689話　ジョーカーは鬼札　挿絵あり

「松田さんは何処に保有してほしいですか？少なくとも日本は手を上げないとは思いますけど。それともお宝ヤッホイ！と独占します？」

　ないとは思うが欲しがったらどうしようか？覇権国家狙いならその線は無きにしもあらずだが、その場合保管場所問題が出てくる。少なくとも俺に預けるは不可だし合法的に監視人置かせろと言う話をされたら断れない。

　なら何処に保管するかと聞かれたらS・Y・Sとか？地球、ゲート内、宇宙と考えたらこの中で1番マシなのは宇宙だろう。墜落や保有者の死亡リスクはあるものの、外部からの侵略と言う点を考えればまだ宇宙の方が安全だ。

「悩みどころですね。研究して解析して使えるようにして人の手に納める。例えばラボに持ち込みコアにハブを付けて何らかの形で言語として成立させてみる。まぁ、出土品にハブを付けても私達の使うスパコンやハイコンでようやく極々少数のデータが使えるくらいと聞いてますけど、その小さな積み重ねをやれば答えに辿り着くかもしれませんし。」

「その小さな積み重ねの種類にもよるでしょう？河原から石を毎日運べば石はなくなるかもしれない。でも、運んだそばから川の流れに乗って石は増えるかもしれない。ならどうするのがいいのか？私なら先ずは川を堰き止めて重機を使いますね。」

「コアに対してそれは本末転倒でしょう？大きく口外しなければ頼る先は他の3カ国、ならそれ以外と考えると盗難リスクが出てくる。両立させるのはかなり難しいでしょう？」

「それこそコロンブスの卵です。まぁ、私なら下を平らにせずに黄身も白身も混ぜて卵焼きにしまいますけどね。」

　卵とは何か？殻か黄身か白身か？それ全てで卵なのか、それとも食える部分が卵なのか？ゆで卵にして殻を剥いても卵なら、殻付きのまま出されてもゆで卵はゆで卵。出汁を入れて焼いたら出汁巻き卵だし崩せば炒り卵。つまり、コロンブスの卵とは誰でも思いつくけどそれを実行するのは難しいと言う事である。そして、誰でもおもいつくなら松田も思い至るだろう。

「それは立ったのではなく別のなにかに変えたって言いません？」

「嫌ですねぇ、あちらの方は今は別として生卵を食べない。そしてヒビの入った卵は菌に侵され食えるかも分からない。なら、ヒビ入れるなんてチャチな事はせずに殻を割ってしまって中身が卵だと言えばいいんですよ。」

「・・・、それ本気で考えてます？流れ的に可能でしょうけどかなりゴタゴタしますよ？」

「でもそのゴタゴタは松田さんの好物でしょう？桃パクチーの口直し程度にはなるんじゃないですか？・・・、そう言えば私はパクチー食べた事ないんですけどカメムシの臭いがするって本当ですか？」

「食べます？残ってますけど。」

「遠慮します。」

「さてと、卵はいいとして仮に米国が声を上げたらどうします？殻にするには両国とも大きいですよ？」

「アライルさんがいるなら今頃出来レース！とか選択肢がある様に見えてなんもない！とか言ってるんじゃありません？会議の場でいきなりぶん殴るのは無作法かも知れませんが、人の秘密を嗅ぎ回ったからにはその秘密によって打ちのめされても仕方がない。それに、多分チャンさんも要らないと言うでしょうね。多分宇宙言語よりも不死研究の方にタスクを割きたいでしょうし。」

　不死薬を渡し巻き戻りを見せ差異を知る。自身が飲んだ薬は果たしてどの様な不死なのか？名前も覚えてないし知ろうともしなかった最初の不死者は多分元気に遊んでいる。それをするだけの財があり、死を克服し憂うモノはなくなった。なら遊ぶしか残された道はない。まぁ、財が減れば仕事はするかもしれないが・・・。

「そうなれば自ずとコアはロシアに行く、と。更に言えばロシアを監視するならその手前にある中国もそれとなく監視出来て、監視する理由も明確だから拒否も出来ない。S・Y・Sでロシアにコアを渡すと言う話をしたと聞きましたが、ここまで読んでました？」

「まさか。あの時点では面倒な国がまだ手を組んでるのか程度ですよ。まぁ、考える時間は多く貰えましたけどね。」

「考えるのは結構ですけど突拍子もなく変な事を考えないで下さいよ？家族の為に世界滅ぼそうとか。クロエさんの話的には4カ国の合わさったごった煮国家作ろうとしてるんですから。」

「作らなくても勝手に出来ますよそんなもの。シェンゲン協定で人の往来は国境に縛られなくなった。言語はバベル化して概ね日本語ならどこでも通じる様になった。人種も民族も国も曖昧になれば自ずと国家の形も変わる。だからこそ早期に過去の縛りを外す。戦勝国とか敗戦国って今更持ちされても困るでしょう？不都合な歴史を意図的に曲げたり消したりしてる国もありますし。」

　纏まるのに不都合だからなのか、それとも単純に後から掘り返されて不都合だからなのか？なんにせよ教科書にも載らない様な小さな事件やらは消されている。これが歴史の重みと言うか闇に葬ると言う話なら下手に突かない方がいいな。

　それは別として巨大国家設立と言うなら今の時期だろうな。別に王政でも民主制でもなんでもいいが、骨子を作ると言う意味に置いてこのタイミングは見逃せない。なにせ大国がババ抜きしつつ有益な物を譲り合っているのだ。そしてババを引いた国は他を巻き込むしかない。

「野心的に動いてトップをねらえ！なんて言いませんよね？別にクロエさんがそれをねらうなら止める手立てがないので放置しますけど。」

「なんか巨大ロボとかに乗りそうなセリフですね・・・。」

　　

　縮退炉作ってハイレグ体操服と言う名のパイロットスーツ着て『よろしくってよ』とか言われなが稲妻キックをブッパ。考えていてなんだが作れてしまうだけの材料があるのが憎い！ただ、松田がコーチだと胡散臭くてやる気は削がれる。

「巨大ロボはまぁ、作ろうと思えば作れますけどコストにしろ運用にしろ宇宙ですよ。それに巨大ロボ使うよりも人の方が下手をすると強い。まぁ、神様の時もそうですが覇権もいらないのでしょう？」

「いりませんねぇ。何が悲しくて憎しみの対象にならないといけないんですか？一般人なら憎まれても交友関係まで、役人になれば票入れた有権者まで、そして覇者なら踏み台にした全てに反勢力。私が欲しいのは平穏で無闇矢鱈と敵なんて作りたくもない。それに、戦うのはゴミで十分です。」

「無欲と言うか強欲と言うか。平和や平穏はコストがかかるからみんな欲しがるし、維持するとなると更に労力がいる。と、時間ですね。」

　各モニターにそれぞれの姿が映し出される。流石に顔には出さないが互いに話し合っていてもおかしくない。寧ろ、中露は連絡し合っているだろうな。別に通信OFFだからと言って他の国と話し合ってはいけないなんてルールはない。その中でどう動くのか？パワーバランスを考えるなら中国に今は分がある。

「会議再開でよろしいですね？」

「構わないとも。同時に発言するなんて言う仲良し小好しではないとして、米国は自国での保有を主張しない。その代わり保有に対して外側からの監視体制を作るとともに、共同研究の依頼を受けたなら手伝うとしよう。」

「中国としても米国と同じ形を取ります。私達の願いは永遠であってそれを手に入れる為に宇宙人との対話が必要だと考えていた。しかし、宇宙人は我々に優しくもなければ交渉の余地もなかった。ならその時間を今ある不死薬の研究に回して方が有益だ。日本は流石に今更保有するなんて言いませんよね？」

「当然です。日本政府としてはクロエさんとコアを物理的に離したい。今の世の中行こうと思えば何処へでもいけますが、それでも物理的に距離があれば兆候も分かるでしょう？流石にブラジルに持って行きはしませんけどね。」

　松田が柔和な顔で話しているが、サイラスの件で物理的な距離もあんまり意味をなさないと知っているだろう？まぁ、俺の場合、巻き戻りのイメージが強くて瞬間移動は出来てもテレポートは難しいし、その話を松田も知ってるけどさ。

「・・・、どの国も要らないのならば我々が保有する。その代わり共同警備体制や保管方法についてファースト氏を含めての都度話し合ってもらう。それに辺り・・・、完成品としての飛行ユニット及びS・Y・Sの基礎理論を開示して欲しい。」