642話 杖を弄ろう 挿絵あり
忙しくて短いです
朝食を終えて俺とエマと遥は増田の運転でJAXAの敷地内へ。一部報道は許されているものの流石にJAXAの敷地内には予防線がはられている。取り出すのはだだっ広い野原なので遥が天幕を作らないと丸見えだな。長閑な景色なので何も無いならピクニックでもしたいが、流石にそんな悠長な事は言えないだろう。
「天幕お願いされたけどサイズ的には600m×600mくらいで足りると思う?余白は100mを想定してるって聞いたけど。」
「足りるとは思う。けど、魔術師達の腕次第じゃ肥大化するかもね。」
「前日に水箱の設置も済ませたし大々的な儀式魔術と取れなくもないナ。まァ、クロエ1人なら片手間にやれる事だろウ?」
「出来る出来ないは別として、私が1人で全てをやったら誰も成長しないし誰も挑戦しないよ。それはマスターとして看過出来ない。なにせ何かに挑戦するって事はそれだけ考える機会が生まれて、イメージを作っては壊し納得しては不備を探して壊しの繰り返しでスィーパーとしても成長する。まぁ、ユーモアのスパイスを効かせるなら燃料も水に変わるかもね。だって灯油って透明だし。」
水と油は混ざらないが互いに透明であれば境界は曖昧で比重だけがその存在を示す。なら、個体でもないその透明な何かはどうやって比重なんて言う分かりづらいモノで個を示す?試験管ほど小さな物なら見れば分かると言うだろう。しかし、500m近い水球の中でどうやって見分ける?
下に溜まればそれはケロシンかもしれないが、なら水球にはどの程度のケロシンがある?結局の所燃料をパージするにしても漏れ出したとするにしても、初期の量が分からなければそれは1Xでしかない。そして不確かなXなんてものは自由にいじくり回せばいい。だってそのXの中身をを知る人はいないのだから 。あっ!色付けは勘弁ね?しててもいいけどその色の何かに変えるか希釈する方向で考えるけどさ。
さもも無くばさっさと中和剤ぶち込めばいいな。アースクリーンとか有名だし準備できない量でもない。寧ろそれも透明なので結果として水になる。
「水に変える・・・、状態変化は難しくないのカ?こウ・・・、ある物をなくしたりない物をある様にするのだろウ?」
「それは頭が硬い。あるないの話をするなら水は今もあるけど目に見えないからない。でも、空気中に水分がある事を誰もが知ってる。それと同じでどこかで誰かが今も漏油処理してるなら空気中にその成分は含まれてる。」
「油の話はいいけど増田さん、糸って揃ってますよね?流石に私も手持ちの糸だけでやり抜くのは難しいですよ?」
「その点については問題ありません遥さん。調合師の強化糸に鍛冶師の強化糸更に魔法糸とおおよそ繊維を強化した物を揃えました。流石に今回の件で政府としても手抜きは出来ません。最終的な固定処理等は任せる事になりますが・・・、余分の出る量を集めたとしています。」
「混合糸かぁ〜・・・、服じゃないから簡単なチェックでいいと思うけど先ずは確認からかな?最悪お父さんも糸出してね。」
「それくらいならいくらでも。やっぱり私の糸が馴染みやすい?」
「糸と糸を繋ぐならね。属性で分かれる糸はやっぱりイメージ次第だと反発する時もあるし、無理して繋ぐとお互いを侵食して消えたりするんだよね。だから、そこがドレッサーの腕の見せ所と言えば見せ所かな。」
装飾師からドレッサー、飾り付ける者は相手を映すか。俺の語感から職名は来ているし遥のやり口ならドレッサーと言う名で納得出来る。そして遥の第2職はS料理人。食材を相手に合わせてコーデすると言うなら同系統とも取れる。まぁ、それで服が食えるのか?と聞くと食べられるわけ無いじゃないと返されたが、手段に関係なくエネルギーを調達出来るのでインナーに押し付けたら皮膚吸収出来るのだとか。
獣人スィーパー用の装備を極秘開発するとかしないとかラボで話し合っているらしいが、どこまで実用化するのやら。中位の作成物ってオンリーワンな所があるから政府から死なせない人リストに入れられなければいいが・・・。
「見えて来ました。あそこが取り出し会場となります。周囲は腕慣らしに自衛隊施設課所属の魔術師:土達が土壁を建造し爆破被害をさらに減らします。」
「地面と友達陸自ならではですね。まだ壁の姿は見えませんけど想定時間は?」
「大井さんの話では20人時想定としてありますが、実際は更に早いそうです。そして、20人腕に自信のある方を集めたと。」
「つまりは1時間で壁は出来上がると。強度的にも人数いる分大丈夫そうですね。」
「本当に一夜城ならぬ1時間城だね。何時から作り出すんだろ?」
「今の陣地構築の基礎を言うなら内装を整えて包む形だナ。米軍内でも色々とゲート内で試したがオニギリ理論で人を具に見立てて城壁を築く。難点は一部を食い破られると脆いガ、それまでの硬度はかなりのもので何重にも包めば突破は困難となル。」
そんな話をしながら会場に着き増田が糸を山程取り出し遥が真剣に見定めて行く。糸を出せる人が増えて本当に良かった。未だに個人技能枠だとここで蚕になる羽目になる。ただ手持ち無沙汰ではあるな。足りない糸出し要員として来たが足りるならする事はない。
エマの方は一緒に調査するNASA側の現地調査団と打ち合わせすると言って少し離れた所にある仮設の詰所に向かって行った。さてと・・・、先延ばしにしていたサイラスの杖を弄るか。家の監視用に弄くり回そうとしてゴタゴタしてたから鳥だけ増やして飛ばしたが、魔法の玉を受動的な仕掛けとするならこれは能動的な仕掛けだろう。
幸いにして周囲に止まり木に出来そうな木もなく、掲げる杖のみが止まり木となり戻る場所は明確でここに帰ってくる。他の人も何事もない様に索敵はしているだろうが目が多くて怒られる事はない。サイラスの職は土と風で煙を使う俺とは相性が・・・、そもそも煙と相性の悪いものが少ないな。それは宇宙だろうとガス惑星があり煙は留まり通り過ぎるものを後から追う。
「敵は何処か探すのか?
見つけ出すなら知らせましょう。
見つからないなら眠りましょう。
数はあり尖さはあるクチバシなら、写す瞳を穿りましょう
秘密の会合守りの城、見守る瞳は天空の目
さぁ、飛び立ちなさい白亜の様に・・・。」
細工の鳥はバサリと羽ばたきその羽根で宙を舞う。残念ながら白鳥の様に優雅ではないが鳩程度には数がいる。なかなか壮観だぞ?結婚式でもないのに白い鳩が何十羽も羽ばたくのは。そのまま起点として杖を地面に刺しておく。




