670話 勝者とは? 挿絵あり
攻撃の密度が増せば自ずと範囲は広がる。極小点がいきなり1mに広がるんだ、物体としての制約もないなら雨の様にばら撒けばいいとマシンガンの様にばら撒いてくる。米国で夏目と雄二が戦った進化個体が同じ様な方法で攻撃して来たと聞いたが、やられてみると確かにウザい。
ただまだ点は視える。だからこそ舞い踊る様に地にも宙にもステップを踏みながら回避する。モンスターに思考があるかは分からないが、喋るだけの感情と言うか興味と言う名の知能があるならどう足掻いてもその攻撃は俺を目指している。
ならこう考えた事はないだろうか?全ての攻撃は確認する所から始まると。マシンガンガンを乱射する。何故ならその藪に敵がいるから。スコープを覗き狙撃する。その視線の先に敵がいるから。鋭利なナイフを突き立てる。その鋒の先に相手の身体があるから。ミサイルで大砲で銃で弓で槍で剣で棍棒でナイフに徒手空拳。
ありとあらゆる攻撃は敵がいて初めて攻撃として成立する。敵のいない攻撃は攻撃足り得ずただの素振りでしかない。そして何より敵を見付けられなければ敵意は産まれない。だから俺を隠そう。
「深い深い霧の奥に置き去りにしたされた影法師あり。
探し物は見つからず、疾走する幻影は語り惑わせる。
我こそが本物である。いや、我こそが本人であると。」
産み出す魔法を阻止する様に辺りを削りながら襲いかかってくるがここは既に俺の領土内。茫洋とした煙の中では輪郭は薄れ何もかもが・・・、それこそ敵味方さえも曖昧に成り果てて目的さえ忘れていく。精神のモニターは米国スタンピードでバキバキになり、壺に変えて金継ぎの時に知らずに使ったアブザ。その本質は有って無い者。それが馴染み精神としても強固にしてくれる。
「アナタは誰?私は誰?アナタは私で私はアナタ。
右の私?左の私?上の私?下の私?
右のアナタ?左のアナタ?上のアナタ?下アナタ?」
誰であろうと俺は俺である。幾度となく削られては戻り、精神にヒビが入っても治し明日の先も昨日の今も歩いている存在である。少なくとも最近進化した程度のモンスターに負けて挫けるほど軟じゃない。分からないなら理解すればいい。知識のモニターが壺になったのは怪我の巧妙だろう。底なしの壺ならいくらでも詰め込める。
意味を得て希薄。振り上げるブレードは緩慢で幻影を斬ろうとしては躊躇する。考えてみればモンスターは鏡を知らない。いくらでもギンギラギンのモンスターでも相手を映す前に攻撃して来て落ち着いて見る暇はないし、自己認識はあるかもしれないが、その認識するべき自己の姿を見た事がない。だからこそ、そこに付け込めば興味と言う名の殺意は既に分散し、自分か他人か分からないなら幻影を追い出す。
「勝者がいるならそれはどのアナタ?
ここには居ないどこにいる?
答えは・・・、盤の外で眺める者。」
よく物語りで言う。勝負の盤の上にいて勝たなければ勝者ではないと。なら、その盤を見るギャラリーはなんになる?答えは真の勝者だ。グラディエーターが闘技場に出てその命を懸けて雌雄を決するのを楽しみ眺める者。大戦で後方から指揮を飛ばし戦をさせる者。或いは、主催者し眺める者。
戦場に立つのは強き敗者か弱き敗者しかおらず、真の勝者は無数にいるギャラリーであり盤外にある者。言ってしまえば魔女達は最初から勝者であり、だからこそ俺としてもより良好な関係を維持しつつも逆らう気にならなかったのか。
なにせ俺の考えと魔女達のスタンスでは明らかに俺の方が弱い。『誰かがするであろう仕事の誰かとは、自分で有っても問題ない。』それは盤上に上がり戦う敗者でもあり、同時に主催する勝者でもある。負け1つ分、その1点分だけどうしても遅れてしまうのだろう。ただ、そこに気付いたからにはイメージだ。少なくとも魔女達の主は俺なのだから、2人をどうにかこうにかして盤上に上げる事も出来るだろう。
無数に飛び交う幻影とモンスターを仕掛け絵本を折り畳む様に閉じる。視終わり閉じればそこに有ったと言う記憶だけを残し開くまでは飛び出て来ない。そして、閉じた煙の世界を壊せば2度と飛び出せない。コードにアブサ、中々凶悪な手札だな。
それに空間攻撃にも色々と推測出来る部分が出てきた。バイトは噛む動作が起点となる。今のモンスターは針の様な点を飛ばし広がって削る。殴る奴も撃ち出す奴もいるが、要はその場を欠させているのだ。
最初は空間湾曲とかも考えたが・・・。いや、その線も出来る奴はいるかも。空間を湾曲させるのって要はさっきのモンスターみたいに広げてやればいいだけだし、無傷でない空間湾曲は斥力解放で辺りを押し退けてやればいいだけだしな。湾曲し続けて限界が来れば相手を引きちぎれるし攻撃方法としてソーツが採用している可能性も・・・。
しかし、珍しく魔女と賢者が静かだ。視る事に徹していると言われればそれまでだが、割とあの2人は評論する様に話しているのだが・・・。
(辺りのゴミは狩った。次は?)
「お、おう!次か・・・。取り敢えず木を回収する。」
カブトムシは全滅したし、辺りのモンスターも巻き込んだしで一旦出来た空白地帯。エネルギーの塊も回収したしまだモンスターが集まるまでには多少時間がある。なら、今のうちに回収してラボへの手土産としよう。再現率120%のバイトはやる気が溢れているのかバンバン木を伐採してくれるのでどんどん指輪へ放り込む。
この木も中々危ないんだよなぁ・・・。材木の様に横倒しならいいのだが、挿し木の様に地面に刺すと増える。増える速度はまちまちで例えば鉢植えにすればそれ以上は広がらないが、地面に刺すとそこそこの速度で根が伸びる。救いがあるとすれば下ではなく横に伸びるので、間違って枝を地面に刺したなら枝の周囲を縦30mくらいぐるりと枝を囲む様に掘ればどうにか繁殖を止められるのだとか。
ラボでの話では整形して固定処理すれば木材の代わりになるらしいし、そのうち中層林業とかやり出す奴もいるのだろうか?既に才賀セーフスペースで魚相手に漁船で漁してるし、一応身体に無害でカロリーはあるらしい木の葉は食える。但し味はしない。食感は黄金糖なんかを噛み砕いた様なジャリジャリ感があるとか。
試しに食ったがこう・・・、口の中が切れないガラスを噛んだらこんな感じなんじゃなかろうか?一応、砂糖と食えば飴と言えなくもないが、進んで食いたい物でもなければ飲み込むタイミングも測りづらいから本当にカロリー摂取目的だけの物だろう。
ある程度木も回収して広げた煙を通してモンスターが見え出したので倒しながら進む。更に3日彷徨って流石に見つかれよ!と叫びだした頃にゲートは見つかり64階層へ。流石にこの階層は何もなく彷徨えばいいだろうと思ったらどっこい。元々打ち捨てられた様なゲートが中層にはあったが、ここにはそれが更に多い。
検分したいが指輪には入らないのでどうしたものか・・・。流石にモンスターと戦いながら検分しても分かる事は少ないだろうし、魔法も弾くので前やった様に一本釣り形式で運べばいいのか?横倒しではなく直立しているなら輪回しの要領で転がせなくもないのだが、地形的にでこぼこの森林地帯だから制御は難しいかな?せめてこのゲートっぽい物に魔法が作用出来るなら浮かせて運べるのだが・・・。
次がセーフスペースならそこにもコレはある?今までのバイトやらの話を聞くと階層と言う概念は俺が願ったから出来たらしいし、中身を確認せずに仕切りを入れたならない事もないとは思う。その代わり見つける手間はかかるんだよな・・・。
なんにせよ今回はセーフスペースの発見と掃除が目的なので、セーフスペースが見つかれば後はゆっくりと探せばいいか。進化したモンスターを倒した後はカメラを再セットしてモンスターを倒しているが、ドレスもかなり破けたし完全不意打ち狙撃と言うか小型モンスターの特攻で腹にも風穴を開けられた。
ただちょっと恐いのは貫通する前にキャッチしたらモンスターが死んだ事。元々針を刺すと刺された先が消える様な身体だが、モンスターまで消えるのかよ・・・。クリスタルも出て来ないしアブザが消したのか?それならいつの日かは分からないが見つかるかもしれないし、その日は永遠に来ないかもしれない。
なんにせよコレも1つの手段として考えておこう。やりたくはないが手榴弾飲み込みで無力化出来るなら飲まない事もない・・・、その前に魔法でどうにかするな。そんな64階層を突破し65階層へ。
「音声記録開始、65階層へ来た。予定ではここか次がセーフスペース予定となる。今の所モンスターは発見出来ないが、潜んでいる可能性もある。油断せずに周囲を確認しつつ探索を行う。以上、音声記録終了。バイト、何かいるか?」
(分からないが懐かしい気もする。)
「懐かしい?ならお前はこの辺りから来たのか?」
(わからない。)
スマホを取り出して確認しつつバイトに話し掛けると思いも寄らない返答が。懐かしいと言うならこの先の何処かからバイトは出てきたのか?そうなるとこの付近にはバイトクラスのモンスターがゴロゴロと・・・。負ける気はないがここがセーフスペースだといいな・・・。確認したスマホも圏外だし。




