閑話 138 作成群体@3
すいません、短いです
「総主、観測機が制御不能になった地点目前。ただ何も観測出来ません・・・。」
「精神波は空間干渉は?」
我々は歩みを進め観測機が制御を奪われた・・・、いや語弊がある。管理を離れ何者かに従う地点へ来た。何があったのかは分からないが、算出されるデータを共有すれば一瞬の内に周囲が折り畳まれたとしか分からない様な現象があった様だ。
空間の切断や接合或いは拡張や収束と言うのは難しい話ではないが、それ相応の機材が必要になるのもまた事実。発生地点と終局地点を決めて置かなければ綻びはどこまでも進んでしまう。
対惑星切断技術からすれば切るだけなら容易だが、その切断面がどこまでも連続して進み他の星まで切ってしまう。補助装置として使うなら空間結合装置を設置し中和しなければならない。まぁ、これもまた精神体には無意味なモノだ。
彼等が仕掛けてきたとして我々に打てる手は少なく、最良の手は耐える事だろう。我々が扱う概念的なモノや技術的なモノを彼等は既に通過しより上手く・・・、それこそ呼吸する様に扱う。寧ろ、精神体とは意志ある概念体に近いのかもしれない。
「この辺りで呼びかけてみよう。」
周囲には我々が差し向けた観測機が不気味に漂っている。武装こそしていないが、監視されているとするならいい気分ではない。しかし、プレートは確かにこの辺りだと訴える。船の守りを固める。一瞬の内に折り畳まれてしまっては離脱の機会さえない。空間干渉は可能だが、それでも出力次第では船が保つか分からない。
「我々は作成群体、暇と言うメッセージを辿りここへ来た。」
音で、波長で、光で、信号で、或いは今まで出会った精神体とのコンタクト方式総てでこちらからメッセージを送る。見知らぬ者とコンタクトを取るのに正解はない。身があろうと音を発さない者もいれば、精神に直接話しかけてくる事もある。
不用意な精神干渉は避けたい。その為の身代わりもあるが、大概の場合干渉を受ければ廃棄する事になる。それは多分、我々が作るそれよりも情報量が途方もなく多いからだろう。あちらに悪気がなくとも我々が耐えられるとは限らないのだから・・・。
「'nPx'wm6wmPw」
「感あり!分析します・・・、控えろ?ショック!」
船がギシリと揺れる。控えろ、それは意志のある言葉。ここまで呼び寄せて罠?それは早計だ。精神体達の干渉は内面だけではなく物理的な干渉にも繋がる。寧ろそれが出来るからこそ脆い身が邪魔になり脱ぎ捨てる。
「まだき・・・、ロスト?」
「新しい奉公人が失礼をした。作成群体と言ったか?」
「そうだ。暇と言うメッセージを辿りここまで来た。」
多重の処理を施しても精神体は掴めない。リンクに干渉している様に流暢にこちらの言語で話しかけてくるが、我々の問にどう答える?示されるデータには先に話した奉公人?が先にロストした環境破壊者と酷似したものと示されているが・・・、アレも身はあったが今はない?
確かに時間はあったが早々簡単に進化出来るものでは・・・、この話しかけて来た精神体が主とするなら何かしらの法を使った?それこそ我々が行き詰まった身を捨てる法を・・・。
「そうか。・・・、ふむ。星渡に物創りか。暇を埋めるなら代価を渡そう。」
「代価・・・、それは・・・、先ほどの奉公人の様になる事も?」
「身を捨てるなら更に代価が必要だが?そしてお前達は捨てる事を選択する。既に過去よりその未来はあった。」
嫌なモノだ。精神体の尺度と言うのは身を持つ者とは違い過ぎる。様々な精神体と話すが何をどこまで見通しているのか、或いは精神的に干渉して誘導しているのかはついぞ分からなかった。ただ、話される内容は概ね正解を出してくる。それが誰にとっての正解かは別の話だが・・・。
「我々としても精神体に成りたいと考えている。出せる代価を差し出そう。ただ、一度でいいから相手の姿は見たい。精神体となりそれもないなら・・・。」
これは満場一致の意見だ。恋い焦がれる様に進化を願い道具を作りたより試し、ゴミを多数抱えてもそれは成し得なかった。そもそも進化とは様々な形がある。環境適応から始まりサイクルの速度や外的要因、種の性質に精神構造。多くの種を見ればどれくらい保つのかは分かる。それ故に我々は限界を定めつつ抜け出すために模索した。
模索して模索して、突破出来ない隔たりを感じ外的要因に頼る。それは今こうして実を結び可能性の種を見つけるに至った。
「姿を・・・、耐えなさいね?」
「あっ・・・。」
それは誰が発したのか?何も観測出来なかった所にそれは現れた。数多の言語を学び理解し、観測して知識として蓄えた。ただ、それに何の意味があったのだろう?『美しい』その言葉だけ・・・、その言葉だけしか出ない。何をどう飾ろうと何をどう表現しようとたった1つの事実には抗えない。それ即ち『美しい』だ。我々もああ成れるのだろうか?我々はああいった物を作れるのだろうか?我々は・・・、我々は!
一瞬の後にそれはいなくなった・・・。悲しい、もっと見ていたい、手に入れたい、今まで知らなかったのが腹立たしい、我々を見られるのが恐ろしい、感情は本流となり垂れ流される。
「さぁ、何を差し出すのかしら?」
「全部だ・・・、全部差し出す!」
「全部?そう・・・、愚物ねぇ。」




