閑話 122 とある巻き込まれた帰還者の話@6 挿絵あり
「榊君、君の産まれた年代は何時頃だい?」
「え〜と・・・。」
林と言う人が見を輝かせて聞いてくるけど、どうしよう?多分彼が欲しい解答を俺は持っていない。なにせ俺の知る常識はゲートとか言う物が現れて世界が変わる前に連れ去られ、帰って来たら何もかもが目新しい世界。いや、世界と言うより未来かな?に変わっていた。
「榊原人はどっちかって言うと何も知らない人だよ?フェムさんの話だとゲート出現前に誘拐されたみたいだし。」
「なんとまぁ・・・。それはそれで興味をそそられるけどね。」
「それなら逆に先生が授業したらいいじゃねぇか。歴史を語っても熱心に聞いてくれそうだしよ。」
「あのぉ・・・、その話を信じるんですか?」
出会ってその場で俺が原人だと・・・、過去に生きた人だと言われてそんなにすんなり信じてもいいの?確かにジョーンズやリリは長く生きていると言う。眼の前の林さんも白髪が合って60代位に見えるけど、多分かなり生きていると思う。そもそも人が人のまま長生きってそんなに出来るものなのか?ゲートとか言う物が関わってるんだとは思う。
なんにせよ勉強して今の常識を知るには林さんにレクチャーしてもらうのがいいのかな?でも、逆に考えると何でこんなに技術が進んでるのに歴史的な資料が・・・、少ないわけではないと思うけど探偵なんて話になるんだろう?
「信じる信じない・・・、その問いに意味はないんだよ。名が知られ英雄なんて事に成れば歴史に名が刻まれて、その人の出生もいつから存在するのかも分かってくる。でも、永遠を生きる人が多くあればその名乗りを信じるしかない。まぁ、ギルドに行って鑑定してもらうのが速いし確実だけどね。さてと、ここで話してもいいけど落ち着かないなら部屋を用意するよ?」
「いえ・・・、海は好きだから大丈夫です。リリ、俺の事って何処か話したらダメな場分とかある?」
「う〜ん・・・、榊が話したくない事はダメとして特に口止めはなかったから別に?あっ!でもあんまり話すと林さんのご同輩が押し寄せてくるかも?」
「歴史家達は飢えてるからな・・・。榊は林さんと話てな、俺はリリとミミと話して情報共有と今後を考えるからよ。」
そう言うジョーンズはいつの間にかピッタリとしたハーフサイズの海パンに着替えている。リリも海が余り好きじゃないと言っていたけど競泳水着見たいな水着に着替えてるし、遊びながら情報共有するつもりだろう。と、言うかね?ちょっと目を離した隙に海上にウォータースライダーとか出来てるのは何で?
そうでなくとも海の上を走る人もいるし、スイカを剣で斬ろうとして跳ね返されている人も見える。日向ぼっこしているし猫人はいいとして犬人は山盛りの肉でバーベキューとかもしてるし・・・。
「海が気になるかい?いや、現れては消える幻影の方かな?犬人と猫人の見分けは概ね尻尾がふさふさかボサボサかで分かるからいいとして、職の方に知識がなければ不思議な光景だろう。」
「その職ってなんです?」
「平たく言うとゲートの恩恵かな?人なら16歳でゲートに入ればほぼ例外なく職に就ける。逆に獣人は形骸化してしまったけど知識量や最新方面で査定される・・・、らしい。」
「らしい?」
「力を貸してくれる存在はおおらかと言うか気まぐれでね。人はゲート内で戦う者として選ばれた。でも、獣人はそうではなく隣人として突如発生した。進化の過程もすっ飛ばしどう接するかも決まらない中でね。私も個体成長薬と言う国宝級の出土品が欲しいけど枯れたらしい。」
「獣人って人が作ったんじゃないんですか?こう・・・、体の良い労働力とか・・・。若しくは実は宇宙人とか。」
ボーイミーツガールの定番!美人の宇宙人と仲良くなって恋愛して・・・。恋愛・・・。何か引っかかりはある気もするけど普通に考えると人と同じ姿の宇宙人なんて多分稀有だし、同じ姿で同じ生活様式の宇宙人ならわざわざ地球に来なくてもいい。それなら遺伝子工学の末に獣人を作ったと言う方がまだ現実味がある。そんでもって、それに使うのが国宝級の薬とか?えっ、国宝級なのに獣人いっぱいいるけど?
「人は獣人を作ってないし宇宙人でもないよ。祖先は犬猫でそれに出土品の薬を飲ませると言う、過去人のユーモアなのか事故なのかが発生して獣人は産まれた。最初の獣人は公式ではフェリエット、ファーストさんの飼い猫とされてるけど調べれば先に犬人がいたと言う話もある。残念な事に個体成長薬は枯れてしまって奥でも見つからないらしいよ。」
「なら、見つかれば億万長者?」
「その億万長者が欲しがるから国宝級だね。今も普通に犬猫はペットとしている。それを獣人にする為に薬を探す。ギルドの特別報酬として登録はされてるけど持ち主は限られるかな?そう言えば榊君はフェムに出会ったんだったか。彼女を見てどう思った?」
「綺麗な人?だとは思いました、人形でしたけど。」
「ふむ・・・。君の常識をアップデートする為に話すなら、この黒い指輪。これを扱えるならそれは人だ。人の形をした何かではなく人だよ。覚えておくと良い、人とそうでない者の違いはこの指輪が判断基準で持っていない者は子供となり保護や庇護の対象となる。まぁ、成人してもゲートに入らないと言う選択をした人もいるけど、それは稀なパターンだね。話を戻すけどゲートは急に現れた、それはどの資料やデータを見ても揺るがない事実でそれはソーツと呼ばれる宇宙人が持ち込んだ。」
「なん・・・。」
「その先はいいよ。人が宇宙に出て生活圏を拡張し大国と呼ばれるモノがイザコザや技術を磨く中でとある国が折れた。その当時の資料によれば政策の失敗から政府に対する不信感も大きかったと聞く。その中で持ち出され公開されたのが、何故我々はゲートに入らなければならないのか?その理由だよ。単純明快に彼等は我々に仕事を依頼した。その報酬が出土品であり金貨や宝石とかだね。ジョーンズから聞いたよ、小さな宝石をさも価値のある物と考えていたと。」
ぐぅの音も出ない話!リリの持つ宝石に対して俺の出した物は小さかったし多分純度も低い。なら、この未来人達は貨幣なんて物も使わない?でも、報酬に金貨と宝石があるあり・・・。流石に無償でなんでも手に入るとは言わないよな?手に入るならあの丼は買い溜めしたいけど。
「ここまで話したのは今の貨幣価値について話す為。」
「あっ!やっぱりお金はあるんですか?」
「あるよ?ないと不便だからね。ただ、それの変遷も大きい。金貨からデータへ、データから現物へ、そして今は求める物へ。古銭マニアなんかは古い貨幣に価値を付けるけどそれはそのコミュニティの中での価値で多数が納得しているから成り立つ。ただ貨幣がないと不便だから数字として持ち運ぶ。食品や衣類はそれで買えるし、概ね人が生産出来るものなら数字が書いてある。ただ、その数字に円やドルとか言う名はないかな?そこで質問だけど君の話に価値をつけるならいくらだい?私の話は私の話は調べればすぐ分かるもので価値はないけど。」
「レッスン料として等価で。多分、俺の話にも価値はないですから。」
俺の話しの価値・・・、異世界と言うか別の星にいたらしいけど、そこもそんなに技術が進んでいたとか聞かれると迷う。魔法は確かにあったけど今の地球には見劣りするし宇宙船なんて物もなかった。それを考えると今の地球人があの世界へ行った方が多分、俺なんかより活躍出来るだろう。
悔やむ事はない、やった事を誇れ。戦う中で心折れた俺に仲間はそう言った。最後は決戦時に俺の代わりに致命傷を受けて死んでしまったが、その顔は満ち足りていたと思う。いや、そう思い誇らなければ彼の死を踏み躙ってしまう。
「なら等価としよう。その代わり君はゲート入っていないから記憶力方面で足りない部分もあるかもしれない。何度でも質問には答えるよ。デバイスを使っても記録には限界があるからね。さて、私から話すばかりだけど質問もさせてもらおう。」
「答えられるなら・・・。」
柔和だった林さんの目が輝く。あれ?俺間違った選択をした?学校に通ってた頃もいたけど、知識欲に貪欲な人程事細かに聞くし矛盾があれば更にそこを掘り下げる。俺の知識量なんて義務教育レベルよ?なに質問されるんだろう?
「先ずは・・・、室町幕府・・・、流石にソレは欲張り過ぎか?元寇っ・・・は厳しい?ポツダム宣言辺りなら?いやいや、日本人に見えるし明治とかなら?」
林さんがブツブツ言ってるけどそれって歴史の教科書レベルでいいのか?えっ!なんでそんな事聞きたいの?寧ろその辺りの調査とか精査ってやり尽くされてるんじゃないの?
「あのぉ〜、そんな話でいいんですか?」
「いいよ?歴史焼却、誰が始めたのかは分からないけど人がいがみ合った過去はタブー視される傾向にあってね。タブーと言っても罰則があるわけじゃないんだけど、かなりの量の資料が廃棄されてしまったし、データ形式の変遷やその時に未変換のまま忘れ去られたモノも多い。一応、古い回線ネットワークも存在はしてるらしいんだけど、それに接続するにして専用デバイスが必要で過去の人くらいしか持ってないかな?確かファーストさんはケータイとかスマホとか・・・。」
「スマホならありますよ?圏外でしたけど。」
「!?本当かい!?あの時代の端末は新商品が出ればすぐに古い物は廃棄されていたと聞くし、生産中止されて作ろうにも設計図は廃棄されてる。何より個人情報の塊だとかで手放す人もいないし、指輪に入れたまま死ぬ人も多い。」
個人情報の塊なのは賛成するけど未来人はどうやって情報管理してんの?いや、全部記憶してるのか?確かに何かに情報を保存すれば漏洩リスクはある。突き詰めていけば頭の中だけで管理出来れば話さない限り漏れる事もない。けど、そんなに記憶って出来るもの?
「スマホは確かに個人情報の塊なので渡せません。でも、そう言った歴史的な話なら話せます。まぁ、教科書で知っている範囲ですけど。」
夕暮れまで林と歴史について話したけど、分岐があるとすればそれはゲートの出現で俺もゲートに入ればジョーンズの様な超人に成れるらしい。日暮れまで話してある程度の知識は着いたと思うけど、ファーストって人は何者?歴史的な変遷の度に名前が出くるスーパー少女?煙段ボールはそのファーストさんだったらしいけど、芸能人とかアイドルとかに会いそびれた的な?
「そろそろいいか先生。」
「あぁ、とても面白い話が聞けた。なにより日本人が戦闘民族だったと言いう確証も出てきた。知ってるかい?鎌倉武士は家の前に生首を飾ったり・・・。」
「それは榊から直接聞くよ。と、榊はゲート入るか?許可は出てるから入ると言うなら補助はしてやるが。」
ゲート・・・、少年として歩き出して即刻大人の仲間入り。郷に入りては郷に従えと言う言葉もあるし、なにより落ち着かない。平穏に生きた年月よりも戦った年月が長く、力がなければ生き残れない生活の中で手にした力は今の子供に毛が生えた程度。話を聞かされれば聞かされるほど今の俺は無力さが気持ち悪い。
「入るよ。」




