712話 ワープ理論
マスタールームに入ると望田はおらず代わりに神志那がいた。机の上には『マスター代理、本決定は本部長若しくは副長帰還後』と書かれた旗が立てられている。
「戻りましたよ。」
「オッスオッス、そのマスク何?」
「ちょっとした予防策ですよ。魔法でも大丈夫だとは思うんですけど物理的な方が安心出来ますからね。私がいない間何かありました?」
「大きな事はないかにゃあ。中層で素材集めしてる本部長やら鍛えるって連れてかれる人達も含めて怪我は許容範囲内で死者はいないよ。」
許容範囲内と言う事は大怪我はあったと言う事か。まぁ、中層死な安なので全員生きているなら後は休憩やらを挟んで潜ればいい。エマも米国の中位をゲート内で招集して一緒に潜ると言っていたし、本来なら国同士でも面倒な手続きをしなければならない事柄でもゲート内で完結出来るなら事が早くすむ。
実際日米合同演習と言うか合同実戦ではモンスター相手に米軍とタッグで潜っているし、パワードスーツの支給やらもやっているので絶対はないにしても怪我だけに留まっている。
「それはいい事です。カオリ達は遅くなりそうですか?」
「最近はぼちぼち遅いかな?外に出て素材渡す為に再度セーフスペースの統合基地に行ったりしてるし。話では結構集まったって話だし継続採取はするにしてもフェス用には足りるかにゃあ?」
「やるとは言いますけど決行は集まってからですからね。また企業ブースとかも出すそうですし、中も外も大忙しですよ。さて、後はこちらで処理するので神志那さんは戻って大丈夫です。」
「了解〜、なんか面白い話あったら教えてね〜。」
神志那が部屋から出て行き橘にメッセージを送る。返信があればそのまま情報共有でもいいが、風呂に入ってるなら明日以降かな?メールチェックをしてみると佐沼の方から暇な時に会いたいとメールが来ていた。多分ファイアウォールの件だろう。
他はロシアが警備システムと言うかコア用の施設を作り出したとか?松田からのメールだが作ると言う話だけで何処にも協力要請を出していない様なので自国主導でやるのだろう。まぁ、下手に要請すると情報も広がるし今の所は要請が出せない状況なのかな?出来上がったら攻略してみてくれとも言っていたし。
他は特に目立った知らせはない。そんな折に橘に送っていたメッセージに返信があったので、秘匿回線を使い連絡をとる。
「お疲れ様です。送っておいてなんですけど、身体の方は大丈夫ですか?」
「シャワー浴びて多少さっぱりしたのでどうにかですね。自分の中で情報をまとめてからでいいなら明日以降がいいですけど、ゲート関連なんで急ぎますか?」
「う〜ん・・・、それは橘さんの判断によりけりですね。アレが早急にどうにかした方がいいものなら無理をお願いしますけど、現状どうにもならないものなら明日以降で大丈夫ですよ。」
「ならラボで直接会って話しませんか?私もパワードスーツの修理やメンテナンスを装備庁お願いしたいですし。」
「いいですよ。私も佐沼さんに呼ばれてラボには行こうと思ってましたし。明日の何時頃にします?」
「昼頃でどうです?流石に午前中一杯は私も休みたい。」
「了解です。なら飯でも食べながら話すとしましょう。」
そんな通信を経て仕事を終えて帰宅するがマスクは外さない。誰に見せるのが正解かは分からないが、流石に混乱は避けたいしな。妻やらソフィア達家族からは大丈夫と言われるが、こればっかりは不用意な事は出来ない。
美しさやら魅力やら惹きつけると言う物は対外的なもので、自身でどれだけ貶めようと他人が認めない事には中々それを落とせない。そして本能的に美しいと思われる姿は、どこまで行っても慣れて貰うしかない。
実際飯食う時とか口元が見えるだけで結構注目されたしな・・・。隠しているモノを見たいと言う好奇心は分かるが、ここで完全に外してしまうとやはりマズイ気がする。寝る時も顔を魔法で隠しつつ、マスクを付けて出勤し溜まった仕事を熟して一足先にラボへ。
「お久しぶりですクロエさん。そのマスクは?」
「お久しぶりです佐沼さん。マスクの事は気にしないでください、強いて言うならファッションとでも。それより仕事の方はどうですか?」
「S・Y・Sでのデータやトレースシステム方面で台湾の方達と共同研究を進めてますよ。内緒話をするとS・Y・S2号機の建設は宇宙で行うと言う計画もあります。核となるモノは地球で作りますけど、その後は前回使ったトレース機を使い作業させてみようかと考えてるみたいです。」
「おぉ〜、何人規模の建造計画になるんですか?」
「規模自体は30名程度で当初宇宙へ行かれる方達には管理者として滞在してもらうそうです。その方がクレードルの準備や資材を指輪から取り出しつつ、宇宙空間ではトレース機が作業をして最終的な接合や調整等は鍛冶師にお願いする。本来なら大規模計画ですが、今回は建造ノウハウを育てる為の計画なのでそこまで大々的にはやりませんし、上手く行けば2号機とする予定ですね。」
「S・Y・S2号機か・・・。いや、ラボを考えると実質3号機?」
「ラボを外に出して外殻等を形成すればそうなりますね。ただ、どこの国なのか個人なのかは存じませんが飛行するラボを観察する集団がいるとか。」
「被害がないなら放置ですか?まぁ、乗り込まれると面倒なので何かしらの対策は必要・・・、ここは自衛隊の駐屯地もあるからスクランブルならすぐに連絡してくるか。」
見ているだけなら特に何もしない。もしかしたらセルゲイが言う様に宇宙でのコア安置を考えていて、その為にラボを観察しているのかも。種子島にS・Y・Sは待機してるけど、空も飛ばずに台座に乗ったままなので面白味はない。
再度宇宙へ上げようと言う話もあるが、乗員の選定やらに手間取っているとも聞くし、どこまで行くのかと言う話でごたついてるのだとか。元々ラボの持ち物で民間宇宙開発に政府が乗ったと言う形なのだが、JAXAやNASAも絡んでいるし最終的には藤に渡すと言う話ながら、まだまだ宇宙開発の足がかりとしては多大に貢献出来る。
「そう言えば斎藤さんいます?」
「おられますよ。何か御用ですか?」
「頼まれてた中層の木とかちょっと面白そうな素材が手に入ったので渡そうかと。」
「面白そう?」
「米国やらで不可視攻撃したモンスターがいるのはご存じだと思いますけど、それをして来たモンスターの残骸を確保しましてね。中層基準で素材を集めるなら多分、次はコレが1番注目を集めるでしょう。その代わりかなり強いですけどね。」
「あの不可視の攻撃の・・・。私はアレを圧壊攻撃だと考えてましたけどどうなんですか?」
「さぁ?私としては空間攻撃と言う認識で次元干渉的な物だと考えていました。どちらにせよ調べない事には判断は付きませんよ。下手したらピンポイントで分子崩壊させてるなんて事もあるかもしれませんし。」
そんな話をしながら斎藤の元へ。大量の木材とカブトムシやらの素材を渡すと大変喜んでいた。これから半田に固定処理された空間でカブトムシやらを解体してもらうそうだが何日かかるやら。
「この角が肝なんですよね?」
「映像を見れば分かると思いますけど、間違いないですね。使い道はあると思います?」
「使い道・・・、ワームホールやら亜高速ドライブとかですかね?調べてみないと分かりませんけど、仮にこれが本当に空間を穿つだけの性能があればワープ理論やらにつながりますよ。」




