702話 止まらないし流れ
「怪物・・・。」
2人共神妙な顔で聞いているが、個人的な意見を出すなら死蔵だな。こう言った物が!と出すにしても雄二の言う様にまだ早い。それこそもうちょい宇宙開発が進んでからかな?或いはもう少し国がまとまってから。そうしないと想像の怪物は想像から現実に産み落とされる。
「分かりました。今の所は死蔵コースで眠らせておきます。これで僕の方は肩の荷が降りた。どうするか考えるだけで胃が痛くなる代物でしたからね。」
「本部長になったらそんな話は多いよな・・・。設計図とか出土品とかでちょっとって声かけられたら無意識に身構えるし。」
「それだけ不明な物が多いからな。普通に使えば便利でも見方を変えると超危険物体とか。」
「危険物体はいいとして、話はこれだけじゃないんだろ?」
「ええまぁ。卓の次は俺なんですけど、AI関連で力を貸してもらえませんか?」
「AI関連?また変化球だけど奏江さんとか藤君の方が得意なんじゃない?」
藤はプログラミング関係は苦手だが奏江のバックアップとしてなら十分に仕事が出来るし、奏江は奏江でR・U・R関連での実績がある。確かに俺も奏江と共に作業はしたが、今なら俺よりも奏江に分があるんじゃないかな?
「そちらにもお願いはしましたし、神志那さんとかにも声をかけてるんですけど、スィーパーの裁判含めて様々な分野でギルドの簡素化を行おうと政府から話が持ち込まれまして。」
「それは分からない話じゃないけど、そんなに急いだり大規模なモノじゃないでしょ?確かに少数精鋭だと個人負担が増すけどさ。」
「それがですね・・・、ギルド世界化に伴い国際的なルールと法律を読み込ませて、どの国でも公平な判断を下せる様にしたいとか・・・。」
「それはまた・・・。えっ!日本式ギルドを真似てそれに沿う形でギルドを立ち上げる所は多いけど、法律関連と言うかシステム的な物まで手を出すの?」
ごった煮国家待ったなし。寧ろ、松田と言うか日本政府の想定と俺のやった事に乖離が産まれたから色々と急ぐ事態になった?確かにシェンゲン協定等で法律の取り扱いを国同士で考える機会は増えたし、貧困国と言う言葉も大分薄れた。そんな中でさっさと地盤を固めようと動き出したのかな?
状況としては宮藤が鍛え、それを通じて日本のスィーパーや法律等を勉強した海外の本部長が立つ状況で動くなら今なのだろう。多分これは大使の件を政府に返したり国際会議に出た辺りから練られていた?
誤算が合ったとするならそれは外堀を埋めてから中露や自国基準でギルドを作ると言った国をまとめて行き、統合すると言う構想だったのだろうが、思ったよりも俺は中露を表立って拒絶した様には見えなかっただろうし、中国とは勝手にビジネスもした。
そして今回色々と前倒しする為に渡りに船とコアの件で俺を呼び出し、ロシアの首相とも面会させ反応を見て最終確認とした。なまじ俺の考えと似た方向で最大の利益を得ようとするなら、批判を出させず合法的に中心に居座れるシステムを作ればいい。それこそ巫女とかグラマスとか言う体の良いシンボルもあるのだし。
そしてその状況に気が付いたとしても、俺がどう動くかは分かりきっている。それ即ち何もしない、だ。走り出した車は簡単には止まらないし、着々と敷かれたレールは簡単には撤去出来ない。その上でメリットを提示するなら、どこよりも家族が安全に過ごせると言えばいい。事実、他の国よりも日本は安全で、その証拠にソフィアは学校に徒歩で通えている。
「日本式ギルドを取り入れるなら、法律関係もそれに沿う様にした方が混乱は少ないですからですね。宮藤さんから聞きましたけど協定を結んでスィーパーが行き来する国ほど、統一システムや法律を待ち望んでいるそうです。一から法律を作るのってかなりの労力がいりますから。」
「そこで法律と言うよりファイアウォール方面で助っ人として私に力を貸して欲しいと。」
「ええ。俺もR・U・Rを使いますけど今までハッキングが成功したとは聞いてませんし、相当強固な防壁だと感じます。」
「分かった、その件は引き受けるとしよう。ただどの程度時間が取れるかは分からないけどね。」
目を掛けてくれと預けた二人がこうして物を言うなら助けるのも吝かではない。それに、多分この流れは止まらないし止めようがない。それこそ俺の座右の銘の様に『誰かがするであろう仕事の誰かとは、自分で有っても問題ない。』なら日本が国として誰もリーダーにならない状況でリーダーとして立ち上がってもおかしくない。
「ありがとうございます。奏江さんは頼んだら仕事してくれるんですけど、モチベーション的にはクロエさんと共同ならフルパワーで、それ以外は並ってよく言ってたんですよ。」
「奏江さんらしいと言うかなんと言うか。なんにせよハッキングなんかで壊されていいシステムでもないし、改ざんされるなんて事があったら困るからね。」
自分で言いつつガチにグラマスルートに踏み込んだと気付く。特定の誰かしか弄れない法律システムを構築し、それを大多数が使うとなればその弄れる人間は法の番人になれる。これは・・・、何かしらの回避方法を考えておかないとな。そうしないとギルマスを辞める事も出来なくなってしまう。
永遠を歩むのもいいし、モンスターを狩るのもゲートを進むのもいいが、ずっとギルマスであり続ければどこかで濁る。だからこそ、どこかの時点でギルマスを辞任でもして交渉時に要件を持っていくメッセンジャーとなればいい。事実、国際会議でもメッセンジャーと宣言したしな。
「でも、俺なんかでもPCと言うか職でプログラムって扱えるもんなんですかね?卓は無理っぽいんだろ?」
「相反する訳じゃないけど机に座って指示出すのは司令の仕事で、ヒーローは常に現場にいるものだろ?警備員とかウイルスを怪人と定義して考えてみたけど、かなり無理筋だったよ。そう言う雄二は?求道者とか言う今もよく分からない職だって言うけど。」
「そこなんだよなぁ〜。まだ職と言うか自分と向き合う時間が足りないのかな?」
「若いうちは迷うといいよ。その迷った分見つかる道もある。」




