閑話 141 魔法少女市井ちゃん 1話 挿絵あり
『魔法少女か!まとめて解体してくれる!』
『そんな事はさせない!皆の住む街を壊させたりはしない!』
『そうやそうや!人の星荒らして簡単には帰れるとは思わへん事や!』
『街を守る事、それは家を守る事。美しい街並みを破壊するのは許しません事よ!』
『行くよみんなー!』
家の外からは何か爆発音とか叫び声が聞こえるけど、家の中は至って平和です。若干悪霊に憑依された抱き枕があるけど・・・。怪奇現象って思い込みでも発生するらしいんだよね!柳に幽霊枯れ尾花って言うし。
「そのハサミやカッターは何?」
「盗聴器やマイクが仕込んでないか確かめようかと思って。中身を見ない限り事実は確定せずにこれが私の白昼夢だと言う可能性も・・・。」
「既に変身してるからそんな猟奇的な事はしない!」
「早着替えとかイリュージョンの可能性が!」
「ない!魔法だよ魔法!それよりここも危ない、早く戦わないと!」
「えぇ~・・・。」
仕方なく1階に降りるけど、確かに音は近づいてきてる。戦いとかしたくないな。別に運動音痴じゃないけど、世界を取れる程鍛えてるわけじゃないし、平均的な小学生くらいの体力しかない。そもそもヤクポ?マグポ?何でもいいけど、厄介事を持った来て無理やり戦わせるとかね・・・。
「ほら、家から出て魔法少女達と合流だ!」
「その件については拒否すると申したが?」
「申した所で1人だと危ないよ。」
「複数人でも危ないモノは危ないよ!連携が取れるかも分からないよ人と戦うよりも、1人で戦った方がまだ判断出来るところもあるしね。そもそもマグロはなんで1人で私の所に来たの?合流指示をするなら面識のある人間を選んだ方が遥かにスムーズに事は運んだのに・・・、嫌われてる?」
「ち、違うし!嫌われてねぇ~し。僕はイケメンだし!」
「容姿は別に戦いには関係ないけど・・・、小学生にキャーキャー言われて嬉しい人?」
「そんな事はないけど・・・、君の真摯な思いが僕を呼んだんだよ。」
「真摯な思い?」
「そう。君は何かに対してまっすぐで譲れなくて追い求めて・・・、けどそれに到達出来てない。そんな君の思いは何よりも強く、魔法少女にはそんな強くて真摯な思いが必要なんだ。」
「それは・・・。」
「うん。」
「みんなの笑顔!」「唐揚げ!」
「・・・、みんなの笑顔は?」
「私の笑顔は?」
「ちょ!誰かを思う気持ちが最強って習わなかった!?」
「余裕のない人は他人に優しく出来ないって知らなかったの?」
誰かに何かをしてあげるなら、先ずは自分からだよね?自己犠牲で何かをしても続かないし、無理してたらいつか躓く。私はそれを既に経験した。美味しい唐揚げをたくさん作ろうと2kgの鶏肉を丹精込めて味付けし、お母さんがいない夜にフィーバーして全て揚げた。結果?分かるだろ?私のお腹には2kgの唐揚げは多過ぎて、でも彼等が冷たくなる姿が見ていられなくて・・・。
もう少し、後少しと箸を進めたけど限界で・・・。彼等は冷たくなって私は最高の時を失った。その喪失感は何物にも代えがたく、帰ってきたお母さんは美味しいって言って食べてくれたけど、最高のパフォーマンスを知る私には気休めでしか無かった。あの日あの時あの場所で無限の胃袋を持つ私が君に会えたなら、こんな喪失感はなかったのかな・・・。
「その唐揚げとか言うのが何かは知らないけど、このままだとその唐揚げもまとめて瓦礫にされるよ?ゲータリアンは破壊が大好きだから。」
「そんな!今最高の状態になろうとしている鶏肉が!」
『くらえ魔法少女共!ドーザーファング!』
『なんやこれ!鉄の爪が飛びよる!』
『くっ!軌道が読めない!』
『みんな!今は回避に専念しよう!必ず隙が出来るはずだから!あぁ!爪が民家に!』
けたたましい轟音と共に壁はぶっち抜かれ、反射的に顔を向けた先ではひしゃげた冷蔵庫とそこから出血する様に流れ出るニンニク醤油のつけダレが・・・。
「ウソ・・・、だよね?」
「事実だよ。ゲータリアンは破壊者だ。近寄ったら危ないよ市井ちゃん。」
誰かの静止なんか無視して冷蔵庫に駆け寄る。鉄の爪なんて片手で引っこ抜いて、無様に折れ曲がった扉を開ける・・・。どうか無事でいてほしい、タレが溢れただけならまだ取り返しがつく。震える手で中からボウルを取り出すけど・・・。
「よく・・・、わかりません・・・、唐揚げになる予定だったモノです。」
(えっ?すっご!思いの力がオーバーフローしてるんだけど!?最終回のラストアタック並みに!)
「そ、その・・・、残念だった・・・、ね。」
「〜〜〜〜!!!」
言葉にならない叫びば何処に消えていくのだろう?この耐え難い悲しみはどうすれば晴れるのだろう?私が躊躇ったから?私が私として私の大切な物を守ろうとしなかったから・・・?胸に抱えるボールからは冷たい漬けダレ服に染み込んできて、もう原形をとどめていないと訴えてくる・・・。
「否・・・、敢えて言おう・・・、否であると!」
「大丈夫?」
「力を・・・、力を寄越せヤクポ。」
「やっとやる気に!サポートは僕がするから君はゲータリアンを!」
「時間がない、しくじるなよ?」
投げ捨てた爪を開い壊れた壁から外へ駆け出す。手の中の爪はカタカタと揺れてるけど、そんな事はどうでもいい。コイツを放ったアイツは叩き潰すべき敵だ。
「帰りたいのか?なら返してやろう。」
「その前にマジックフィールド開門!君の力は強すぎる!」
手に持った爪に想いを乗せて、全力で投げつける!光と化した爪は寸分違わすゲータリアンにぶち当たりそのまま貫通してしまった。なんで私はこんな事をしているのだろう?
「なんやなんな!何が起こってん!?」
「ゲータリアンがマジック砲に当たって爆発した?でも誰が?」
「2人ともあそこ!待って!貴女は誰?貴女もゲータリアンと戦う魔法少女でしょう!」
「・・・、なれ合う気はない。」
「待って!」
(ヤクポ、さっさとずらかるよ!)
(この力があれば或いは・・・。行こ市井ちゃん!これからもゲータリアンを倒しに!)
(えっ?嫌だけど?)
ヤクポの出した不思議空間を抜けて元の街並みへ。面倒なのでさっさとトンズラ来いて家に・・・。
「壁が直ってないんだけど?」
「形あるものはいつかは壊れるよ。」
「いや、魔法があるなら魔法で直してよ!そんな破壊一辺倒なの!魔法って!」
「でも戦わないんでしょう?あ~あ、戦ってくれたら考えもするんだけどなぁ〜。」
シャチのぬいぐるみがチラッチラッと私を見てくる。でも確かお母さんが家が壊れても保険で直せるって言ってたし、壊れたのはウチだけじゃないから放置の方がいいかな?他の家が壊れてるのにウチだけ無事だと不審に思われちゃうもんね!
「ならそのままで。」
「えっ!?」
「私はこれからオペを行い鶏肉を救出する任務に当たる。貴殿はぬいぐるみとして振る舞え。」
「えぇ・・・。」
「ただいま〜、つむじ風でも起こったのかしら?ウチも含めて他の家に穴が空いてるし・・・。」
「おかえりなさいお母さん!これから油淋鶏作るから待っててね!」
「あらありがとう、でもなんで抱き枕を踏んでるの?枕は踏んだらダメよ?」
「大丈夫!踏み洗の練習だから。」




