617話 送信 挿絵あり
アポロ8号は通信出来ない月の裏側でエンジンを吹かすなんて言う、願い下げなミッションを成功させて地球に帰還した。『聞いてくれ、サンタクロースがいたぞ』通信の出来ない月の裏側から地球への帰途する中でヒューストンへ送られた通信がそれで日付は12月25日。はっきり言おう。私は私の顔を少しは好きになったが、コイツラに比べれば遥かに人間らしい恵まれた顔をしている。
寧ろアポロの宇宙飛行士達は何を見てサンタクロースと言った?色合いか?トナカイ風な角か?それとも見た宇宙人はソリ風のUFOにでも乗っていたか?驚いた拍子に付属ユニットの中で頭をぶつけたが、私は悪くない!悪いのは魔法を使ってわざわざ見えない者を見える様にしたクロエだ!
鮮明に見えた後は直ぐに見えなくなったが、化物がここに来ているじゃないか!アレが宇宙人だと言うなら呼び込むなと言う話がよく分かる。姿も大きさも何もかもが人とは違う、グレイなんてモノがまだ可愛く見える。
「クロエ、アレはそういう者か?キスどころか通過したゾ!」
「そういう者。中々のタイミングだったみたいだね。それでリュウさん達は?」
「藤の嫁に任せてあル。下手に人が監視に就くよりそちらの方が余程何かの際に対応出来るだろウ?」
「地球なら人に軍配が上がるけどS・Y・S内なら藤君だね。下手に嗅ぎ回りでもしたら宇宙に放り出すってさ。まぁ、流石に大人しいとは思うけど。」
「戻りましたよっと。玉の配置は完了して今はサイ達が自由に飛び回ってますけど大丈夫ですか?」
「サイ?」
「台湾のサイ大臣。R・U・R経由で宇宙用作業マシーンの試運転中。」
「聞き覚えのある名だと思ったがやはりカ。国際会議の折ニ?」
大統領から台湾が日本側に接触したとは聞いていた。流石に内容までは知らないと言っていたが、技術提携の申し出だったか。しかし、こうも早く宇宙用作業マシーンを作り上げる辺りラボでも何かしらの研究は進めていたのだろう。元からR・U・Rを使ったマシーンの試験を行うと言っていたがこのタイミングで台湾の大臣を投入する辺り、中国側としては完全に別国として認めさせる腹積もりなのかもしれないな。
中露がやらかしその中で中国側から離れたいと願っていた国が援軍として作業に携わる。世界的な目で見れば宇宙ステーションも持たない国の、しかも大臣が日本と協力して駆け付けると言う事は属国として支援するのではなく、一つの国家として日本と協力しあい技術を高めていると見て取れる。
懸念を言うならその技術が流出しないかと言う点だがR・U・R経由で使われているマシーンなら簡単にはハッキング出来ない。前に米国のバカがR・U・Rサーバーに遊び半分でハッキングするなんて事件があり、ウィルソンとアライルがドゥを使って確保に走ったが結局何も出来ずに発信源に到着した時にはゲロまみれで頭を抱えていたらしい。
その人物はそのままゲートで奉仕刑をさせられてペンタゴンに引っ張られたとか。日本側にも事例として報告したらしいが、逆にハッキングをかけた人物になにをどうやったか知りたいとして根掘り葉掘り聞かれるに留まったらしい。噂によるとメインサーバーは悪夢と美があったらしい。
「色々あって佐沼さんに会わせてみた。割と馬が合うと言うか頭でっかちで政治的な理由で割り振られただけ大臣じゃなくて、ちゃんと技術者として学んだ人らしいから話せば通じるってさ。」
「中々いい操縦の腕前でしたよ?エマの所には随伴としてラボの研究者が行きましたけど、私と一緒に作業した感じだとパワードスーツを着て宇宙にでても動けるでしょう。残念なのはマシーンには足がないのでS・Y・S内を動けない事ですけどね。」
「足なんて飾りです、偉い橘さんには分からないんです。」
偉い人と言うが形的にはサーバー内で使っているデータを現物化した様な物である。地上運用は考えていないので足はいらないし人の乗るスペースは全て機械やらに置き換えられる。まぁ、指輪が使えない分荷物と言う面では増えるのだが、それは指揮者を1人置けば済む話。
最悪大型資材コンテナを先に置いておけば宇宙でも安全な作業も出来るだろう。ただ、問題は今の所S・Y・Sがある事が前提なので単体運用が出来ない事とか?電波基地も設置しているがカバー範囲の問題もあるか。
「エマの付属ユニットにも足はないでしょう?それならエマも偉い人になりますよ。」
「大佐だから偉い人。階級で話すなら私は一兵卒で終了です。」
「どちらかと言えば私のはタチコマだがナ。頑張ればアレでも消えられるゾ?」
「宇宙なら黒く塗りつぶすだけでしょう?鑑定すれば見つけ・・・、出来れば見たくない様な・・・。」
「橘はアレが見えたのカ?いヤ、神志那が見えたなら当然カ。」
「そう言うエマも見えたと?どうやってまた。狩猟者にそんな性能もあるんですか?」
「クロエのイタズラだ・・・。」
「それって他の方にも試したら歓喜するんじゃありません?例えば山口さんとか。」
「さぁ?ただもうほとんど離れていませんからね。さて、他も準備が整った様ですしさっさとやるとしましょう。藤君行ける?」
『大丈夫でござるよ〜。光らせるだけでござるからな。クロエ殿は大丈夫でござるか?』
置いてもらった玉も解放したし強弱も対話としての言語も多分大丈夫。地上と話して送信するのは5分とされた。短すぎても悪いし、長すぎてもまた何かを呼び込むんじゃないかと言う懸念からだが、事情を知らない国からすれば『宇宙にいるならずっと信号送信して呼びかけろよ』なんて話も出る。
そもそもね、本来ならもっと早く呼びかける予定だったのが中露の宇宙ステーション不備のせいで伸び伸びになって他の国からもまだしないのか?って話が来てるのよね・・・。更に言うならS・Y・Sを光らせる計画なんてなかったし、元々の呼びかけ方式は俺の画像を煙に投影しつつコンサートよろしくレーザーライトをモールス信号っぽく光らせると言う方式だった。それをわざわざガーディアンコアまで出して本当に対話に舵を切ったもんだから色々と準備が必要になったし、来なくていい見えない者も出向いて来た。
まぁ、逆にこれで正確にはキャッチしてもらえたなら複製して宇宙に『大丈夫、来なくていい』と送信し続ける物でも作ってもらおうか?色々暴露したから安全策もバンバン出していけるし。地球の方も4カ国で声明を出したと言うしちゃんと今からやってOKとも言われた。
「大丈夫です。では光らせてください。」
「了解でござる。」
・・・
・・
・
________________________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
『大丈夫だ、問題ない』
『大丈夫、平常運転』
『大丈夫、ノープロブレム』
『こっち来んな、大丈夫だから』
昼夜問わずS・Y・Sが見える所に住む人の少数はそのイメージが頭に舞い込む。しかし、それは事前に声明が出され混乱はない。今後実しやかに囁かれる話として、このイメージが届いた人には強い宇宙適性があるのではないかと言われた。




