726話 脳足りん
「モンスターをプチプチするのは気分がいいなぁ〜。弟子はもっと魔法を使うなぁ〜。」
「考えながら動くのって難しくない!?先に身体動かせばモンスターも倒せる!だから俺はモンスターを切り裂く!」
「フェリエット嬢の脳足りんは発言は私ではなくてフィンにでしたか。」
「違うなぁ〜。フィンがおバカなら脳足りんはやっぱりマイロ?だなぁ〜。」
「そこ〜、なにくっちゃべってんだ?」
「エヴァ、私はマイロと話すなぁ〜。弟子は頑張ってモンスタープチプチしてご馳走を貰う為に頑張るなぁ〜。」
「頑張ったら飯ーー!!」
私はコイツと話さなくてもいいけど、話さないと面倒になる。でも、土に帰った後に何があろうと私は知らないから、今が面倒でなければそれでいい。でも、私に子供が産まれたらそれは可愛いのかなぁ〜?適当に育ってた子供は人と同じに様に育つみたいだし、その時間分愛着とか言うものもでる?
愛や恋は知らないけど今の生活がお気に入りなら、多分それは愛着だよなぁ〜?なら、面倒でもマイロとは話さないといけない。そうじゃないと楽園追放が見えてくるなぁ〜。
「お前は飛べるのかなぁ〜?」
「多少なら。」
「やら私が飛ばしてやるから逆らうな。」
マイロは多分逆らってない。だからこうして浮かせて飛ばして空の上。縛られない空の上はいいなぁ〜。コレでここにご馳走があれば更に言う事はない。
「それで私に話とは?脳足りんなので分かりやすくご教授お願いしますよ、フェリエット嬢。」
「物凄く簡単な事だなぁ〜。私達を巻き込むな、私達は隣人でいい。使うよりも使われる方が楽、これは分かるよなぁ〜?」
「おや?これこそ脳足りんではないですか?巻き込むつもりはないですが、こうして言葉を交わし智を得れば主人を立てようとも思うでしょう?」
手で口を隠しながら笑うけど、コイツからは血の匂いがするんだよなぁ〜。本当に少しで人ではなく獣人のモノだけど、やっぱり間違いは間違いと言わないとなぁ〜。
「だからお前は脳足りんなんだなぁ〜。お前の主人とかどうでもいいし、ダメな私達をお前が殴ったり噛んだりしてもいいけど、それをやり過ぎればどうなるか分かるよなぁ〜?」
「教育でしょう?貴女はフィンにそうして魔法を教えたと聞いた。なら、我々が我々を教育するのにその手法を取るのも当然で、多少の血を見る機会なぞ犬猫の時ならいくらでもあった。それを、よりにもよってその方法で最初に魔法を手にした貴女が否定するのですか?」
「違うなぁ〜。やり過ぎればと言ったなぁ〜。遊んでても嫌な事はいくらでもあるなぉ〜。顔に水がかかるのは嫌だし、急に尻尾を握られるのも嫌。でも、それと血を流すのは違うなぁ〜。お前がその方法を取り続ければ私達は人からそうしてもいいモノと思われるなぁ〜。それに、嫌になったら逃げる。」
「逃げればいいではないですか。私は立ち向かう、私が私であり愛する主人のために。」
両手を広げて歌う様に言うけど、コイツ酒でも飲んでるのかなぁ〜。紅茶にブランデーってクロエも言ってたから多分酔ってる?犬の事は黒デカ・・・、バイトに聞けばいいけどアイツもいないしなぁ・・・。
「はぁ〜・・・、お前は楽園追放を知らないのかなぁ〜?本を読まないのかなぁ〜?」
「読みましたよ。無知で愚図でのろまな人が約束を守れなかったのでしょう?」
「なら、お前は知ってるよなぁ〜。人が原罪と言ったモノも、大罪としたモノも。私達はまだ楽園にいて原罪も犯してないなぁ〜。でも、お前はそれ起こしそうだなぁ〜。」
獣人が獣人を殺す、或いは獣人が人を殺す。犬猫なら棒で叩き殺されるか三味線。獣人なら・・・、人と同じなら縛り首?でも、それを裁くのは多分私達になる。
「今が原罪を犯すと?それこそまさか、そこまで愚かではありませんよ。そもそも今が楽園なのかは疑問がありますけどねぇ。寧ろ、楽園と言えるのは貴女がファーストさんの庇護下にあるからでは?大凡、資料やテレビを見れば人の世も見えてくる。その中で彼女に逆らおうと言う愚かをしてなんのメリットが有り、その群れに手を出してなんの得があるんです?」
「本当かなぁ〜?黒江はサイラスより優れている。」
「っ!」
「そこだなぁ〜。脳足りん。自分で言った言葉を自分で理解してないなぁ〜。私達は隣人で人に頼まれた時に手を貸すだけでご馳走も住むところも、縄張り争いも、面倒な開発やら生産もしなくていい。ひたすらに従順で自由で頼まれた時以外は好きな事だけして生きていける権利を貰った。それが獣人憲章で『働かざる者食うべからず。』『ズルればご飯抜き。』『仕事は適度にサボって真面目にする事。』『他人に迷惑をかけない。』だなぁ〜。人に仕事はあっても私達に仕事と言える仕事はない。」
「なら、私達は永遠にその庇護下で暮らせと?」
「庇護も何も隣人だから対等だなぁ〜。お前が持ってるのはエゴで全体を危険に晒すなぁ〜。私達は嫌なら逃げる、立ち向かうのは死ぬかもしれない時で、モンスターは私達を殺し尽くせるから立ち向かうし、スィーパーも私達を殺し尽くせるから逃げるし媚びを売る。私達はバカを演じて知恵の実を投げ捨て、原罪が起こらない様に立ち回る。私達の掟は野生の掟で、最大の群れである人の群れには逆らわなくていいなぁ〜。」
「それでも私は主人の飼い犬でパートナーですよ?みすみす暴言を聞き流せと?それにクロエ嬢は獣人を視ているのでしょう?」
「視ているから厳しいなぁ〜。見捨てたら早いなぁ〜。そして、原罪を犯せばその罪は私達で裁く必要が出て来るなぁ〜。そして、裁いても今の楽園には帰れない。1度の過ちは取り返しが付けばまだ、セーフかも知れないけど追放されれば後は隣人ではなく敵対者だなぁ〜。人が私達を本当に信頼するにはまだまだ時間が足りないなぁ〜。」
群れで負ければ追放される。私達は人の群れに寄り添って生きて来て、逆らわないからご飯も貰える。それが嫌ならゲートに住めばいい。人だってゲートに住んでるし、その中に入り込めばいいし、ご飯だってゲートの中にはある。
でもゲートの中で毎回同じ物を食っても飽きるし、何かをしようにも何をすればいいのか私はまだ分からない。モンスターを倒す、頭が良くなったから今も出来る。でも、その殆どは人から貰ったもので、こうして宙に浮いているのも教えてもらったから。
そもそもにしてコイツがさっさとクロエに真正面からも噛みつかないのが悪いなぁ〜。自分の主人を1番にしたいなら、さっさとそう言えばすむ話だなぁ〜。
「少なくとも私は主人に信頼されていますし、こうして魔術め使って見せて他の獣人のパートナーより優れていると見せつけていますが?」
「私は何1つ見せつけてないし、お願いされてご馳走を貰わん限り動かんなぁ〜。仮にお前が私よりも優れた獣人であると言うなら、私はその言葉を飲み込んでさっさとクロエの所に行って帰るなぁ〜。モンスターもプチプチしたし腹も減ったなぁ〜。」
隣人であると言うなら何1つ見せつけなくていいし、主人に褒めて欲しければそう言えばいい。私は勝手にクロエが寝てたらベッドに潜り込むし、ソフィアの面倒を見れば莉菜からもご馳走が貰える。
言葉で何を言われても腹は膨れないし、金貨持って買いに行くよりも人を使ってご馳走を持ってこさせる方が楽。だって野良じゃない私達はそうやって人を使って生きてきたし、獣人になった野良も人から餌が貰える餌場は知っている。
「貴女が私を認める、そう言う話で構いませんね?」
「脳足りんと認めるなぁ〜。人の魔術師は魔術が使えるし、弟子だって魔術が使える。なら、後はどれだけ獣人と言う群れ全体を考えるかだなぁ〜。試しにクロエにサイラスの方が優れていると言ってみるといいなぁ〜。」
「それは・・・。」
「怖いのかなぁ〜、脳足りん。」
「いいえ!言ってみませましょう!」
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フェリエットがマイロと戦線離脱したがサイラスのゴーレムもいるし、獣人達も戦い慣れして来ているので大丈夫だな。多少の怪我は回復薬で治るし、英国にも回復薬製造プラント作ってるから更に懐は加熱する。
エマやサイラスと話すが獣人には文化と言うものがない。野生で生きてきた動物が太陽を崇めるのか?答えは朝が来て飯探しに行くかだな。なら、今の獣人達が新しい宗教を打ち立てるかと聞かれると、多分打ち立てない。答えは簡単面倒だから。
教祖特典で飯が貰える?ハハッ、ならその教祖は何をしてくれる?残念な事に獣人にとって必要なのは今であって後から来るかも分からない幸運じゃないんだよ。人が獣人を教祖として宗教作るなら獣人は乗るだろう。だって寝て起きて飯食って説法すればいい。だってそれは仕事だから。
でも、自分達で何かを崇めて信じてそれの為に自身を捨てる程にのめり込むかと言われると、その結果を既に知っている獣人なら間違いなく拒否するな。
「クロエ〜、ちょっといいかなぁ〜?」
「ん?フェリエットどうした?腹が減ったか?指輪には色々詰め込んできただろ?」
「それは今から食うなぁ〜。それより脳足りんが何か言いたいみたいだなぁ〜。」
そう言ったフェリエットがマイロを俺の前に押し出す。さて、言いたい事ってなんだろう?それよりも脳足りんってマイロの事?何を話したか知らんがかなり失礼では・・・。
「すいませんサイラス長官、ウチのフェリエットが・・・。」
「我が主人サイラスはクロエ嬢よりも優れている!」
言い終わるよりも先にマイロが叫ぶ。え〜と、俺よりサイラスが優れている・・・。
「そうですねマイロさん。私よりもサイラス長官は優れていますよ。」
「レディクロエ、そんな話を簡単に肯定するものでは!」
「何言ってるんですか、パートナーが自分の主人が1番と言ってるんですからそれだけ信用されているんでしょう?私なんてバイトと言う飼い犬からは怖がられ、フェリエットからは煮干し取られたりするんですよ?今朝も私のおかずを寄越せと・・・。」
「だし巻き卵は旨かったなぁ〜。また作って欲しいなぁ〜。」
「はいはい、莉菜がいない時にな。それで、それがどうかしましたか?」
「・・・、今の話を一切怒らずお認めになると?」
「ええ。怒る点も無ければ認めない点もない。なんなら私も言いましょうか?駐屯地祭りに置いて私よりもエマが綺麗だった。寧ろナンバー1。私よりサイラス長官はダンディーで女の子がほっとかない。」
「駐屯地祭りカ、懐かしいがいい思い出だナ。」
「私はそこまでプレーボーイではないですよ。まぁ、お声は多くかかりますけどね。」
マイロが肩透かしをくらった様な顔をしているが、そもそも優れているも何もなんにおいてと言う定義もなければ、マイロそう思うのならそうとしか言いようもない。なにせほぼ初対面で俺はマイロの事なんて知らないし、サイラスの事だって英国で過ごした数日間やこうしてゲートで会ったり電話して話すくらいしか知らない。だがこそ、マイロの意見は最も近しい人が言う最も嬉しい意見なんじゃないかな?サイラスも嬉しそうだしね。




