719話　そんなもん作ったの？

「そう言えば企業ブースとかはどうするんです？」

「そちらも協賛を集めています。ただ、今回は国内のみならず海外からも出店したいと言う要望が多数ですね。」

「展示スペース省けば収容は容易、か。えっ？現物見せろのアンサーに統合基地行けはないですよね？」

「流石にそれはありませんよ。逆に海外の方をどうやってギルドに寄せ付けない様にするか？普段なら仕方ないと諦める場面まありますが、当日ギルドへ行きゲートへ入ると言うのは疑いを持ってくれと言っている様なものです。そこで政府としてはイメージジャマー的な物を作ろうとしていましたが、クロエさんが宇宙へ行って帰ってきて以降、その計画は無期限凍結してしまいました。」

　何をどう開発しようとしていたかは知らないけど、何を作る気だったんだろう？思考を乱す電波発生装置とか？本気で邪魔すると言うか、イメージジャマーなんて物を作ろうとするならイメージを塗り替えられるものか、なにか強力に思考を乱す物がいい。

　感電させて瞬間的に思考が乱せても2回目には突発されるだろうし、下手すれば最初から何かあると考えて壊しに来る。目的もなく自暴自棄になり、本気で破壊だけを考えるスィーパーとかいたらかなり面倒だろうけど、逆にそう言う輩は弱いんだよなぁ・・・。

　だって壊したと言う達成感が常に付きまとうと同時に、更に壊したいと言う欲望が出て来る。けど、壊すと言う目標は達成されてしまった。要は感情が動く程の目標じゃないんだよね・・・。

「なら別案があると？」

「ラボで思考ダイブトレースシステムを研究しているのは知ってますよね？」

「ええ。発信は台湾でしたね。それを使うと？」

　あれってかなり難しいと佐沼が言ってたけど完成まで漕ぎ着けたんだ。でも、どう使う気だろう？流石に誰かの思考を読み取って危険思想だから逮捕なんて話ならディストピアまっしぐらなんだけど？

「それの一部を使います。思考を読み取るのではなく、特定地域に入ると警告を囁きかけると言う形ですが。」

「ほう・・・、それってもしかして？」

「アルヴィー・デューラー氏とそのチームが光学的視覚言語と言うモノを提唱され、それの一部実用化にまで漕ぎ着けました。」

「どう言うモノなんですか、それ。視覚言語と言う事は何かを見ればいいって事ですかね？」

　QRコードを人が見てもちんぷんかんぷんだし、その中のアドレスなんて分からない。さらに言えばQRコードを10個並べたとしてそれの差異さえ不明である。しかし、人は本が読めるし文字も理解出来る。

　えっ？もしかしてコアの解明にたどり着いたの？それってかなり由々しき事態でセルゲイが踊り出すだろうし、あの時譲った国は歯噛みしだす。事と次第ではかなり危ないけど、松田がストップかけないと言う事は別物か？

「感覚的には見るテレパシーと言った感じでしょうか？特定の波長や点滅を介し特定の単語を脳の言語野から呼び出す。日本語と言う言語が広まった事とスィーパーの海馬が肥大化したおかげで可能となったそうです。」

「それって例えば日本語以外も送れたりします？」

「出来ません。デューラー氏曰く複雑化し長文化すればする程精度は落ちるし、曖昧力の低い言語でも成功率はゼロに近いそうです。」

「なるほど・・・？」

「よく分かってないと思いますが、私も説明を受けて理解出来たかは怪しい。それに口外禁止部分は何も聞かされておらず、体験してそう言うものだと理解しろと言われました。」

　千代田も疲れた顔してるけど多分俺も疲れた顔をしている。要はテレパシー的な何かが人ではなく機械から発せられているでOK？でも昼間はどうするのだろうか？

　いや、赤外線なんかの不可視光線使ってる？S・Y・S光らせた映像やらコアを本当に見たやら、テレパシー実験もやったアルならどこかで糸口を掴んだんだろうな・・・。それが台湾の技術と悪魔合体してテレパシー装置になったと。

「分からない中質問しますけど、洗脳とかは？」

「可不可を言うなら推定可能だそうです。」

「破棄しましょう。そんな危なくて欲しがる人の多い物。」

「条件がかなり厳しいそうで発信元を長時間、少なくとも数時間単位で注視する。他に思考を割かずそれだけを考える、そして何より1人で静かにその言葉を受け入れる。多少の雑念が入るだけでも無理です。」

「でもそれが可能なら・・・。」

「洗脳と言っても誰かと話していれば解ける軽いものです。間違っても長く囚われる様な物ではないですし、何よりスィーパー相手にそんな事を強いれば反骨精神から全く上手くいかない。それに、今の所単語のみの囁きなので洗脳したくても指示が出せません。」

「例えば従えと言う囁きならどうです？」

「誰に従うんですか？その指示だと不特定多数に従う事になってしまいますし、指示を出した時点で会話しているのでどんどん洗脳状態は解けていきます。」

　千代田がえらく押してくるけど大丈夫？な〜んか悪用する手立ては幾らでもありそうなんだけどなぁ・・・。もしかして裏で公安やら警察が使う事を見越してる？それならまだ犯罪するなポスターばら撒いた方が精神的には楽だ。

　いや、それだとやってる事は変わらないか。う〜む・・・、ここは逃げよう。そもそも理論やらなんやらも知らないのにダメと言った所で根拠が乏しすぎて駄々をこねているのと変わらない。

「政府がその方法を進めると言うなら一旦引きましょう。そもそも私は素材調達要員や警備要員で主催者側ではないですし。」

「素材フェスの主導は日本政府であり、協力は四カ国以外にも台湾や英国、ドイツ等々経済的な混乱を避けたい国々です。警備と言う面では何かしらのお願いがあるかもしれませんが、同時に本部長代表者として会場に来てもらえませんか？」

「それは・・・、仕方のない話ですね・・・。今更その部分で逃げ隠れはしませんよ。」

　人前は苦手だけどもう仕方ない。少なくとも本部長会議で議長やったり国際会議に出席したりしているし、顔出せと言われて断る理由は底をついた。

「お願いします。ただ仮にその場でどこかの国がグランドマスター言う話をしたら否定して下さい。」

「えっ！否定していいんですか？てっきり他国のギルドマスター達と関わり持てって話だと思いましたけど？」

「噂レベル個人レベルは構いませんが、今グランドマスターを受け入れると直接指導しに来てくれと言う話が持ち上がります。ご自身で認めてしまわれると、日本政府側としても断る根拠に乏しくなる。」

「分かりました、しかし今更ながらに聞きますけどグランドマスターって必要なんですかね？自国でよろしくギルド運営してくれればそれで構いはしないんですけど・・・。」

「必要です。ギルドが世界化すれば国を超えた機関として権力を持つ。その際、暴走したギルドを止めるストッパーは必ず必要になる。そのストッパーが・・・。」

「私ですか・・・。グランドマスターと言いつつマスターの処刑人ですね、これは。」

「どこの政府も有能に事が運べる訳ではないですよ。そんな中で政府より信頼出来る大規模期間があれば旗印にされかねない。スィーパーとて人です。旗印にされた際、日本式ギルド案を持って行った国のマスターが指導者として立てば、呼応する国は必ず出て来る。」

「・・・、仮に私が立ったらどうします？」

「クロエさんは立たないでしょう？」

「言い切りますね、根拠は？」

「増田から聞きました。『クロエと言う人は問題に対する解決意識と、自らのなした事への責任感は強い。しかし、見ず知らずの誰かはさっさと切り捨てる』と。大多数の先ず知らずの人のためにスタンピード以外でクロエさんは動きますか？」

「ないですね。他人のやる仕事まで取って働こうなんて思いませんよ。誰もしない仕事ならやりますけどね、例えばゴミを拾うとか。」