閑話 124 橘戦記@2
「これでも宮藤ブートキャンプでしごかれて長い事ギルドマスターもやった。ったく、エンゾの方がよっぽど楽に見える。」
「軽口はいいですよドボール。艦隊規模でも人そのモノは少ない。バワードスーツもロボテクスーツも戦艦もほぼ無人、さっさと破壊して進みますよ!」
大量消費文明は終わり持続可能な社会を作る。そう掲げられた目標はゲートにより大量消費文明に戻りつつ環境保護社会とでも言えばいいものへシフトチェンジした。今も誰かがゲートに入り報酬を得て外で売払糧とする。流石に地球の代えは用意されないので、自然保護が叫ばれて久しい。まぁ、保護と言っても廃棄物は必ずゲートに投げ込めとか、無闇矢鱈と木を切るなとかだ。
地球外で仕事をしていて久々に地球に戻った時、ゲート産ではなく地球産木材がアホな値段で取引されていた事を考えれば、人が何に価値を見出すかは分からない。未だにかつての出身地である大分にあるクロエの家は、今の価格にすれば下手すれば値がつかないのではないだろうか?なにせ彼女の家は木造一軒家で昔から植木や畑なんかもあったし・・・。まぁ、それもこれもスィーパーのモラルの問題と言う部分もある。
箱の開封をどこでするのか?日本ではゲート内を推奨し、時代が過ぎるに連れて推奨から強制へと変わって行った。それは他国も同じだったのだが、アホはどこにでもいるもので、剥き出しの高純度ウランやセシウムを外で売買する奴なんかもいる。流石に地球の放射線量が3ミリシーベルトに上がった事から緑化やオゾン層の増殖を進めると共に大気成分調整装置を使い調整を行い始めていた頃か。
「飽和攻撃来るわよ!」
「宇宙でやるならそれが定石でしょう。ドボール!互いは1km距離、近過ぎれば巻き込む!」
「了解。ガンナーが何処かに紛れてます、狙撃に注意して下さいよ!それに他もいる!では!」
別れて突撃、無数に撃ち出される光に鉄に爆発物は何処か人の姿を思わせる。宇宙に出だした頃に軍事学者が話していたな。宇宙と言う場所で戦闘行為を行う場合、何が有効的なのか?と。ビームの利点はその直進性にあり、例え遮蔽物があろうとも高出力なら・・・、対象物を融解して突破するだけのエネルギーがあるなら他の追随を許さない。
いや、実弾だ。質量兵器は残り続けガンナーなら超長距離から防御態勢を取る前に不可視の弾が叩き込める。兵にしろ艦船にしろ行動を起こす前に人の指ほどの徹甲弾や武器の弾丸を受けてみろ?ただでは済まないぞ?
それなら爆発物やミサイルだろう?中身は何でもいい。逃げる隙なく面制圧してもいいし、場合によっては相手の背後で起爆させればいい。人が無事でも兵器は違う。衝撃波に散弾に光熱、場合によっては電磁ネットなんて言う物で相手を行動不能にしてもいい。
いや、その前に誰に何を持たせるのか?飛行ユニットがあれば格闘家だって艦船を殴るし、下手に接敵されれば一撃でリングアウト!どこまで殴り飛ばされるか分かったもんじゃない。
わいわいと話す不謹慎な話は、不謹慎であるが故に聞き逃すわけにもいかない。時代が変わろうともモンスターと言う敵がいようとも人は人と争う術を模索しているのだから・・・。
「エディター相手に姿を表した時点で時間稼ぎだとは思いますが・・・。しかし、狙いはなんだ?」
「そんな事より早くゲートを確認する。誤報なら抗議して是正するし、新報なら何がしたいか分からない馬鹿を叩きましょう。」
「確かにその通、り!」
張られた弾幕の隙間を縫う様に回避しながら進み、背後から迫る破片を斥力で弾きフェムが援護の為に出した煙幕やフレアを記憶に留めながら最適解の行動を取る。飛行ユニットと言う物は無茶な動きをしてもGを感じないからいい。静止状態から直下へ落ちつつ光学レンズの瞳が付いたミサイルをやり過ごし、束になった所を狙撃して誘爆させ、直角に跳ね上がりながら近くのAI制御されたパワードスーツに掴みかかりハサミを突き刺す!
しかし、胸にハサミを突き立て開いて真っ二つにするも、わずかに制御部分を外し使えるパーツが戦艦の方へ射出される。一体をどれだけ使い潰せるか?そんな碌でもない発想から試された作られた機体は個ではなく数があるなら補えばいいと言う、大量消費に程遠い様に見えてそのじつ、継続戦闘力だけは高い。
「ちっ!コレだから無人機は嫌いだ。」
「マグネットジョイント式機体と確認、やわな攻撃だと勝手にパーツ換装して直ぐに攻撃再開するし下手したら自爆するわよ!」
「分かってますよ!磁界共鳴装備を使います。流石に全てを無力化するのは厳しいでしょうが、それでもこの数をワンオフで揃えてあるわけがない。」
パワードスーツの大元はパワーアシストスーツである。人の動きをサポートし小さな労力で大きな力を出す為の物だったが、それに電子制御を加えバイオメタルファイバーの人口筋肉を付け、血液の代わりに電気を流して動かしている。無人機は人が乗らない分、空いたスペースに発電機関を搭載し継続的な活動が出来る様にしているし対ECMも想定している為、簡単な妨害電波程度ではびくともしない。だからこそ電源部を破壊する共振装備が役立つ。
本来なら遠隔充電する為の磁界共振を暴走させ、発熱させて融解させる。目に見えず検知した瞬間に無人機はこれで無力化出来るだろう。過去に望田君も自前でやっていたが、そのイメージストックをここでばら撒くのも勿体ない。
「戦艦を先に叩いた方がいいんじゃなくって?回収されたら直ぐに出てくるわよ。戦艦なんて整備ドックとウェポンラックを掛け合わせた物なんだから。危ない橋よ?」
「それでも先に離脱した組の安全確保をしないといけないんです。ここで注意を引き付けておかないと何をされるか分からない。簡単に落とされるメンバーではないにしても、眼の前で背中を撃たれては気分が悪い。エコーボール展開『ドボール、電磁共振を使います。』」
『了解、距離は十分ある。こっちは気にしなくていいですよ!潜んでいたヤツを見つけてやり合ってます!』
『分かった、深追いはするなよ。使ったら戦艦を沈めにかかる。』
無人機に向けトリガーを引く。別にこれからビームが出る訳でも、弾丸が出るわけでもない。単純に電気動力で動く機関部を共振させて破壊するのにそんな大げさなエフェクトはない。だが、その効果は確実で展開したエコーボールの範囲にある無人機は活動を停止し動力部を赤熱させる。
それを眺める間もなく銃を指輪に収納し、ハサミを片手に突き進む。新しい記憶を鑑定し、動く無人機にダメージを編集して行動不能にし邪魔なビームもミサイルも虚無の宇宙を貼り付けて消していく。
「緊急回避!」
「うおっ!なんですかフェム!」
「弾道予測・・・、スィーパーよ。酷く面倒そうなのがいる。」
「・・・、見えました。全身黒でまるで影法師ですね。っと!跳弾?違う・・・、反射板を無数に展開してるのか・・・。」
鑑定師とは物品の鑑定を行い使用出来る。 選択した場合、自身が鑑定したモノを使いこなせる。そう言う職で武器を使いこなして戦って来た。だからこそ手の内が読まれる事もある。反射する弾は武器から精製された物で既に放たれた後。つまり、鑑定したとしても私が扱うには多少のラグが出る。
『橘で間違いないな?』
『ええ、間違いありませんよ。スタンピード発生の知らせを受けて確認を急いでいます、退きなさい。』




