662話 変わる世界 挿絵あり
望田に1週間程度休暇を取って貰いつつ日々の業務をこなして行く。宇宙にいた間も仕事自体はしていたのだが、若干あった浦島太郎感も消えて行き精力的に他の本部長達とも話している。大きな話題としては宇宙からのメッセージ受信者どうする?と言う話があった。
本部長達と言うか中位やら最適化された人、職に就けた獣人の一部は『大丈夫』と言うイメージを感じ取れたのだが、それ以外にも下位で感じ取れた人もいた。個人的には別に感じ取れたからどうと言う話はないのだが、一部から中位に至る兆しなんて言う話が出てしまったから質が悪いし、更にタイミング悪く本当に中位に至った人も出てしまった。
そして世論である。厳密に言うと日米中露以外の国。台湾と英国は中立と言うか話に乗ってこなかったのだが、そもそも冷戦するほど仲の悪い米国とそれに追随していた日本に対して中露が大幅に譲歩した様に見える宇宙からの騒動で、大国間で何かあると言う陰謀論が出回り、それが明確に中位になるプロセスを見付け頭を下げて共有してもらったのでは?と言う話に行き着いている。
更に拍車をかけたのが中露の日本側への大幅な配慮。米国へも内情を知っているので若干の配慮があり、身近な所で言えば日本を題材にしたドラマやらアニメやらをテレビでバンバン流したり、ジャパンフェアなんかをやって友好と叫んでいる。悪い話ではないと思うのだが陰謀論って潰すのが難しいんだよなぁ・・・。
本来なら不都合な事実やら公表するにしても混乱を招く様なものを隠していると言うのが陰謀論で、中位に明確に至れるプロセスは四カ国で覇権取って分かち合おうと言う話に結び付く。普通に考えるならば中露外して日米でよくないか?と思うのだが、戦争回避の為に開示したと言われればそれなりの説得力もある。
元々国際会議で大まかな枠組みがある中での話なので、そんな陰謀論を話されれば信じる人は信じてしまうだろうな・・・。そんな話があるせいか日本政府に会談やらを申し込む国が倍増したと松田の愚痴が飛んできている。う〜ん・・・、至るプロセスは公表されてるし、それを自分に置き換えて目標持てとしか言えないのだがどうしたもんか。
幸いと言うか中位達自身は『そんなに簡単に至れるわけない。そんな無駄口を叩く暇があるなら自分と向き合いどうなりたいのか考えろ』と言う話で落ち着いている。ついでに面倒な話と言えば宇宙言語。光と波長なんかでイメージを送った訳だがそのやり方も開示して欲しいと言う国は多いらしい。
ただこの部分に対しては中露が敏感で他者に願うより自身を高める事を推奨し、それは文字通り至るプロセスと酷似する。未熟な我々ではまだ何一つ成し得ていない。過ぎた願いは身を滅ぼし、正規ルートである祭壇での交渉以外無理だと断定する。と話をだしている。まぁ、宇宙語分かってやる事と言えば他の宇宙人探すくらいだし、目の敵にされて痛い目みた中露としては次も同じ奴が来たらヤバいから止めると言う方針だろう。
「来週からゲートを潜るって話ですけど雲隠れじゃないですよね?」
そんな中でゲートに入るなら連絡くれと言うので松田と電話しているのだが、確かに雲隠れと言われても仕方ない部分もある。しかし、広大すぎるゲートの中は早くに捜索して遅いと言う事もない。
「違いますよ松田さん。祭壇探さないとまずいでしょ?私達は中層には足を踏み入れましたけど下層はまだ見てない。それを考えると少しでも進まないとですねぇ。」
「それは分かりますけど・・・。コアでしたか、アレの扱いどうされます?中露の発表もあり表立って聞いてくる国はないですが、日米中露で宇宙人と接触したのでは?と言う話は盛んですよ。まぁ、宇宙人と接触と言うか職に就いた時点で宇宙人に監視されているとも言えますが、その話は漏れてませんし。」
「火消しするくらいなら無視が一番ですけどね。佐沼さんと奏江本部長からR・U・Rへ盛んにハッキングかける国もあると聞きましたが、今の所全て撃退されてるみたいです。まぁ、そのせいでR・U・Rサーバーにはヤバいデータが眠ってるって話も出てますけどね。」
ついでに言うと肥大化するR・U・Rサーバーを宇宙に出そうかと言う案もラボでは出てるとか。秋葉原地下にサーバーは保管されているのだが、秘匿回線サービス等もあり地震起きて壊れたり再度スタンピード発生で壊れたりしたらまずいと言う話もあり、それなら宇宙で運用した方が増築も今後の未来を見据えてもいいのではないかと話が出ている。
まぁ、S・Y・Sの性能を考えると宇宙に置きたい気持ちも分からないではない。下手するとS・Y・S2号は移住目的でも実験施設でもなく大型サーバーコロニーになるかもな。S鋳物師も頑張って今のS・Y・Sを理解して外観の複製を作ろうとしてるらしいし。
「アレのほとんどは使用データとR・U・Rそのものを運用するプログラムと聞いてますけどね。それはいいとして、人員の選定はされてますか?」
「許されるなら1人がいいですね。そろそろヤバいのが出て来そうな気もしますし。」
「勘ですか?」
「ええ。秋葉原の最後の1。コレは中層のモンスターで米国でも中層のモンスターと銘打たれたモノは相当に厄介だったと聞いている。なら、先行調査として私が行くのが一番被害が少ないと言うか、損失をゼロに出来る。」
「損失・・・、中位でも死者が出ると?」
「買いかぶりすぎですよ松田さん。中位は確かに強く死にづらい。でも決して死なない訳じゃない。それに、誰かを守りながら戦うのは結構しんどいんです。」
足手まといにと言うわけでもないし夏目や青山、卓に雄二宮藤等は一緒に中層を進んでいる。つまり戦えるだけの実力もあり身体の秘密もバラしたので何一つ憂いはない。ないのだがそれと無事に帰れるかはイコールではない。戦争なら逐次戦力投入は愚策とされ大戦力で一気に叩き潰せば、その時以上の死者は出ないのだが、なら中位をまとめて中層に放り込むと言うのは愚策であり、員数外の不死者が大戦力で先行調査に行くというならそれは理にかなっている。
「しかしお一人と言うのはおいそれとOKも出せませんよ。せめて誰か連れて行きません?連絡要員でも後方支援でも・・・。」
「それって結局死ぬかもしれない所で1人置いとけって話ですよね?なんだかんだで私も最近潜ってないから本当に命の保証は出来ませんよ。まぁ、蘇生薬1本はあるので1回なら生き返れると思いますけどね。」
「それも出ない薬ですよね・・・。なら、せめて・・・、そう!バイトとかいう犬はどうです?望田副長も借りて連れて行ったと言いますし、出土品か魔法で作ったのかは知りませんけどそれなら連れていけるんじゃありません?」
「バイト・・・、それならいいですよ。」
元からバイトは連れて行くつもりだったし、多少は案内出来たり見た事あるモンスターがいるかもと思っていた。今の所は新人が増えたからと1〜15階層付近を走り回らせていたが、連れて行っても支障はないと思いたい。まぁ、一部ではブラックドック=助けのヒーローなんて言われていて見付けたら後を付いていくと生き残れるなんて言う噂にもなっているが・・・。
それを逆手に取った新人サバイバーが、隠れて付いて行って本人が戦えない様な階層にまで足を運んでいるとかいないとか。真偽の程は不明だし死人に口なしで、死んでしまえばそんな話を広める事も出来ない。まぁ、上手くやる奴はやってるんだろうな。生き残ってなんぼのサバイバーだし。
「犬にOK出して人にNG出すとは思いませんでしたが、バイトと言う犬は本当に飼い犬でいいんですよね?各本部長達やエマ大佐からも信頼されてますけど。」
「厳重に首輪をつけたパートナーで犬ですよ。私の飼い犬はモンスターに対して凶暴です。多分主人に似たんでしょう。そう言えば、種子島の宇宙ステーションどうするんです?エマもそろそろ引き上げると言ってましたけど。」
「アレですか・・・。中露から日米に対して内々の話がありましたが、宇宙技術の発展と言う観点から日米中露共同で宇宙開発技術の未熟な国に公開しないかと打診がありました。」
「ほう・・・。それってアレですよね?出がらし技術だから公開しても痛くも痒くもないし、オープンにする事で何もなかったと言う話を広げるってイメージ戦略ですよね?」
更に言うなら仲良しカルテットアピールとか?調査しましたされました、何もなかったから共同で技術開示@調査報告書を添えて。確かに中露のイメージは今の所かなりよろしくない。永遠を目指すのはいいとして、それがどの程度他国に受け入れられたかは微妙なところだし、過去からの威圧的な態度に対して反発する所も多い。
実際ロシアの周りは仮想敵ばかりだし、その奥にある中国とは仲がいいがその先には日本がある。言ってしまうと中露は板挟み状態でチャンが言った様に大人しくする、或いはイメージ回復して発言権を増すと言うのが優先されてくる。
そんな中で四カ国共同開示と言う話を出せば他国としても一定の評価は出さないといけないだろうし、仮に反発するならその四カ国相手に戦う事を想定する羽目になる。内情的にはそこまで仲良くせず距離を取って置きたいのだが、アチラがバンバン仲良しアピールして来きたら国としては否定もしづらい。
これが恋愛ゲームとかなら『いや、近寄らないで!』で済むんだろうけどなぁ・・・。いっその事Quartett!繋がりで演奏とかする?多分日本はスウファ枠で若干の人間不信ではありそうだが・・・。
多分これも人類全体でレベルアップすれば宇宙人の技術使えないかとか言う長いスパンでの戦略なんじゃないかと考えてしまうな・・・。
「そうとしか受け取れません。しかし、ここでまた無視をするとある事ない事叫び出す。国同士は一定の距離を保ちつつもステーションは公開と言う流れになるでしょう。飛行ユニットの技術開示はあったとしてもS・Y・S内部構造は公開してませんから、既存の酸素発生装置なんかのデータは欲しがる所も多い。」
「政府がそうするなら任せます。そもそも私は本部長でゲート関連では働きますけど、国同士のやり取りやら政治家の腹芸には基本的にノータッチですよ。」
「またまた、これだけ要人や国外政府の主要人物と話してるんですから今さらそれはですよ。まぁ、そう言うスタンスと言うのは分かりますけどね。」
「分かるならわざわざ口に出さない。確かに政治家と言うか大統領やら女王陛下とも懇意にはしてますけど、それは一個人で肩書なしとしています。さて、ゲートに入ると言う連絡もしましたし長丁場も予測されるので、連絡ないからと捜索隊派遣とかやめてくださいよ?」
「さぁ?行く人は行くでしょうし、行かない人は行かない。その辺りは人望がモノを言う。まぁ、聞かれたら答えるとしましょう。」




