677話 混迷
ギルドに出勤して挨拶を交わしながらマスタールームへ。昨晩も特段変わった事はなく、強いて言うなら酒飲んでおイタした組が皿洗いしてるくらいかな?獣人からも冷たい視線が飛んでくるので皿洗いは結構キツイ罰になるらしい。まぁ、信用商売な所もあるスィーパーが晒し者になるのは沽券に関わるし、それを見た依頼人から解雇されても仕方ない。
ついでに食堂でモーニング食ってるアルとアミットらしき人がエナドリ流し込んでいたので回収。確認取ったらアミットで間違いないとの事なので大丈夫だろう。昨日の時点で部屋は片付けているし、そもそもペーパー資料もお役所仕事的な物がメインで他はリー達が嗅ぎ回る用とか?
なんだかんだでIDやらパスワード、他はPCさえ無事なら大きく困る事はない。基本的にデータは外付けHDDで持ち帰るし、メールは部外秘なら直接連絡ばかりだし。
望田とエマもマスタールームに居るが特に退席の必要はない。エマはコアを知っているし望田はガーディアンコアを確保している事を知っている。
「先ずはおはようございますアルさんにアミットさん。朝早くからご足労ありがとうございます。と、言うかいつからギルドに?」
「カラオケで話し合った後直ぐにだな。なに、時間が惜しく早く来ただけだから気にしなくていい。それよりも早速話をしよう。昨晩話し合って様々な意見が・・・。」
「その前に僕をちゃんと紹介してくれないだろうか?」
「あぁ、友人のアミットだ。コレは別にどうでもいい。それよりもS・Y・Sから・・・。」
「アルさんよくないですよ。事の発端はアミットさんなんですからね?改めてクロエ=ファーストです。羽黒 アミットさん達はどうして大分ギルドへ?なにやら聞きたい事があると聞きましたが。」
「聞きたい事と言うよりも懸念事項だよ。端的に言うならファーストさんは洗脳、或いは思考誘導方面の魔法が使えますよね?」
えらく断定的に聞いてくるがさてどうするかな?使えないと言うのは簡単だが証拠がない。しかし、使えると言うと面倒にもなる。適当に煙に巻いてもいいが・・・、ある事実を元に話すか。
「思考誘導の話はアルさんと話てテレパシー実験の話でも聞きましたか?それなら話は早い。人を動かしているのは生体電気で電気操作可能な魔術師:雷ならそういう風な事も可能でしょう。事実として医療現場でもリハビリに魔術師を採用している所は多いと聞きますし。」
先天的な欠損は薬では治らない。既にそれがその人にとっての自身のイメージとして定着していて、後から薬を使おうともそれを動かしたりする感覚もなく、本人からすれば不要なパーツが取り付けられた気分でしっくり来ないと言う。しかし、人とは大なり小なり人と違う事を嫌い、その違いが不便なものなら合わせようとする。
そこで魔術師:雷が出てくる。左右の腕や足等を均一に揃えて再生医療で作り治癒師が結合し、その後リハビリとして魔術師が操り感覚を脳や身体に覚えさせていく。リハビリ時間や本人の資質にもよるが概ね1週間もあれば自在に扱える様になるとか。人が人の身体を弄くり回している訳だが、ゲートなんて言う危ないモノがある以上避けては通れない道だな。
「テレパシー実験の話は昨晩聞いただけですよ。確かに魔術師達はインドラの化身やらアグニの化身と言われて憧れられますし、あえて腕を増やしてりする人はいるみたいですね。まぁ、母国は母国として僕は既に帰化したのであまり興味はありませんけど。話はそこではなく宇宙言語と言うものです。」
「そうだとも。私はあまりシンポジウムなんかには顔を出さないが、昨晩の話し合いで何を懸念しているかは分かるが些事だ。」
「些事じゃないよアル。メッセージ送信は宇宙から行われてS・Y・Sに面していない地域でも受信出来た。そのイメージがどの様な工程の末に行われたのかは僕には分からない。しかし、電気を使っているならポールシフトを急速に早めると言う話にも繋がるかもしれないし、輸送機のコアと言うものから何らかのイメージを養いそれを使っているなら、また別の懸念も出てくる。前者なら止めて欲しいと言う願いで済むけど、後者ならコアと言うモノは人類から失われ配信を見ても対抗イメージが作りづらい。端的に言うと我々は新たな言語ないしイメージ送信により操られるのではない?と言う不安を抱えている。無論、今は受信者が少数たけど出来ると言うイメージは爆発的に職を加速させる。」
アミットがアルを押し退けて語ったが、要は操り人形の毎日を不安視していると言う事かな?その懸念を払拭するには言葉では足りない。なにせ語った所で嫌だからしないと言う言葉は軽く、出来ないと言うタイミングは過ぎている。仮に・・・、そう仮にそう言ったとしても例えば獣人だけを操って発起を起こせばそれだけで大戦は免れず、していないと言っても常に本当か?と言う疑問は出続ける。
「無罪を勝ち取るのは法廷でも今は難しい。なので、物的証拠を出しましょう。」
ガーディアンコアを指輪から取り出す。確かにコードと言うものの練習はしたし、魔女の性能的に言えば他者は城壁であり盾とみなせる。事実としてモンスターを操り共食いさせつつ倒している。微妙に嫌な所と正解を引いてくるが全問正解されてもこの能力は封印出来ないし、更に奥を目指すなら使わない訳にもいかない。
大体の話で洗脳と言う手は悪手であり悪とされるが人が宗教的な動物である以上、既に人は神に洗脳されていると思う。ただ、それも今は揺らぎ洗脳が解除されているとも言えるが・・・。なんにせよ対話するなら先手は譲るに限るな。主義主張はしてもらわないと納得の糸口も掴めない。今回で言えばコアを政府に渡す前で良かった。
コアがなければ話は更にこじれるし、何より渡した後に再度俺の手に戻ってくるとも思えない。まぁ、このコアがアクティブならそれも隠した方がいいのではとも思う。下手に身体を与えると動き出してガーディアンを再構築しだしそうだし。
「コレは?」
「オフレコですが今回宇宙からのイメージ送信で使ったコア・・・。」
「私、參上だにゃあ!ってコア!予測してたけどコア2ndシーズン!?マジで!?輸送機のコアは理解出来なかったけどコレならいける?いや、逝けて見せる!鑑定していいよね!寧ろさせてよクロにゃん!」
神志那が扉を開き雪崩込んでくる。確かにアミットがメンサ会員と言う事で助力を頼んだがこのタイミングか。いいにしろ悪いにしろ鑑定師と言う職は物事の信頼と言う面で今の社会で一定の判断材料となる。それは1人ならいくらでも本人の匙加減で真実を捻じ曲げて話せると言う事に関わってくる。なので、信頼が欲しいなら最低でも2人の鑑定師が必要だ。
しかし橘にも鑑定するなと言ったとコアを神志那は直視しているが大丈夫?それよりも神志那がコアを使いこなすと言うのも恐いんだが・・・。俺がそれを言うなとも言われそうだが、少なくとも俺はガーディアンの修理に何が必要か分からない。
でも、神志那がコアを使いこなしたなら下手すると再建造だけじゃなくてその技術を持ち出しそうなんだよな・・・。悪い事ばかりじゃながいい事ばかりでもない。と、言うか早々に会談を行って大切な事を聞きそびれていた。
「アミットさん。アナタの職はなんですか?」
「S鑑定師。今から握手をお願いしてこの手を取る勇気はありますか?」
そう言ってアミットが出を差し出してくる。多分最終手段として人物鑑定で決着を付ける算段だったのだろうが、聞かれて伏せれば不信感を呼び適当を言えば証明を求められる。なら、無実の証明を再度行うとしよう。
「勇気も何も私は何も悪い事はしてませんよアミットさん。」
差し出された手を取り握手。さて、混沌として来たがどう転ぶかな?




