閑話 137 お出かけ 挿絵あり
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、街に連れてって。」
休みの日の朝、朝食を食べてゆっくりしていると妹のソフィアがそんな事を言い出した。母さんも休みだが、近所の寄り合いが公民館であると言って歩いて行ったから車は家にある。
スィーパーなら走ればすぐだろうがソフィアはスィーパーではないし、街に行くならそこそこの距離もあるしバス停も駅もそこそこ距離がある。5月も終わりだから結構暑くなっているし、今日は千尋との約束もないからいいと言えばいいのだが、ソフィアは目立つんだよな・・・。
父さんと出歩くのは気後れするけどまだ昔を知っている分気兼ねはない。しかし、ソフィアは妹だとしても新しくてこう・・・、思春期の若い子ってどう接すればいいのだろう?割とソフィアの距離感は近いし・・・。
「いいけど何が欲しいんだ?」
「東京からなんか有名なお店が期間限定でアップルパイ売りに来てるみたいなんです。それを買いに行きましょう!」
「別にいいがフェリエットは?」
自由気ままなフェリエットだけど割と信用は出来る。仕事し出して獣人とも多く接する様になったけど、職に就いた獣人は就いていない獣人よりも落ち着いている様に見える。それに、ソフィアとフェリエットは何時も一緒にいるので誘わないと言う話はない。
「フェリエットは他の猫人と魚釣りツアーに行ってるです。」
「昨日父さんの古い釣具引っ張り出してると思ったら釣りツアーか。・・・、フェリエットって釣り出来るのか?我慢出来ない事はないけど『釣るくらいなら買って食べるなぁ〜。』って言いそうだけど。」
「堤防釣りでボウズなら他の釣り人の周りを・・・。」
「回ってねだるのか?」
「違うです。まき餌して集まった所を魔法で巻き上げるです。」
「強奪じゃないか・・・。むしろ怒られるだろ?それ。釣りって言うのはなんと言うか・・・、1人で静かに楽しんで自分と向き合い満たされてなきゃ行けないんだよ。」
「堤防は賑やかですよ?竿で釣る人も飛び込む人も打ち上げるいるです。離れてますけど。」
「確かにスィーパーが集まれば賑やかになって釣りと言うか漁業と言うかになるけどさ・・・。」
ギルドで釣りする人はやり方も様々で海水を切り取る様に浮かべて簡易水族館を作り、それをそのまま小さい子の釣り堀にしてみたりその場で煮魚やらを作ってみたり、興が乗って沖合まで銛持って走って行ったりする人もいる。
「狙い目は養殖場の近くらしいですよ?なんかおこぼれに預かった魚が美味しいとか美味しくないとか・・・。」
「それ絶対ゲート産の食材混ぜた餌使ってるやつだろ?俺達も馬とか魚とか食べてるけどさ・・・。」
大丈夫・・・、多分大丈夫なんだろうけどゲート産の馬やら草やら木の実やらを使った餌やら肥料やらは色々と作られている。それを野菜とか牛とか魚とかに餌とか食べさせているけど、そんなにばら撒いて大丈夫なのかと言う声も出ているとか。まぁ、みんな食べてどこでも取れるから重宝しているのだろうし、馬も魚も鳥も草も食べたらダメと言う宗教はないからいいのだろう。
「最近はなに食べても美味してですからね!去年より今年、今年より来年!リンゴとか糖度が増えすぎてオール蜜とか言う品種が出来たとか・・・。」
「その品種使ったアップルパイが欲しいんだろ?」
「噂によると鳥にも独自製法の餌を使って産ませた卵を使い、上質なカスタードクリームを作ったり甘さも蜂蜜を使いこれまた厳選したりして贅沢に仕上げたとかとか・・・。」
「厳選厳選って、いくらするんだそれ?」
「金貨なら3枚、円なら5千円ですね。」
「金貨価格がバグってる・・・、のか?お兄ちゃんの初任給なんて引かれものなくて30万くらいよ?」
上がり幅は大きいが初任給はそんなもの。賃貸は軒並み家賃が下がり水道代や光熱費も無料の所が増えた。確かに定住する人は持ち家思考が増えたしアパートなんかは改造して水箱使ったりクリスタル使ったりしている。
クリスタリアクターは危ないからと他の小型クリスタル発電システムが作られてそれを取り付けて賄う所も増えたし、そうなると設備費とクリスタル費用を計算して、早期に原価償却してクリスタル費用は家賃に盛り込み光熱費を無料にして売りにするのだとか。
確かにクリスタルは日夜ゲートから戻されるし、水も水箱から幾らでも出てくる。それに引き換えホテルはビジネスでも高くなっている。売りにするものがサービスなので人件費で高くなるし、それに見合うだけのサービスがあるのだとか。それでも泊まる人は泊まるし、それを嫌い貧乏旅行する人は最悪ゲート内に泊まったりするし、場合によってはテントを使いキャンプする。
「金貨換算で30枚・・・、でも円とかだと結構高い?現代常識の授業だと多分初任給だと高めですね。」
「まぁ、換金屋だと金貨1枚で1万円。普通のスーパーなんかは金貨オンリーの所は少ないし金貨で払えばお釣りも来ない。海外とかでも金貨より換金した方がお得とは言われてるしな。」
「ですです。米国とかなら100ドルですけど換金制限で1日10枚までと言うのもあるですし。日本でも換金の方がお得ですね!お父さんから毎回お小遣いは金貨と円どっち?と聞かれるですけど、賢いソフィアは金貨を選んで換金してるです。」
「その割にはフェリエットと毎回交渉してる様に見えるが?」
「誘惑に勝てないソフィアは何かを削り何かを得るしかないのです・・・。スィーパーはズルいです!気がついたらお小遣い稼ぎしてきます!お兄ちゃんもお小遣い稼ぎを・・・。ねぇ、お兄様?ちょっと妹に貢いだりしないですか?主にカロリー的な意味で。」
「そのカロリーを気にしていた妹はどこへ行った・・・。まぁ、そのアップルパイくらいならいいが半分はよこせよ?残りの半分をフェリエットと分けるなら買ってやるよ。」
「了解でありますお兄ちゃん!」
そう言ってソフィアか背後から抱きついてくる。かわいい妹とのお出かけだ。少しくらい奢ってやってもいいだろう。




