634話 傾く? 挿絵あり
情報共有として橘には話していい。宇宙に上る前にある程度の情報も貰ってるし展望室で話した限りでは中露の企ても知っている。知っているのはいいとして割と疑問符が出るのはわざわざのこの時期きになんでブラックホール・エンジンの研究なんてしたかだな。究極的に言ってしまえば無限エネルギーを求めるとして、ブラックホールなんて言う危ない物を研究しなくても無限に水が出てくる水箱から永久循環システムを作り、そこからエネルギー抽出を行ってもいいし、雑にやるならクリスタル使ってさっさと莫大なエネルギーを得てもいい。
エンジンとはエネルギーを力学的運動に変換するために設計された機械である。平たく言えばガソリン使ってピストンを動かし車を走らせる機械をエンジンと言う。エネルギーの変換率やらの問題はあるにしても危ない橋を渡る必要はない。う〜ん・・・、別の角度から考えてみよう。
エネルギーとして変換出来ると言う事は完璧と言わないまでも制御下に置いてあると言い換えられる。ブラックホールをエネルギーにして制御する・・・、えっ?ワープ装置とか作ろうとしてた?もっと言うならゲートそのモノを再現するとか?広大な土地があるのにいる?・・・、過去からの軋轢やら思想によるいざこざを考えるなら誰もさわれない自分達だけの国を作らうとした?
永遠を欲し、それが手な入ったならその先はどこまで自由に成れるかだろう。長くを生きると言う事は、それだけしがらみが増えて抑えつけられる事とも言える。別に俺はそんなしがらみ気にしないし長く生きたとして、間違えたなら訂正してもらったり注意された方がいい。寧ろそうでなければ永遠に間違いは間違いのまま気付かない事もある。でも、仮にそれを許容出来ない人が不死となったなら?
部屋を出て直ぐ様ゲートのある中心部へ。相変わらず山口は死んだ様に寝ているが、胸の動きは見えるので死んではいない。他にも幾人かそんな人が見て取れるが藤と嫁達が毛布をかけて回っている。
「おかえりなさいクロエ殿。瓶制作で出遅れたでござる。」
「ただいま藤君。後で瓶は何個か頂戴ね記念品に欲しいから。と、橘さん見なかった?まだここにいると思って来たんだけど。」
「橘殿ならリュウ達の所でござるよ。酔いつぶれた者達の介抱なら拙者と嫁達の方がいいと言って代わりに監視に行ったでござる。流石に橘殿の前で狼藉も働かないでござろう。」
「そっか、ならエマは?」
「エマ殿ならコントロールルームでござるな。今回のデータをNASAに送る学者や研究者のお守りをしておるよ。あそこも責任者がおらねば勝手な通信は許されておらぬからな。」
「割と私はフリーで出入りしてるけど?」
S・Y・S離陸時にも勝手に入ってたし暇な時は動画見たりもした。藤オススメのラインナップは割と面白かったが、見るならやはり恋愛モノよりも冒険譚やら不思議な雰囲気のモノがいいし、アイドル目指したスポ根アニメもいいがキィ・ザ・メタル・アイドルの方が俺的にはハマる。
「クロエ殿はフリーでござるよ?正確には拙者が開閉しておるが生体電気にも個人差がある故それで判断しておる。」
中身はないが皮膚はあるので、それで読み取られてるのだろうか?確かに外見をいくら似せようとも俺の生体電気量は圧倒的に少ないし付喪である藤なら物の形、取り分け人の姿をしたものなら間違わないだろう。ついでに言えばログも簡単に漁れるんだと思う。割り当てられた部屋で僧侶向けアニメとか全裸で金髪姉ちゃんが逃げ回る映画も見たけど・・・。男だからたまに何故かムラッと来るのは仕方ない。
「なら橘さんの所へ行ってきます。連れて来てこのかた顔も見てませんからね。統合基地で受領した物はここに出して置くので各自待って行くように伝えて下さい。」
そう言い残して収容スペースへ。広くもなく寧ろ多少手狭なスペースに男50人と考えるとむさ苦しいが、客ではないので仕方ないし予定外人員である。寧ろ飯と寝床と快適な暮らしが出来るニート生活なので諦めて貰おう。
「ん?もう飯・・・。」
「人を喰うなら叩き出します。」
「ファースト・・・。」
「こんな所にどうしました?また何か厄介事ですか?」
「厄介事と言うか貸しの話です。中露上層部に直接話すならここが1番でしょう?人質ではないですが耳目は多いに越した事はない。そちらが指輪内に保有している宇宙ステーション、これを宇宙空間で出して下さい。」
「それは・・・。」
「ロシア側はいいぜ。」
「キリロフ!」
「悪いが国から大人しく従えと言われている。貸しや借りの話も上が知った上でだ。なら、俺はファーストに付く。」
「まてまて!アレは中国が建設したものだ!勝手に承諾されては困る!」
「大元の天宮はな。だがその後は共同開発となってウチにも権利はある。」
「だからと言って勝手に承諾されて出せるわけ無いだろう!祖国と連絡を取って了承を両国から得た事を確認しなければおいそれとは出せん!そもそも通信するならS・Y・S内からでもいいではないか。」
「厚かましいぞ?俺達は大きな借りがあって今もこうして好意で居させてもらってる。その大きな借りを返せと言われて何を要求してどう妥協するか話し合うんだろ?拒否してアホな要求はされたくない。」
リュウとキリロフが話しているが、これは当たりを引いてる?寧ろロシア側はエンジンの話を知らない?予想としては共同開発か提唱元のロシア側主導の可能性も考えていたが、互いの話を聞く限りだとロシア側はもう関わりたくないと言う雰囲気がある。しかし、宇宙ステーション寄越せ案は無理そうだな。両国への貸しの回収ならいいがリー達の身柄と天秤に掛けると、この先これを要求出来るタイミングはないに等しい。
手駒ではなく正式な譲渡要員とするなら主導者側への貸しの方が大きいからと言えるが、そうなるとロシア側からも譲渡要員を出させろと言い出しかねない。なにせ寄越せと言うリー達はスパイで本人達が知らないまま勝手に身柄を貰うから意味がある。それをスパイと知った上で活動を許しつつ譲渡したと知ったなら、ならウチもこれをさせろと言うだろう。
さてどうしたもんかな・・・。ロシア側の発言力が強いならリュウも折れたのだろうが、蓋を開けたらロシア側が先に折れて中国側が拒んでいる。一旦保留にする?
(橘さんから見てコレってパフォーマンスですか?かなり意味のないパフォーマンスですけど。)
(見た感じ本気で言い合ってますね。宇宙ステーションにまだ何か?)
(些事ですよ、些事。)
「拒否するのであれば地球の日本で宇宙ステーションの取り出しをお願いしますね。今回の件で既存の宇宙ステーション開発に重大インシデントが発生しない様に情報共有がしたい。なにせ接続部の強度不足が原因の救助活動ですから、他の国としても日本としても気になる。先にいいますがこれから先全てS・Y・S方式のコロニー型宇宙ステーションになるから開示しないと言うのはなし。と、言うかどこの国も黙ったはいないでしょうね。」
衆目の中で救助活動してその話を火消ししたとしても、S・Y・Sが地球に降りてリュウ達の顔が見られれば『なぜ乗っていたのか?』と言う話は当然出てくる。悪いがS・Y・S搭乗員はJAXAのHPで公開されてるし、仮に名簿に漏れがあったとしても50人は多すぎる。流石に大国と呼ばれる国だろうと光の速さで流れる情報を全てシャットアウトするのは無理だ。
「地上で出せば倒壊する。出すならゲート内でそのまま消えてもらった方がいい。」
「ならやはり宇宙で出して解体ですね。いくら国際宇宙ステーションでないと言い張ろうと宇宙に関する国際的な法律や条約、協定が宇宙ステーションの安全性を担保する基盤となっている。その中で拒否を繰り返せばどうなるかはおわかりでしょう?」
何光年も離れた所で勝手に事故ってピチュるなら、それはもう検証のしょうもない。しかし、現物があって調べる手段があって解体する事も出来るなら言い逃れはさせない。本当なら獣人連れて来て指輪の中身を見てもらいたい。
「なんと言われようと自分一人の権限では判断出来ない。俺は軍人で命令で動く。動かしたいなら無理やり出させるかその命令を持って来い。」
そう吐き捨てると口を真一文字にい結んでしまったが強情な奴である。しかし、命令を持ってくれば素直に出しはするらしい。優しさを出すなら宇宙で出してもらって調べる方が優しいのだろうが、そろそろ疲れてきたしサクッと傾いてもらおうかな?別に俺が何かをして傾くのではなく、勝手に傾くならそれは世相と言うものだろう。
「分かりました、命令を持って来ないので日本で出して貰って結構です。この件はJAXAとNASAを通じて宇宙開発をする国にも情報共有されると思ってください。では。」
ーside リュウ ー
アレはなんだ?プランナーとして居座りS・Y・Sの概略的な物はなんとなく分かってきた。流石に歩き回れないので時間もかかるが、この部屋1つからでも分かる事は多い。床面に埋め込まれた飛行ユニットの核となる物は電子制御で一定数の引力を産み、大部分をガラス・・・、キリロフ曰く石英ガラスで作られた内部や外殻を更に炭素繊維強化プラスチックで覆い宇宙線対策を行っている。
形として作るならこれは祖国でも作れる。問題は飛行ユニットに集約されるがS鋳物師を祖国では集めていたので、開発成功すれば大量生産する基盤はある。まぁ、私はその鋳物師も勉強しなければならないと聞いたので一石一朝とはいかないまでも概ね成功の兆しはあると思う。しかし、ファーストが現れてから何かが狂った。
話をする度に何かが不味い方向に向かうと感じ、得体のしれない気持ち悪さを軍人と言う一点にかけて解答する方法を取ったが『持って来ない』と言われて背筋が凍った。何を感づかれている?確かにステーション内を案内したがそれは一部で研究プラント方面は見せていない。確かに宇宙でも職は使えると立証されているが、システムを乗っ取られた様な形跡もない。
なら、何を知っている?モールス信号は来ず橘がいる中では不用意な考えも控えつつ、出来るだけ適当な事を考えていたがやはりなにか漏れた?寧ろ先にいて入れ替わった研究者達は何を研究していた?極秘事項として閉鎖区画とし、中を見ないままゲート内で廃棄しろと言われたが・・・。
「リュウ、そこまで国に義理立てするか?」
「お前はしないのかキリロフ。」
「義理を果たしてこれだ。ウチは多分もう降りてる。手札は全部ブタで融和路線を取るだろう。他の国に強く出られるのはそれだけ強いカードがあるからで、今のウチには人口なんてカードもない。ハッキリ言えば日本の人口とロシアの人口は2千万人程度の違いしかないし、その状況で事を構えたとしても国土の広さが仇となってジワジワ追い詰められるだけだ。」




