631話 帰投 挿絵あり
「かんぱーい!」
「よくぞ辿り着いてくれました!」
「これから更に宇宙への関心が広がる!」
「ファースト氏何か1言!宇宙ゲートからの道中何かありませんでしたか!?」
「学術的なモノは資料映像確認後に発表があると思いますので、現時点では差し控えさせてもらいます。」
「現場の東海林です。ファースト氏の日本統合基地到着の知らせを受け現場ではお祝いが開かれています!ゲート内と言う関係上、料理の出しっぱなしはなく注文後配布と言う形で飲み物も完全注文制となっています。また、グラスについても手を離すと消えて行くことからマイグラスが推奨されています。」
『東海林さん、食事やグラスの事は既に周知の事実です。ソーツへの呼びかけや中露宇宙ステーション救助作業等、一般人としても気になる事は多いです。専属的にインタビュー出来る権利でこの辺りの事を聞けませんか?』
「現場としましては、日本政府より正式な発表があるまでは政治的な質問や救助活動、呼びかけについても質問はしない様にと言われています。ファースト氏本人もS・Y・S内宇宙ゲートからの移動については資料映像を確認後正式に話すとしています。ただ、統合基地での張り込みによりファースト氏が馬に乗り到着した時の映像を撮影に成功しています!」
東海林の声が聞こえると言うか、統合基地到着後は中々大変だった。出迎えてくれたのは増田だったがそれよりもアルがハイテンションで話しかけて来たり、斎藤が血涙流しながら悔しがったりとかなりカオスな状態だった。その中でこっそりとコア持ってるよね?と聞かれたが、流石にここでバラす訳にもいかないのではぐらかした。
その他で言えばサイラスがエヴァと現れたり、飛び回っているラボが統合基地近くに珍しく停泊したり報道陣が国内外問わずに詰めかけたりと大変人が多い。増田から聞かされたが到着前に人払いをと日本政府は考えていた様だが、如何せん到着が早すぎて出来なかったとか。
まぁ、人払いしようがするまいが取られるモノも情報も持ち合わせていない。強いて言うなら俺がここにいると言うのが最大の情報だろうか?宇宙への物資搬送はスペースシャトルでなくてもいい。ゲートを宇宙に出せさえすれば開拓は可能。そして、そのゲートを出す手法は直接ゲートに飛行ユニットを取り付けて少数の人間が随伴すると言う形でもいい。
流石に地球からはそこそこ離れないとデブリ直撃の可能性もあるので一筋縄ではいかないだろうが、それでも新機軸の宇宙開発プランとしてはありだろう。実際、飛行ユニットの作成研修なるものを外務省は多数打診されていると言うし。割食ったと言うか皮算用が多少外れたのは赤道の国々。
スペースシャトル用地を売り出したのだが、飛行ユニットのせいで発射場そのモノが不要と言う風潮が出て悩ましい状態が続いている。ただ飛行ユニットの開発遅れを懸念する国は投資的な意味合いでスペースシャトル発射場建設地として確保されているのだとか。割とその辺りの国からデブリ除去業者とか出てくるんじゃない?前聞いたマスドライバーとかも地震が少なくて作りやすいし。
そんな祝賀会はゲート内なので規制は意味をなさないと言うか、下手に追い出すとパパラッチがバーバリアンにクラスチェンジしそうなので結果としては良かったのだろう。到着までの間の映像資料はカメラ毎増田に渡し、馬への呼びかけ部分は削除するかは任せた。使い道があるか考えるなら今回『大丈夫』を受信した人に見せるとかだろうが、乗っている馬に対してコードを使いイメージを送ったので他が受信出来るかは分からない。
アルや斎藤も見たいと言っていたが、増田がさっさと指輪に入れてしまったし個人として気になるのは鼻歌部分の映像が漏れないかとか?誠に遺憾ながら到着までの映像を早送りなしで見るのは苦行である。なにせほぼ走っている映像だけで見所もないのだし・・・。まぁ、誰が何処に見所を見つけるかは分からない。
あの馬が走った経路と言うか空間も見所と言えば見所か?ただ、馬って食ってもいいし研究してもいいしの、ある意味万能素材なので誰かが解明してるかも・・・。数も豊富だしな。
「那由多、卒業式はゴメンな。」
そんなドタバタな祝賀会を終えて統合基地で借りた部屋の中、家族代表として来た息子と話す。一応、増田が一緒にいた訳だがその増田も面が割れているので注目は集まるし、先に遥も来て話し込んで到着を待たずして帰ったので家族とバレて囲まれてたな。
「いいよ。式が終わっても残って駄弁ってたし、母さんには先に帰ってもらって最後だから学校を色々見て回ったりしてたしな。父さんこそ俺じゃなくて母さんが来た方が良かったんじゃないか?」
「ソフィアもいるし莉菜は来るとは言わないだろう。改めて卒業おめでとう。仕事始めまでにはまだ数日あるはずだが予定は?卒業旅行なんて話は聞いていないが、あるなら先に言ってくれ。お祝いするにしても那由多に合わせる。」
「今ん所2泊3日で福岡周辺回るくらいかな?結城にしろ加奈子にしろ拠点は大分だし千尋はある意味職場が同じだからそこまで遠くに行く事もないだろうってそうなった。ただ、悪ふざけして多少は伸びるかも。」
「仕事に支障が出ないならいいさ。親の管理を離れて1人、一応仮卒中だが卒業証書は手元にあるし、やらかせば実名報道になる。節度と良識を持って行動する事、物損にしろ自損にしろ事故ったらすぐに警察呼べよ?揉み消すなんて事はしないがな。」
「分かってるよ。ただ最近の法律だと賠償金がかなり曖昧だって話だけどな。車壊したら当然弁償はするとして、人の方はすぐに治っちゃうから・・・。」
最近と言うか保険屋が頭抱える奴だな。交通事故を起こしたら救護する。それは当然でしないと救護義務違反になるし『大丈夫だから行っていいよ!』と言う言葉を信じても警察に連絡していないと後から訴えられた時に多額の賠償金を払う羽目になる。それが過去で今はその救護と言う部分が問題で、警察到着までに回復薬飲ませると治ってしまっている事がある。当然病院に行っても健康で診断書はでない。
なら、目撃証言があればいいのだが誰も見ていないと警察に出頭して鑑定師に鑑定してもらうと言う流れになるのだが、それを嫌う人は多い。残念な事に誰もが清廉潔白ではないのだよ。ちょっと前に信号無視してたら点数引かれそうで嫌だし、記憶を見られていい気はしない。なので物損扱い+見舞金で手打ちする保険屋も多い。まぁ、双方納得しているから悪くはないだが警察としては快くないらしい。
「それでも保険屋より先に警察な。変な詐欺師とかもいる事だし。」
詐欺師と言うかスパイもいるし。息子と同行しているなら変な事にはならないだろう。自由にスパイ活動するのに体面も悪くしたくないだろうし、下手に捕まって身バレもしたくないだろう。
「気を付けるよ。それで父さんはどれくらいここに?」
「長居はしないが持って行って欲しい物もあるらしいから明日くらいまではいるかな?」
「持って行って欲しい物?」
「この実験の完了までのプロセスは1、私が統合基地に辿り着く。2、物品をゲート内で収納して宇宙と言うかS・Y・Sで取り出す。3、退出ゲート機能が正確に働くかを確認する。つまり今は半分完了した状態だな。」
「ほう、それで何を持っていくんだ?」
「それは私も知らない。」
何かを持って行くと言う部分でかなり議論されたと聞く。人工衛星であったり食料であったりS・Y・Sの予備パーツ的なものであったり等々。色々詰め込める指輪なので全部入れろと言われれば入る。確かに地球で人工衛星組み立てて運ぶだけで使える様になるならお手軽感はある。まぁ、周回軌道に乗せるのはかなり難しいとしてもだ。
大きさにしろ重量にしろ従来の物から大型化してもいいし、燃料と言う部分を考えても取り替え可能で機体もメンテナンス可能なら末永く使える物となる。何にせよ増田が取りに行くらしいし、ラボの方からはトレース機の追加もしたいと言われたので明日まではいるとしよう。
「そっか、なら母さんから預かったお守りも持って行ってくれ。行く前も貰ったと思うけど追加だってさ。」
「それはありがたく貰おう。お守りが多いと喧嘩すると言うが、莉菜からのは毎回安全祈願で同じ所のだから大丈夫だろ。さてと、那由多はどうする?このまま泊まっていくか?ベッドは1つしかないが。」
「よしてくれ、変な噂が立っても敵わない。英国のエヴァさんが武器を見せてくれるらしいから見せてもらって、その後はフェリエット連れて帰るよ。」
「ん?フェリエットも来てるのか?姿は見えないが。」
「いや、ギルドで受信出来た人として連日聞き取り調査されてる。ニュースでも話題になってたしS・Y・Sの波長を研究する人やら、チャネリング信奉者なんてのも報道されてたかな?」
「研究はいいとしてチャネリング信奉者って新手の新興宗教みたいだな。御神体はS・Y・Sなんだろうが・・・。」
「いや、御神体は父さんだそうだ。宇宙言語話せて送れる人がいるのにS・Y・Sが御神体なんて事はないだろ?」
「そんな集団潰してしまえ!私は即身仏かってぇの!」
悪いがミイラにはならんぞ?そもそも生きてる時点で現人神だろ!そんなものなりたくもない。現状回避出来るかは置いておくとして、やっても巫女扱いまででそれ以上は面倒でしかない。ただでさえ正式に地球に帰ってくればまた忙しさが倍増しそうなのに!
増田が俺を見る目は逃さないと物語っていたし、アルも言語学方面で教えろと叫んだいたし・・・。斎藤はコアを再度見たいとも言ってたな・・・。いや、暴露もしたし優先事項は祭壇の確保!
そんな話を息子とした明くる日。増田が物品を持ってきたのはいいが相変わらず人は多い。各国からの報道陣は持って行く物品を撮影しているし珍しく高槻や佐沼も顔を出しているので、お近付きになりたい人は話しかけている。まぁ、大半は袖にされているわけだが・・・。
「お久しぶりです高槻先生。最後に会ったのは国際会議後でしたか。」
「ええ、そうなりますな。おかげであの杖はいい相棒ですよ、棒だけにね。」
「佐沼さんも救助活動ではお世話になりました。」
「いえ、あれはこちらとしてもいいデータが取れました。単純に飛行するだけなら問題ないとしていましたが、正式に作業をするにあたり問題点もありましたからね。ラボからはトレース機と・・・。」
「こちらの薬をお願いしますな。」
「これ何の薬ですか?かなり毒々しい色ですけど・・・。」
「詳細は山口君に伝えてますよ。概要を説明するなら特殊条件下エネルギー・・・。」
「それだけで分かりました。完成品ですか?」
「試作品・・・、もしくはその前段階ですな。扱いは山口君に聞いて無茶はしてはいけませんよ?」
変にもったいぶるがヤバい薬と言うが塗料じゃないよな?コレって確か宇宙に出すとエネルギー作ってくれる奴だし。まぁ、山口が知っているなら後から概要を聞こう。
「クロエ、コチラがJAXAや政府からとなります。」
「分かりました増田さん。やっぱり人工衛星は持っていくんですね。」
「ええ。お願いします。地球から周回軌道に乗せるのではなく宇宙から乗せる為のデータ回収用となります。それとコレを。後から必ず読んでください。」
人工衛星はいいとして渡されたのは1枚の手紙。このご時世で手紙か。かなりヤバイ内容だろうな・・・。データはまだ盗めるが手書きの手紙は簡単には盗めない。なにせそれを出すタイミングも渡すタイミングも内容さえも露見させるのが難しい。
「分かりました、必ず読みます。では、コレよりS・Y・Sへ帰投しますね。」
話を終えて盛大に見送られる中、上昇アイテムで5階層に行き退出ゲートへ。機能は正確に働き眼の前には見慣れた顔ぶれが。帰投実験も成功か。
「皆さん戻りました。」




