707話 行くしかない
エマから話され急いで橘と高槻に電話する。カメラの在処を知ってるとすればこ2人だな。或いは元会社とか?モンスターはスマホで撮ったが元々は課長から調査して来いと言われて写真を取りに行っていた。探せば世界にはゲートの裏側なんて写真もあるかもしれないが、大切なのは最初に開通したゲートだろう。
少なくとも最初の誰かが入るとそこにソーツは来る。そのゲートと打ち捨てられたゲートを比べれば何かしらの違いのあるゲートがあるかもしれない。まぁ、本当に捨てられただけと言う話もないわけではないかもしれないが、そうなると今度は捨てられたゲートの中身は何処へ行ったやら、ゲートはいつか停止するのでは?と言う別の問題も出てくる。
なんにせよすぐに停止する訳ではないのだろうが、その辺りも彼奴等に交渉以外で質問する事項として忘れない様にしよう。既にゲートと人の関わりは切り離せない所まで来ている。少なくとも真面目に掃除している限りは簡単に消えてもらっても困る。
「もしも橘さん?クロエです。」
「もしもし?珍しいですね、クロエさんから電話してくるなんて。変な出土品でも出て来て神志那さんでは手に負えないなんて事態ではないですよね?この前も他ギルドの鑑定師の手に負えない武器を見てくれと呼ばれたんですけど。」
「違いますよ。少なくともウチからは変な物は出てませんね。それよりも聞きたい事がありまして・・・、私がゲートに初めて入って出てきた時にカメラを持ってたと思うんですけど所在を知りません?或いはカメラじゃなくて中のデータでもいいんですけど。」
「カメラですか?ちょっと待って下さい・・・、警察側で知ってるとすれば宮藤君か伊月さんですよ。押収品として病院から預かって中身も確認しているはずなので、中のデータだけなら警察側にあると思います。それがどうかしました?」
「先程エマと青山から話があって、ゲート内には廃棄されたゲートが幾つかあった。総数は不明ですが、これは祭壇を作ろうとして廃棄されたのではと言う話になりまして。」
「祭壇を作ろうとして廃棄?それは祭壇ではなく道を作ろうとしたと?」
「まだ予測ですけどね。アチラが祭壇の様な物を作りそこで私が呼びかける。それが交渉の始まりで指定された交渉の在り方です。しかし彼奴等はゲートの中を見ていない。そう考えると祭壇に来たと検知する何かが必要になってくる。」
「それが祭壇へ続くゲートです・・・。何やら巡礼者じみて来ましたね。モンスターを倒し苦難の道を乗り越え、その先で願いを話し成果を見せる。あぁ、だから祭壇なのか。」
「語感から考えるとそうなりますね。これが会議スペースとかなら何処でもいいと言う話ですけど、祭壇と言うからには参拝する為の道が必要で、その道を辿るのが掃除と言うなら話も分かってくる。なにせ崇めるなら崇めるなりにその巡礼の道も整備して綺麗にしないといけませんから。」
多数が赴きモンスターを倒して辿り着く祭壇。そこで交渉出来るのは俺だけだが、本当に巫女とか言った奴はあの時点ではそこまで考えてなかったにしても的を射ていた。これが正解なら広大なゲートの中でも人海戦術が使えるだろうし探すべき物の目星も付けやすい。
「分かりました、そちらは私の方でデータを探しましょう。クロエが動いて妙に勘ぐられても困るでしょう?」
「ええ。打ち捨てられたゲートの検証もそこまで出来てませんし、確証に至る証拠もない。現時点では可能性の域を出ない話なのでお願いします。」
「それはいいですが検証そのモノはどうします?」
「ちょうどいい事に素材フェスの話があるんですよ。今なら本部長達と大規模に潜っても理由が明確で勘繰られない。」
渡りに船ではないがモンスターを相手にしても押し負けないだけの戦力はある。問題はムカデなんかの襲撃者だがそれも遠くで暴れてもらえば誘導も出来る。松田には話さないといかけないだろうが、優先順位を考えてもNOとは言われない。
問題とするならゲートそのモノに対する検証不足とか?鑑定師は頭をやられるので鑑定出来ないし、現代科学による調査もほとんど進んでいない。そもそもゲートを潜ると別の所へ移される原理ですら、様々な説が出ていて明確な解答と言うものはない。
まぁ、濃厚な説として俺達が輸送機で宇宙へ行った時のマイクロゲート理論と言うのがある。要はワームホールを展開して指定座標へ転送されていると言う話だが、そのワームホールを人類はまだ使えないのでそこで止まっている。この前卓君が理論書持ってきたけどもしかしてアレも鍵になる?
寧ろサイラスに聞いてみる?理論としてテレポートを考えるのと実戦している人では見る角度も考えも、そもそも職と科学と言う違いもある。まぁ、職も魔女達からすれば科学の延長なのだろうが、理解不能な科学は魔術と変わらない。
「祭壇探しに進展だナ。」
「ありがとうエマ。ノー手掛かりよりも何かしらの指標がある方が遥かに探しやすい。」
「戻りましたクロエさん!悪臭も抜き取り体臭も最高級の香水・・・。」
「青山もありがとう。ただ、私は余り香水は好かんぞ?」
「瓶を投げ捨ててきました。ええ!香水なんて無臭に比べたら・・・、感謝されました?」
「働きに対して感謝を伝えるのはおかしな事じゃない。」
そう言っている間に青山はさめざめと泣き出した。非常に不気味だが大丈夫だろうか?感情が豊かと言うか感情=行動と言った所があるので変な事にならなければいいが・・・。
「ようやく俺の奉公が認められた!より一層の精進をすると共に、更に調査して不死薬も不老薬も祭壇も探しますね!」
「まぁ、程々にな?1人での調査には限界もあるし約束もあるだろう?」
「ええ!だから誰かを誘って馬車馬の様に中層を・・・。」
「相手の事も考えろバカ!行くなら行くで余裕を持って帰って来い!」
「ええ!スパルタで鍛え上げて中層でも余裕で通用するスィーパーを作ればいいんですね!?あ、これどうぞ。」
「いや・・・、うん・・・、まぁ・・・。程々にな?」
スィーパーに目星が付いているのか、青山は不死薬を一本寄越して満面の笑みでスキップしながら出て行った。青山式スパルタ授業はいいとして・・・、本当にいいかは迷うが鍛えると言われた相手が了承したなら、後は本人達の問題なのでとやかく言う事も出来ない。
まぁ、鍛えると言うからには匙加減は分かっていると思うし、奉公する者と話し合って決めるならそこまでの無茶を・・・。彼奴等が無茶じゃないって考えるのどの辺りから?多分腕吹っ飛んだくらいじゃ危機的とは考えても無茶とは感じない様な・・・。
「アレはクロエの前では道化にでもならないといけない呪いでも患っているのカ?」
「否定出来ないのが厳しい所だけど、エマと2人の時はどうだったの?寧ろカオリと2人の時は?私抜きでの青山の評価ってアホほど高いんだけど?」
大分ギルド非公式(職員除く)頼りになるスィーパーアンケートでは、青山がぶっちぎりでトップらしい。よくある話として、女性スィーパーの服が破れたりした時にさりげなく後ろから服を渡し貰ったやら、仲間が傷付いて危ない時にモンスターを引き受けてもらった、クエストボードでの余り儲からない仕事を淡々と熟して地域貢献やら子供にも人気が高い、話すと気さくで困り事には手を貸してくれる等々、他人の家に勝手に入ってツボ壊す勇者とは違う感じにお使いクエストとかをやっている様だ。
警察側と言うか伊月からの話では捜査協力要請すると嫌な顔せずに一緒に捜査してくれるし、自衛隊側から新人訓練として対モンスター訓練をする時のお守りを依頼されても厳しそうなモンスターは間引いてくれるし、逆に倒せる範囲のモンスターは残してくれると言う評価もある。
『流石はギルマスの懐刀』そう言ったのは誰だろう?大分ギルドと言われて俺の事やら望田の事を話す人は多いが、それに加えて助けてくれる素敵な人として青山の名は上がりつつある。その代わりただ利用しようとしたり、犯罪の片棒を担がせようとする様な輩には手厳しく対処して警察に突き出すそうだ。
「うム、相変わらずクラウチングスタートの様な低い構えから走り出すが鮮やかな体術だゾ?武器も新調したのか双剣の様な物を使ったり糸鋸の様な物を使ったりと多彩に攻めル。真正面からの打ち合いと言うよりは技巧派だナ。夏目程身体は変化出来ない様だガ、それでもモンスターを捕まえた後にモーニングスターの様に振り回したりもしていタ。」
「私の所には報告に来たりするくらいしですけど、こんな困り事が話に上がってるとか、ここの備品が壊れそうとか小さいですけど後々困るだろう所にはよく気付いて話を持ってきますね。仕事内容的にも問題なくて真面目な好青年と言う話は聞きますよ。」
「・・・、なんでアイツはその評価のまま私の所に来ない?」
「さぁ~?」
「思ったよりも幼稚な考えで構ってほしいのではないカ?退屈そうなら笑わせるとカ。そもそも青山の中には奉公する者とか言う奴があるのだろウ?」
「エマはそれ知ってたんですか!?」
「宇宙でのゴタゴタの折にナ。深く首を突っ込むと面倒になると言うカ、アイツがトラップと言うカ・・・。」
「なんにせよ私の前でアイツがマトモになる事はないか・・・。よし、頭を切り替えるとして、打ち捨てられたゲートが祭壇への道だと仮定する。その場合稼働しているものを探すと言う流れでいいよね?」
「これって持ち出し不可なんですよね?びっくり返したら反対側に祭壇行きとか書いてあったりして。退出ゲートにも丁寧に退出と書かれてますし。」
「そんなに堂々と書くものカ?確かに退出ゲートには退出と言う希望の文字が刻まれているガ。」
「う〜ん・・・、彫ってないとは言い切れないかな?今でこそソーツに嫌われてるけど、その前の時点では嫌われる要素がない。流石に会いたくないから先に壊して回って入口を塞いだとは考えられないしなぁ・・・。」
「言うほどクロエは嫌われてるんですかね?」
「多分交渉材料として交渉権を返すって言えばおおよその願いが叶うくらいには。」
「それなら他の交渉人を選ぶ事も可能そうだがナ。」
「多分それは出来ない。相手は私を指定したからそれを覆す意味がないって言い出すし、再選定するくらいなら交渉しなくていいとも言い出す。まぁ、私達とソーツは対等な様に見えてその中身は発注者と受注者だからね。下手な事を言うとゲート引き上げなんて話まであるよ。」
「それハ・・・、かなり不味いナ。今でも死地と言う認識はあるガ、それに目を瞑ってもいいほどの恩恵もあルウィルソンやアライルも話していたガ、共通の危機として存在するモノが現れれば人は種の保存の為にまとまると言ウ。実際政治的な駆け引きは多くあれド、今銃弾が飛び交う場所はゲート内かさもなくば射撃場だそうダ。」
「確かに痛ましい事故の話やら殺人事件なんて話はニュースからしなくなって、代わりに商品宣伝が増えたね。」
臭いものに蓋をする訳では無いが犯罪者はゲートに旅立ち、そのゲート内では犯罪と言うものがない。不満タラタラなのは健康でも働かずに生活保護を受けている様な狡い奴だが、そう言ったのは奴等は見向きもされない。健康なのに働かない、何もしない、そのくせに主張だけすると言うのはナンセンスで、精神的な病の判定もかなり厳しくなった。
過激な国は養うのを辞めてセーフスペースに放り込むなんて話も出ているとか。確かに命がけで、或いは汗水垂らして収めた税金やらが甘い汁にされたらたまらない。政治家も頑張ってるけど、総合的に頭のよくなったスィーパーもその政治家達やら法案を見ているので、全体的に世界はシャキッとしてるな。
流石にチャン達が上手くやってるのか、それともスタンピードの話で上手く食い込んだからか国連要らないの話はまだ出てこないが、各国から無駄はないか不明な金の流れはないかとかなり突き上げをくらって、よく分からない団体は結構解散した。
まぁ、多数がそう判断して金食い虫が減るならそれでいいのだろう。そんな話をしていると電話が鳴った。出ると橘だったが何やら嬉しそうだ。
「もしもし橘さん?クロエですけど何かありました?」
「なにかと言うよりは警察が優秀だったと噛み締めてまして。黒岩さんや大井さんにも声をかけてゲートがゲートとして起動する前の映像や写真がないかと聞いたら多数出てきました。無論、その中にはクロエが撮影した物もあります。これからPCへ送るので確認して下さい。」
「分かりました、これでなにか進展があればいいんですけどね。」
電話を切りPCをチェックすると容量のデカい圧縮ファイルが送られてきている。解凍して中を見るとフォルダ別に民間撮影やら警察撮影、自衛隊撮影、どこどこ地方の物なんて風に分類されている。取り敢えず警察撮影のフォルダを開くが写真の量が多いな・・・。
「これ全部見ます?」
「送って貰って見ないのは悪いし、見落としがあっても困るからね。」
スライドショーで写真を見ながら気になれば止めて拡大して見る。どれもこれも代わり映えしないな。定時になったので望田達は先に返し作業続行。エマ達の写真と見比べても代わり映えしないのはどうともなぁ・・・。
1番嫌なのは実はスタンピード時にだけ起動するとか?打ち捨てられたんじゃなくて周りのモンスターを吸い込んで排出する用とかか。だからと言ってぶっ壊す気はないが、その時だけ祭壇への道が開通するとかなら俺は怒る。
「う〜ん・・・、現地調査も必要だし裏返してみないとな。下に行けば行くほどゲートは見つけづらくなってるし数も減ってる。なら本当に祭壇と表記されたらゲートもあるのか?」




