714話 獣人だけで?
「う〜ん・・・。他のEXTRAの武器は見た事ないし。」
しかし心当たりがないと言えば嘘になる。最初にこのキセルを見つけた時、魔女は彼等からの贈り物と言った。その彼等が誰を指しているのかは分からないが、少なくとも魔女を知らなかったソーツではない。そうなると魔女の同族か?
他にゲートに干渉出来そうな奴等を知らないし、見下しているわけではないがソーツを愚物と言ったり人類を原生生物扱いする魔女にして彼等と言うだけの存在。そう考えると同等の者だよなぁ。
これで他の同等の宇宙人が絡んでいると言われてもキャパオーバーだし、今更そんなモノが現れても何しに来たの?としか言えない。そうなるとこのキセルはやはり何らかの鍵なのか?キセルをプカリ。
「しかし、これが鍵だとしてどうやってそのゲートを探しましょうかね?祭壇の様なモノ或いは祭壇行きのゲートがあるとして・・・、やっぱりまだ浅いのかなぁ。」
「そもそも深さは関係あるんですか?奥に行けば行くほどモンスターは強く成りますけど、報酬に見合わないと多数が感じれば躊躇もするでしょう?」
「その躊躇出来ないのが人間ですよ。多数が踏みとどまっても一定数は奥へ行く。そして帰った少数が宝を持ち帰れば他の多数も行こうとする。例えば職が選ばれた人間のみに与えられる力なら諦めもつきますが、そんな事はなく全員にチャンスがある。大航海時代と一緒です。船で遠出すれば劣悪な食事も環境もあるのを知っていても、高価なスパイスを求めて乗り出す。」
「それはまだ羅針盤があったからでしょう?」
「それがなくとも人は船に乗ってましたし、六分儀がなくとも砂漠を渡った。まぁ、中層から不死薬やらが出ると言う事は、それをそこで出してもまだ魅力的な物が奥にあると思わせる。」
「それが祭壇であると?」
「祭壇の話をした当初を考えれば、ね。今でも祭壇を探す人は多いですがそれが個人なのかエージェントなのかは分からない。でも、探すだけの価値があると考えている人がいるのも事実です。」
「ままなりませんね・・・。」
「ええ。ままなりませんね。多分、底まで言ってゲートの全容と言うか攻略が完了しても多分、ゴタゴタは終わりませんよ。」
多分人類がソーツに並んだと考えるまでは・・・、そう考えても終わらないだろうな。時代別に考えても素材やら出土品やら技術やらで論争はあって、それが毎度繰り返される。まぁ、前に進むにはそう言ったゴタゴタが必要だから仕方がない。キセルではなくタバコをプカリ。
広がる紫煙は臭いも含めてすぐに消えてしまう。死ねば人もモンスターも消えてしまうが、血で積み上げた歴史は消させない。
「1本貰っても?」
「ん?いいですけどタバコ辞めてたんですか?」
「身体を鍛えるならやめろとフェムが煩くて。今なら負荷訓練とでも言い張れるんですけどね。」
「タバコもチャラに出来るなら、無理やりな低酸素訓練ですからね・・・。」
橘がタバコを咥え、魔法で火を付けたのを見計らい大きく吸い込む。久々なせいか、それともタバコが強かったからか若干顔を顰めるが・・・。
「暇な時でいいので私を鍛えてもらえませんか?」
「対モンスター戦ならいいですけど、対人戦を私に望むのはナンセンスですよ?」
「それも含めてですよ。今回潜って奥で私は力不足を感じた。中位と言っても私の職は真正面から当たる様なモノじゃない。なら、搦手に舌戦にとやる貴女はいい手本でしょう?それに、中位の犯罪者を捕まえに行くなら最後は生身である事も想定しないわけにはいかない。」
「・・・、いいですよ。ただ、雄二も連れてこれるなら連れて来てください。」
「雄二君を?」
「ええ。彼はそろそろな気がする。」
最初に出会った頃から性格は変わらないと思うが、それでも本人は本人の役割をよく理解して行動している。多分、宮藤の方が先だとは思うが卓の例もあるので一概には言えない。ただ、俺の感覚として雄二と言う話になっただけだ。
それが剣士として先に進むのか、求道者として先に進むのかは分からない。まぁ、賢者曰くワイルドカードな求道者は先があるのだろうか?話だけ考えるなら先に至る目があるからそれが出たとも言えるが・・・。
「分かりました。呼ぶ時はそうするとしましょう。しかし、生身も結構鍛えてるんですけどねぇ。スクリプターとして自己編集が出来ないのが痛い。」
「確か他者はよくても自身の身体はダメなんでしたっけ。」
「ええ。自身の過去の動きを編集しようとすると齟齬も出て駄目ですね。その代わり他のものは編集も出来ますけど。」
「なら未来はどうです?」
「未来?」
「時間とは常に前に進むもので確定してしまった過去を変えるのは他に対する不破にも繋がれば、その不破がどこまで広がるかは分からない。でも、確定していない未来なら変えられるんじゃありません?」
「流石に未来視は出来ませんね。そんなビックリドッキリ出土品があれば欲しいと言うか、国が国宝として確保に動くんじゃありません?危機が分かれば危機回避に動けますし、スタンピードが発生するゲートが分かれば早期に準備も出来る。」
「別に未来視する必要はありませんよ。そもそも未来視を有した所で、その見た未来が確定するかはその時まで分からない。だってそうでしょう?宝くじの当たり番号を見たとしても、当たったという過去が発生するまでは不確定で、それこそ当日に他の未来が発生すれば変わってしまう。講習会メンバーにはスクリプターの中位、エディターもいました。一度話を聞いてみては?」
スクリプターも難しく職で鑑定師も難しい職。橘はかなり茨の道を歩んでいるが、彼の思いがそうさせたのなら挫ける事もないだろう。半田の飯を食べつつ雑談をして、他に気になる点を言い合ってその日は終了。
帰ればエマと青山に廃棄ゲートの話をしなければならないし、祭壇捜索は続行しつつも素材が結構集まりだしたので素材フェスに向けた話し合いもあるかな?まぁ、フェス自体は政府がメインでやるし本部長達は警備とか?
前回は本部長選出戦と抱き合わせだったので来るのは要人と言うか、その国の政府が保証する人間だったし入国管理にも鑑定師を必ず使うと言って徹底出来た。しかし、今回は難航しそうだな・・・。日本のシェンゲン条約協定先が少ないから拡大させようと言う動きもあるし、政府内でも慎重派と推進派が対立しているらしい。
松田曰く論争は政治の華で、論争が途絶えた国は亡国が死国だと言う。まぁ、声の上がらない政治なんてただの独裁政治なのでまだマシか。一応、協定慎重派としては職に就いていない政治家を指定して、日本のスィーパーが統合基地に運んでその国のエージェントに渡す案を推しているらしいが、どう転ぶやら。
「戻りましたよ〜。」
「お帰りだなぁ〜。」
「フェリエットが本部長室にいるなんて珍しい。何かあったのか?」
「なにかと言うより獣人だけでゲートに入ってもいいのかなぁ〜。誰かと潜るのもいいけど、獣人だけでも潜りたいなぁ〜。」




