692話 奥にいる者 挿絵あり
「我々を・・・、人類を小馬鹿にしているのか?」
「価値観の相違ねぇ。こうして呼び出さなければ相対する事もなかった。知らなくても困らなかった事実を追い求めたから真実は現れた。でも、その真実が気に入らないからって喚き散らかすのは違うんじゃなくって?」
「喚き散らかしてはいないが、我々としてもこれまで生きていた経験もあれば培ってきた歴史もある!」
「それは貴方達のモノ。だから私達は傍観者よ?原生生物が何をして何を成して何を考えどう動くのか?それに対して私達は指示なんてしていないもの。力に溺れるもまた良し、他者から搾取して上に立つも良し。歴史を繰り返し同族で殺し合おうと、先に進もうと藻掻いて袋小路から抜け出してもいい。ただ私達はそれを視るギャラリーで傍観者。」
「これだけの力を渡しておいて傍観者は酷くないか魔女よ。」
「使っているのは貴方達の同族よ?不要と言うならゲートを外宇宙にでも全て放出なさいな。そうすれば私達も緩やかに離脱するしモンスターもいなくなる。まぁ、私や賢者は残るけど他の不死薬使用者は知らないわ。」
「出来ない相談だ。既にゲートからの出土品や土地は人類としてなくてはならない!」
(クスクスとクロエの顔で魔女が笑っているが、表に出したがらないのも分かる。彼等はどこまで行っても部外者で傍観者と言うスタンスは崩さないだろう。)
「落ち着いたまえセルゲイ氏。話を変えるがよろしいか?」
「話を変える?ハーワード氏、これは職と人がどうあるべきかを話している。これ以上の話なんてあるか!」
「いえ、ありますよセルゲイ氏。魔女は異星人ですから私達の価値観で話しても平行線を辿る部分は交わらないでしょう。それこそ泥棒する猿に人の法を説いても理解されず意味はないですから。」
「話を変えるとは何を話す気ですかハーワード氏。」
「それはだなチャン氏。クロエは底に行くとよく言っていたと聞いている。そこに祭壇があるからという話でもあるのだろうか・・・、君達にも何か見返りはあるのかい?例えば・・・、そう例えば底に行けばモンスターを一掃する様なにかががあるとか。」
「見返り・・・、虫唾の走るゴミが消えればそれが見返りかしら?でも、それは掃除をすると言う話ね。どの道ゴミ箱にゴミは入る。それを溢れさせない様に掃除する。その過程で底に行く。効率を考えれば奥の方を掃除すればそれだけ溢れる確率は減る。それだけの話よ。」
「その虫唾の走るゴミとは?」
「コレが辿り着いたから話してあげる。名も無いから便宜上掃除する者と呼びましょうか、ソレよ。」
「掃除する者・・・。」
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「米国戦の時に返してもらった記憶だな。」
タバコをプカリ。魔女が話しているがヤバい話はしていないと思う。どの道魔女達もソーツも地球人を原生生物と呼ぶし、別にそれは侮蔑の意味ではなくそこに住む先住民族と言う意味合いが強い。
「ところで掃除する者って何がムカつくんだ?」
「一切合切を亡くす。僕達にとっては見ている先を勝手に消されては困るし、外に出られても被害は大きい。ソーツが処理すればいいと思ったんだろうけど、彼等じゃアレは壊せない。」
「なんでまた?モンスター送り込んだり知り合いの宇宙人でも呼べばいいじゃないか。」
「目標でもあるんだよ。ソーツは自分達が作ったもので掃除する者を壊したい。でも、そこに辿り着くまでの技量がない。僕達は傍観者としてある事を望み部外者としてどうなるのかを見届けたい。愚物でも剥奪した相手だしね。そして、依頼された他の原生生物はそんな危な気な者と戦いたくない。」
「・・・、全員我儘だな。」
「自己保存と自己利益の追求は知的生命体としてあるべき姿だよ。掃除する者を破壊した時、ソーツが作る事を止めてしまわないとも限らない。そうすればゲートはただの土地で報酬はなくなる。そして僕達は別の暇潰しを探すはめになる。まぁ、僕達はどうでもいいとして他のゲートに頼っている星としては最悪滅ぶ。」
「確かに今の地球もゲートに頼っている部分はある。しかし作る事を止めたらソーツは死ぬんじゃないのか?自ら意味を捨てたとして、まともでいらるとも思えないんだが?」
「それが彼等を愚物と言う由縁だよ。次の目標も持たず破壊後のビジョンもなく、壊せるわけのないゴミを作っては失敗作と投げ込んでまた作る。言っただろう?可能性があればすべて作ると。」
意味を失うかもしれないのに挑むしかなく、それを終えればその後どうなるかも分からない。作ると言う事は何かに使うと言う事で、その目標が今は掃除する者。下手にモンスター狩るよりも扇動して奥に行かせた方が勝率は上がる?
でも下手すると掃除する者が肥大化して外に出たら手に負えない?と、言うか掃除する者ってどんな姿なんだろう?希望的観測なら人型の方がまだやりやすいしイメージは作りやすい。でも、それからかけ離れた姿のモンスターがいるわけで・・・。
「ちょっとまて!なんかいい風に話してるが俺もそんなヤツと戦いたくないぞ!?」
「そう言う者が多いから掃除は中層付近で終わって後は家畜の様に数を狩るだけになる。特に知性が高い者達は適当に間引いて報酬を得るだけで奥に行こうともしない。だから君達は選ばれたその闘争心によってね。別に君が行かなくても他の誰かは行く。行って帰ってこなければ別の誰かがまた行く。挑んで死んで、また挑んでたまに生きて帰ってそこから考えてまた挑む。君達と言う種は諦めが悪いからね。そうそう簡単に無理と言う結論は出さないし、無力である事には忌避感がある。だってそうだろう?寝ても覚めても何かで競い娯楽でさえ点数やらの数を競う。」
「いや、まぁ、確かにそうなんだが・・・。」
賢者がやれやれと言うように首をすくめた後に横でポップコーンを食っているが、人として生きる上で競争と言うものからは離れられない。それこそ美術品なら点数を自慢するし、そうでないならどんな絵を何枚見たと言う。ゲームなら討伐数やら攻撃力を競い、ランクがあるなら上を目指す。
悪い話をするなら犯罪歴だって前科百犯の大悪党と自慢するし、後悔しているかも知れないが刑期の長さは武勇伝とも言える。怪我だって全身複雑骨折しようが、治ればまた挑戦すると言って不屈さをアピールするし見る人はそれを賛美する。
まぁ精子の時代から競争してるだけあって、競うと言う話ならちょっとばかし見所はあると思う。と、言うか他の宇宙人って競争しないの?いや、魔女達は優れているから魔女に従っていると言うし、嫌なヤツがいるなら関わるよりも離れると言うし、ソーツはそもそも群体だから競う相手がいないとか?
「でも底に行ってもなんの得もないんだろ?ウチとしてはゲートも報酬もなくなると困るし。そもそも倒せるかも分からないし。」
「死なないから何回でも挑んだら?」
「その場合お前も強制的に道連れだが?」
「知ってるから言ってるんだよ。まぁ、掃除されそうにったら逃げる。流石に面倒だし。」
「面倒って・・・、もしかしてヤバい?」
「君の中身と同等にはね。」
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「地球人としてモンスターは間違いなく敵で君達は力を貸す傍観者。そして、見返りはソーツからか・・・。中位は量産できないのかい?」
「無理ね。私達は末端だもの。それをするには相応の代価がいる。それはコレと調べたでしょう?精神的なエネルギーの爆発により高みに上がる。他の者なんてどうでもよくて、自身が進むべき道を選びそれを目指す。それこそギャラリーが拍手を送るなら、役者は更に輝き星となる。山程小石があってその中の幾つが価値あるものかしら?誰も彼もが原石でクズ石よ?磨かない事には分からないでしょう?奥に行こうとする者の邪魔はしない事ね。」
「日本政府が出したプロセスに間違いはないか・・・。」
「さて、私はそろそろお暇するわ。・・・、頭の痛い奴ですがどうでした?」
賢者と話し込んでいたら魔女が帰ってきた。何を話していたかは聞いていたが中々ぶっちゃげていたな。まぁ、魔女達のスタンスが傍観者と言うのは最初から聞かされていたし、人のゴタゴタにもあまり興味がない。そりゃ聞けば意見はくれるが、その意見は人にはあまりにも鋭すぎる。
だってそうだろう?信じないなら扇動して信じさせる。面倒なら根本をなくす。腹が立つなら対象を消す。言ってしまうと独裁的な何かである。多分話し合い面倒とここで言えば全員扇動して国を乗っ取れと言うだろうな。
そしてそれをするメリットがあるのも分かるから更に質が悪い。今でこそ話し合えるが、関わりがなければさっさと中露のトップを扇動して大人しくさせれば済む話でもあったし、家族を守ると言う意味でも先にちょっかいかけてきそうな相手を潰せば安心も出来る。だが、それを仕出せば歯止めはない。最強の1手が最良の1手とは限らないのだから。
「うむ・・・、クロエに聞くが精神汚染や洗脳と言うものはないよな?」
「ないと言いたいですね。寧ろその様な状態なら分かると思います。」




