698話 行燈の街
「もしもし松田さん?これからギルティタウンに行きますけど特に用事はないですよね?」
「6階層なら余程僻地でない限り連絡が取れないと言う可能性もないでしょう。お一人でですか?」
「いや、千代田さんに付き合ってもらいますよ。千代田さんが必要なら1人でもどうにかなるとは思いますけど・・・。」
とりあえず馬を捕獲すれば後はどうにかなるかな?後はイメージ次第だろうけどあの馬って人が来れば出向いてくれるが、行き先は人の多い所を目指す様に思う。あの馬も色々研究されているし習性的なものらしいが、そうなると各国の統合基地に惹かれるんだよな。
前に何かしらのシンボル的なモノはあると言っていたし、それを聞けば独り旅でもどうにかなる。ただ、そこが僻地かどうかは分からないが・・・。流石にゲート内で電波塔を盗もうとする奴はいないと思うが、所在を知られたくないから壊す奴はいそう。まぁ、本人達が何を望んでるかだな。
「いえいえ寧ろ連れて行って下さい。1人より2人、連絡を取るにしてもルートは多い方がいいですからね。」
そんな話をして雄二達と別れゲートへ。帰ってきたら書類仕事を手伝って欲しいと言っていたが、東京だけあって書類の量も半端ないのだろう。実際東京ギルドは細分化を重ねて仕事のスピード自体は悪くないらしい。しかし、人が多いと言う事はそれだけ別の考えの人もいると言う事で、AIなんかを導入しても納得しない人は納得しないのだとか。
「さてと、出たのは統合基地から離れた地点の様ですね。街に行く前に注意事項とかあります?と、その前に貴女の職はなんですか?」
「探索者です。漁師と迷いましたけど・・・って、額を押さえてどうかされました?」
「いえ・・・、身近な探索者がちょっとアレな奴なので、まともな探索者に出会えて嬉しいと言うかなんと言うか・・・。」
探索者と言われると青山の顔が頭を過ぎるが、当然他にも探索者の職に就く人はいる。単純に関わりが薄いだけで職の性能としては優秀なんだよなぁ~。まぁ、優秀と言ってもそれにそぐうイメージは必要だが。
「青山ですか。増田さんも頭を悩ませたと言っていましたが・・・、そこまでアレな人なんですか?」
「アレ・・・、あまり踏み込むと第2の増田さんルートが出てくるので気を付けた方がいいですね。」
露骨に顔を曇らせるが増田も大変だもんなぁ・・・。千代田がどれくらい話を聞いているかは分からないが、松田と組んで裏方作業をする事もあればスパイを管理して情報を引き抜く事もある。それだけではなく選出戦で委員長やったり、家族と遊んだりと中々忙しい。
千代田が既婚者なのかそもそも見た目通りの年齢なのか、はたまた本当に探索者なのかも分からないが、踏み込み過ぎると本当に面倒事が増えるので引き際は肝心だな。
「忙しく仕事をするのはいいですけど、政治家先生達と絡むのはちょっと・・・。公安としての使命に殉じたいと思います。」
「それはまぁ、ご自由にとしか・・・。それよりもこれから行くギルティタウンはどんな所なんですか?」
「比較的出来たのは古い街です。そうですね・・・、約2年前と言ったところでしょうか?米国スタンピードが発生する前後辺りに発見され現在も残っています。」
「米国スタンピード発生前後・・・、スタンピード発生時のゲート内の様子は?」
「ヒアリングした限りだと変化はなかったと。ただ気になる話としては星が動いた様な気がしたとは言っていました。」
「星が・・・。」
上層は何時も薄暗がりで空と言うか天井には星っぽい物がある。一度かなり高度を上げて飛んでみたが、その明かりには到達出来ず諦めてしまった。アレも実はただの明かりではなく何かしらの機能を持ったものなのだろうか?ラボからも特にそんな話は聞いていないが・・・。
「なにか知っていますか?」
「いえ?空を飛んで探しに行きましたが星を掴む事は出来ませんでしたからね。話の腰を折ってすいません、街のルールや雰囲気的なものをお願いします。」
「成り立ちとしては難民や移民、ホームレスと言った・・・、要は外に居場所がなかった人々が集まって出来た街で、基本的には平屋で正方形っぽい家が密集しています。屋根に付いてはあったりなかったりですね。土地が広い分平屋でも十分な広さが確保出来ていますが、そもそも家が必要ないと考える人もいるので着の身着のままの方も多くいます。最近では街を囲う柵や塀を作るかで揉めてるとも聞きました。」
「それは・・・、犯罪者対策ですか?」
「ええ。柵や塀で防げるとは考えていない様ですが、街と言う共同体を示す物として柵や塀を作り自分達がここにいる事を示したいのだと。」
「ふむ・・・、守ると言うよりも警告的な意味合いが強いですね。ないとは思おもいますけど街に入る審査とかってあります?」
「特には無いですが入った後は監視されている様な感じはあります。まぁ、街はそこそこ広く人も人種も様々で外で犯罪を犯した人もいます。相手に下手に干渉せずにそこにいるのが当然の様に振る舞って下さい。それと服装はそれでいいですが何か顔を隠すものってあります?流石にクロエはバレる。」
「顔を隠すもの・・・、ありますよ。」
サイラスから貰ったペストマスクを指輪から取り出して被る。目立つが多分大丈夫だろう。日本の統合基地でも覆面プロレスラーなのかルチャドールなのか分からないが被っている人は被っているし。ついでに外れてもバレない様に魔法で顔を隠せば完璧かな?
「そんなものどこで手に入れたんですか?」
「英国に行った時の貰い物ですよ。さて、百聞は一見にしかず行くとしましょう。何かあれば都度補足をお願いします。」
「分かりました、馬を捕まえて行くとしましょう。」
遠巻きにこちらを見ていた馬に近づき千代田の先導で出発。相変わらず早さは掴めないがどうなのだろう?最高速度を出させれば月から地球まで3日来れるのだが・・・。流石に今擦り切れさせなくてもいいな。そんな馬は静かに走り40分くらいで街が見えてくる。
まぁ、街と言っても建材は箱なので何処かスラムっぽさがあるな。装飾師やらもいる様で背の高い電灯があったりするが電力は水力発電とか?最悪魔術師:雷がいれば電力は賄えるが・・・。千代田が塀とか柵とか言っていたが、まだそれも作られていない様だ。いや、近づけば分かるが土塊が辺りに転がっているので壊されたのか?
「到着しました。ギルティタウンは総称なので私達は便宜上この街を行燈と呼んでいます。」
「街に名前はないんですか?」
「ないそうです。そもそも名をつけると意味や言葉でどこの国の人間が多いと錯覚を与えるからだそうです。なので大概の人は単純に街と呼称します。では入りましょうか。」
千代田に連れられて中に入るが、ゲート内と言う事でゴミは落ちていないし下水やらの悪臭もない。その代わり結構人は多いな。入った所から既に露店街なのか歩きタバコをしながらタブレットを見ている人もいれば、何やら怪しげな錠剤を買う人もいる。
人種も様々で黒人、白人、黄色人種に獣人とまとまりがない。その代わり看板には日本語の表記が多い様に思う。まぁ、怪しい日本語も混じっているのでどこか台湾の夜市を思わせる。犯罪者もいると言われたからそこそこ身構えていたが、見た感じ治安は悪くなさそうかな?特に怒声も罵声も聞こえて来ないし。
代わりにタトゥーを彫りまくった人とか、目尻の下に涙のタトゥーを入れた人なんかもいる。哀悼の意味ならいいが殺した人の人数分入れているなら要注意だな。まぁ、そこに干渉する気もない。なんとなくだが綺麗なスラム・・・、いや、混沌とした下町の雰囲気?う〜ん・・・、古い映画のアジア圏とかその辺りのイメージがしっくり来る様な・・・。
「取り敢えず何か飲みますか?」
「飲食店があるんですか?わざわざゲートの中の街なのに?」
「所に寄ればと言う話ですがここにはありますね。その代わりサービスは期待しない方がいいですよ?」
「日本式サービスを他国で期待したら怒られます。それこそ砂漠地帯で無料のお冷とか狂気の沙汰ですし。」
「最近の外は日本式サービスを取り入れる所がお多いですよ?水はほぼ無限に手に入りゼロ円です。代わりに水箱の水は飲みづらいのでフレーバーを売るそうですが。」
「そんな話もありましたね、流石にここで立ち尽くしても仕方がない。一旦その飲食店で飲み物買ってから見て回る計画を立てましょう。」




