673話 恐怖心 挿絵あり
なにはともあれ現状把握。神志那にも声をかけてマスタールームへ向かうが、宇宙言語を理解してなにがしたいのがが問題と言えば問題だよなぁ・・・。少なくもスピルバーグ作宇宙人やらアシモフ作宇宙人なんかの著名な作家が思い描いた宇宙人から、実際する宇宙人像へと世間的にはシフトチェンジしている。しているのだが・・・。
「取り敢えず来てる学者先生方は何を知りたいと詰めかけてるんですか?」
「知りたいと言うより恐怖心の方が強いかにゃぁ。」
「恐怖心?・・・、そっちに転んだかぁ・・・。」
「想定してたのカ?」
「全ての始まりは言葉から。米国の公文書でもそう言う出だしだったでしょう?ロゴス寄りの解釈としたけど本質を話すなら理性も論理も法則も秩序も、大凡文字で表せるモノは後から付いてきて先に言葉があるが。そして、今回宇宙からメッセージを送って中位や獣人、そしてそれに該当しない下位もメッセージを受け取った。コレって何かに似てると思わない?」
「似てる・・・、啓示とかですかね?或いは神託とか?」
「正解。あのメッセージの内容そのものはどうでもいいとして、問題なのはS・Y・Sが見えない位置。つまりメッセージ送信時にS・Y・Sに面してない所でもメッセージを受け取れた事で、平たく言えば宗教家はただでさえ窮地だったのが更に窮地に陥ったし、歴史家も例えばジャンヌ・ダルクの啓示を宇宙人からのメッセージとして再検証してもおかしくない。」
神から啓示を受けた。だからノアは方舟を作った。聖書をファンタジー小説と受け取れるのは日本人くらいで下火とは言え米国では未だに信じてる人は多いし、世界三大宗教家は全てに宇宙論はある。そしてそこが問題で人では出来なかった事は神の・・・、超常の存在が成したとすればよかったのだが、メッセージ送信と受信により啓示は人でも可能であると示されたし、人の生死を曖昧にする薬をソーツは作れる。
つまり、論理的に考えると古い神は死に代わりにソーツが現れ人は新たな言葉を手に入れ幸福を得る。それに1番敏感なのは言語学者だろう。少なくとも宗教家は言い方は悪いが扇動者である。数が増えれば増えるだけ懐は潤い、人数が増えれば無視出来ない勢力となるが、解釈さえ変えてしまえばまだ立て直せる。
しかし言語学者は違う。言葉と言う武器の重みと重要性を理解しているからこそ動くタイミングはここであり、正式に人が扱えるものとして落とし込んでしまいたい。
「話せればまだ糸口を掴むきっかけになるからにゃあ。どこの学者さんも言うけど、対話出来る1人が姿を消せば混乱が出る。だから、話せる人数を増やしてリスク分散をしたいんだってさ。非公式な話をするならどこの政府もメッセージが受信出来た人はシャコグラス掛けて配信マラソンコースらしいよ?」
「コアの映像配信とかのマラソンか・・・。確かに恐怖心は分からないでもないけど・・・。」
さてどうしたもんかな?流石に4ヶ国で抑え込めないから学者達は詰めかけてるんだろうし、ならどうすれば納得するのかと言われると判断に迷う。前にラボでのアル達とテレパシー実験はやったし魔術師:雷ならテレパシーは送れる。実際奏江はたまにテレパシー飛ばしてくるしな。
しかしテレパシーと光と波長を使った言語は違うし、何より目視しただけだと違いはほとんど分からない。そうなるとモンスターが使う様な言語を理解するのが早いのだが、それなら中位へ至るか最適化されれば済む。う〜む・・・、納得させるのは中々難しい。
「学者達の筆頭と言うか代表ってだれ?」
「アミットと言う方ですね。ラボのアルさんとも親交があるとか。」
「アミット・・・、確かヒンディー語で無限とかだったかな?インドの人なの?」
「本人曰く日本国籍を有しているらしいゾ。苗字は羽黒と言ったカ?」
「エマにゃんの言う通り。羽黒 アミットさんで大学でヒンディー語講師をしつつ本業は言語学者。海外メンサ会員でもあったし頭の回転は早いよ。」
インドかぁ・・・、カースト制度崩壊で結構ごたついてるって聞いてたけど外に目を向ける下地が出来たとか?ゲート出現以降の世界を見ると経済活動だけは活発である。と、言うのもIMFが金貨を認めどこでも概ね同一通貨で同一の物が買える。まぁ、回復薬や出土品、寿命の薬なんかは高止まりしているが回復薬は高槻が工場を作っているので安くなりはした。しかし、他の品はやはり高く端的に言えば今まで1日300円程度で過ごしていた人がゲートに入り取引を経て金貨100枚を手に入れる事もざらだし、職と言う新たな基準が出たおかげで貧民でもS職なら教育を受けつつ手厚い保護を受けるなんて事もある。
その結果として実力主義が台頭する所は台頭してきたし、政府に不満が多い所は打倒政府で動かれる前に国民に甘い顔もした。そしてインドはと言うと、カースト制度完全廃止による国民総中流を目指しつつ過去にあった身分違いによる結婚出来ないなんて制度を敵視して強く廃止したり、ガネーシャ神やらちょっと見た目の変わった神が多い事をいい事に獣人を大々的に受け入れたり結婚制度作ったりと動き回っている。
元々奇形を神聖な者として崇める国なので、獣人もその枠のウチなのだろうか?なんにせよガンジス川を綺麗にしたり、多すぎる国民の管理が行き届かなかったりと都心部と地方部では割と開きがあるものの、ガンジス川の畔にゲートが出たおかげで聖地巡礼よろしく人は多く入るし、リングと言う形状からシヴァの踊りにおける炎の輪と同一視する人も・・・。
元々破壊と創造の神でゲート内に入ればモンスターを掃除して回るし、回復薬なんかがあれば再生するのであながち間違いでもない。なんにせよ入場規制なんてものはないので増え続けるスィーパーへの対処が問題となり日本式ギルドをさっさと立ち上げるとした国でもある。
「代表がメンサ会員と言うと私の頭では追いつけないかも。なんにしても追い返すのは?」
「無理だにゃあ。松田さんとかからも話は飛んできてたけど、宇宙言語があって話せるって話を秘匿するのは限界だって。」
「地球から見てましたけど呼びかけ時間にはみんな空見てましたね。割とよく見えましたよ。」
「私は内部にいたから分からないガ、米国でも空を見上げた人は多いと言ウ。仮に信仰と言うものが天を仰ぐと言うなラ、その瞬間は皆敬虔な者だったのだろウ。」
「神は堕ちて人の手に、か。取り敢えずそのアミットさんには会うとして、神志那さんは同席をお願い。後は・・・、ラボからアルを読んだ方がいいのかな?あの人がどこからゲートに入ったかは分からないけど。その前に松田さんに対応方法の確認を取って・・・。」
状況を組み立てて行くと特段急ぎではない。まぁ、恐怖心からの行動なら何処かで暴発しそうではあるが、まだその段階には程遠い。寧ろ、宇宙からメッセージを送った時点でそう言った話があるだろとは予測出来た。ただ、思ったよりも動きが早いな。
それに真っ先に抜け駆けして来るならロシアだと思っていた。1人戦国時代だが、それでも表面上は穏やかで情報量を考えるとチャンが不死薬を買ったと言う情報が入ればそれはだれから買ったと言う話になる。そうなれば有力候補として俺の名は出るだろうし種子島で話した事を知っている関係上、周囲を嗅ぎ回る可能性も出てくるが流石にそれば面白くない。
そんな事を考えつつ松田へ電話。目的が本当に学術的な物ならそれでいいが、別の思惑がないとも言い切れないしな。しかし、インドってどこと仲いいんだろう?仲のいい国悪い国でその国の外殻的スタンスは見えてくる。日米とは良好な関係だったと記憶してるけど・・・。
「もしもし松田さん?」
「もしもしクロエさん?いつゲートからお戻りで?」
「つい先程ですよ。大体1時間前くらいです。それよりも言語学者の先生達が大分ギルドに詰めかけてるらしいんですが・・・、ぶっちゃけどんな状況なんですか?」
「段階的に話すならクロエさんがゲートに入ってから数日は穏やかでした。中露宇宙ステーションの検証も進み、宇宙ステーションその物も中露が国際宇宙開発発展の為に公開するとして権利を放棄しました。」
「権利を放棄?それってだしにされたんじゃ・・・。」
「日米共にそれは想定内です。NASAとJAXAが公開宣言するまでは流石に立ち入り禁止としていますが、宇宙開発技術を欲しい国からは視察要請が早くも来ています。それはまぁ、まだ政府間で管理が出来る問題なので横に置きましょう。問題は呼びかけの方で地球でも呼びかけを受信出来た方がいると言う話は知っていますね?」
「それは知っています。そして、神志那さんから言語学者達は恐怖心から来たのではないかとも。」
「政府が掴んだ話で、1つはイメージの受信が可能と言う事はそのまま洗脳に繋がるのではないかと言う話があります。今回は地域や性別種族民族問わずの無差別受信でしたが、仮にこれを特定の誰かに宛て続ければ・・・。」
「思想的洗脳が出来ると・・・。ナンセンスですね。いや・・・、問題は私か?」
「ええ。懸念材料としてはクロエさんです。貴女は人を惹きつける。その美しさや声で。ハニートラップと言うわけではないですが仮に貴女が本気でお願いし出したとしてそれを拒める者がどの程度いるのか?そしてそれが各国の首脳や権力者なら・・・。」
「なるほど、今までは見ない会わないで済んだ話が逃げ隠れ出来ないと言う方向性にシフトチェンジしたんですね。」
確かに扇動する者って名もあるしなぁ・・・。それを地球規模でやれと言われた場合、今回出来る材料が揃っていると証明されてしまった。誠に質の悪い話で魔女の能力と言うか名はそう言った方向性に高い適性がある様に思う。現に初期ポスターは高値で取引されてるし、写真集は未だにオークションに出品されない。
大会時に海外の人も買って行ったが、そんな写真集作れる奴なら可能だろうと推測もするだろうし、スパイ達は文字通り洗脳状態で活動している。
「ええ。そして、それの解除方法が・・・。」
「宇宙言語であると。」
「そうなります。2つ目としてその言語を使用すれば魔術師のパワーアップに繋がるのではないかと言う話もありますね。なんにせよ職はイメージで事をなす。それが広域かつ強力な物なら歯止めすら簡単に突破してしまうのではないか?ゲート出現以降、宗教と言う心の支えはガタガタです。世界三大宗教全てに神はいますが、その神と同等の力を持つ宇宙人が現れ心に隙間が出来た。」
「そこに私がメッセージを送り洗脳して隙間を埋める様に誘導すると。どちらかと言えばペテン師ですね。そう呼ばれていた時期もありましたが。」
「ペテン師は結果を出さないからペテン師と呼ばれますが、クロエさんの場合成果は出しているのでペテン師ではないでしょう。問題とするなら先ずは宇宙言語ですが、アレの教育は可能なものですか?」
「教育は不可能ですね。但し、教本はあります。松田さんも知ってるんじゃないですか?」
「コアとか言うものですか?名前だけならまぁ。それが教本になると?」
「今所有しているコアはそれしかありませんが、休眠状態でオウム返しするだけの物です。事態の想定としてロシアに渡してしまおうかとも思っていましたが、日本政府で預かります?」
洗脳に対して宇宙言語。なら、コアを渡すのが1番のアンチテーゼとなる。少なくともイメージ送信時コレを使ったと言う事実はある。簡単に手放してまた不信感も出そうだが、そこを疑い出すときりがないと相手も分かるだろうし、受信した人がまともな生活を送っていればそのうち疑いも晴れるだろう。
コレばかりは時間経過で収まるのを待つしかないし、預かり元が日本政府なら文句も出ないかな?寧ろそれ以上の解決策も思い浮かばないし。




