632話　地球でよくない？　挿絵あり

「長居すると思ったが早かったナ。」

「この浮かれポンチな帽子被ってキリッとしても締まらないよ。なに？到着祝い？」

　ゲートはS・Y・Sの中心部に設置されているわけだが、その周囲はハリボテと言うか誰もいない街状態だった。しかし、今は何やら飾り付けされて酒の匂いもプンプンする。粗方地球での到着報道を見てどんちゃん騒ぎしてたのだろう。珍しくと言うか山口も酒瓶抱いて寝てるし他にも厳しい顔をしていた学者達も何人か寝ている。

　そしてアラームで起きた学者は飲みすぎたのかゾンビの様にノロノロと立ち上がると、エナドリ一気してシャキッとした顔で『おめでとう』の言葉を残して歩いて行った。不健康優良児でありつつ身体は健康なんだよなぁ〜、アレでも。出迎えてくれたエマにしても三角のパーティー帽子被って酒瓶持ってたし。

「歴史的な快挙でもあるシ、コチラはこちらで研究成果のお食い初めと言うやつダ。S・Y・S内で増殖や結合して出来た肉や野菜を食っていタ。何気に発酵食品もいい味がしたゾ？」

「発酵食品？」

「飲んでる酒ですよ酒。さつま芋から焼酎へ、白詰草もさつま芋のツルも定着して持ち込んださつま芋が余ったので研究チームが酒にしてしまいました。まぁ、一部は蒸留を繰り返して度数80くらいあるらしいですけど。」

「火酒じゃないですか・・・、でもスピリタスやエバークリアよりはマシかな？」

　80度の酒と言うとストロー80オリジナルとかだったかな？スピリタスだと95度と言うほぼ純アルコールになるのでそれよりは軽い。軽いがアル中でぶっ倒れてるわけではないよな？肝臓ヤッても治るからいいとして、寝ゲロで窒息だと普通に死ぬぞ？因みにとある配信者が回復薬と酒を同時に飲んだらどうなる？と言う企画をやっていたが、アルコールが消えて水になるのだとか。なので酒のんで回復薬飲めば運転OKと言う国は増えているし、日本では飲んだ後に必ず回復薬かエナドリが出ると言う物凄く贅沢な店もある。ケチって飲酒運転した奴は知らん。事故った時の罰則は懲役か奉仕刑と相当厳しくなってるんだよ！

　そんな話をする橘の手にはえらく凝ったデザインの瓶が握られている。S・Y・Sの記念品にでもする気だろうか？他の瓶にも似た様なデザインがされてるし品評会も兼ねてるとか？十中八九やったのは藤with鍛冶師なんだろうが、ゲートが使えると分かって補修材を少し使ったのかな？S・Y・Sの大部分はケイ素だしゲートの中の土はそれなので使えるなら好きなだけ材料は手に入るし。

　　

「マシですけど到着の知らせを受けて大盛りあがりでしたからね。流石に疲れたと言えば疲れましたよ。何だかんだで連絡途絶状態でコチラもピリピリしてましたし。そして、今も中露兵への監視でもね。」

「まぁ、休める時に休むのも仕事のうちでしょう。私もちょっと部屋で休んできますよ。その瓶貰っても？」

　言うと橘が瓶をくれたので貰って部屋へ。橘は火酒を出して兵を酔わせて行動不能にでもしたかな？大量に飲ませて寝かせれば回復薬は出せないし、動けば藤の嫁達も感づく。受領品の受け渡しは後からでいいとして、気になるのは増田からの手紙なので読むとしよう。タバコを取り出しプカリ。さて何が・・・。

「・・・マジかよ。」

　手紙の内容的には中露宇宙ステーション内で縮退炉実験もやっていた様だ。内容的には設計図とは別方向でゼルドビッチ効果、簡単に言えばブラックホールをコマとしてそれに何かを投げつける。そうすると投げ付けられた物はパチンと反発してコマは減速し投げたものは加速する。つまり、理論的にはブラックホールに何かを投げ込めばその分エネルギーが取り出せると言う理論で、ブラックホールが大きければ大きいほどエネルギーは取り出せ、理論を知っていればコイルとローターがあれば擬似的に作る事が出来る。

　う〜ん・・・、読み進めると宇宙ステーション内を確認してどの程度大型化して実験をしていたか調べて欲しいと書いてあるが素直に出すだろうか？それに理論的には1971年にソビエト連邦のヤコブ・ゼルドビッチが提唱した理論でもあるし目新しいかと言われると迷う。いや・・・、下手したらクリスタルと飛行ユニット使ってメイド・イン・地球の縮退炉作ろうとしてた？

　確かにクリスタルは回転したら電気を出すし圧力掛けると熱を出す。クリスタルリアクターもあるのでエネルギーは好き放題取れるのだがゼルドビッチ効果で言われたのはブラックホール爆弾作れるよと言う物だったんだよなぁ。ガチに嫌な話をするならその爆弾を交渉材料代わりに研究していたとも取れる。なにせ片方は提唱元のロシアだし。

「どうしたもんかなぁ〜。元々廃棄するってアチラが言い出したからぶっ壊すのは問題ない。問題ないけど壊した所でデータは残る。と、言うか人の考えた理論を実践しているわけだから下手にやめろとも言えない。」

　そもそも地球に最も近いブラックホールは、今の所GAIA BH1 で距離は地球から約1560光年。かなり遠いと思うが飛行ユニットやらを開発出来れば擬似ブラックホールとかも作れるんだよなぁ・・・。技術の進み具合を見ると言うか確認すると言うか・・・。

　そもそもブラックホール・エンジンの事漏らした奴誰だよ！自分達で考えたと言われたらそれまでだし理論的な物は人が考えたんだけどさ！なんでこう、宇宙に来ただけで問題が勝手に増えるかなぁ？大人しく呼びかけて来なかったから地球にお先ですで良かったのに！

　しかし、宇宙ステーションを確認するにしてもどこでしよう？1番すんなり行くのはゲート内。今すぐ廃棄しろと言ってゲートに入れて出させれば話は済むし、橘を同行させれば鑑定も出来るだろう。寧ろ警察側はそこまで事態を読んでいたんだろうか？便利な立証人は便利であるが故に信用が大事だが、実勢としては十分にある。

　でも、その話をしてリュウ達が素直に応じるのかは分からない。最悪貸しの回収でもいいかな？ロシア側への要求ってかなり軽いものしか思い浮かばないし、ソフィアの件に片がついているなら触れたくもない。触れたくもないが仲間割れでもしてない限りお互いを庇って廃棄してすぐに帰ると言うんだよ。

　そうでなくとも職を考えるとS・Y・Sをうろうろしてほしくはない。究極的に言うと職に就いた時点でS・Y・Sで破壊工作を、更に言えば情報収集をしようとした場合鍛冶師かいるだけで事足りる。精錬がある以上、技術を精錬するとして遅れている国は先の技術に如何にして進むのかをプランナー辺りと話せば概要も掴めるし、鑑定出来る鑑定師では使いこなす事は出来てもそれが無ければ意味をなさない。

　そしてプランナーはリュウの職で鍛冶師はキリロフの職でもある。他にも同職はいるとして本国と通信途絶状態なら任務遂行中と言う話も・・・。望田には鑑定師に対する対処も神志那と練習してもらって可能と言われた。橘の鑑定を掻い潜っているかは分からないがどうなのだろう？

　考えるなら大当たりは仲違い、時点で折れた状態、最悪はゾンビか。情報戦やら詰将棋をするにしても死兵が実は生きているのが1番嫌だ。扇動して吐かせるのも手だがそれをすると国に返した時に違和感も出る・・・。

「なんにせよ会わない事には始まらないか・・・。」