711話 空間とは?
的となる様に宮藤と卓は暴れているが、雄二の場合静かに斬るのでどうしてもモンスターを引きつけると言う面では劣ってくる。ただ、米国でも使用した地雷を設置と言う改良して貰って手榴弾にでもして貰ったのかちょいちょい爆発は起きている。ダメージの程は分からないが狼煙と考えると割といいのかも。
夏目が下がった分の穴を埋める様に数を出し薄い部分にそれを当てつつ、邪魔にならない範囲でモンスターを扇動していくが、扇動しきれないモンスター=喋る奴やら結構進化してる奴とするなら分かりやすいのか?挑んだモンスターも割と簡単にやられているし。
「空からも大型がどんどん来てるな・・・、ムカデの方が卓君を対象にしてるけど、はぐれて来られても問題だし・・・。」
単純に穴を塞げばいいと言う問題でもない。マズったな、ゲートを木に立て掛けるだけじゃなくで調べた後に木の上にでも移動してムカデ対策もしておくんだった。
(また難儀な事をしてるわねぇ、さっさと叩き潰せばいいのよ。)
(被害のない範囲でならそうするさ。)
(なら地下よ?上は見える、地上も見える、でも貴女は地下が怖い。優先度を考えるなら地下じゃなくって?)
魔女がそう囁きかけてくるが確かにな・・・。生き埋めリスクやらを考えると地下攻めするなら俺がいい。下手に平衡感覚を失えば地上には出られないし、コチラと思って突き進んでも潜って行く事も。その点魔法で辺りを見れる俺なら生き埋めになっても出てこれるし、酸素がなくても潰されても死なない。
不死の有効活用と言うわけではないが、中層付近から不死薬出るのってこれを見越しての事?死なないなら死なない前提の行動も取れるし、その時点で無茶と無謀の度合いがかなり変わる。
「下のムカデを叩く!卓は上空を!宮藤さんは地上を!雄二は遊撃しつつ夏目さんと橘さんの防衛を!」
「なら僕が活路を開こう!地に落ちた不死鳥は何度でも蘇り宇宙を目指す!ミリオンダラーシューティング!!」
「その穴の確保は自分がしましょう。カグツチ、辺りを燃やし癒やしを忘れ、後に残るほどの渇きをここへ・・・。」
卓が多数の火球をお供にムカデの這い出てくる穴に流星蹴りを放ち、宮藤がその周囲を炎の巨人で薙ぎ払う。かなりな熱さもだが四の五の言わずにムカデが出るよりも先に穴に飛び込む。周囲は真っ暗だが金属やらの擦れる音がするのでまだまだいるのだろう。
駆逐してしまいたいがどれ程いるやら・・・。もしかして製造工場的なモノやらがある?でもクリスタルがあるからソーツの廃棄品だとは思うが・・・。何にせよ考えるより先にムカデを倒そう。コイツラが這いずり回って空洞だらけにしても地盤沈下しないならそれだけ硬いのだろうし、木の根が地下茎で繋がっているので、それも支えになっていると思う。
「さぁ、狩らせて貰おうか。狭い穴の中なら簡単に分裂も出来ないだろう?散々空間攻撃食らってきたんだ、やらせてもらうぞ?」
どこまで空間攻撃と言うモノを難しく捉えるのか?その前に空間攻撃とは何なのか?数学的に考えれば空間とは次元である。人がいるのは空間の3次元と時間の1次元を合わせた4次元に存在する。つまり、同一時間軸にあるモンスターから時間の1次元は引けないが、他の1次元(長さだけ)、2次元(縦と横)、3次元(縦、横、奥行き)は引いていける。まぁ、時間だけ残せばそれでいい。
前に賢者が時間なんて大きなモノと言っていたが、時間を操ると言う事は次元を超えているのと同じで下手に扱うと連続して壊れてしまう。万物の基本は流転する事、ヘラクレイトスの提唱した哲学概念だが世界は『在る』ものではなく『対立するものが調和して変化し続ける』とある。なら、そこから調和を引けばどうなるかと言えば・・・。
「私の目からは逃れられず、その構造を乱そう。」
俺の目は職を通した賢者の目である。しかし、その本質は魔女達の同族と同じ様に視える事。まだバイト程何もない所を噛む事は出来ない。しかし、対立するモノがあるなら別だ。
モンスターを目に焼き付け瞼を閉じる。それだけでは対立するモノは眼前から消える。残るのは人の目を通さない魔法から視た世界。白い空間はやはりどこまでも白く寂しいが、それはガーディアンを解体した時にすでに視た。
その空間に調和するモノは白以外なく、精々キセルを吸いプカリと吐き出した白煙くらいだろう。踏み出す一歩は重い、その重さは時間の重さで足の下からは1から3次元を引いた小さな何かを砕く感触がある。目を開くまでの・・・、瞬きほどの刹那の時間でどれ程でも踏み潰し、その結果を時間に乗せてフィールドバックさせる!
(よくもまぁ、回りくどくやるね。)
(気が散る!)
(だからまだ君は視点が足りない。せっかく高性能な身体なんだから楽に使うといい。)
「って、俺の精神世界に引きずり込まれた理由は?」
「強いて言うなら自己強度を観測させる為かな?君の知識のモニターを見なよ。高速で回って今にも壊れそうだ。」
「やはり過ぎた力だと?流石にモンスターからのワンサイドゲームには納得出来ないが?」
「その闘争心の結果がこれだけどね。まぁ、まだ大丈夫とは教えてあげよう。ただ君達は時間には手を出したらいけないよ?乗るのはいいけど、逆らったり飛び越えようとすれば下手をすると白を壊す。」
「それは・・・、積み木を崩す様なモノか。」
「そうだね。君達はそれしか持ち得ない故にそれが崩れれば自己が揺らぐ。嫌な過去を改変すればそれは必ず自身に返ってくる。僕達はそれを回避する法を有するけど、君達にそれはまだない。」
「いずれはそこ辿り着けるのか?辿り着きたくもないが。」
「さぁね。色々と捨てれば辿り着けるかも知れないし、逆に増やせば辿り着けるかも知れない。取捨選択するのは君だし、正解は君しか知らないよ。」
「まぁ、それもそうだな。結局誰かは自分で自分は誰かだし。」
「その視点はあるんだけどねぇ・・・。闘争心が高いが故に・・・、逆か。他者がいなければ存在証明出来ないからそうなるのか。まぁ、精々壊れない様に扱うといい。」
言うだけ言って賢者は何処かへ行ってしまったが、取り敢えずここまでは大丈夫と言う線引きなんだろう。先に踏み込む方法も知らないし今はこれでいい。今はムカデで試しているからいいのだろうが、カブトムシは残るのかな?同一方法かは分からないが、空間攻撃してくるって事は何らかの法を有してるんだろうし。
ムカデを潰せるだけ踏み潰して歩くが穴は深い。歩みが遅い分防波堤の様になっていると思うが、何時まで興味の対象で・・・。あぁ、ここなら誰にも視られていないから惹きつければいいのか。
「祖は美しく優美なれ。欲する者は久しからず現れ、この魂に刻まれた言葉を贈ろう。私は惹きつける者!」
モンスターが何を感知してあるのか分からないが、少なくとも惹きつける者はちゃんと効果を発揮した。なら、こうして穴蔵で誘蛾灯となるのもいいだろう。視ている世界は悍ましく、白かった地面に虫が溢れたとしても、歩を進める足はある。
「クロエさん!橘さんが鑑定完了したそうです!」
「分かりました、脱出アイテムで脱出しましょう。」
腐る程虫を踏み潰した頃にその声が届いた。途中から感触が気持ち悪くゾワゾワしていたのでちょうどいい。惹きつける者やらを使うと後遺症とでも言えばいいのか、やたらと見られるのでペストマスクを被りクリスタルを回収して外に飛び出る。残念ながら素材は残らなかったよ・・・。すぐに消えるほど小さくなってしまったのだろう。
飛び出してから周囲を見渡せばまだモンスターは多いものの残骸も多数転がっている。橘が変な無茶していなければいいが火力不足を悔しそうにしていたし、何より橘は無力な自分が許せない質だからなぁ・・・。
そんな事を考えながらモンスターを倒しつつ縫う様に橘達の所を目指す。流石にバラけてまだ戦っていないとは思うし、かなりの時間連続して潜っているのでそろそろ外も恋しいだろう。脱出アイテムを使うと退出ゲートの様に自身の入ったゲート付近に出るが、その後の手筈も整っているので大丈夫なはず!
先に水浴びでもしてればマシかもしれないが、速攻風呂に行かないとかなり臭うだろう。まぁ、そんな事する暇がないのが中層なのだが・・・。
「皆さんそろってますね?」
「そろってますけどそれは?」
「カッコイイマスクです。訳あって被ってるのでスルーして下さい。箱も素材もクリスタルも頂いたのでさっさとずらかりますよ!」
「なんでそこだけ泥棒風・・・。」
ツッコむだけの余力があるなら橘は多分大丈夫!他の面子もちゃんとした服を着ているから大丈夫だろう。外に出るとギルドの中ではなく正面の広場にでたが、生憎の雨なのでさっさと中へ。すれ違う人からマスクを見られるが、多分素顔よりもマシなはずだと思う。
惹きつける者ってフルパワーで使った事ないんだよなぁ・・・。元から人前は苦手だしたまに使うにしてもここまで大々的に使った事はない。下手したら数日はこのままかもしれないな。




