701話 怪物が生まれる時
「接待をすると言われても私もそんなに接待って受けた事ないんだけどね。堅苦しいし行動で示してくれればいいから、取り敢えず口調は砕けてていいよ。」
立場上全くのゼロではないが基本的にそう言うものは断っている。仲間内での宴会やら食事アリでの懇談会やらはするけど、すっぱ抜かれて談合やら癒着と言われても面倒だし家族優先とアレだけ言っているのでお誘いも少ない。
まぁ、本部長からダメと言われると結構響くので接待する側としても先に周りから外堀を埋める感じかな?法律課の神近とかは誘われ過ぎて面倒と言うし、神志那は人が多い所に行っても手持ち無沙汰だし出土品やらについて議論する方が楽しいと言う。
接待ではないが食堂の料理長3人組はスィーパーから誘われて飲みに行くとは言うな。最近のモンスターの話やら新しく専属スィーパーになる人の話にベテランの愚痴等々、おばちゃん含めて身近な現場基準の話を聞くならこの人達となる。
「クロエさんなら結構受けてるイメージもありましたけど、断ってるんですか?」
「一度行くと何度でも誘いはあるし、必要なら酒の席じゃなくで正式に会談を申し込めばいいからね。まぁ、それでも断れないモノは断れないけどねぇ。」
断れないと言うか押し掛けて来たジョージとメアリーは流石に追い返せない。接待と言うには烏滸がましく家でご飯食べて歌って飲んでとしたが、アレで良かったのだろうか?まぁ、公式訪問でもなければぷらっと遊びに来たような感じだったが・・・。
「まぁいいじゃないか雄二。僕達の考える接待って半分は大学での飲み会の延長線にある様なモノだしさ。こう・・・、先輩がいたらお釈迦するとかビールのラベルを上にして注ぐとか。」
「その辺りは増田さんに叩き込まれたな・・・。テーブルマナーやら作法やらも含めて。」
「ならそこまで問題ない気もするけどね。店としても格式と清潔感は十分だろうし、料理としても好みが分かればその辺りは融通をきかせてくれる。千代田さんはここに来た事は?」
「中居としてなら。政財界の方も利用されるので情報収集するにしても安地とするにしても色々とやりやすい。それに上から紹介されれば下も贔屓にしていく。下手に新規開拓を考えるより定番の店として名が知られていれば高確率でこことなります。まぁ、最近は政治家もスィーパーと成りゲート内で接待と言うケースもあるので、必ずしもここと言う訳でもなかければ張り切った新人が他の店を選ぶと言う話もあります。総てが総て手を回せる訳ではないですが、要人等には目を光らせてますね。」
なんだろうな、話を聞く限りだとなんでここに公安が!?とかになりそう。まぁ、お世話になってるし捕まる様な悪い事はしていないので大丈夫だと思いたい。寧ろ、この話を聞かせる方がスィーパーにとっては抑止になるな。下手に疑い出すときりがないし。
「確かに増田さんに話したら何店舗か使いやすい店を教えてもらったけどそう言うからくりか。」
「お前の職的には使うなと感じなかったんだろ?」
「今の所はな。ただ職で感じた事イコール正解でもないし判断するのは俺だ。さてと、イメージだと芸者さん呼んだりするんでしょうけど、クロエさんはあんまりその辺り好まないと思ったので料理を堪能して下さい。卓が才賀さんに目利きしてもらっていい魚と脂分の少ない肉を用意してます。」
そう言って出てくる料理はアカムツの刺し身やカツオ、タラの芽の天ぷらやフグにすっぽん、更に肉料理と量もあるが味もいい。最近はこう言う店の料理も指輪に入れて帰る政治家も増えたと言うし、勿体ない精神は生きている様だ。何時もは洋酒ばかりだが料理的には日本酒が合いそうなので見繕ってもらう。
ぼちぼちと話に華を咲かせているが、横に座る千代田が飲んでない辺り仕事モードなのだろう。ただ、天ぷらの油で唇はピカピカだが・・・。
「この前バラムツ送って来られた時はどうしようかと思ったな・・・。大きいけど調べたら尻から油が・・・。」
「販売なら取り締まりますが?」
「違いますよ。偶然網にかかって美味しいからって送られてきたんです。確かに全身トロって話ですけど油がですね・・・。」
「それどうしたの?」
「取り敢えず刺し身で食べましたけど美味しかったですよ?怖かったんで一応回復薬飲んだり卓は腹の中燃やしたって言ってましたけど。」
「確かに美味しかったけどこう・・・、腹の中で蝋が燃えた様な感じがしましたね。最近はフグ釣っても捨てずにそのまま揚げて回復薬片手に食べればOKみたいな人もいるから悩みと言えば悩みですけど・・・。」
「悪食が進んでるなぁ・・・。海外でもフグの唐揚げならって人は増えたみたいだし。さて、歓談はコレくらいにして2人揃ってるって事はなにか悩み事?」
そう言うと2人が目配せして口を開く。子供のままでいいとは言わない。寧ろ大人になったからこそ、こう言う席を設けてなにか言い出しづらい事を話そうとしているのだろう。
「1つはコレです。」
そう言って卓が指輪から1冊の本を取り出した。資金問題だろうか?流石にいきなりショートする様な運営はしていない。それに橘も監査して回っているので、用途不明金はなく経費として計上されている分も問題ないと聞いた。そうなると買い取り交渉が難航してるとか?受け取って表紙を見たに内容確認するが・・・。
「設計図?いや・・・、理論書の類か。割と面倒な内容の。」
「ええ。物を作る為に必要なのが設計図だとしたら理論書は理解を深めろと言う方面の物ですからね。中身はワームホール関連です。僕としてはかなり不味い物だと判断して金貨40億枚を提示して買い取りました。」
「それだけじゃなくて4,5回ゲートに同行するって言うのも追加されたけどな。」
「それはいい。時間対価で補填出来るなら安いものだ。問題とするならこの理論書をどう扱おうか言う話になるんですが・・・。」
「そこで俺が相談を受けて2人で考えてたんです。他の本部長にもこう言った物が出土したとは連絡したんですけど、中々こうするって話はまとまらず、かと言ってJAXAに渡すのには増田さんから待ったもかかったし、俺としてもまだなんじゃないかって気がしてます。」
「ふむ・・・、死蔵は?買い取りが成立しているなら後の取り扱いは私達に権利がある。ギルドの金庫に保管して来たるべき日に向けて眠らせておくと言う選択も出来る。まぁ、流し読みしただけで理論とかはサッパリだけどさ。」
詳しく読めば分かる人には分かるのかもしれないが、流石に知らない単語を羅列されても頭が痛い。最近では魔法で糸を出すのはシュウィンガー効果の証明なんて言われているが、そもそも真空と強力な電場が必要なので否定されている。
「それも考えたんですけど・・・、クロエさん達が輸送機で外へ出たの覚えてます?」
「覚えてるも何も中々刺激的な体験で忘れられないよ。・・・、まさか?」
「可能性があるんじゃないかと僕は考えてます。」
「俺は違うものって感じもするんですけど、それだけで否定するのもなんか違うなぁと。」
「この話は私が聞いても大丈夫なレベルの話ですか?ダメなら外に出ていますが。」
「千代田さんには聞いといてもらいたいです。口外はダメですけどね。」
「それなら・・・、核心部分をお聞きしても?」
「ゲートからの強制退出、ワームホールを使い空間を穿って外とゲート内を強制的に繋げる。卓君はその可能性があるかもと考えてるんでしょう?」
「ええ。ただそれは同時に人為的にスタンピードが起こせるとも言えます。それに、ソーツがどう出るかも分かりません。確か重大なエラーがあれば来るとは聞いてますけど・・・。」
伺う様に見てくるが俺だって重大なエラーが後何個あるか知りたい。モンスターの持ち出しは不可。だから安全装置をゲートに付けてもらったし、意味の否定も不可なのでする気もない。まぁ、知らん所で悪口言ったとしても何処にいるか分からないソーツに聞こえているかは不明だし、そんなに地獄耳なら呼んだら来いとも言いたくなる。
「多分ソーツは気にしなくていいと思う。報酬として渡す以上はそれを使って何かしてもソーツが怒るべき事じゃない。でも、逆を言えば出土品を使ってなにかすればその責任は人が負うべきモノとなる。さっき言った様に人為的なスタンピードが1度でも引き起こされれば高確率で世界は滅びへ向かう。」
スタンピードはゲートが引き起こしているから、或いはランダムにどこでも発生する可能性があるから人はまとまりつつあるし、国としても折れるべきは折れて通す所は通すと言う形に来ている。そんな中で人為的にスタンピードが発生出来ると正式に知れ渡ればどうなるのか?
証拠さえ残さなければ合法的にモンスターを呼び出して街も国も壊してもらってから、我物顔でモンスター掃討に乗り出せばいい。銃で引き金を引く時はボンヤリと的を見る。力み過ぎず、集中し過ぎず無意識の動きで命中精度を上げ当たると言う結果を呼び寄せるものだが、人や世界を見ずに自然体で欲しい結果だけを寄せるようとするなら、何度でもモンスターは人為的に呼び出される。
「滅びですか?そんな大げさな。」
「不死薬は出た。不老薬も出た。私は死なないからスタンピードを眺めていても何1つ問題ないし、耳目を塞げば良心は痛まない。気を付ける事だ。人は想像する力があるけど、その想像力は時として人の手に負えない怪物を生み出す。」




