644話 回収して飛ぼう
「なんにせよ会って話すのは決まっています。何を要求する気ですか?」
「中国側への要求は決まっていますがロシア側へは決まっていません。ただ、両国へ要求するなら釣り合いの取れるものじゃないとまだぶちぶち文句を言い出す。それが悩みと言えば悩みですね。」
我を通すか和を重んじるか。穏便にいくらなら考え直して妥当な金銭となるがはっきり言って元とルーブルに旨味は感じない。ロシア国内にはユーロも流通しているので世界三大通貨と言うなら有用かな?6大基軸通貨まで考えた時に元も入ってくるが、行く予定もない中国の元を貰った所で使い道はないし、なら金貨と考えると妥当な枚数は不明。
寧ろ賠償目的なら個人の手を離れてしまうし、かと言ってロシアからも中位出せと言っても知らない奴が今度は身の回りをウロウロするのは面倒。ソフィア関連はあちらとしても既に清算済みと言う態度だろうし、俺としてもほじくり返したくない。いっその事北方領土返せとか?
駄目だ。流石にそれは対外的に大きくなりすぎるし、今更領土拡大した所で持て余す。樺太や北方領土なんかにゲートはないが既に占有して住んでいる人の移動が面倒で話に上げても反故にしていい事がない。寧ろ広い国土を縮めて国内の守りを固めるからどうぞどうぞと言う話もある。日本としても返還されてうれしい反面、資源開発も後回し気味なので持て余すだろう。
それに何より個人の貸しとしてそれを強請るのはちょっと違いすぎる。中々難しいな貸し借り。とりあえず相手の出方次第と言う感じで保留にしていつ取り立てるのかというプレッシャー与えるだけでもいいかな?
「釣り合いの取れる借りの取り立テ・・・。国際会議を反故にして独断で人類の危機を招いたから相手としては簡単にNOとは言えないだろウ。その事実を公表しないだけでもかなりの配慮だと感じル。NASA側としても他宇宙人への呼びかけに付いては相当怒っていタ。これが何年語った後なラ・・・、していいというわけでもないがやる国はあると予測していたガ、いくら何でも早すぎル。」
「その点は日本も同意しています。何度かの話し合いで決別するのは仕方ないとしていますが・・・。」
「決別しても慎重派が増えてやらない方向がうれしいんですけどね。流石に全ての宇宙人と話せてどうにか収められると言う幻想は捨ててもらいたいな。どれほど宇宙人がいるかも分からないし。」
そんな話をしながら取り出し準備は進み遥から糸が足りないと言われて出す。巨大な天幕は風が吹けば飛んでいきそうだが、常時出しておくわけでもないので大丈夫だろう。増田から聞いた話では中露の使者とは直接話す事になるらしい。普通に電話会談とかで良かったのだが、盗聴の恐れが拭い去れないと言われた。まぁ、スィーパーが増えた中でその懸念は仕方ないだろう。
R・U・Rサーバーへのハッキングも常時ではないがあると言うし、防音室を作るにしても既存の方法だけではなく魔術師:風に魔法を施してもらいノイズを出したりするし、手紙の交換と言うか面と向かって筆談と言うパターンもある。確かにPCや科学技術は便利なのだが、人がそれを超える可能性があるので警備保障会社やらは頭を抱え続けているとか。
因みに、国際会議の時に身体を改造されたと発言したせいで、一時期過去の俺の幻影を探す人がいたと言うが経歴そのものが抹消されていているとか。こうなった当初から偽装工作されたおかげか、実家にも今の俺の写真が飾られ古い友人にしても今の俺=出会った姿だと言う。
友人にはあまり会わないようにと言われているが、立場と言うか相手の危険性も考えると仕方ない。しかし、友人と言っても野郎なのだがそのせいで変な勘ぐりとか生まれないだろうか?知らないか友人も増えたとは聞いたが・・・。
「ええ・・・、クロエと一緒ですが?・・・、ええ・・・。」
「疲れた・・・、流石にこの大きさを加工するって考えると面倒・・・。」
「お疲れ様、完成?」
「5割。」
「強度?」
「雑さと相性。」
「手伝う?」
「いい。」
「クロエ、今からJAXAの方に向かいます。」
「何かありました?」
遥が一息つき俺はタバコを吸って手伝うかどうか話していたが、何やら別の用事が入った様だ。特段顔色が変わらないので急を要するものかは分からないが、お願いではなく断定なのでそこそこ面倒な話かな?
「松田さんからですが早期に使者と話をまとめてもらいたいと。取り出すまではリュウ上尉達を拘束しておく予定ですが、見方を変えれば50名の不穏分子を種子島に抱えている事になる。流石に破壊工作を行えばどうなるか分からないわけではないでしょうが、宇宙でのストレスによる暴走として殺害される前提での暴動も考えられます。」
「そんな不穏な指示を使者がリュウ達に流していると?」
「現時点では確認されていません。しかし、橘監査官からはその可能性もあると指摘ています。」
「確かに暗号文を作られてそう指示されている可能性もあるか・・・。その使者を鑑定していないんですか?言い方は悪いですが今の立場ならそれも可能でしょう?」
「残念ながら使者自身は来日から今に至るまで連れてきた外部連絡者以外とコンタクトを取っていません。」
「よくそれで大丈夫だとしましたね。」
「連れてきた外部連絡者は中国首脳部の人間で、現千代田及び鑑定課所属の五十嵐君が本人と断定しています。表向きは宇宙ステーションの不備に対する話し合いとしているので、余り大っぴらに監視をつけると勘ぐる人間が多くなる。」
「やはり政治とそれに付随する面子は面倒ですね・・・。その使者の名は?」
「チャンと連絡を受けています。会談はしたいが鑑定されて情報が漏洩するのを嫌い、来日から今に至るまでコンテナハウスから一歩も外に出ていませんし、会談の場はそこで行いたいと言っています。外観的には窓もあるので心配はないと思いますが・・・。」
「自分達で城壁を築き籠城戦を始めたと?いや、或いはそのチャンと言う人物が何かしらの重要人物である可能性も・・・。増田さん、確認を取りますがその使者の言葉は国としての言葉でいいんですかね?」
「宇宙ステーションの不具合に付いては連絡者が全権を持ち個人的な貸し借りの話はチャンが持ちます。またチャンなる人物がOKした場合、そのまま国としても合意したとしていいと。」
つまり正体不明のチャンなる人物は全権大使と考えていいだろう。衆目の中の秘密会談となるがどっちだ?本当に口先三寸でいい様に話を転がそうとしているのか或いは、自分を餌に中で何かしようとしているのか?R・U・Rの秘匿回線つかう?政治家の契約がうなぎ登りだと聞く秘匿回線使っちゃう?
内容的には目新しいものではないがR・U・R経由でクローズド対面も出来るし、お互いが物理的に離れているので職を使うにしても意味を成さない。あくまでR・U・Rがやるのは再現であって現実ではないからな。そこで何かしようとも外部には漏れないし、第三者が情報を盗もうとしても今度はR・U・Rサーバーを相手にする事になる。
「万全を期すならR・U・Rの秘匿回線を使いましょう。来てから本人に会えないと駄々をこねるにしても会ってから何か魔法を使われたと面倒を言うにしても先に言わせない手段を取るに限る。その後の言った言わない問答は本当に国として見限るに価する。」
政治家は困る人があるかも知れないが俺としてはもう付き合いきれない所まで来ている。そのチャンとか言う奴に話して鵜呑みにしろとは言わないが、話の通じない駄々をこねるなら後はご自由にと言う他ない。
「見限るかは別として種子島にR・U・Rはないですが?」
「ここから鹿児島ならすぐです。必要なら担いで飛びますよ。」
「そこまでするものなのカ?」
「ぐうの音も出ない状況でどう考えるのか?何をどうするかは別して重箱の角を突かれても面倒です。相手の土俵で戦う必要もないなら相手の言う事を聞く義理もない。はっきり言えば書面で取り立て内容を出してメッセンジャー経由で貰うだけでもいいと考えています。」
多少の準備は必要だとしてもやれる事をやるのは間違いではないし、溺れた犬は叩けと言う諺もある。叩くなら今で叩かれた相手が被害者と泣き叫ぼうが後はロシアの言う様にビジネスとしての付き合いでいい。確かにスタンピードは世界的な問題となるが相手の姿勢を考えると、自国対処からの救援要請となる可能性が高い。なら、わざわざ出しゃばる必要もなく他国に漏れない事だけを考えればいい。
「増田さん。メッセンジャーへは会うがR・U・Rの秘匿回線としてください。それを蹴るなら書面だけのやりとりで譲歩もしなければ直接面会もしないと。」
「・・・、了解しましたがよろしいでのですか?」
「かまいません。職は機械を通しては使えない。あくまで人が機械を操作するなら・・・、例えば大会のドローンの様な形なら使えますが、画面越しでの鑑定は精度も下がる。その事を考えればR・U・R経由なら舌戦以外は意味を成さないでしょう。私は相手に変な魔法を使う気もなければ相手から職を使われて揺るぐ気もない。そう言えば断る事もないでしょう?」
既に俺の中で白は決まっている。悪いが出方次第では本気で関わりを絶つ。それが個人とか力ある物とか関係なく面倒だが更地になった後に乗り込んでモンスターを狩り尽くせばいい。変な過信はしたくないが日本と米国で戦った実績はあるんだよ。
そんな事を考えている間に増田がスマホで連絡を取る。多少の時間は掛かったが相手からは了承したと言う言質が取れ、俺の要求は通った。なら、さっさとチャンのコンテナを回収して鹿児島へ向かおうか。




