閑話 130 不死者とは
ツカサは大分へ帰り私は現場指揮を任され種子島へ残る。しかし、それも後数日の事で引き継ぎが終われば大分行きとなる。そんな中でアライル達と会議するのはツカサがいないからなのかな、はたまた単純に必要だからなのか?S・Y・Sで本人が暴露した話は少なくとも日本を除く3カ国には衝撃的だっただろう。
いや、下手をすれば日本政府にもバラさず黙っていた可能性もある。そもそもこの話をバラすとしても下地がなければ異常者とされるだろうし、何処からが本人で何処からが職かも判断がしづらい。配信当初は暗示による演技、何処かの時点でもやはり演技。なら、職とツカサが入れ替わるタイミングは極稀なのか?
元々掴み所のない人物とも言えたが更に掴み所がなくなったな。いや、3人で話して結論を出しているからそう思えるのか?前に米国でウィルソンと話している時にプロファイルしたがツカサの演技力はアカデミー賞ものと言っていたが本当に入れ替わっているなら演技ではなく別人だと言える。
そんな中でこうして籠もって専用回線で報告を含めた会議をしているが、何をオーダーされ何をしろと言われるやら。しかし、私もあの暴露以降、自身の職を呼んでみたがうんともすんとも言わない。寧ろ、あれを聞いた橘もやってみたと言うがダメだと言う。何処までがツカサの言葉で何処からが職なのか?雰囲気がガラリと変わるので見れば分かるがその外見に騙されてもまた足元をすくわれる。
「NASA側の調査はどうだ?」
「外観と内部調査を行っているがオーバースペックな物は見つかっていない。送信データを記録した物は斎藤が取り外し、藤が一応ウイルス等の検査もしたが発見は出来なかったと言う。但し、藤のイメージ的には詳細に記憶媒体の調査は出来ないから本格調査はもう少し時間がかかると言っていたな。なんでも、今の記憶媒体の状態は寝ているだけのモノしかイメージ出来ないとか。」
「仕方ないだろう。PCギークでもなければ本格的な調査は厳しい。米国でもその辺りは育成案件の1つとも言える。不用意に接続して内部データが破損でもしたらかなわん。」
「そうだね。まぁ、日本ならその辺りも上手く出来る人間がいるだろう。例えば奏江本部長とか、ファーストさん本人とか。そもそもファーストさんに解析依頼はしなかったのかい?」
「本人が解析したらイラッとして消してしまいそうと言うのでな。本気で消すとは思えないが、暴露後にそれを言われるとお願いするのも難しいさ。」
「過去の実績を考えるに下手をすると鑑定術師さえすり抜けるかもしれんしな。」
「その点は分からん。そもそも魔法の鑑定が難しいと言う話もある。ドゥの状況は?」
「米国にいる魔術師達の鑑定をやらせてみたけど良い状況とは言えないかな?ただ前には進んでいるよ。魔術とは放出されたイメージの塊である、それもかなり強固なね。多数の研修者やドゥの発言からの推測になるけど間違いは多分ないだろう。ただ、その放出されたイメージと言うのが問題で、攻撃性をイメージしていれば当然それは攻撃だから接触しようとすればダメージが出るし、隠蔽をイメージしていればある程度隠せる。ファーストさんのイタズラが発見出来たのはイタズラであり見つけてもらう前提だったからかも知れない。」
ペンタゴンでのイタズラは発見されればそのまま鑑定術師出現の知らせに繋がるか。発見されなければデータは持ち去られ、解除されればそれは発見出来る人間の誕生を示す。どちらに転んでも本人にはダメージのない罠でプラスにしかならない。仮にこの件で抗議をした所で好きにして良いと言う免罪符は渡してしまっているのだしな。
「しかし、それは私のトラップにも言える事だろう?無から有を生み出す。それこそベアトラップもドローンも銃弾にしてもそうだ。」
「そうだけどそれは実際にあるモノをイメージして固めているだろう?魔術師の場合現象を発露させると言う部分で多分プロセスが違うんだよ。例えばエマ、君がモンスターを切るならナイフや断頭台を使う。しかし、魔術師が魔術でモンスターを切ろうとするなら魔術を使用して起こる現象をイメージする。まぁ、初期の米国はその辺りのプロセスが未熟で魔術をかなり無駄にしてしまったけどね。」
アライルが苦虫を噛み潰した様に言うが、後退せずに前に進んでいるならいいだろう。今は蓄える時間で急かさず事実を積み上げる時だ。確かにツカサに指導されれば飛躍はあるかもしれない。しかし、それは同時にツカサに勝てる存在の出現を消す事になる。
EXTRAに中位が勝てるのか?現状難しいとしか言えない。人数を揃え特定の条件下でなら参ったと言わせる事は出来るかもしれない。しかし、ツカサにとって負けると言うのは特にダメージとはならない。赤峰が言っていたが増田がツカサに赤峰と戦って欲しいと申しでたら躊躇なく降参したと言う。
絶対に負けられない戦いと位置付けるならそんな話はないのだろうが、そもそも本人が強さや最強と言うモノに興味がない。あくまでゲートを受け入れたと言う義務感と家族を守りたいと言う誰にでもある感情で動いている。
そんな話を元に国際会議後にどうやって暴走したツカサを止めるのか?が話し合われたが、最適解として本人から助言を受けず且つ、全く想像出来ない様なイメージを使うしかないと言う判断になった。まぁ、それも初会敵で無言で確殺を狙う。・・・、それはもう私達が相手をしているモンスターと変わらない。寧ろ封印方面も検討されたが封印した所で食い破られる未来しか算出出来ず、更に言えば仕事から解放されて下手をすれば引き篭もり万歳と言い出す可能性もある。
「その話を聞くと私よりクロエや魔術師の戦闘速度は遅いと感じるな。しかし、実際は遅くもない。現象をイメージすると言っても相手に対してあり得る現象を考えるならば、何を持ってモンスターにダメージとする?」
「それは簡単であって難しい話だな。捕捉し対象を観察して事を成す。ディルはモンスターを攻撃するなら金属的な部分よりも肉感的な部分を攻めると言っていた。まぁ、相手がフルメタルなら中に入り込めればいいと言うし、金属なら錆びるだろう?ステンだって傷付けば錆びる。」
理不尽の度合いを考えると誰でも理不尽だが魔術は更に理不尽なのだろう。思考し、妄想し、空想し、操作し、具現化し、法を破る。破った末に魔法を渡し杖を作りとやりたい放題ではある。銃弾を信じる軍人だったが信じるモノは自分とその思いくらいしかなくなるな。
「そうそうドゥが言うには1ついいものもあったそうだよ。」
「いいもの?」
「初めて大使館に招待した時に貰ったお土産だよ。研究に回されてもうなくなってもおかしくない代物だけど、アレだけはカラフルで楽しいそうだ。」
「確かパーティーとか言ってたしな。それを見てドゥが踊り出したら殴って正気に戻してやれ。楽しい時間は終わりだとな。」
「さて、ステーションの報告以外にも話す事がある。クロエが中露の大使と接触した。内容は貸し借りの話しだが他に何を話したかは分からない。」
「お前でも情報収集は無理だと?」
「ロシア側にそこまでの危惧はない。それは米国政府としても結論が出て注目する対象は中国としただろう?地理的な要因にしろ人口的な問題にしろ今のロシアは中国に飲まれる可能性が高いとしてな。その中国側の大使はシェルターに入っていて直接接触は避け、クロエもそれを良しとしてゲート内で話した。」
「プロパガンダに引っかかるとは思えなが・・・、何を話したかは本当に?」
「流石にここで指揮をしていたし同行を申し出ても拒否されるだろう?2度ほど会った事以外は不明だ。」
「まともである事は信用するにしても何を考えているかまでは分からないからね、特に彼女は。引き続きそちらにいる間は頼むよ大佐。米国としては彼女側に立つ。でも、立つにしても何の準備もしないのは愚の骨頂で笑われる。」
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ヘリにシェルターが固定され一瞬の浮遊感が身体を襲う。日本で彼女と話、薬を買い付け祖国に帰る。企業主義者としては間違いではないし祖国のクローン技術は高い。ゲート様々で表で出来ない研究はゲート内ですれば文句も出ない。
人体パーツの交換。例えばDNAを提供してもらい治癒師と回復薬で高速培養して不全な臓器を交換する。再生医療の極地とでも言えばいい方法ですが、回復薬で事足りる為に出資は減り薬を買う方にシフトチェンジする者が増えた。
私だってクローン技術は有用だと考えていますが、それの使い道となると頭を悩ませる。いくらクローンを作ろうと記憶は引き継がれない。それは事実としてDNAは同じでも自我の芽生えに対して経験がないからで、結果だけ見れば成人の肉体を持った赤子を作るに等しい。
最も、ゲートが出る前の永遠を目指す方法としてはその肉体に脳を移植するのが最適として研究していましたけどね。同じDNAなら拒絶反応もないと言われていましたし、ゲノム治療を行えばより良い状態で生きる事が出来る。そもそも自分が自分を生かすた為に自分を殺すのが何故ダメなのか?
倫理観なんて言う幻想を捨てれば肉塊が1つ増えて、新たな人が歩みだすだけです。自殺する権利があるならこれは自殺でありそこからの蘇生でしかありません。まぁ、それを宗教が拒否したとも言えますが・・・。仮に世界が狭く祖国しかなければクローン技術は更に発展していたでしょう。
「宇宙ステーションは残置でよろしかったのですか?早急に検証を終えろと抗議も出せましたが。」
「アレは抜け殻です。データは祖国にあり日米が今更調べても目新しいモノはありません。返還要求を出したとして帰って来てもゲートに投げ込むだけ。そもそも宇宙人からのメッセージは我々には過激だ。死蔵してもいいですが、何かの際に使うにしてもバレれば面倒が増えるだけですよ、チン。それよりも、貴方はこれが欲しいですか?」
壁越しにチンに不死薬を見せる。鑑定結果は間違いなく不死薬で私も飲んだからそれと分かる。国内に欲しがる者は多く、しかし出土量は極めて低く飲んだとされるスレイシスは秘密裏に観察していますが目立った変化は今の所ない。日々贅沢に飲食し映画を撮るとして主役をすればスタントマン無しで撮影し、銃弾で撃たれても死なずに歩き出す。
まぁ、痛みもあれば排泄等の代謝もある様なのでそこは気になりますが、それは何時まで続くのでしょう?不死とするなら死なない。そして、ファーストも改造され不死となったなら我々も飲めば何れああなる。容姿は別として不死の行き着く先はファーストと同じ様なものではないのか?
しかし、その考えはファーストの考えとは反する。不死を望みその不死のかたちとは何か?確かに不老も寿命も薬があるなら全て飲むのが道理でしょう。これは盲点と言うよりも誰もが目を逸らしたい事実なのではないでしょうか?不死だから永遠を生きる。なら、その永遠はより良いものだと考える。
「不死薬!それは・・・。」
「取り引きで手に入れました。日本人と言うだけあって勤勉で素早い仕事です。・・・、今この薬の事は私と貴方しか知りません。当然販売なので支払いは発生しますが、貴方としても端金でしょう?飲みますか、飲みませんか?」
「私が不死・・・?これを飲む・・・、しかし・・・、いや・・・、だが・・・、でも飲めば・・・。」
「時間切れです。」
「なっ!の、飲みます!支払いも!」
「ダメです。買い付けるなら私以外からどうぞ。」
「何故だ!私は飲むと言ったぞチャン!金も払うと言った!何故ダメなんだ!」
「簡単な話しですよ。即答しなかったから、これが答えです。眼の前に永遠があるなら躊躇なく飲むと即答すればいい。しかし、貴方は迷った。それでは永遠を生きる上で後悔する事の表れです。考えたのでしょう?自身の衰退を。」
「それは・・・、しかし衰退しなければいいだけだ。私は上手くやる。そう自負している。」
「そのプランがないのでしょう?ならやめておきなさい。」
「持つ者が持たざる者を語るなよ?」
「なら、私の実験に付き合います?」
「どんな?」
「人体を頭から真っ二つにしてその二対を増殖再生する。その際どちらが本物でどちらが偽物なのか?そして、どちらに魂が宿るのか?左右の脳で機能は違うとされていますが、スィーパーの脳は海馬が肥大化し左右の脳で機能的な違いはほぼない。左脳派右脳派と言う言葉は確かにありますけど、国民を使ったテストでもそれは証明された。つまり、2人の自分が出来たとして両方不死なら・・・、どちらに職が表れどちらが職に就けるかも分からない永遠を歩むのか?そんな実験です。」
「クローンで試すのは?」
「それは16年後でしょう。成人の肉体を持つクローンをゲートに放り込んでも職には就けなかった。まぁ、赤子程度の知能では職は使えないでしょうからね。そのまま処理しましたけど、問題はその16年と言う数字で何が起こるか分からない点です。不死にはいつでもなれますが、サンプルケースは限りなく少ない。」
「私に検体になれと?」
ファーストに私の経過観察報告はするとして、やれる事はやりましょう。せっかく不死者が増えるなら自分でしたくないし検体としての仕事は任せる。それは売買による利益です。それに・・・。
「ええ。飲んで刻まれて分割されてどうなるのか?創作物でもよくあるでしょう?不死者は戦うと。さて、私と貴方が不死者だとしてどう戦いどう決着をつけ何を恐れます?」
「決着と恐れ?決着は相手を叩きのめせばいいでしょう。不死ならなにも恐れるものはない。精々落ちぶれる事だけだ怖いのは。しかし、それもまたコントロールすれば済む。敗北などない。」
「さてそうでしょか?チン、貴方は不死を・・・、不死者を吸血鬼やキョンシーだと考えていませんか?暇だから領土を奪い血を吸えば逆らう事のない存在を生み出し悠々自適な最強種なんて言う幻想を持ってません?」
「それは・・・。しかし、国民は兵でそれを動かせる我々はそうなれる。」
「無理ですよ。それこそS・Y・Sの様なコロニーを買い付け外部情報を遮断して引きこもっても無理でしょうね。不死者が真に恐れるのは子供で決着は相手を落ちぶれさせる事。武力はひとつまみでいい。悠久の時を子も産ませない空間で変化なく過ごす。不死者の争う機会は変化の中でしかないのですから、宇宙の彼方で永遠に1人で過ごせば争いもない。どうです無理でしょう。」
永遠を歩むなら取り残される事が何よりも怖い。それは変化に適応出来ず古い常識で古い仕来りを守り懐古主義者の様に日々を過ごしそれを守る。多分、不死者は両方に走るものなでしょう。争いを避けるか、傷付きながらも先を見るか。そして、ファーストは先を見た。その流れに私達では逆らう事は愚か気付けば流されている。ゲート然り、S・Y・S然り。
長く生きればそれだけ知識は増えますけど、その知識により子が生まれれば何れは追い越される。ふむ・・・、共産主義はやはり終りが近いか。富を分配している暇もなく私も資金を集める必要がある。少なくとも、生まれる子を根絶やしに出来ないならその子供よりも先に技術や知識に触れる必要がありますからね。
「私はこの薬を祖国で売ります。購入する際は勢いに任せ前を向いた不死者となったください。」




