閑話 139 折れる前
強固な警備システムとはどう構築すればいい?箱に入れて誰の目にも届かない所に隠す、常に個人で所有し肌身はなさず持ち歩く、誰かに預けると言うのは論外か?そうだな・・・、論外だろう。持ち逃げを危惧すれば今度はその預けた人間を目の届く範囲に置き、外部からの接触を絶つ事になる。
そもそも預けるにしても安全を担保出来るだけの実力者と言う者がどれほどいるか・・・。露中米日で話し合いコアは我が国にへ来る事になったが、それをどう警備するのかで話は揉めている。
この場に秘密裏に集まったのは軍の人間に科学者としてアカデミーの所長に私だ。外部に話を漏らすのは憚られるが、私1人で事を運ばないのもまた事実。形は伏せるとしてコアの大きさや重さを伝え警備方法に奇譚なき意見を出しつつ模索している。
「立ち入り禁止施設を作ると言うのはどうでしょう?発泡も許可した上で許可を受けた者のみが出入り出来るようなクローズド施設を作ると言うのは?」
「人の出入りがある時点で警備システムとしてはザルだ。外部にスィーパーを配置して内部は機械警備とするのは?」
「魔術師が絡めば機械警備もザルだろう?ローカルネットワークを構築しても電気を使っている以上、映像のすり替えやシステムダウンと言う話は必ず出て来る。」
「その前に保管場をどうするかでは?土地そのものはあるにしても何の名目でどの様な物にするのか?視察や保管状況の問い合わせがあれば見せない訳にも行かず、かと言って遊ばせて置くにはもったいなさ過ぎる。」
「丸ごと研究施設にするのは?研究者もそこに滞在させ外に出さず外部接触を絶つ。これならどうでしょう?」
「ダメだろう。スパイが侵入すればその時点で不味い。少なくとも日米中はスパイを寄越さないと信じたいが、それも空論で日本は動く気がないにしても他の2カ国は分からん。問題は核シェルターさえ壊そうと思えば壊せるスィーパーだ。なにかこう・・・、無力化出来る様なモノは?何も壁1枚とは言わん。」
「それはイメージを乱すのが最適でしょう。例えば壁や柵に高圧電流を流し、それに触れさせれば意識はそちらに向く。魔術師:雷対策を考えるなら内部には絶縁体を仕込みそういう物として公表すればイメージ抑止にも・・・。」
「壁や柵は狙撃で破壊可能では?そもそもそのコアと言う物を預かると言う話は公にしても構わないのですか?」
「その点に付いてはまだ判断出来ない。私としては安全ならば公表もやむ無しだと考えている。この場に集まった諸君に形状を教えていないのも最後の砦としてだ。」
コアを研究する。その場合本物を見せなければならないだろう。多重計画とするなら公には偽物を研究させる。当然成果は出ないだろうが、それはそういう物として大々的に予算を割り振り本来の研究は別の場所で行う。そもそも話を聞いた限りどう研究するのかのプランもない。
ファースト曰くオウム返しで返すと言うが、その言語をどうやって話すのか?受信と言う面なら国内でも宇宙からのメッセージを受け取った人間はいる。しかし、それに見せるにしても人選に難航しどうするかも決まらない。
全く厄介な物だ。研究成果を公開するにしても私の世代では・・・、いくら若返ろうとも私がトップでいる間は無理だろう。その代わりに巻き込めると言う切り札でもあるが、その札を切るにしても先ずは警備体制を整え、自国を含むスィーパーを実戦形式で侵入させてからだろう。
「一度仮の警備システムを作り各職に就くスィーパーを集め実戦させてみると言うのは?こちらとしては獣人も鑑定師も防人も使い、どこまで対抗できるのかを検証してから問題点を潰す事を提案しますが?」
「その一度でイメージを作られればどうする!?」
「しかし、中位も下位もそれぞれのイメージで動いています。総合的に考えるなら中位を抑えると言う話になるのでしょうが、下位も馬鹿には出来ない。確かにアカデミーには相当量のスィーパーデータがあるにしても、同職でも何が得意で何が不得意かは個人によるとしか出て来ない。それならば先ずは潜入や強襲に適したスィーパーから潰すのが筋でしょう?それこそ賞金を賭けたゲームとしでもして。」
「ゲームか・・・。仮にそのゲームを行うとして制限は?」
「なしです。相手は不特定多数で賞金を狙い我々は面子を賭ける。」
「かなりリスキーだ。負ければそれだけ攻略のイメージや成功のイメージを与えてしまう。」
「ええ。ですから軍として面子を賭け、アカデミーとして面子を賭け、首相には国としての面子を賭けてもらう。その中で出されたイメージに対抗して潰していく。更に言わせてもらえば制限を更に外すならゲート内で開催すれば他国からの参加も募れる。」
「開催方法はいいとして、その前の警備自体はどうする?軍を動員して抜け穴を考えればごまんとある。」
「ええ。しかし、それを狭める事も出来るでしょう?ファーストの様にとはいかずとも思考誘導を考えれば可能性はあります。」
いきなり他国は頼れない。寧ろ我々としての誇りを持ち対処する。その方法を確立するのが難しくともきっと・・・、折れずに歩めばなにかが・・・。




