646話 やはり面倒 挿絵あり
「2度と助けない・・・、スタンピード時の協力体制は国際会議でも話し合われた。その際貴方はスタンピードが発生した際に参加すると言ったはずでは？」
「言いましたね。ただ、それがどの時点の参加となるかは言っていませんよ？何でもかんでも1人を頼って丸く収めるわけにも行かないし、貴国での対処方針もあるでしょう？スタンピードが発生したとして米国で被害を減らす方法は見せた。なら、それに習い自国に落とし込み戦えばいい。なにも最初から最後までその戦場に私がいる必要はない。」
「ふむ・・・、雑魚は死ねと言う話であると？」
「まさか、全てのスィーパーには至る可能性がある。そして現状を話すなら中層を進みスタンピード発生のリスクに対しても時間稼ぎを行っているし、私としても祭壇確保の為に奥へ行く必要がある。その点を踏まえるなら猶予はあると同時に私が奥にいて連絡手段がない可能性もあると言う事です。チャンさんはスィーパーと聞きましたがゲート内をどの程度進みました？残念ですが進めば進むほど通信状況は悪くなり退出ゲートがなければ出られない。」
一般論で言えば上昇アイテムの最上級は5階層分上がるもの。それ以上があるかもしれないし掃除をさせる関係上、それ以上は無駄とも考えられる。ある意味このアイテムも譲歩だと思うよ？色々なゲームで脱出アイテムはあるが、それはあくまでプレイヤーへの配慮であり面倒でダルい作業をさせてゲームを投げ出させない為。
そもそもRPGのなにがダルいってレベル上げやら難解な手順を踏まないと取れない隠し武器やら、中にはランダムで勝手にバトルするシステムなんかも。はっきり言ってしまえばストーリーに没入する事を望むなら雑魚敵は適正レベルなら登場しなくていいし、ボス戦は負けイベならムービーだけでいい。
確かにそう言った作業を好む人もいるのだが、個人的な話をするなら無駄な戦闘は極力避けて勝てるレベルならさっさと進みストーリーを楽しみたい。だが、これはゲームではない。確かに教材としてゲームは使えるが、それでもこれは攻略させる事が目標ではなくその過程が目標である。それ即ちモンスターの撃破。
感覚としてはRPGではなくFPSである。それこそフレンドリーファイア上等、理不尽な敵上等、命の軽さがマシマシな代わりに報酬に夢と希望を詰め込んだモノが出てくる。まぁ、タワシが出たら笑えばいいと思うよ？配信者がそんなイタズラ配信者をしてゲート内で半殺しにされたと聞いたし、ギルドとしても悪質だからやめようと言っている。
「ファースト氏個人が助けに来ないと？」
「さぁ？何か理由が合って参戦が遅れる事は十分に考えられる。それこそ輸送機に連れて行かれた様に遠い宇宙にいるかも知れないし、ゲート内でモンスターと戦っているかもしれない。」
スタンピード発生予告ゲートに発生直前に潜った事はないが、発生時でも他のゲートは普通に潜れるらしい。それを考えるとレイドと言う言葉が出てくるが相手はボスではなく無数のモンスターなのでやる事は変わらない。米国スタンピード発生時メーターの上昇が緩やかだとアライルが言っていたが、その後の撮影動画検証では確かに若干の速度低下があるとは認められた。
しかし、その若干は日本に残した本部長達と行くしかなくなった義勇軍と、その他関わりのないスィーパー達がモンスターと戦って稼いだモノだとすると、完全な猶予やスタンピードの未然防止を考えると狩場そのものを中層にでもしないと厳しいと思う。
「見捨てるわけではないのですね？」
「見捨てませんが誰が生き残った状態で向かうかは分かりませんね。米国式で言うなら包囲網が崩れモンスターが流出した後でも面倒ですが駆逐すれば済む話です。それこそ自身の口で言ったじゃありませんか国を挙げると。自国有事に国を挙げないと言う事はないでしょう？」
リーの話で顔を歪めたがまだチャンは笑顔である。それが余裕からなのか、それともそれしかこの場には持ってきていないのかは分からない。見捨てないと言う部分で言質を取られた？まぁ、流出すればどの道戦うので見捨てた事にはならないと思うが・・・。
「えらく時枝親子を気に入っていますね。それは工藤 結城の為ですか？」
「悪いですが工藤 結城と時枝 加奈子の関係は専属スィーパーとしてチームで行動するとしか知らない。」
「おや？お2人が交際を始めた事も知らないと？」
嫌な話をする。それは暗に中国でスタンピードが発生した場合に、結城君を誘導してスタンピードに参戦させると言う流れを作ると言う話だろう。そしてそれを聞いた俺がみすみす見逃すわけがないと。リーがそこまで読んでハニートラップ的に結城君と付き合っているのか？それとも絆されて完全に寝返る前提で付き合い出したのか？
リーの背景は中国の中位と言う以外なら軍人である点しか知らない。増田の所のスパイを使えば詳細もつかめるのだろうが、それをする=増田にもリー達の事がバレる。かなり面倒な話だな。外部に漏らせない情報は増田の所で差し止めた状態で中国側に情報を流すつもりだったが、チャンが交際の話を知っていると言う事は増田もリー達にはもうたどり着いているだろう。
その上で黙っていると言う事はリー達の運用は任せてもらったとも言えるし、新たなスパイ対策を取る上での試金石として見ているとも言える。まぁ、中位のスパイのやり口なんて観察する機会はそうそうないし。
「親しいですが家族ではないですからね。そこまでプライベートに干渉するわけないですよ。」
「そうですか。ならお耳に入れたまでです。若い2人の付き合いですから早くもと言う話もあるかもしれませんね。あぁ、プライベートな事なので干渉はされないのでしょう？家族ではないのですし。」
「ええ、しませんよ。ただ、時枝家に新たな住人は入り込めないでしょう？奥さんとは死別したと聞いていますし。」
「九郎さんにも自由恋愛する権利はある。それがたまたま中国人と言う事もあり得ますね？」
「ふざけた話をする。それを公安が見逃すと？拠点作りをする気ならこちらとしても考えがありますよ？」
「いえいえ、両国の仲を取り持つ為ならと言う話ですよ。貸しに時枝家をファースト氏は求めた。我々はそれを飲みしょう。当然本人達にこの取引を気付かれる事なく他に話が広まらないよう細心の注意をして。それまでが貸し借りの話でその先は別です。我々の目標はご存じでしょう？」
「永遠でしょう？勝手に買い漁るかスィーパーを使って探せばいい。不老も不死も交渉時に増産を依頼すると話はついている。」
「ええ、そこで提案です。我々はその薬があれば買う。特に権力者はそれを追い求め血眼になり資産を湯水の様に溶かしてスィーパーを雇い寿命の薬も含めて買い漁る。ただ、富める者も永続ではなく国内の資産としても海外に大量流出しています。ご存知でしょう？薬はどんどん値上がりしているのに買い手はいなくならない。一説には今のマーケット規模はひと月で兆に届くと言われている。国としてもそれは流石に過熱しすぎて見過ごせない。」
「勝手に取引する分には好きにすればいい。私は資本主義者です。」
「私は企業主義者です。共産主義と言う根底はあろうともその本質は分配するだけの富がなければ始まらない。その富として・・・。」
「薬を売ってほしいと？」
「ええ。手持ちがあれば買いますし未開封の箱があれば我々が開けましょう。当然薬以外には手を付けません。その約束が破られれば盗人は手を切りましょう。」
「軽いですね。手を切った所でいくらでも繋げられて生やせる。それにいつ出るとも分からない薬を座して待つと？」
「我々もスタンピードに対しは準備をしています。そして、その中で発見報告があろうともスィーパーから薬を取り上げる事は悪手で見つかる確率自体も相当に低い。ですが、目の前に不死の薬を売った方がいる。そこで依頼と言う形を取りたい。その契約がある限り我々首脳陣は最大限大人しくさせましょう。」
「・・・、契約相手は？」
「我が国、中国となります。」
一貫してるな・・・。国際会議でも求めて交渉に出す事も決定したのに更にここでお使いクエストを出してくるか。国として薬を欲する・・・。過去の亡霊が目覚めたか？1990年代以降中国は世界の工場路線を取り発展して来た。いや、その前からも世界の何々と言う名称で呼ばれながら今まで国として生きた来た。
なら次は世界のスィーパー国を狙っている？今はまだ華々しく日本が中位最多で牽引しているが、それでも永続的なものとは思わない。どこかの時点で世代交代はするだろうし今の本部長達とて席を譲る場面は出てくるだろう。そしてそれまでの間その後の人生で戦い続けろと言うのは酷で妻の様に死を選ぶ者も出てくる。
そんな中で中国が不死や不老の薬を溜め込み、中位や或いは上位に飲ませて文字通り覇権を目指すとしたら？気の長い計画だが中国の計画とは何時も長い物でそれが継承される。1950年代後半から繋がる宇宙開発しかり、2013年に提唱した一帯一路しかり。薄ら寒いものだが本気でそれを考えて欲しているとしたら？
「・・・、5年。それが契約期間です。その間に発見した場合不死薬は売りましょう。」
「5年毎の更新でよろしいですね？それに不老は売らないと？我々としては両方欲しい。」
「更新は未定です。ただ、その後に暴走すると言うなら叩きに行きますよ？」
「溺れた犬は叩かれる。大人しくするとしましょう。契約金は今回の支払いと合わせて金貨20億枚、良い取引とさせて頂きます。」
最後まで笑顔。チャンはやはり食わせ物か。しかし、いらない不死薬を売ればどの道中国が買うだろう。なら、何本売って最低何人不死者がいるかを確認出来る指標とも取れる。それに、大人しくするなら馬鹿をやった時にしこたま文句も言える。ポジティブに取るとして・・・。
「構いませんが催促はなしです。それを最後の条件としましょう。取り引き時の連絡先は？」
「お教えしますとも！こちらに・・・。」
