686話 気分はエヴァ 挿絵あり
空港に降り立ち注目される中、迎えの増田達と合流して先ずは東京ギルドへ行く予定である。さっさとアルをゲートに入れないと付きまとわれる。別に悪い人と言うわけではないがこのまま連れ歩く訳にもいかない。そもそも受け渡したら文字通り飛んで帰るつもりなので用事さえ終わってしまえば『あばよ!とっつぁん!』と言って帰ってもいい。
「お久しぶりです増田さん。まぁ、種子島にも来てたので久しぶりと言うほどでもないですが。ついでに渡した魔法見せてもらえます?」
「その種子島以降で動きがあるからこうして会う事にもなります。こちらは知っていると思いますが新しい千代田です。私はデューラー氏を送る事になるので送迎は彼女に頼んでください。それと、頂いた魔法はコチラです。」
増田が指輪から渡した魔法を取り出す。うむ、玉から周囲も見えるので間違いなく渡したものだな。それとなく魔法で周囲が見えるのか?と言う話を掲示板に書き込んだりして情報を集めてみたが、出来る人と出来ない人がいるらしい。精度としても形だけとか受け渡したら他人の物だから出来ないとする人もいれば音声だけの人も。
俺の場合見えはしても音声はないのでポケットに入れられたり、手で隠されたらおしまいだな。まぁ、その辺りもイメージを弄くり回せばどうにかなりそうではあるのだが・・・。
「あら?専属ネゴシエーターは解任ですか?」
「違います。ネゴシエーターとしての仕事は残りますが、裏方ではなく公に移ったとお考え下さい。現状の私の身分としては政府公認スィーパー派遣会社の社長兼松田さんの部下と言う立ち位置です。」
「ある意味栄転ですね。元々は経理とかだったでしょう?しかし公にならざる負えないと言う事ですか、恐い面的に。」
「恐い面は関係ありません。私の顔が盗まれた事が原因です。」
「分かってますよ。水面下より衆目、それで違和感が出ればバレる。職としてもそうですしね。」
増田と軽口を叩き合うがゲート内で顔を真似られたと言うのは結構大きな事件で、肉壁と言う職と夏目の全身変化からずっと危険と示唆されていた。これについては日本のみならず米国も頭を悩ませているのだが、決定的な解決方法もなく唯一本人確認出来るのは職を使わせる事ぐらいである。
流石に肉壁も瞬間発火等は出来ないので、肉壁から離れた職の人を使ったりオカルトに暴露してもらったりするらしい。まぁ、そうは言いつつも夏目は汗を制御して色々出来るらしいが・・・。防犯イタチごっこは始まったばかりなので頑張ってもらおう。
「ええ。無貌の暗殺者もスパイもこれから増えるかもしれません。流石に政治家等の指導者への成り代わりは難しいと思いますが、人は人を分析する術を持っている。」
「配信当初にでも戻りましょうか?エキセントリック少女なら何を仕出かすか分かりませんし。さて、そちらの千代田さんはなんとお呼びすれば?」
「そのまま千代田と呼んでください。私の方こそなんとお呼びすれば?」
「お好きにどうぞ。公私を分けるならファーストかクロエのイントネーションで構いません。」
黒江 司と言う名は確かにある。しかし、ギルドの書類はクロエ=ファースト名義なので公とするならその名だろうし、親しくもない人からいきなり司と呼ばれても反応に困る。なんにせよ切れ長の目をした女性が新しい千代田で今回の東京での世話役と言う話になるのだろう。
こんな時期に抜擢されるだけあって多分優秀と言うか、大学でてる時点で高卒の俺よりは頭いいはず!学歴コンプレックスがない代わりに大学出は頭が良いと言うイメージもある。まぁ、頭が良い=社会に出て仕事が出来るとは限らないが、それでもキャリアを考えると学歴は大事だな。
いや、それも古い考えか。今だと学歴よりも知識量が重要視されるし、対人スキルと言うかコミュニケーション能力も求められる。それに職である。異世界モノなんかでスキルが〜なんて話はあるが、職による差別はなくとも得手不得手はある。
「では前任者に習いクロエさんと。このまま移動になりますがよろしいですか?」
「構いませんよ。寧ろさっさと引き渡して文字通り飛んで帰りたい。」
「事はそう簡単に終わらないのでご了承下さい。」
「了解です・・・。ではアル、次来る時はアポ取ってくださいね?まぁ、私の手元にアレはないので来ても・・・。」
「いや行く。何度でも教えを請いに行くとも。人に何かを聞くと言うのは恥ずべき事ではない。アミットも言っていたが無駄に高いIQにあぐらをかいて行動しないのは宝の持ち腐れと一緒だ。人は全知ではない、だからこそ未知に惹かれ謎に惹かれ、分からない事を分かる様にする事に喜びを感じる。まぁ、事前連絡はするよ。門前払いは徒労でしかない。ではミスター増田、行こうか。」
かっこよさげに歩き出すが、ヨレヨレのジャケットに猫背に寝癖といまいち締まらない。まぁ、身嗜みを差し置いても何かに打ち込んでいると受け取ろう。そんなアルと別れて千代田の運転する車で連れてこられたのは永田町某所。
流石に閉会している国会議事堂で引き渡しはしないか。それなら警視庁とかでもよかったのだが、逆に言えばそこで話すには政治的過ぎる話題とも言える。一応、家やギルドを出る時に数日かかるかもとは伝えているし、ノートPCも持ってきているので業務に支障はないのだが・・・。吸っていいと言うのでタバコをプカリ。
「今回来た理由を千代田さんは聞いていますか?」
「いえ?私はただの送迎役ですよ。クロエさんが簡単に攫われたりしないと言うのは理解していますけど、何もしないと言うのは面目が立ちませんから。」
「その面目の為に路地入ったり地下駐車場出入りしたりしてたんですね・・・、端的に聞きますけど効果あります?」
「微妙な所ですね。追跡者等の職に就いた警官をランダムに選び、年齢性別問わず緊急確保と言う名目で追わせましたが、何に頼っているか、どう追っているのかによっても差が出ます。ただ、完全に巻けるかと言う話なら単純に人数を増やせば確保出来るかと。」
「ふむ・・・、要は車を追うのか人を追うのかで違いであると。確かに車から飛び降りて走って逃げると言われれば、今までなら袋小路に追い込めばよかった。しかし、車が楽をする手段になって逃走に必ずしも必要な物でなくなった今、人数を使う方が圧倒的に検挙率は上がるし、狭い所にも行ける。」
割と好きだった海外のカーチェイス映像はかなり減ってしまった。その代わりガンナーがヘリからスナイプして足をふっ飛ばしたり、壁を垂直に走って追いかけっこしたり、もちろんハイウェイを警官達を引き連れて走って逃げるこそ泥もいる。
米国なんかと日本の警察も提携してテーザー銃なんかのノン・リーサル・ウェポンを輸入するらしいが、飛距離的な問題がなぁ・・・。当初は麻酔銃と言う話もあったらしいが、回復薬飲まれると逃げられるし、通常の弾速だと余裕回避で流れ弾の方が危ない。結果としてガンナーに必中弾をお願いするか、追いかけっこで勝つか、魔術師による拘束がベターと言われる様になった。
「そんなところです。では、かの駐車場から少し歩きます。」
どこかの地下駐車場に車を止めてそこから防火扉を開いたら秘密の通路。固定処理で耐震強度が増すのでいいのだろうが、永田町ダンジョンが形成されてるのかな?案内され『私はここで待機です』と言われた後はまた幾つかの認証を経て着いたのは何処かの会議室。
「長く歩いて疲れたでしょう?ささっ、どうぞコチラへ。」
「ナチュラルに席を勧めてどうするつもりです松田さん。ココまで来て疑うわけじゃないですけど、受け渡し相手が松田さんじゃないと言うなら、この場そのものが誘い込まれた敵地となりますよ?取り敢えずさっさと符号料理食べて下さい。」
「嫌ですねぇ、受け渡し相手は私で構いません。寧ろ、コアの取り扱いをどうするかの方が問題なんですから。・・・、ブフォ!なんで桃の見た目でパクチー味を指定したんですか?」
「ユーモアです。本人確認するならこれが1番信用出来る。さて取り扱いの問題と言うと?」
「その前にそちらも料理を。」
そう言われて数日前に届いたカロリーバー的なモノを言う一口。俺にパクチーうんたらと言うが松田もやってんな!モサモサして口の中の水分を全部奪うのに味はエビチリである。不味いわけではない。ただ、口の中に味が残り続けると言う不具合が・・・。
「エビチリですね。後味と言うかずっとエビチリが口の中にいるんですけど?」
「そのままユーモアと返しましょう。さてこうして来てもらったのは他でもありません。コアとそれに付随してS・Y・Sで暴露された件についてです。流石にもう隠し事はありませんよね?実は宇宙人でしたとか実は死ぬとか。」
「普通そこは実は死なないなんじゃ・・・。多分ありませんよ。それに今更暴露話が増えたからってなんだって言うんです?」
「なんだって言うから聞いてるんですよ。職に人格がある時点で色々と面倒ですし、それと共存?してる時点で異質なんです。恐いでしょう?急に頭の中で誰かの声が聞こえるとか。」
言わんとしている事は分かるが、既に姿形のある他者として認識してるしな・・・。それを考えると2人の姿を明確にイメージ出来ていると言うのは混乱を避けるのにいい事だ。まぁ、魔女は勝手に姿を決めてしまっていたが・・・。
ここに呼ばれたのはその辺りを含めての話し合いだろう。しかし、参加者は松田だけか?円卓に席は5つ、そのうち3つにはモニターが置かれている。つまり後3人は出席者がいると言う事だろう。差し当たって米中露に松田を含めた4人、残りの一席には分かりやすい様に灰皿が置かれている。
「はぁ〜・・・。こう言う言い方は好まないですがレディの秘密は探るものではないですよ?」
「そのレディが謎多き人なら探りたくなるのは男の性ですよ。参加者は米中露に私です。円卓の意味、分かりますよね?」
「対等であり上下はない。だから話す言葉は荒くとも罵倒であろうとも賛辞であろうと構わない。・・・、分かりました席につきましょう。」
そう言って席についてプカリ。それぞれのモニターに人影が映りだす。1人はジョージ、1人はチャン、最後に写ったのはロシアの首相か。名をセルゲイ・ガイダル。そこそこ若いが政権運営自体は手堅いと言うか、持ってるカードを上手くやりくりして事を有利に進めていたと言う印象がある。まぁ、テレビやら新聞、ネットでの情報なので真実は分からない。
と、言うかジョージもチャンも若返りの薬を飲んで若返っているので相対的にセルゲイが一番年上に見える。飲む飲まないは自由だが飲まない理由でもあるのだろうか?中国と一緒になって永遠を求めていたのに。
「やぁクロエ、年末ぶりだがどうだい調子は?」
「フラットですね。よくも悪くも面倒事が多いですよ。それこそ宇宙行ってゲート行って仕事をし出したら呼び出されてとね。」
「クロエ氏も大変そうだ。ウチに遊びに来たら中国四千年の歴史刻まれた按摩や針を施術しますが?」
「そのまま返して貰えそうにないので辞めときます。寧ろ針や按摩は無意味ですよ。」
「ふむ・・・、それも・・・。」
「実際に見てみたい。お初にお目にかかるがセルゲイと言う。確かに貴女は不死であり永遠を自負されているが・・・。」
「これでいいですか?」
「なっ!?」
流石に不死本当?は飽きた。既に妻にも伝え必要な時は開示するとも言った。そう、言ってしまって証明する事を躊躇う必要がなくなった。口で言って分からせる時間は終わり、次に移るなら物的証拠を見せる。指輪か分解ロットを取り出しこめかみに差し込み縦へ。人と変わらない身体はロットを飲み込むがその傷は縦に引くと共に塞がり引き抜く前に差し込んだ部分は消えてしまった。
「言ったでしょう?改造されたと。先に宣言しますが話し合いには応じます。その代わり実力行使に出たなら・・・、家族に害をもたらすと言うなら叩き潰します。」




