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街中ダンジョン  作者: フィノ


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閑話 127話 明暗

 電子機器が詰め込まれ情報も食事も個人としての暇潰しも、おおよそこの中で完結出来るだけの物が詰め込まれて運用出来る様に設計されたシェルター。いえ、永遠を生きる棺の方がいい?日本では即身仏なる宗教的儀式があると聞きますが、この中ならどれだけ生きられるのでしょう?まぁ、不死の薬を飲んだ以上肉体の維持に必要な物が何にかるかは分かりませんね。


「チャンさん、ファーストとの話は?」


「話すなら中で話しましょう、開封を許可します。アレは中々面白いし欲するくらい美しいと思う。」


 貸し借りの話からビジネスへ。そして望まれたモノは結局人。中々にして面白く人間臭さのある超越者。そう、人が人を超えてスィーパーとなりその中でも更に稀有な存在として表に現れた一滴の雫。神と言う物がいるならそれは中々に愉快なヨダレを垂らす。


 溶接された扉もスィーパーからすれば容易に開封出来、核シェルターと言う過去に作られた壁はその気になったスィーパーには・・・、ただの市民ですら破壊出来てしまう。我々が築き上げた技術は児戯となり、言葉で縛らなければただの鉄板としか認識されない。我々得意のプロパガンダは更に緻密に構成しなければ自身のコメカミを撃つ銃弾となる。


「何をファーストは欲しましたか?人も金も土地も技術も出せる物は出すと言う構えでしたが・・・。ないとは思いますが色香に惑わされたりは?」


「欲したのは第1に人ですよ人。他の物はあまり興味を示していないと考えられますね。色香は流石にこの中と外ではね。」


「なら用意しましょう。何人でも男女も獣人も区別なく。提示したカタログ全員でもいい。それが送り込めるなら日本国内でのパイプとしても使えるし、肉壁に偽装させれば更に動きやすい手駒が増える。我々は確かに人ならざる者を呼び込もうとして失敗した。だが、その失敗は明確にされていない。ならば表向きはただの宇宙ステーションの事故として処理をすれば・・・。」


「欲したのは2人だけですよ2人だけ。無欲なのか強欲なのか金貨も最初は2億でいいと言いましたね。表向きが救助活動とするなら安い額ではないにしても、宇宙ステーションを丸々破壊せずに地球に降ろして、それを暗に我々に買えと言う額なら安いでしょう?」


「確かに宇宙ステーションを日米に探られるにしても安い。中での事を暴露するつもりなら呼びかけ前に脅しをかけていなければ効果は薄く、呼びかけ後にそれを話しても遅い。脅威は去り今の日常しかないですからね。早急にその2名を手配して送るまでに色々と準備を・・・。」


「必要ありません。既にその2名はファーストの手の中にある。リー・フェイシャンにテイ・ユウファン。この2名に聞き覚えは?」


「リーは分かりますがテイは知らない。しかしリーは中国国内のゲートに・・・、まさか?」


「ええ。裏切ったのかはたまた何かしらの取引をしたのか、或いは別の事情かは知りませんがバレてますよ。それがどの時点での出来事なのか?さっきまで送られて来た情報を私含めて祖国でも再検証していましたが、それのどこにもおかしな程に瑕疵や違和感が見つからない。当然、工藤 結城と言う緩衝材として使った隠れ蓑にもそれは当てはまる。」


 淀みなく確信としてその2名を名指しで欲する。戦力を削ぐつもりか或いは本当に工藤 結城なる人物と親しいから欲したのか?寧ろ発覚した原因は何なのか?ファーストの考えは読みづらい。普通ならスパイとバレたなら排除する。


 情報は金でその金を砂金に変えて持ち出す泥棒は消してしまうのがいい。そうでないなら二重スパイに仕立て上げこちらが使う。飼い主をコロコロ変える犬は信用出来ないが、それなら最初から信用せずに使い確信を得る1つのピースとして考えれば済む話。人の忠誠など幻想で主の為に泥を被ったならその泥に塗れて大人しく死ねばいい。後から後から文句を言う輩はただの不良債権でしかない。だからこそ、私は企業主義者と言えるのですけどね。


「中位を失うのは痛い・・・、帰って来いと言う指示も今は出せない・・・、単純に寄越せと言うだけですか?」


「いえ?面白いのはリーにもテイにもスパイ活動を公認したと言う点です。」


「は?スパイ活動を公認した?明らかな罠では?我々の手管を学ぶ相手として選んだと言える。」


「制約はある様ですよ?厳密にはファーストのギルドに対して公認していると言っていました。ファーストが・・・、リーやテイを泳がせてなんの得になると思います?スパイと知り公認宣言までして得るものは、さてなんでしょう?」


「国ぐるみならやはりスパイの観察ですか?どうやって情報を盗み我々に流すのか?他のスパイとの繋がりを調べて芋づる式に全滅を・・・。いや、それなら我々にスパイを知っていると宣言する必要はない。寧ろ、宣言せずに闇で笑えばいい。なら国は関わっていない?スパイ活動を限定するなら現状、我々とファーストしかリー達の事を・・・。」


「その線は濃厚でしょう。2名以外の少ないスパイ達が消されたと言う話は聞いてませんし、活動区分としても接触する様な者はいない。寧ろファーストは私に我々がリー達のスパイ発覚の事実を知らないフリをしろ言ってきました。そして、その2名は日本人だともね。」


「・・・、やはりその2名は裏切ったのでは?日本人として囲われたなら誤情報を流し我々を撹乱する狙いがあるとも取れる。」


「それこそまさかですよ。仮にその2名が裏切ったとするならファーストが我々にその2名の事を話す必要はない。口を開かずただ誤情報持たせて走狗の様に走らせれば済む。さぁチン、頭を働かせましょう。ファーストという人物の精神分析は得た情報からしか出来ません。何故我々にスパイと知った上で情報を渡して来るのか?」


 公には協力出来ないから非公式。ギルドとしては日本式を採用すると中国内でも決定し資料も得ている。日本式ギルドを作り上げたとして、そこにファーストの息の掛かった人物がいるのかと問われれば悩みますね。いや、そもそもファースト本人が公式に海外に出たと言う話は、米国と国際会議の折に英国経由でスイスに来たくらいしか知らない。しかし、どの様な形であれファーストと英国はそこそこの近さがあり親交を結んでいる。


 海上を個人飛行して外遊していると言われればそれまでですが、ファーストの最大の問題点はその目立つ姿であり誰かと接触・・・、政府の要人と接触したとなれば話は少なからず出る。米国スタンピードの時は時間が少なく所在確認に手間取りリバティ島にいると言う情報しかない中で時は進み、義勇軍として工作した者達はすり潰される様にゲートへ入れられた。


「協力体制を作る架け橋として両名を使いたい・・・、とか?」


「それはファースト本人の弁ですね。公では協力体制が作れないからこれが限界。それと同じ結論に至ったとして納得して鵜呑みにします?ファーストと言う人物は三国志に例えるなら劉備であり呂布であり董卓です。」


「董卓?司馬懿や孔明では?」


「違います。人を惹きつける徳、個としての圧倒的武力、そして何より永遠であるが故にひっそりと進められる暴虐。まぁ、本人は暴走しないとしていますが、それは職を使わず虐殺せず排斥しないと言う話でしょう?排斥の反対は取り込みです。つまり、協力体制を築けば後は取り込むだけ。そしてそこには劉備と呂布がある。」


「まさか、我が国を取りに来ると?」


「国はいりません。ギルドですよギルド。国際的にギルドを作りそれを我々は国連を通じて操る立場に立つと言う構造もありましたし、それを盤石にする為にスタンピード時の出資金や機材準備等は国連として受け持つ。その構想を丸っと美味しい所だけ横から奪うとするならギルドを牛耳るのが一番早い。知っているでしょう?ファーストは政治には関わらないとして国会にも出ない。まぁ、政治家ではないので当然と言えば当然でしょうが、それでもギルドのマスターとして働き国からの要請には答える。そしてある時要請にNOをだす。そのたった一言で彼女は勝てる。時間は常に永遠を生きる者の味方ですよチン。貴方が死んでも私は生きる。誰が死んでも私は生き続ける。だから今はこれが限界でいい。」


 長くを生きる、それはミスをミスとしない長期的な計画を建てられる最高の手札。永遠を手に入れたからと言ってすぐに動く必要はないのです。人が死に時代が変わり移ろい行く時の中で最高の手札が来るタイミングを待つ。結果に至る道程さえ楽しめるならそれは何一つ苦にはならない。


「それは阻止出来るものなのでしょうか?」


「難しいでしょうし、無理だと考えて動くのがまともでしょう。貴方の死後にファーストが何をしても貴方は止められない。時代に逆行する行動を取れば我々がダメージを負い流される。だから、不死薬を発見したらこちらに渡すと言う手が私達の最高の一手となる。少なくとも生きて口を出せる立場の人間が多いなら文句も雑談も出来る。」


「不死薬を我々に渡す?そう言うビジネスですか?ファーストはそれを容認したと?」


「彼女はしますよ。既に永遠を自負して必要のないものです。仮に彼女自身が欲するなら最初の販売者にはならない。まぁ、複数所有すると言うなら話は変わるかもしれませんが、それでも親しい人の永遠を優先させると思いません?例えば彼女の奥さんに娘に息子とか。そういった親しい人にも渡さず売り払う。面白い人でしょう?いや、天女とでもいいます?宇宙から純白の衣まといて地に降り、宝貝さえ産み出す天女。」


「宝貝と言えば杖ですか。英国女王が所有するモノはやはり出土品ではなく・・・。」


「ファーストの作った物でしょうね。配信でも杖を作るなんてモノもありますし。難しいと魔術師達は言いますが、それでも試さないと言う手はない。さて、我々は要求を飲みビジネスの話も出来た。少なくとも嫌われていたとしても口は聞いてもらえた。融和政策を行うと共に邪魔なモノを燃やすとしましょうか。」


「邪魔なものですか?」


「我が国に不利益な歴史ですよ。さし当たって食品取引に関する過去の問題行為。そこから削除して行きましょう。相手は覚えていても我々にはその情報がなければ、後から生まれて来る者も知らないと胸を張って言える。」


 我々は我々として利益も掴んだ。そして、ファーストの狙いも大まかに多分見えた。なら、ロシア側はどうでしょうね?両国同時に話さなかった分、私も好きに出来たがそれはアチラも同じ事。馬鹿をやって本気で排斥されても私達には関係ない。



________________________

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



Чёрт! (クソ!)


 残されたプレハブに1人残された。忌々しい!何故私達に従わない!過去からそうだ!日露戦争では小国の分際で我々に勝利し、第二次世界大戦でも最後の最後まで戦い破壊され尽くし荒廃した島は今や戦勝国である祖国よりも発展し豊かに暮らし、更には忌々しいゲートなんて物をまともに進む戦力を揃えた。私が過去に戻れるなら分割統治計画に賛成し九州なんて言う小さな場所を貰えというだろう。


 今の祖国はかなりまずい。人口減少に資源輸出量の低迷に技術としても他国には勝てず脳足りんな若者はサブカルチャーとして日本のアニメや音楽を楽しむ。事実としてロシアの若者は親日派が多い。それがイメージ戦略故の結果なのかは分からない。


 最も国を思うなら祖国の為に働け。分配出来るだけの富は既に富じゃない。天然資源は既に外交カードとして役立たない、それは私が外交官として働く中で如実に示された。かつてならEU含め買い手はいくらでもいて、(祖国)は常に一目置かれ蔑ろに出来ない国だった。しかし、今は違う。


 ゲートから資源が出土し輸出に頼る国は発掘すればいいとスィーパーを育てる方向に舵を切り『どうか売って下さい』と言う言葉は『高いからいらん』と言う言葉に変わり果てた。なら自動車を売る?駄目だろう、世界シェアを見れば分かる。なら、宇宙開発技術を売る?駄目だろう、飛行ユニットはまだ作れていない。なら、なら、なら・・・。


 スィーパーを祖国でも育てている。中位も少ないがいる。しかし、日本よりも人口は少なく代わりに約45倍近い国土をどうやって維持する?中国と手を組んだのは近しい国として過去から見てもおかしな話ではなかった。しかし、今回の結果は散々で危うく文字通り世界から消される所だった。だが、それも過ぎればまた嫌な現実がやって来る。国として融和路線を取ると聞かされたが何を持って融和とすればいい?


 差し出すものはなくまともに話せるのは多分、今回だけだろう。その中で私達に目を向けさせ話しの糸口を作るとするならなんだろうと使う。日本から送還されたアガフォンと言う男は何らかの方法で洗脳を受けたと言う話があった。しかし、その手段は分からず行動を見てもおかしな点はなかった。


 日本から加納と言う中位が愛人としてロシアに来てからも来た後もアガフォンは仕事をこなし釣りを楽しむ。多分、そこで何かしらのやり取りがあったと睨んで情報を洗ったが既に遅かったらしい。仄暗い研究は抹消され関わった人間のリストも廃棄されて存在せず、記憶を頼りに探す中でファーストの娘、ソフィアと呼ばれた者とギリギリ似た人物がとある研究の被検体として参加した可能性があるらしい。


 私は外交官で知る由もない話だけど、それはカードとして使える。ソフィアについて嗅ぎ回らない。その代わり匂わせるだけ匂わせて注意を引く。人の命は盾であり私の様なインプラント実験をやるとほのめかせば、改造されたと言うファーストも含め日本にいるスィーパーのデータも出させる事が出来るだろう。


 しかし答えはノー、だ。配信やその他のメディア、分かる限りの行動から考えれば彼女は人の死を忌避している。過激に人体実験をするといい、一瞬の弱さから回復薬で回復出来ると言ってしまったが、それだけがノーの理由でもないと思う。


「ファーストは人の死を容認している?いや・・・、多数の死を容認して少数だけを見ている?しかし、ファーストはガーディアン騒動の際に未成年がゲートに入った場合のデータを欲しがったと聞いたけど・・・。」


 嫌な予想が頭を過る。仮にその考え方なら私達は切り捨てられる側だ。今回の主導は中国側と言ったがそれは間違いではない。しかし、それを何故止めないとも言われ容認した軍にもキリロフとか言う男にも殺意が湧いた。たった一言やめろと言っていただけでも心象は違ったのかもしれない。


 彼女はどちらだ?多数を助ける為に少数を切るのか、少数を助ける為に多数を切るのか・・・。トロッコ問題であり正当性を求めるなら多数を助ける。そして、ファーストは法の下に行動している。なら、自己犠牲で多数を助けるのではないのか?本人曰く改造され不死である。なら、犠牲は犠牲としてカウントされず改造方法が分かればより多くの人を助けられるとは思わないのか?


「分からない・・・、一瞬出会って話しただけでは分からない。なら、私達はどうすればいい?言われた報酬は出せる。でも、その先は・・・?」


 首の皮1枚繋がったと言うならビジネスの話は日本政府にしろと言う言葉だろう。融和路線・・・、やはりそれしかないと確信し祖国には報告をしよう。


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あの諜報機関が有る国がその程度の分析しか出来なかったか それだけチヨダ等の対策や誰も口を割らなかったと現実との差に悲しくなるな そもそもそんな博愛主義者なら今回の宇宙ステーション事件もやらなくてもsy…
不死であっても主人公とは違い壊れることはある。耐えきれないようなミスがない前提だね。
内部に超越知性住まわせて優越権限はあれども合議で行動決めてるクロエをプロファイリングしてもねぇ そういう意味では三国志の時代から延々とやってきてる中国の方が一歩正確にクロエの概要を理解してるな 後に活…
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