671話 束の間の休息 挿絵あり
65階層到達後、バイトと共に散策するが何も出ない。前回の感じからしてセーフスペースと見て間違いないだろう。移動用の乗り物は更に程度が悪くウサギの様な何かである。わざわざ乗る必要性があるのかと聞かれれば迷うが、最短で次を目指すなら乗らないと言う選択肢もない。
まぁ、多少木は減ったが相変わらずの森林地帯なので走ったり飛び跳ねたりして進むのでバカ鳥よりも揺れるし尻は打つしで最悪だし、耳を使ってグライダーの様に飛んだりもするので下手に話し掛けると首を振って墜落する。前回も思ったが飛行ユニットの素材は簡単にくれないらしい。
ついでに言うと、到頭補助輪をはずされたと言うか身体を固定する様なモノもなくなったので乗るならどうにかして自力固定が必要である。乗らずにウサギを追えって?乗らないと動かないんだよ・・・。後続にデータとして公開するならじゃんけんでもして生贄を差し出せとしか言えないし、それが嫌なら自力捜索となる。
なにせ蹴ろうが殴ろうが乗って進ませて飛び降りようが、離れた時点で止まるし危害を加えても馬とかと同じ様に意に返さない。多分コードで命令すれば動くのだろうが、それは個人的な裏技と言えるだろう。
セーフスペースと言う事でこのウサギっぽい何かも食ってみたが、食感としては鳥の軟骨とかヤゲンとか?食えなくはないが噛むとガリガリとした食感と共に旨味が出る。持ち込んだ鶏ガラスープに漬けて焼いたら割と食える。ここまで来て割とまともに食える食材と言う点にありがたみはあるのだろうか?
まぁ、長期活動を考えると飯が不味いと士気が下る。それはどの国の軍のレーションを見ても分かる事で、単純に栄養と腹持ちだけを考えるならおからパウダーを団子にでもして、それにビタミン剤でも振りかければいい。だが、人はそれでは納得せずにわざわざ小分の真空パックウィンナーやら缶詰の混ぜ御飯やらを作る。
実際俺もここに来て飯が貧しかったらさっさと帰っていたかも。指輪はやはり人にとっては最大限に恩恵のある品だな。なにせこんな所でも半年前に買った卵サンドが腐らずに食えるし。
「退出ゲートと次へ進むゲートを確認っと。バイト〜、なにか見つかったか〜?」
(何も。変換されてしまったと推測する。ただ水場はあった。)
「水場か・・・。他のセーフスペースにもあるし目新しいわけでもないな。一応水中の確認もするとして・・・、人工物っぽい何かとかあればなぁ・・・。」
流石に下層じゃないからまだ祭壇は出ないか。と、言うか交渉権は貰ったが権利を行使する難易度がナイトメアクラスなんじゃ・・・。事細かに指定すればその限りではないのかもしれないが、今更の変更はソーツも受け入れないだろう。寧ろ最初のセーフスペースに祭壇があった場合更に混沌とした結果になるとも考えられる。
なにせ国際会議を開く程に交渉権を欲しがる所は多く、その交渉を有利に進めようと俺はゲートを進めずネゴシエーター訓練ばかりさせられていたかも。事はそれだけではなく祭壇確保にセーフスペースで戦争は勃発するだろうし、ゲート外でも家族を拉致して言う事を聞かせようと言う動きも・・・。
一旦中国が大人しくなったのはいいとして、ロシアはどこまで大人しくするかなぁ・・・。種子島では物別れに終わったが、だからこそ甘露を求める。流石に中国が不死薬売ってもらってると口外して宣伝する様な事はないだろうが、人の口に戸は建てられない。出来れば国内の平穏を優先して欲しいんだけどな・・・。
「よし、水場へ行こう。案内してくれ。」
流石にウサギは乗り心地が悪すぎるのでバイトに飛び乗り森を進む。相変わらず道は悪いがウサギよりはまだ乗り心地はいい。地を走り周囲を見たいと言えば木を登り枝を飛ぶ。1言で中層を言うならエルフなんかが出て来そうな森と言えるのだが、セーフスペース以外にはモンスターしかいないし、そのセーフスペースにも住人は乗り物しかいないので空き地と言っていいだろう。
まぁ、今の時点でエルフが出て来たら、それは迷い込んだ宇宙人かソーツの廃棄品なので意思疎通は難しそうだな。そもそもエルフの伝承って美しい森の住人だったり妖精種であったり光のエルフと闇のエルフがいるとかしかない。美しく耳が長いと言うのも特徴だが、日本のエルフ感の根底にあるのはロードス島戦記のディードリットと言うキャラクターが下地になっているのだが、最近のアニメで出るエルフの耳は短いんだよな・・・。好みだけ言わせて貰えば肩幅程に耳が長い方がいいな。太めで若干垂れているとなおよし。
実際にそんな耳だと邪魔だろうが、耳が長い時点で横向きには寝ないからいいだろう?今の人類耳程度ならいくらでも伸ばせるし、元々軟骨で骨を延ばすよりは整形しやすい。多分こんな事を考えてるのはウサギを食ったせいだろう。あれも耳だろう翼は長かったし。
バイトの背に揺られて進み途中廃棄された様なゲートを見付けて調べてみるが、質感としては俺達が使うゲートと変わりない。無理にこれを分解する事も考えたが下手に扱うと何が起こるか分からないし、指輪への収納も不可なのでいずれここまで来る知的好奇心の塊にでも任せよう。
ただ破片でもいいから落ちてないかな?武器でも傷付かないし、簡単な魔法では太刀打ち出来ない。ここに存在し続けていると言う事は還元変換にも一定の耐性があるのだろうし、モンスターの攻撃を防ぐいい建材になりそう。ゲート内でヘリも飛んでいるがモンスターからの撃墜率も高いのでイタチごっこ感は否めないし、パイロットの職やイメージも厳選しないといけないので運用は難しいらしい。
まぁ、火力支援としては悪くないらしいよ?軍隊としてゲートに入り優秀な指揮官が運用するなら戦力としては高いのだが、闇雲に指揮だけ出す指揮官だと漏れなく落ちる。最近では無人ヘリの開発と言うか、ヘリをそのままドローンとして運用しガンナー操作の元ミサイルランチャーによる爆撃支援なんかも行われている。
キル確認がしづらいのが玉に瑕だが、モンスターに追い詰められた時に吹き飛ばして時間を稼ぎつつ撤退でも大勢を立て直して再度攻撃に転じる事も出来るので、軍人が部隊として潜る時は指輪には入れているのだとか。
そう言えば、俺が貰ったバイクは残念ながら量産ラインから外れたそうだ。宇宙からの降下も果たしたバイクなのだが、流石にクリスタルリアクター搭載は危ないとなったらしい。まぁ、モンスターにぶっ壊されれば部隊全滅は免れないし、モンスターの興味が終わる=追いかけっこ終了のお知らせなので下手しなくてもバイクに追いついてくる。
(ここだ。)
「おぉ〜・・・、湖か。相変わらず端は見えないな。特に霧が立ち込めてるわけでもないのに。」
上よりは明るいのだが相変わらず端は見えない。クソでかい木が何本か生えているのは分かるのだが、目測で考えても幹が数十mはありそうだ。流石にアレが蜃気楼だとは思わないが距離感が掴めないので確認しに行ったら今度は戻るのに難儀しそうだ。今回の目標はセーフスペースの発見だったし色々と回収も出来たから成果ありでいいだろうし、個人的にもコードの実用化方面では精神が耐えられた。
「バイト、ちょっと一緒に底まで潜ろうか。透明度だけで言えば底まで見えそうだけど、その分距離が掴めないし。」
(それはいいがかなりあるぞ?)
「まぁ、水攻めくらいじゃ死なないしいいよ。」
バイトに乗ったまま湖の中へ。足から伝わる水温は30℃くらいかな?長く潜るには多少つらいかもしれないが、深度を増しても冷たく感じないのでそれは利点と取れる。ただ水圧はあるので全身をコルセットで締められている様な気がする。まぁ、締められても潰れないし、水中で口を開けても問題ないのでいいのだが、俺ってまともに空気吸ってるのだろうか?
人間らしくあるなら呼吸はするのだろうが、水中にいる人間は呼吸しないから勝手にOFFになってるとか?なんにせよ水中で話す機会なんて早々ないのでどうでもいいか。そんな事を考えながら数を数えながら底を目指すがかなり深いな・・・。正確な時間を知ろうと出していた腕時計は既に水圧で壊れてしまったので、少なくとも30m以上は潜っている。まぁ、不気味な魚はいるので寂しくはないが・・・。
(一度上がろうか。流石にこのまま降りても意味がない。)
(分かった。)




