695話 現実的な問題として 挿絵あり
千代田はシャキッとして朝に現れまた車でグネグネと走り案内して待機。流石に今朝はメイクもバッチリでおっちょこちょいな所はなかった。邪推するなら取り入る為の布石として弱味らしきモノを見せたとも取れるが、今更それをして何になるとも言える。
少なくとも日本政府側から嫌われる様な事を俺はしていない。関係強化要員と言われればそれまでだが、わざわざ大分に来るわけでもないだろうし単純に本人の資質なのだろうか?
会議2日目となるが初日に話した事を各国共吟味したのかおかしな話題はない。強いて言うなら今後の国の付き合い方とか?コアがロシアに行く事は確定したし米国が飛行ユニット技術を貸与する事も決まった。残りはコアの保管場所だが、それについては俺抜きで決める事となった。
まぁ、俺が持っとまずい物の在処を俺が知るのもまずい。公には何処にあると公表する様だが、それは偽物だと言う事になるらしい。俺の手を離れれば後は国同士でご自由になので興味はないが・・・。
「コアの運び手は日本側で決めてよろしいですね?」
「異議はない。ではコアを見せて頂こう。」
「はいどうぞ。」
勿体ぶる物でもないので取り出してテーブルの上に置く。贋作を作ろうと思えば作れるだろうし、それの真贋を確かめる方法は話しかけるしかないので普通に考えると無理だな。いくら受信出来ようともそれに返信出来るとは限らないのだし。
取り出したコアは相変わらず緩やかに点滅しつつなにも発さない。これもまた表舞台を嫌い隠居したい物だろう。なにせ肉体とするガーディアンは解体され再起の時は封じられて休めと命令されている。
「これの真贋は鑑定師なら?」
「微妙ですね。鑑定術師の神志那が視ていますが職とはイメージです。神志那は対人鑑定を苦手とし物品鑑定にウェイトを置く鑑定師ですか、それでも中身は分からず休ませろと言う言葉しか聞いていない。この場で他国の鑑定師に言及するのは避けますが、真贋を問うと言うならかなり厳しいと考えます。」
アルやアミットが来て調べたが真贋と言うのはあやふやで、外見だけでは判断がしづらい。なら、声を聞けばいいのかと言えばオウム返しなのでそこに対するイメージも必要と考えられる。
指輪の中身を全て出すのがいいのかもしれないが、どの時点ですり替えられたと言う証明もしづらければ何を持って本物と断定するかもまた難しい。それに、俺の指輪の中には中層の木やらガーディアンのパーツが眠っている。下手に出すと危ないので出したくないな。
「それなら真贋をどうやって確かめる?今出されたコアも本物か分からないのだろう?」
「それを疑い出したらきりがないですよセルゲイ氏。コレを本物だと仮定して我々にしか分からない印を付けると言うのはどうです?例えば表面になにか書くとか・・・、書いても大丈夫ですよね?クロエ氏。」
「大丈夫だと思いますよ?書いた事はありませんけど質感的には油性ペンとかならどうにか。試しに書いてみましょうか。」
油性マジックを取り出し適当に丸やら四角を書いてみる。・・・、ダメだな。インクが滑り落ちて色も付かない。機能として付着物や汚れを嫌うのだろう。確かに下手に曇れば伝達に齟齬が出るのか?そんなやわな作りじゃないとは思うが・・・。
(賢者、これってなにか印付けられる?)
(魔法糸で縛ったら?汚すよりも飾る方をオススメするよ。)
(いや、それだと在りかが分かって不味い。何かこう・・・、本物って分かるような仕組みをだな。)
(見れば分かるけどそれじゃダメなんでしょ?形を変えてみるとかは?特定のワードで呼応して変わればいいんじゃない?)
(それだと言葉が漏れたら誰でも真贋が確かめられるだろ?多分偽物も作るからそれだとなぁ・・・。)
本物を本物と証明するのは難しい。瑕疵がない分疑おうと思えばいくらでも疑えるし、本物だと思っても疑念が残ればまた疑う。なにせ人は信じたいものを信じたいからなぁ・・・。と、言うか形を変えられるのか。確かに輸送機のコアも溶ける様に消えて好き勝手動いてたし。
「ペンはダメですが変形は出来る様ですよ?」
「変形・・・。この場で変形してしまって、ロシアへ渡すまでに贋作を作るというのはどうです?そうすれば本物知る人間はこのば限りになりますし。」
「その変形と言うのは誰でも可能なのだろうか?それだと更にややこしくなるが?」
「今の所私だけですね。コアに対して話す必要がありますから。」
「ふむ・・・、それなら一応安心か?真贋を確かめたければクロエに頼む。それまで保管場所はクロエにも明かさず贋作を公には本物と扱うと。」
「それでいいでしょう。さて、なんの形に変えます?」
あーだこーだと話し合ってみるが適した形ってなに?一応今以上の体積には出来ないと言うか、魔法を使えば出来るがそれだと在処が分かってしまう。防犯を考えるならそれもありなのだろうが、下手な事を言うとまた疑われるので口を噤む。
出た意見としては球体からブロックにしてみるとか、リング状にしてみるとか或いは『本物』と言う形に変えてみる等々の意見が出て来たがどうにも全員が納得するものが出ない。それでもある程度絞れては来たのだが・・・。
「天使の羽が生えた仏像か多重巻きネックレス。どちらにします?」
「身を挺して守ると言うならネックレスだろう?」
「ハーワード氏、私の首元が輝き続けることになるだろう?それに中々重量もある。」
「職に就いていれば大丈夫でしょう?仏像にした方が後々宗教論争を呼び起こして面倒になると思いますが?」
「ならなんで仏像を残した!ほぼ一択じゃないかチャン氏!」
「置物ならマトリョーシカでいいんじゃありません?どうせ何重にもセキュリティ掛けるんですし。あっても不自然ではないでしょう?」
パカパカ開けて行って最後に輝くマトリョーシカ。どうせ発信機やらを仕込むなら元からそういった物が仕込める物がいいだろうし、外角になる部分に絵付けすれば本物かも分かりづらくなる。
「国の特産品を表すものは辞めるとしたでしょう?和洋折衷案で仏像に天使の羽を付けると言う話になりましたし。」
「う〜ん・・・、タバコ吸ってるんで決まったら教えて下さい。」
物の価値は分かるが形変えるだけで一悶着か。端に寄ってタバコをプカリ。どうせ公には球体として示すからなんでもいいと言えばなんでもいいんだけどな。ここでスマホを使う訳にもいかないので暇と言えば暇だ。しかし、変形させるならこの場しかないので離れる事も出来ない。
別の事を考えるなら掃除する者についてか。奥にいるビックリドッキリモンスターだがどうしたもんかなぁ〜。話を聞く限りだとかなり無理ゲーに近い。しかし、スタンピードを食い止める、或いは発生させないと考えるならそこまでいかなくていい。
現状で優先させるなら祭壇探しで、面倒な交渉どうする問題に終止符を打ち腰を据えて挑むのがいいだろう。兎にも角にも奥へ。中位が上位に至ればまた攻略速度も変わるのかもしれないが、なんだかんだで今は安定しているし本部長としても忙しい。
せめてこう・・・、何階層に祭壇あるとか教えてくれればな・・・。優しくないから教えてはくれないだろうが、せめて形だけでも示してくれないと探しようもない。う〜ん・・・、強行突破で下層上層とか言う所を目指す?蘇生薬が豊富に見つかれば他の人もかなり攻略はしやすい。
しかし、見たかったと言う話を俺は聞かないしオークションにも出て来ない。そうなると命大事に回復薬と治癒師で耐え忍ぶと言う話になるのだが、使う前に薬ごと腕やらを持っていかれる可能性も高いし、そうなると指輪を探すか返ってくるまで待っしかない。そして中層以降では一度ダメージを負うとかなり絶望的な状況になる。
「クロエ、決定しましたよ。」
「ん?形はなんですか?」
「明王にして下さい。」
「結局仏像ですか。いいですよ腕は8本でいいですね。」
「いや、頭部だけでいいですけど顔のディテールを私達に似せて下さい。」
「まぁ、それでいいならいいですけど。」
顔4つと言えば降三世明王だが貪欲、瞋恚、愚痴を取り除いて救済してくれるらしい。国のトップからそれを取ったら皮しか残らない気もするが・・・。いや、人間から煩悩取ったら何も残らないか。コアに触れて賢者に聞きながら形を変える。目の前に変えるべき顔があるのでイメージは作りやすい。頭は螺髪でいいだろうか?流石に仏像は作った事がないのでなんちゃって仏像にしかならないが・・・。
しかしピカピカ点滅しているので台湾の人とか喜びそうだな。台湾は仏教と道教が主流だが結構派手に祀る。視覚的な表現をする為なのだが日本と違ってお寺は金やら朱が使われて豪華だし、葬式も道教の影響を受けてポールダンスしたり場合によってはストリップなんかも。
「似せた感じで無国籍風にしました。どう保管するかは知りませんが後はお願いします松田さん。」
「分かりました。しかし結構いい出来栄えですね。お寺に置いたら参拝客が来そうだ。ロシアにも寺院を建てます?」
「教会に置いて智天使とでもしようか?松田氏。その方が我が国では違和感なく親しまれる。それこそ高名な魔術師が作ったとでもしてな。」
「それなら私も訪問した時は立ち寄るとしよう。ある事を確かめなければならないからね。」
「その際は中国から私も行くとしましょう。バラバラに訪問されるよりはいいでしょう?」
「ふんっ!好きにしろ。」
セルゲイが苛立っているがコアの監視と言う名目がある以上断る事は不可能で、普段研究していようが出せと言われれば出すしかない。流石にセルゲイとしても保管場所まではいいとして研究施設には入れたくないだろうしな。
「それよりも、だ。警備するに辺り警備システム構築後に各国から下位中位のスィーパーを出してもらいたい。そのスィーパーが攻略出来るか否かで警備システムの完成度をはかる。派遣する名目は追って伝える。」
セルゲイがそう言い会談は終了。思ったよりも魔女と賢者について聞かれなかったが、魔女の言動を考えれば有益な情報を引き出せないと感じたのだろう。或いは逆に関わりたくないとか?EXTRAを目指すにしても個人でしかなし得ないのでどうしょうもないし、宇宙人の呼び込みは現状不可なので話しても意味はない。残る問題としてはソーツとの関係性だが知った所で起こった後の話に意味はないしな。
「さてと。この仏尊は松田さんに渡すとして、もう帰ってもいいですよね?」
「もう2、3日東京観光とかしませんか?雄二君や卓君も会いたがっていましたよ?」
「本部長も暇じゃないんですよ。仮に残るとすれば千代田さん連れてギルティタウンに行くくらいですかね?あるとは聞いても一度も行った事はないですし、どんな暮らしをしているのか想像は出来ても実際に見ない事には始まらない。」
残れば何かやらされそうなのでやんわりと拒否!家族に早く会いたいしギルドを望田に任せきりなのも悪い。エマについては望田の仕事を見ていればある程度仕事は分かるから大丈夫だと思うが、預かっている関係上不在にするのもな・・・。
「ギルティタウン・・・、点在しすぎていて迷い家と言った方がいいですよ?遊牧民の様に定住せずに移動する集落の様な所もあれば、1人でいる人もいる。場合によっては広がった統合基地に吸収される事もありますが、基本は独自ルール独自防衛独自サイクルで暮らしてますし。」
「やけに詳しいですね。」
「流出した国民のいそうな場所は把握しておかないとまずいですからね。現世と隠世では無いですが、どの国も治外法権を認めた場所は現世とは言えないでしょう?税金も払ってませんし。」
「まさか税金回収の為に探し回ってるとか言いませんよね?」
「それこそまさかですよ。まさかですけど同時に問題も多く孕んでいます。セーフスペースで産まれた子供をどう取り扱うのか?やその子がゲートから出る事を選択したらどうするのか?中にいても16歳なら職に就けるのか?更に言えば奥のセーフスペースの場合、そこまで進んだと判定されるのか?人は自由に住む場所を決められますけど、同時に子孫も好きに決められます。」
「難しい問題ですね。」
「ええ。難しい問題です。ただまぁ、一対一の構図に持ち込めれば打開策はありますよ。」




