659話 目的を持たせよう 挿絵あり
「留守にしてる間に様変わりと言うか知らない顔も増えたね。お土産足りた?色々買ってきたけど。」
「新しい職員が増えましたからね。特に留守中に問題は発生しませんでしたけど・・・。お土産は大丈夫です。いいお酒もお摘みも堪能させて貰いました。」
「けどの部分が気になるけど本当に大丈夫だったの?」
「新人が増えると特有の浮ついた雰囲気はありましたね。専属の方達は自分の時間で動くからそうでもないですけど、職員となると制服に着せられてる感と言うか初々しさと言うか・・・。研修もして知識的には大丈夫でも初めての社会人だから先輩に聞く場面は多かったですね。まっ!それも一月半過ぎて様になってきてましたね。」
妻は休みで長い間留守を任せた望田にも休みをと話したが、ある程度引き継ぎをして昼から休みと言うかたちになった。不在の間は神志那や神近と順繰りに休んだりもしていたのだが、どうしてもマスター判断が必要な場合は呼ばれもしたと言う。
書類仕事と言うかPCで行う業務やリモートで出来るものはやっていたのだが、どうしても現場での判断が必要なものもある。例えばドッグタグにICチップ入れて多機能性を持たせると言う話しを政府発案で検討していたのだが、それの試験者誰にするとかそれの機材どこに置くとか。
ギルドには鍛冶課があるのでそこに任せると言う話で落ち着いていたのだが、そこにこれまた政府から『魔術師:雷ならデータいじれるよね?』と言う話が出てICチップの機能どうするの部分で難航。確かに魔術師:雷ならいじれる。しかし、経済活動の活発化を見据え、タッチ決済限定のクレジット機能を持たせようとしていたので各カード会社も乗り気だったし、政府のHPにもスィーパーからの声が多く早期実現に向けて動いていると記載したものだから引っ込みが付かなくなった。
PCと言うか電気式ネットワークの脆弱性とスィーパーの能力に対してどう対応するのかの議論は早くから行われていたのだが、何が最善で何が次善策と出来るのかと言う判断は難しく結局はペーパーと橘なんかの鑑定師に頼ったり、魔術師:雷を育成して対応すると言う話に落ち着いた。なので通帳記入はこまめにしないといけないし、銀行使わずに指輪貯金が最善と考えるスィーパーも多い。
銀行窓口のロボット化による業務の効率化と言う話もあったが、ロボットも操られれば手に負えないし結局人の目と言うものの有用性は揺るがない様だ。
そんな中でICチップを入れるので、かなり慎重な判断をしないといけない。まぁ、そのタッチ決済以外にも負傷歴やら緊急連絡先やらを入れる予定なので仮にモンスターとの戦闘で表面が削れても読み込める可能性はある。ギルドとしてはゲートに入るならドッグタグは首から下げとけと言っているが、なくしたらまずいと指輪に入れてる人もいるのよね・・・。
ただ各国に配った旗に『悪い事するな、見てるぞ〜』と魔法を込めたおかげが犯罪率はそこそこ低い。一説によれば犯罪学者の予想では電子管理されるデータの改ざんやらハッキング犯罪は増加し、新たな情報処理伝達システムの構築が必要になると発表され、新たなシステムを模索しつつ構築しているらしい。
ただ文書や映像送るなら魔法の受け渡し対応でもいいのでは?と言う意見も多いらしい。確かに渡した魔法の改ざんは聞かないので安牌ではあるのかな?サイラスの言う設置魔法をペーパー化しスクロールにでもすれば割といける?英国辺りはもうそこを研究してそうだな。杖も作れてるし。
「新人だけど他人から見れば1職員だからね。一応、研修生の名札はつけてるんでしょ?」
「ええ。甘える訳じゃないですけど、あれば相手としても多少は態度が柔らかくなりますし、カスハラのポスターとかも貼ってますよ。」
「ギルドはスィーパーのサポーターだから極力ミスなく、ミスがあれば早期に申し出で修正する。地道にコツコツやっていくしかないね。」
そんな話しをしながらマスタールームへ。相変わらずペーパーの書類は多いが、ローカルネットワークのPCでも扱えない様なモノはペーパー処理となるし、個人情報保護の観点からもそうならざる負えない。高槻のタイプライターが多少羨ましくも思えるが、日本語対応のタイプライターなんでキーがいくらあっても足りないし難しい話である。
「書類は処理していくとして青山は?」
「青山ですか?そう言えば今朝は・・・。」
「お呼びですかクロエさん!空よりも遠い所からのお帰りを待ちわびてました!」
「おぉ!そうかそうか、ならちょっとつらぁかせや。」
「何時間でもどうぞ!」
「え〜と、席外しましょうか?」
「ごめん、来て早々で悪いけどお願い。コイツとは一度じっくりと話す必要性がある。」
結果を考えるならば・・・、そう!結果だけを考えなら青山と言うか奉公する者は悪い働きはしていない。少なくとも手に負えない様な宇宙人が受信すると言うか地球に来る前に信号を受け取って信号発信を止めさせたし、その結果中露の呼び込み政策は頓挫して大人しくする方向に舵を切った。
更に言えば不死薬の出所が中層と言う話もチャンにしたから中国はそこを目指すだろうし、掃除の進捗を考えると中国のマンパワーはありがたい。更に言うならその中国に同調しているロシアも引きずられ中層を目指す。別にスィーパーが中層を目指していないとは言わないが、明確な目標を持たせるのはやる気にも繋がるし、中層の掃除はスタンピード抑止にも関わってくる。
ついでに言えば大規模宇宙ステーションも地球に降ろしたので宇宙への歩みは多少遅くなり、隠れてコソコソ宇宙ですると言うのはやりづらくなっただろう。だが・・・。望田が席を外し煙でさっさと防音して外からの視界もシャットアウト。青山は相変わらずニコニコしているが怒られると思っていない・・・、だろうな・・・。奉公としては何一つ悪い事をしていないと思ってるだろうし。
「先ずは・・・、どこからがお前の奉公だ?いや、聞き方が悪いな、今回の中露宇宙ステーションの件はどこからお前と奉公する者は関わっていた?」
「宇宙ステーションですか?アレはほとんど関わってませんよ?」
「ならどうしてこうも早く動ける?何かしらの情報を得て動かなければこうも早く対処できないだろう?情報源はなんだ?中国に渡って何かしらの工作でもしたか?」
「いえ?ゲート内でスパイとは会いましたけど中国まで行くのはちょっと離れ過ぎて嫌です。元々宇宙人を呼び込もうと言う動きは国際会議でもありましたし、そんな話があればクロエさんの望まない方法を取ると思い奉公する者は見ていたそうです。そして案の定呼び込もうとした。」
「ならステーションの欠陥は?最初から落とすにしてもそう都合良く欠陥はでらんだろう?」
「積極的サボタージュですよ。増田さんに預けてるスパイ達は欠陥品を作らせたり、故意に完済品を欠陥品にして運用したり、或いは開口サボタージュして有能な指揮官を左遷させたり、出来のいい物を批判して悪口を流したりしてます。当然組織立ってやってるから故障品が出てもバレにくいですし、軍からの依頼なので何%の不良品率を認めるなんて話も通りやすい。俺がやったのは精々消極的サボタージュが足りないから宇宙開発を遅延させようと焚き付けたくらいです。」
話を聞く限りだと可能と言えば可能。そもそもサボタージュしろと言ったのは俺だし、情報持って来いと言って増田に預けたのも俺。その増田から奉公する者が中国にブチ切れてると言うのも聞いたが、大人しくしていろとも言った。
えぇいクソ!確かに奉公する者も青山も大人しくはしている。物理的な被害は出てないし、表立って動いたのはスパイ達でやった事は焚き付けただけ。そもそも不良品率を認めると言うか、大量に物を作ればその分不良品は出る。そして中国の不良品率は一般的に3割である。つまり100個作れば30個くらいは何らかの不備がある。
流石に最近は職もあるので不良品は少ないが、それでも発注した軍から何%は不良品でいいと言われれば発注以上の数を作り大丈夫な物を納品すればいいと思うだろうし、出た不良品率を確認するから寄こせと言われれば拒否も出来ない。
そして軍に渡り検査したこれを使えと不良品を混ぜて渡されれば、宇宙ステーションを作る会社としても使ってしまうだろうな・・・。特にネジなんて言う大量に使う部品なら全件検査なんてせずに抜き取り検査で済ませるだろうし・・・。
「その焚き付けで地球に宇宙ステーションが流星群みたいに落ちる所だったんだぞ!そうなったらどうしてくれる!」
「えっ?おいコラ奉公する者。お前傾けて何も無い海に落とすとか、軌道をずらして他の人工衛星にぶつけて地球に落ちない様にするって言ってたよな?」
(うむ、あの原生生物達が粘ろうとも数日内には他の飛行物体の直撃により裁断化されつつ大きく軌道がズレ吹き飛ぶ。海面に落下したとしても、落ちる過程で燃料による爆破が生じ大半は四散し残りも害のない範囲で作った国へ落ちるぞ?本来なら破損せぬまま落とし大被害をもたらしても良かったが、流石にこの星の中で大被害を出せば笑い半分では済まされぬ。すまされ・・・お、思い出した!おやめくだされ!そんなに刻む様に分割されては吾としても!いや、更に奉公出来るぞ!吾は認められ分割されて更なる奉公の高みへ!ありがとう青山、吾一人では出来ぬ奉公も数があれば!)
「落ちても大丈夫みたいです。」
「端折るなボケ!その一言で私は納得せんぞ!」
青山が聞いた内容を話させたが奉公する者的にはリュウ達が死のうが死ぬまいが関係ない様だ。まぁ、万人に対する奉公ではなく個人に対する奉公なのでその考えも分からんではない。そして、奉公する者は魔女の本体が楽しければいいと、俺やら魔女の優先順位は1段落ちる。
やはり青山本人を御して上手く扱う必要があるのだが、この頭の痛い奴をどうするのが最適なのか?常に側に置いても煩わしいし、目的を持たせるのが1番か?例えば何かを取ってくれば俺が喜ぶと言えば青山は喜んで取りに行くだろう。しかし、今欲しい物って何かあったか?
「まず、作戦を立てて行動を起こすなら先に報告する事。」
「今からスーパーに行って新鮮な肉と野菜を買って炒飯を作るとかでも?」
「そんな報告いらんわ!必要なのは今回みたいに大事になる場合だ。飯なんて勝手に食ってろ!」
「でも手作り弁当を渡すなら献立を考えて買い物をして美味しく頂いてもわらないと・・・。」
「手作り弁当を私に渡そうとする時点で却下だ。そもそもそれは今回みたいな大事ではないだろう?」
「すいません、今回のは些事で弁当を作って渡すのは全身全霊をかけるべきものでした。」
優先順位がぶっ壊れてやがる。確かに本人がした事は些事なのだがその結果は些事じゃない。どう言いくるめるかな・・・。放逐するのは論外でやはりコレと言う目的を・・・。
「不死薬、不老薬を探せるか?人から奪うのではなくゲートから。」
「薬ですか?それはまぁ、モンスターを倒しつつ箱を回収すればそのうち出るとは思いますけど。」
「よし、その2つを10本づつ見つける。1日のゲート内滞在時間は長くて6時間。私から用事があって呼ぶ時はこの限りじゃないが、それを私への奉公として動く。いいか?活動範囲は大分ギルドで期限は区切らないから慎重に行う事。そして、スパイへの接触は控えて仮に私への批判を聞いてもスルーする事。」
「捜査はいいですけど批判スルーは・・・。」
「いいんだよ、顔も知らない誰かが悪口言ったとしてもどうでもいい事だ。面と向かってモノを言えない弱者の戯言程度笑ってやれ。批判の報告は必要ないからな。」
エゴサと言う言葉があるが、ネット初期からPC触ってる人間からすれば隣のクラスの名も知らん奴がなにか言ってる程度にしか思わないし、そもそもそれを気にするくらいなら最初から調べない方がマシである。批判に対して本人としてコメントすれば更に揚げ足を取ろうとするだろうし、そんな意見があると思うくらいがちょうどいいし、スルーを推奨する。結局、少数の意見だろうと多数の意見だろうと耳に入らなければないも一緒だろう。
「分かりました、薬の捜索を頑張ります!」




