690話 EXTRAとは 挿絵あり
「飛行ユニットの作成方法は開示されたでしょう?規格よりも競走の方が新たな発見もあると思いますよ?これから先は技術力が国としても重要になってきて、それを養う為には自力開発が最も有効だと考えますが?それにS・Y・Sの技術公開は別の話でしょう?」
セルゲイの発言に松田がやんわりと拒否を返す。門外不出ではないが今の所開発成功国は日本と米国のみ。まぁ、フライボードをそのまま扱えばその限りではないが、重要な点とするなら人が扱いやすいとか?
当然フライボードは改造でもしないと固定具なんてないから背面走行なんてすれば人や物は落ちる。単純に物置とするなら既存のテーブルの様に脚がないから足の小指をぶつけるなんて言う痛ましい事故も起きない。まぁ、今だと下手すれば小指で蹴り抜く事も出来るが・・・。
「それは理解しているが安全保障の観点から保管場所を宇宙とする可能性もある。様々な事象をシミュレーションしてみよう。例えば論外だがゲート内とした場合、保有者がどの様な悪事を働いても咎める事も出来なければ紛失、或いは襲撃により死亡したとしても捜索出来ない。それはファースト氏が月付近から地球付近へゲート内を馬を使い走って来た事で証明されている。
なら地球内とした場合、多数のスィーパーが存在する。どの国でもスィーパーに対する研究や能力試験は行なっていると思うが、核シェルターを破壊出来るのか?これについて国内で同等の強度を持つ建物を使い検証したが・・・、解答は破壊可能だ。それこそスィーパーはそのイメージにより事を成す。詳細に原理や強度を教えても手段を思い付けば壊せない事はない。」
核シェルター・・・、そう言えばチェルノブイリの石棺を解体してたな。多分その時に検証したのだろう。大きく頑強で放射線を漏らさないとして作られた物だが、象の足やらのデブリもゲートに投げ込めば消えるし、土地の除染も魔術師がいれば可能か。今はどうなっていると言う報道は見ていないが、慰霊碑とかが建立されているのではなかろうか?
「そうなって来れば安息の地は限られてくる。不可と言うだろうがファースト氏の娘と我が国の人間を結婚でもさせて持たせるか?ファースト氏の発言を鑑みれば家族としてあるなら最大限の庇護を受けられる。」
セルゲイがそう言って俺の方を伺う様に見てくるが、流石にそれにYESと返す口はない。そもそも結婚なんてものは親が決めるものでもなければ貴族の様に政略に使う様なものでもない。そりゃあ娘が変な男を連れてきたら嗜めるが、その変なの部分はギャンブルで身持ち崩して借金あるとかDVが激しいとか言う話であって、普通に仕事してたまにゲームに課金するとかオタク趣味とかは本人達の問題である。
「不可ですね。下の娘は白人を苦手とし上の娘にまだその気はない。私自身は自由恋愛を推奨していますが、本人にその気がないなら無理でしょう。」
「ならば宇宙は視野に入る。人の出入りは制限され来るのも行くのもまだ難しい。だから飛行ユニットとS・Y・Sの・・・。」
(アライル、聞いているな?私はここでカードを切るぞ!!)
(また宇宙で勝手な行動をされても困る。それを抜きにしても日本が技術貸与に応じS・Y・S製造技術をロシアだけに開示する事態も不味い。仕方ないでしょう、宇宙での保管と言う話はコアの価値からすればあると考えていました。それに・・・。)
(コア奪取の危険性を訴えられ、ロシアのみで運用すると言われても困るな。敵が来る。だから武装して罠を仕掛け保有者を明確にせずに往来も難しく監視もしづらい場所に置く。そしてどこかの時点で破壊すれば・・・。)
(コア保有者も奪取者も共に宇宙の塵になったと言えばいいでしょうし、死者の指輪から中身を取り出す術を我々はまだ保有していませんね。)
(政権争いするより余程エキサイティングな会議だな。寧ろ論争こそ政治の華と言ってもいい。権謀数術に不意打ち潰し、上げ足も吐いた唾も使って利益を争う。私はこの論争が終わったら・・・、次も大統領になるんだ!)
(まだ任期が残ってますよジョージ大統領。)
「なら米国が協力しよう!」
「!?」
「米国でも飛行ユニットは開発され宇宙での試運転も完了している。なにも日本ばかりに頼るのではなく4カ国で話し合うなら出来る国が協力し合えばいい。そもそもここに集まった面子は国として宇宙ステーション開発技術を持ち合わせている。ならば既存の物より先に進む為に共同開発するのも吝かではないだろう?当然、日本抜きと言う話はないから協力はしてもらうが、どうだろうか?」
「ふむ・・・、中国としてNOとは言いませんよ。過去より思想として東西は不仲でしたが、それとは別に貿易も技術交流も行ってきた。米国スタンピード時もその軋轢は消えませんでしたが、政治を抜きにした純粋な技術発展と言うなら協力しましょう。」
(セルゲイが強欲過ぎたか。確かに旨味は伝えたが家族に入り込もうと言うのはやり過ぎだ。確かにソフィアと言う少女のデータも欲しいと言う話は分かる。全くの別人と言う話はないわけでもないにしても、概ね結合体で合っただろうと言う話は聞いた。ただ日米で隠しまわって確証も得れなければ、何をどうしたらああなるのかも分からないと結論が出た。しかし、ファースト氏の巻き戻りを見るに、それをイメージし何らかの魔法を使った?流石にここで協力を拒否して仲間から外れる訳にもいかない。)
米国がロシアを助ける。ない話ではないが・・・、やはりそうなるよな。地図的に考えるとロシア、中国、日本、米国の順になりここで日本単独でロシアに技術開示や技術協力を元に交流をすると言えば、米国的に言えば中露防波堤として置いてあった日本と言う国と技術を無条件で引き渡す可能性があると考える。
それこそ日清日露戦争やったり満州事変やったりと過去はバチバチにやり合っていたが、それは過去であり今は中国製品は日本に入ってくるし、ロシア人美女は日本人の憧れである。なにせ日本人の憧れる美人像と言えば色白で透き通る肌、端正な顔立ち、そして控えめで芯のある性格を併せ持つ女性とロシア人はドンピシャである。
そもそも第二次世界大戦で1番人が死んだのはソ連で、戦争が終わったら今度は男性が少なく女性が多い状態になり、結果として美人が選ばれだと言う流れもあるしな。簡単に今の日米関係を破棄する訳はないと思うが、プロパガンダも居座り占領もお手の物。
シェンゲン協定拡大を叫びだせばもう遅くそのまま取り込まれる可能性も無きにしもあらず。存在感を示し助け舟を出したと言う印象を作りたいならここで口を開くしかない。まぁ、米国でも出来たての飛行ユニットを出すと言うとは思わなかったが。
「日本としては4カ国共同管理に組み込まれると言う話ならOKですよ。ただラボの技術はラボのモノなのでどこまで話が出来るかは分かりかねます。なにせ本社も社長もゲート内を飛んでますから。」
松田が首をすくめながら話すが予定調和だな。ロシアは若干眉を顰めるに留まるが、流石に単独開示は無いと思っていたのだろう。何にせよ保有国はロシアとなり共同管理と言う名の監視体制も出来た訳だ。
「さてコアの取り扱いや警察体制の本格的な話し合いは後で詰めるとしよう。無論、携わる人間はその国が責任を持って選ぶとしてだ。次の話だが・・・、賢者さんと魔女さん。このお2人の話をしようじゃないか。便宜上2人とするが・・・、いいかいクロエ?」
「いえ、それは不味いので敬称なく職名として呼んでください。」
「何か理由があるんですか?」
「個として認識を持たれたくない、それが理由です。職名としてならまだ私と言う個人を指すことに繋がる。」
言葉や行動とは不思議なもので例えば1人で飯屋に来店して座って水を出されたとする。その時店員に『後2人いる』と言えばおかしな顔をされるかもしれないが水が更に2つ出て来る。それと一緒で、スィーパーとしてそこに魔女と賢者と言う人物がいると思われれば偶像が独り歩きする可能性もある。
職なので勝手に外には出れないのだが、造形師あたりが偶像を作らないとも限らない。なにせ魔女は藤を見て偶像師なんて言う言葉を吐いたのだし、リスクだと感じたなら先に芽は潰しておこう。
「そう言うならそうしよう。でだが・・・、松田さん含め誰か何か聞いてる事は?米国としてはなにも聞いてないしそもそもEXTRAがいない。検証するにしても検証材料がない。」
「それはロシアも一緒だ。魔女と賢者、職名からして呪い他は魔法に長けていることや知性と言うモノが向上する職だと推測されたがどうだろう?」
「中国としては魔女と言う点から薬学知識もあると推測されましたね。そもそも初期の職の指定、この時なぜ魔女と賢者を選んだのか?賢者はまぁ、今後を想定して必要だから選択したと考えられますがなんでまた魔女を?戦闘や知識の方向性としてももっとこう・・・、他に適した職があったと考えられますが?」
「日本として言うなら本人が職名を明かすまで追及しなかった。これですね。当然検証の重要性やクロエ個人としての能力が突出している事は重々承知していますが、それ以前の問題として秋葉原からの流れで本人の行動原理等を観察していました。」
「それは職務怠慢では?ファースト氏と早期に接触出来ていたならそれだけ検証する事もスタンピードの本来の意味を知る事も可能だったと考えます。」
「それは無理だろうチャン氏。いきなり空を飛ぶ、戦が始まればビルを消す、そうでなくともエキセントリックな言動と驚異的なモンスターを1人でなぎ倒して生還する。どの点を取っても高圧的な態度で話して顰蹙を買いたくない。」
「セルゲイ氏に同意するとしよう。米国としても・・・、どの国もゲート関連で流した血は多い。その上でスィーパーの育成や各種事象への対応は正しかったと思っている。最近では獣人関連だな。例えば彼等を亜人や悪魔憑きとして奴隷や差別の対象とした場合、我々は更に敵を増やした事になる。」
「ありがとうございますハーワード氏。等の部分はゲートそのものの検証も含めてです。クロエ自身ゲートに対する知識はそこまで多くない。事実として底がどこにかを知りませんからね。重要だったのはその力を持つ個人が敵対的なのか仲間と出来るのかです。そして、日本政府としてクロエは仲間と出来るとした。そこで質問ですけど、EXTRAって何が出来るんです?説明的なものの開示をして欲しいのですが。」
「説明は・・・、空白です。」
「空白?何もないと?下位の様に単語が3つやS職の様に説明文ではなく空白?」
「ええ。そもそも下位が中位に上がれば文が消える。それは皆さんご存じでしょう?どういった組み合わせがあるのかやどういったEXTRAがあるのかは分かりません。・・・えっ?今情報開示するの?」
「なにか?」
「あ〜、魔女からです。EXTRAに至るには上位に至り更にどちらかの職名が消えるそうです。」
「つまり職が1つ無くなると?」
「いえ、統合されて使えるのは使えます。単純にEXTRA何々と言う形になるそうです。」
気まぐれ情報開示とかやめて欲しい。確かに必要な情報ではあるのだが・・・、何にせよ疑問が1つ消えた。2つの職があってどちらかがEXTRAと言う話ではなくどちらもと両方全部消えればEXTRAか。と、言う事はどちらもと上位に至り更に進めと。
前にEXTRAには時間がかかると言っていたが確かに時間がかかるな。なにせどちらかの中位はいても両方中位と言うのはまだいない。




