閑話 142 ジョーカー 挿絵あり
「コアか・・・。」
目の前には輝く球体が5つある。すべてフェイクで本物は嫌味の様にあの時あの場にいた、下僕の様な私を含めた4人の顔を模した仏像の頭部。そう、これは本当に我々に取っての切り札であると同時に息の根を止められる毒だ。
フェイクなら失くしてもいいわけではない。そして高官にもまだコレがフェイクとは伝えていない。本物は私の指輪の中に入れたままで、警備施設計画が本当に信頼がおけるものと言えるまでは胸の中にしまうしかない。しかし、それさえも暴かれるのでは?と言う恐怖もあれば、スィーパー獣人に『指輪の中のそれ何?』と聞かれれば卒倒してしまうかもしれないな。
一国の長としての重責よりも、下手をすればコレを持つ重責は重いのかもしれない。そう・・・、コレがある事により我が国は他3ヵ国に監視され、それと同時にその3ヵ国に協力要請を出せる立場となった。しかし、疑心暗鬼の部分もある。
例えば要請を出した3ヵ国がそれを飲み人を寄越したとする。そして、その来た人物が悪意のない者なのかどうなのか?政治と言う世界のゲームは何時も裏切りに怯え暴露に怯え、そして何より真実に怯える。
今私の指輪の中にあるコアが偽物ならどんなに安らげるだろうか?そう、嘘でもいいから1言言ってもらえれば私は快眠出来るのかもしれない。しかし、今度はどこに本物があると言う疑問に取りつかれる。
「それに日本政府は大胆だ・・・。」
会談よりコアの輸送はどうするのか?その疑問はあったが日本政府は大胆にも我が国での日露首脳会談と言う札を切り、表向きはゲート素材の価格安定化に対しての協力要請と言う形を取った。事実として素材フェスと呼ばれている販売計画は日本政府より発信され、他の国にもその話は回っている。
そして、その会談に際して友好の印としての贈り物の中にコレはあった。確かにあの場で加工されその後、日本政府内で更にどこまで鑑定師に対しての有効かを検証されたとするコレは、日本政府の言い分を信じるなら鑑定術師から視ても魔法の塊としか分からないらしい・・・。
「さる魔法使いが作った美術品です。これは魔法と言う物を杖や受け渡しと言う形で渡せると言う事の証左であり、今後こう言った魔法具も増えてくるでしょう。互いに未来を向く、その友好の証としてどうぞ。」
日本の首相はにこやかに手渡しながら話すが、衆目の中で渡されたコレの何処に友好なぞがあると叫びたい。そう・・・、後から聞けば首相さえこの頭部をコアとは知らなかったと言う話らしい。真実は首相でさえ霧の中。いや、下手すればその記憶を何らかの方法でロックして知らないと偽装したとも言える。
どちらにせよ日米中はこれで我が国にコアが渡った事をしり、我が国・・・、いや。私が祖国にコアが来たと受け取って見せた。その後の2カ国の声明で未来思考の証しや日本への融和路線の成功例などと言う話が出たが、真実を知る者からすれば、到頭ジョーカーが私の手元に来たと見えるだろう。
カードなら次は誰が引くのか?残念な事にコレを引いてくれる国はなく、ならどうすれば守りきれて研究に回せるのかも明確に答えは出ていない。あの時あの場で私は欲張りすぎたのだろうか?
ソフィアと呼ばれたファーストの娘は多分我が国の人間で間違いない。しかし、それに明確な批判も出来ず日本政府は戸籍等の書類も揃え日本人とし、ファーストの娘としてしまった。私にはどんなやりとりがあり、どんな結果でその娘がファーストの娘となったかは分からない。
しかし娘ならいずれは恋をして愛を知り、大人となって母となる。その相手が我が国の人間でも・・・、よそう。明確に庇護を寄越せと話した方がまだ早かったのか?情報戦と言うモノは常に行われ、どこかから我が国の情報は漏れて日本へ渡った。
ある高官の話では日本から送還された男が怪しいと言う話だが、釣りをする以外にはおかしな行動もなく、現在も監視対象で閑職の様に扱い、たまに有効そうなフェイク情報を見せても反応しない。
相手の手管が見えず常に誤情報を振りまく日本は不気味で、その中にあるファーストとは関わり合いになりたくなくとも、話さないと言う選択肢もない。それはギルドの件も含めてだ。
「あぁ、そう言えば統合基地用の旗も送られていたな。民族衣装サラファン、指定したが・・・。」
どこか冷徹な印象を受ける旗。目を引き付け不思議と安心感をもたらす。・・・、仮にこの旗に何かファーストが仕掛けをしていたらどうだ?コレもまた何か警備計画の要になりえる?日本で販売されたポスターは高額な値がつくという。なら、もしかすれば・・・。




