閑話　123話　橘戦記

　榊と言う人物がさりクロエが引退期で行方を晦ます中、ギルドの1室で人でなくなった手を見ながら過去を思い出す。アレはクロエは関わりはない。強いて言うなら私とフェムの物語だろうか？事の起こりは・・・、そう人が宇宙に出て生活基盤を整えた後、寝ても覚めても平穏を享受する人類の裏であった物語。

　『人は結局の所、認め合う為に戦い認め合う手段として戦う』そうクロエと話した後の事だったか？クロエと言う人は時代を重ね妻と死別しても変わらずにあった。かねてからの疑念であった妻と・・・、莉菜さんとの死別は暴走へのトリガーとならず彼女は粛々とグランドマスターと言う世間から見れば偉大でありつつ、中身としては通常のギルドマスターと変わらないと本人が言う仕事をしていたが引退勧告を受けて引退した中での出来事。

　飛行ユニットをどの国も開発を終え、宇宙開発の流れは加速し続けガニメデやその先へも足を伸ばした中でとある事件が起こった。ゲート搭載型S・Y・Sコロニーでのスタンピード発生予告。私達はそれを察知して独自に行動を起こした。まぁ、その権限を我々は持っていたし、そう言う仕事をしていた。

「橘特務、時間がないここから地球までは遠すぎる！」

「分かってますよドボール。分かってますけど手を拱いて何もしないという選択はない。最悪火星に投げ込みそこで対スタンピード戦闘を行う。あそこならまだ総力迎撃戦が出来る。宇宙ではパワードスーツやロボテクスーツ戦闘となり周辺のコロニーも落とされてしまう。分かっているでしょう？職は人に宿り遠隔で武器の一定性能は引き出せても対モンスター戦闘ではほぼ無力です。それに、火星にはリリとか言う上位や他もいる。」

「特務、グラマスへの報告は？してない事はないでしょうけど嫌に動きが遅い。」

「今のギルドはダメですよ。報告はしましたけど何一つ前へ進まない。知っているでしょう？クロエを邪魔と思う勢力がマスター引退を要求し、クロエはそれを飲んでさっさと引き継ぎして引退して行方をくらませた。」

　クロエのグラマスと言う地位を良く思わない勢力と言うか、長く務めるにあたり傷を負い知られては不味い事を知られた組織は多い。クロエ本人としては適当な賠償と誠実な仕事をすればいいと言うが、それでも秘密を知られた組織はクロエを目障りに思う。そんな中で長くマスターを務めたなら一度他にグランドマスターを譲り引退してはどうかという話が持ち上がり、ちょうど交渉後だった事もあり快諾したクロエは必要者類と引き継ぎを行い、次の交渉時期には戻ると言ってさっさといなくなってしまった。

　それから半年で今の状況とギルド内での地位争いが勃発。表向きはギルドは正常に機能しつつ中身はかなりギスギスした雰囲気となっている。前に夏目がギルドに文句言うと連絡が来たが、この対応の遅さはいかんともしがたい。皮肉なものだが宇宙開発に置いてテラフォーミングは必要なのか？

　S・Y・Sと言う新たな生活圏を得た中でわざわざ惑星開拓事業を行わなければならないのか？国名の残る中でその議論は行われ多数の国は不要として資金は出さず静観の構えを取る中で『ならギルド主導でやりましょう。なに、必ず必要になるし生活出来る土地として有ればギルドの資金源としても使える。』そう言って長い年月をかけてテラフォーミングされた火星はテラ2ndなんて呼ばれながら人が増えてギルド主導で開拓されている。

　その中で大きく出された話として『S・Y・Sゲートでスタンピード発生時、火星でも対スタンピード戦闘を行う』とテラフォーミング元であるギルドは宣言し入植者も国も快諾した。酷く政治的な話をするとコロニーの所有権と言うのはいくつかの区分に分かれる。ゲート搭載型コロニーは大元の国が管理運営の大元を取り仕切りつつ自治を認め第2国と位置づけしてある。非ゲート搭載型コロニーはその大きさで用途が分かれ、企業が所有する物も有れば、個人が個人領として運用する場合もある。

　今のギルドは昔からだが警察や軍、広域支援組織としての側面を残しつつ大型コロニーに支部を置きスィーパーの支援や管理を行っているが、肥大化すればする程目が届かない所も出てくる。今回のスタンピード予兆発生報告が遅れたのもそんな管理元の政府とギルドの連携不足からだろう。

　いや、下手をすればコロニーが嫌がった可能性もあるか。ゲートと言う物は今の時代生活や流通に欠かせない物で、それを有事とは言え持ち去ると成ればその間の経済活動に大きな打撃を与える。与えるのだがどの道スタンピードが発生すれば経済活動どころではない。それは今に至るまでにあった幾度かのスタンピードが示し毎度早期報告、早期対策、早期招集を叫ばれているが、発生のスパンが広く忘れて安心して油断した頃に起こるものだから質が悪い。

「今回のスタンピードにクロエさんは参戦しないと？確かに過去には参戦出来ない時もあった。しかし、今回のスタンピードどこまで漏れると思いますかね？」

「さぁ？そもそもギルドではなく近隣コロニーから知らせを受けて私達はパワードスーツで文字通り宇宙を飛んで来たが、まだゲートを見ていない。そして、クロエに引退勧告をしたのは政治家です。」

「嫌な流れですね・・・。ギルドに政治を持ち込むな切り離せ。そう言われても人はそう言うしがらみの中で生きている。」

「広域索敵に感あり・・・、はぁ？なんだコレ・・・。」

「どうしました？」

「所属不明のパワードスーツ部隊にロボテクスーツ、それにこれは・・・、艦隊規模です。どう考えても私達はスタンピードを囮に待ち伏せされた。」

　宇宙での奇襲のなんと楽な事か。どこも暗くデブリに岩と隠れる所は多く、艦隊規模の部隊を隠蔽するにしても私達の様にパワードスーツで浮いていればいい。そもそも今時の戦艦なんて殆どAI制御で人は指示するだけの自動砲台件休憩スペースでしかない。

　無人なら指輪へ。取り出して戦いまた指輪へ。どこにも属したくないと宇宙海賊紛いの行為をする輩は、コロニーに立ち寄れば中身が露見するとして立ち寄らず、そんな輩を私兵として子飼いにする者もある。そして、装備品から考えるにここで出た者達はただの海賊ではないだろう。

「ちっ！無駄でしょうが回線フルオープンで話します。『私はギルド所属橘特務監査官。今回スタンピード発生の予兆ありとの報告でここに来た。貴官等がなぜここにいるかと言う問答はしない。くりかえす・・・』」

「橘、無駄よ無駄。見て分かっているんでしょう？公式オープンチャンネルを故意に封鎖してる。だいぶきな臭いわよ？」

「分かってますよフェム。時代が変わり人が変わり、政府はギルドを疎ましく思いつつある。」

　住み分けは出来ていた。大凡一般的なスィーパーはギルドに対して悪い印象を持っていないが政治家は違う。よくも悪くも色々な権限を超えて話してくるし、場合によっては自治政府よりもギルドを支持する場面もある。それは仕方の無い事でどこに行っても一定のサービスと相談を受けて直ぐに動くギルドと、遠く離れた地球で実情の分からないまま動かない政府とでは関わる頻度が違いすぎる。

　過去には政府内にギルドを取り込み政府の指示でギルドを動かそうと企てた国もあったがギルドと言う組織の関係上、既に一国の組織ではなく多国間を跨ぐ組織として成り立って久しい。実際的な話をするならギルドは今の所コロニー間や政府間の緩衝材としてよく働いている。

　犯罪者は許さない、コロニーを跨ごうとも指名手配されれば何処のコロニーにでも情報は巡り権力者だろうと捕まえる。まぁ、個人所有のコロニー内でなら何をするも自由でゲート内治外法権もそのまま。なのにわざわざゲート外でやらかす輩は未だに居る。

「散開！ドボールは私と共に、他は一旦引いて長距離通信可能範囲へ！さっき撃ち出された物は電波妨害散布弾です。極々近距離でしか通信は出来ない。」

「了解、有視界でケツについていきますよ！」

　電波妨害、ECMではなく大量のアルミ製の粉をばら撒き長期的に電波妨害及び物理的に飛行ユニットを使用しない艦船に対して付着し侵食ダメージを与えるモノ。単純に言えば濃密な火山灰の中を車で走る様なものか。

「フェム、あの部隊の飛行ユニットを解析してくれ。下手に攻撃すれば反射される。」

「もう始めてる。でも、掴みかかって鑑定した方が早いわよ？」

「それでも直ぐに弾幕が張られる！」

　流れ星の様に戦艦は輝き散布したアルミ製の粉の中へ砲撃し出す。一見非効率的に見えてビームなら減衰するだろうと思われがちだが、熱で溶けたアルミ製の粉は無数の散弾となり不規則に弾け飛び、帯電した粒子は更に機器に損害をもたらす。

　流石に対ECM加工も行われ、ただの物理散弾なら飛行ユニットを使い斥力で四方に反射出来る。しかし、ここに来る前に話を寄越したコロニーへは先行すると伝えた。それが正確にギルド内に話が広がっているか・・・。