657話 愚痴くらいなら 挿絵あり
「さてと、私はこれで。」
「仮の話を聞いてもらえますか?」
「いない友人A君の話なら知りませんが?」
「私がそのデータを提供する相手ならどうします?」
「別にどうも?どの時点で寿命の薬飲んだんだな〜とか、何本売ったからそれだけの人数不死者はいるんだなぁ〜と考えるくらいです。まぁ、こうして話している以上は知らない仲でもないので、長い人生を歩む上で愚痴くらいは聞いてあげるかもしれませんよ?」
若返り老人会も政治の話はご法度としつつ愚痴は言い合うらしい。まぁ、メンバーは今の所2人しかいないし多忙なのだが、それでも若返って苦労した事を愚痴るらしい。君主と大統領ならそれもやむ無しか。あんまりストレス溜め込むとハゲそうだし若返ったジョージがハゲたら・・・、向こうの人的には魅力的?割と外国人ってハゲをセクシーと感じるらしいし。
「愚痴る相手にはなってもらえると?」
「死なないんですよ?今愚痴っても100年後にあんな愚痴あったなぁ程度にしか思いませんし、逆に100年後に今の愚痴が出るとも思わない。悩みなんてものは今に対する不満であって未来に対するものではない。なら、それは世相と言うものでしょう?」
嫌な事があるから明日は来るなとは言うかもしれないが、それは確定した事実に基づいた嫌気で合って言うなればテストがあるから嫌だと言うモノ。出会ってもいない知らない誰かに対してアイツ嫌いとは言わない。逆に過去に対してはアイツがあの時こうしたから嫌いとはいくらでも言える。人の悪口は聞く気にならないが今度会議あるからめんどい程度なら聞かない事もない。
実際俺もめんどいししんどい。辞める気はない、でも寝て過ごしてもいいじゃない人間だもの。そんなポエムくらいは頭に浮かぶ。まぁ、なんにせよ長くを生きるなら愚痴る相手くらいにはなるかな?鬼電してくるなら着拒するが・・・。
「ふむ。なにか面倒なら話しましょう、あくまで愚痴ですが。それと薬は買いましょう。」
「話を聞いた上で買うと?言い方は悪いですが下手をすると恨まれますよ?」
「それこそ恨んでくれる相手がいてありがとうでしょう?永遠を孤独に過ごすなら精神も疲弊するかもしれませんが、大勢で過ごすなら日常と大差ない。恨み嫉み僻み憎しみに愛情友情友好は人の感情で個人に向けられ、少なくともそれを向けられている間は誰かが私の事を考え見ている。それは個の確立じゃないですか。それに、企業主義者は利益が出るなら何でも売るし買う。それはその不死薬もですし、恨みもですよ。」
強かと言うかめげないタイプと言うか。割とこの人損得云々も勘定しているがそれと同じくらい寂しがり屋なのかもしれないな。まぁ、それがどうしたと言う話でもあるし、これもまた演技の可能性もある。なんにせよ話は付いたしもし情報くれないならそれまでである。
「では今度こそこれで。」
「ええ、次はリモート宴会でも。」
コイツと酒飲みながら話すとか変に頭使いそうで嫌だが、勝手に飲んでる分には止めようもない。そもそもこのコンテナから出る気はあるのだろうか?そんな事を考えながら外に出る。ステーションの検分も進んでるし取り敢えずここで俺がやる事は片付いたかな?
「お話はすみましたか?」
「ええ。気になるのでしたら本人から話は聞いて下さい。では。」
チンに挨拶をしてさっさと松田達の元へ。飛んで帰ったがステーションをNASA側のスィーパーが縦横無尽に駆け回っている。昔なら何ヶ月もかかった検分もこの分なら早く済みそうだな。だからこそ変に発表やら声明が遅れると勘ぐられるのだが・・・。
「戻ったカ。」
「戻りましたけど何かありました?」
「外観的な検分は始まったばかりだが色々と分かるデータはあるそうダ。例えば当たったデブリは小型な物だが職での加工抜きにすれバ・・・、既存の人工衛星なら撃ち落とせル。どの点にも言える事だガ、学者からすればこのステーションを地球に降ろしたのは英断だと言えるだろウ。」
「外装面での技術的な発展や国際基準がまた生まれてきそうだ。まぁ、安全を優先するならそれもやむ無しか。」
宇宙開発は出来る人に任せるとして、微妙にスィーパーも関わるのが面倒な所。寧ろスィーパーが絡まない仕事が減ってるんだよぁ・・・。年齢としても16歳からなれるスィーパーは裏を返せば仕事を出来る年齢なら概ね何かの職に就いていると言える。だからこそICPOやらの話も出てくるし法律とは切っても切り離せない。
と、言うのもスィーパーに対する統一国際法的なものを作ろうと言う話が活発化している。と、言うのも協定拡大に端を発してスィーパーの行き来は活発化しているのだが、その国特有の法をどうしても把握しきれない部分が出てくる。それはもう国で勉強させてから送り出せと思うのだが、例えばガムを持ってたら法律違反とか、ファッションセンスの悪い男性の外出は禁止とか、雪男を殺してはならないとか、これから本当に必要になるかもしれないがブドウ園でUFOを止めたり着陸させたりすることは禁止なんて言う法律がある。
はっきり言うとローカル法律が邪魔してるんだよね・・・。本当にそれをするか悩ましい法律もあるのだが、美しい女性に限ったビキニ姿や、葬式と病院への見舞いのときを除き、常に笑顔でいることはイタリアらしいと言えばらしいが、仮に俺がイタリアに行ったらずっと笑顔を強要されるのかも。流石に守るべき法律ではあるのだがそんなに四六時中ニコニコもしたくないし、してないと何を言われるかもわからない。
まぁ、誰がどう判断するかは分からないが裏を返せば言いがかりも通用する訳で・・・。変な法律詐欺が増えてるらしいし、それを盾に強いと噂のスィーパーを取り込もうなんて言う動きもあるとか。そんなゴタゴタをまるっと解消して行く為にスィーパー法の話が持ち上がりローカルルールを踏まえつつモラルルール的な物を作って行こうと言う話が出ている。
思ったよりも早く国境は消えて国がまとまりだすかもな。それがどんな形で運用されて行くのか?今時属国なんて言う話はナンセンスにしても名前だけ残して法律が統一されて行けば単純に何々地域とかになりそう。
そうなると政治家はまた忙しそうだな。有権者=世界の人々、人口も微増と言うかスィーパーが死ぬ分子供を増やせと言う動きも大きいし、その分野で獣人は重宝されるし宗教関係者は生き残りをかけて動き出している。少なくとも土地問題は一応解決なのかな?
「S・Y・Sの扱いをこの後どうするかだナ。国際会議でその点も話し合われたガ、増えれば独立という話もあるどろうシ、何よりゲートをどう分配するかで話が変わってくル。世界的に見ても日本はそこそこのゲートを保有しているガ、過疎地域となるとゲートのない所もあル。天国の門となるか地獄の門となるかだナ。」
「S・Y・Sで地球と宇宙の境界で話した事を覚えてる?」
「色々話したがどれダ?」
「煉獄。地上で悪さして境界で清められて天国に行く。そして、天国で悪さをして地上に戻る。結局いい事をしても悪い事をしても人は行ったり来たりするだけで中々前へは進まない。多分、それは宇宙に出ても変わらないよ。まっ!だからこそ少しでもいい方向に進むしかないんだけどね。」
その方向が誰にとっていい方向化は分からない。でも、それを考えながら進むのもまた人生だろう。振り返るのは何時でも出来るから今はどこまでも続いていくこの未知を歩き続けていくしかない。
「米国人としては頭の痛い話ダ。割と宗教に縛られてそれを善悪の基準にしている奴もいル。そこが煉獄なら私達は今地獄にいる事になル。」
「だから天を仰ぎ宇宙に出て呼び込もう何て奴が出た。まぁ、大人しくしてくれると言うから信じるとしよう。私は後数日で帰ろうと思うけどエマの予定は?」
「まだ不明だナ。終われば大分に私も戻る予定ダ。」




