なので出向くのもおかしくない。まぁ・・・、ちょっと怖がる国は多いよ?
国際会議にも首相は松田を代理として官房長官さえ出さなかった。代わりに俺が出たがそれはいい。あの時話すべきは俺であって首相ではない。そんな中で動かなかった首相が発言して自ら動いて諸国を回る。
はたから見れば俺と言うか本部長は国を立て、その国のトップである首相は俺達を動かせる。中位は増えて来たが未だに最多は公式では日本となっているしS・Y・Sやらラボやらと、協力関係を築きたい国は多く、下手に機嫌を損ねると後々に響くと考える国は多い。
そんな国の首相が言葉少なく動きも見せず、今まで米国くらいにしか行かなかったのに遂に動き出した。仮に俺が分析官や政治家だったら当たり障りなく質問に答え、協力を頼まれれば嫌とは言わずにいいとこ見せようとする。
過去の政治のスタンダードは発言して納得させ、有利な状況を作って国益を増しつつ妥協点は譲らないと言うものだったし、仮に妥結してもさっさと抜け道を探して国を維持するものだった。例えばCo2減らそうと決まったらどうした?解答は少ない国の排出枠を買って自国の排出量は減ったと言いはるだ。
だが今はかなり様変わりしたな。発言しないのは意見がないのではなく、タイミングを読んでいると受け取られるし、発言したらその言葉の裏を全力で読もうとする。元から言葉をそのまま受け取る事はなかっただろうが、それでも探る時間は増えた様だし、下手な追求は時として悪手と言う認識も広まっている。
「それで、私はこの件はこれっきりと言う話で後は素材フェス方面で動きますけど、さすがにもう何もないですよね?」
「ないと言っても何かあるのがゲート関連でしょう?と、言っても素材も協賛も得られているので残りは警備関連ですね。陣頭指揮は千代田と増田君含め警察が威信を賭けてやるそうですが・・・、大人しく終わると思います?」
「終わってもらわないと困る。今更国内でテロでも起これば起こした国も日本としても動かざる負えなくなる。それを分かっていて国内開催なんでしょう?」
「ええ、まぁ。そうなんですけどね。ただ、人の心は移ろうもの。炙り出しと言うならこの機会でしょう?」
「どこかに不穏分子がいると?ナンセンスです。自国に弓引くならまだ分かる。素材価格が決まるのを嫌うスィーパーがいるのもまだ分かる。でも、今暴れて叩き潰されれば、その文句さえ言う暇なく本人が闇に葬られるのが分からないほどの馬鹿もいない。」
流石に素材フェスでテロをする剛毅なテロリストもいないだろう・・・。と、思う。テロの資金や資材と言う物はゲートから捻出出来るだろうが、決定的に思想と言うものが足りない。大多数が理解して自身の話を押し通そうとしたとする。
それに対して賛同者が集まり、発言力を増し人数が増えて上がる声が増えて初めて、変更しない政府や団体に対して武力行使するのがテロであって、ただ愚痴ってあーだこーだー言うのは批判である。
仮に今回テロが起こって、そのテロの首謀者が誰か?とするならそれは国ではなく金持ちかなぁ・・・。しかし、その金持ちも企業を敵に回したくないし企業としては今回の価格安定化は願ったり叶ったり。なら、スィーパーから不満が出るかと言えば、時価でしか売る気のなかったものに指標が出来るのは悪い話ではない。
毎回価格交渉するのは面倒だし、何より個人対企業なので探り合いをするにしても限界がある。それに、青山と言う素材安売りマンがいるので下手に釣り上げると今度は企業が離れる。よくも悪くも基準が出来ると言うのは効率化の第一歩だ。
「テロよりは国内にスパイが流入する方が怖いですけどね。まぁ、その辺りも想定して機体の全チェックや車輪収納部の点検、他にも対人センサーの増設等々の準備は進めてますよ。」
「それでどこまで対処できるのか、ロシアへの貸しですか?下手に案を出すより成功した警備体制を見せると言うのも、それはそれでいい刺激やインスピレーションになるとは思いますけどね。」
「嫌ですねクロエさん。誰が何を守ってどう言った警備体制を作るかなんて知りませんし、本当に隠したい人の目に付けたくないと思うなら最強に渡すのが最良でしょう?設計図の様に。」
設計図ねぇ・・・。確かにブラック・ホールエンジンの設計図は預かってるし言われるまで気にしてなかったから殆ど忘れていた。しかし、それをセルゲイが出来るかどうか・・・。端的に言えば研究しないとするなら、指輪に入れて誰かに指摘されるまで忘れるのがいい。
そうすれば事実から目を逸らし穏やかにあれる。しかし、逆に思い詰めれば思い詰める程考えてしまう。そうなると脳にこびり付いて忘れたくても忘れられなくなり、余計に怯えるハメになる。フェイクコアも作ったし、コア自体も加工したから
本当に話が漏れるのはあの場にいた人間からになる。S・Y・Sの搭乗者やアル達?悪いがそのステージは終わって仮に話が漏れてもフェイクを本物と言うだろう。と、言うか松田の話だと、セルゲイが最強になるかまた俺の所にコアが戻るかしかなくない?まぁ、それが安全ではあるんだろうけどさ。でも、コアを俺の手元に戻すのは悪手だ。
「残念な事に私は最強なんてものに興味を持ってないですし、誰かが最強を名乗るならそれを認めます。」
「よくそれ言いますけど、スィーパーとして負けるイメージってダメなんじゃありません?」
「?、別に最強じゃないからって負ける訳じゃないないですよ。そもそも最強がなんなのか?そこからじゃありません?」
「いやいや、最強と言えば最強でしょう?」
「またまた、最強って終点でしょう?現時点での終わり、自分の最終到着地点、それ以上を目指す上での壁であり頭打ちになった終わり。結局最強と言う言葉なんて名乗った者勝ちで認めた者からすれば『俺は終着地点に来た!』って叫んでる様なモノなんですよ。それはスィーパーとして欠陥です。他者がどう思おうと私はまだ最強でもなければ、他者が最強と言う名の限界を名乗るならそれを認めて本人の限界を認める。」
そう。最強なら底にいる掃除する者にも勝てるかもしれない。しかし、最強を自負して挑んで負ければ相当なリスクを背負い込む。すべてやって足りなかった、なら何をすれば足りる?しかし、自身は最強であると自負している。完全な矛盾は挑戦者としての身分も剥奪して袋小路に突入する。
それのリスクを犯すくらいなら、俺は他者を認め他者の最強を認めそれを打ち負かしたと言う事実を積み上げる。そもそもな話、必要なのはモンスターを倒す力であって誰かに勝つ力じゃないし、俺の目標は家族と平和に過ごす事。今の世の中強いに越した事はないが必要なのはその時その場で勝てるかであって、最強の称号なんてものに意味はない。
「ふ〜む・・・、その話って他の方も?」
「多分雄二が1番理解してますよ?なにせ雄二は最強名乗ってましたからね(笑)」
「結構落ち着いてる様に見える彼が?」
「ええ。出会った当初は学生で強さへの自負もあった。」
あぁ・・・、もしかしてそれで切符を手に入れた?強くあろうとする事と最強である事は違う。それを探すから求道者となり上り詰める道に入った。本人も求道者がよく分からないと言っていたが、それは助言云々ではなく自分との戦いだな。




