615話 そこを拾う?
『ま、待って欲しい!我々は滅びるのか!?ファーストを残して滅びるのか!?』
な〜んでその滅びの部分にだけ過剰反応するかね?ストレスで禿げるぞ?と、まぁ思うが俺だけ残して滅びてもいいなんて言われれば心穏やかではないか。実際俺の身体はどうやったら破壊できるのかも不明だし、ゲーム風に言うなら倒せないから封印した魔王枠とか?
「さぁ?私達は観測者で傍観者。どう生きるかは貴方達次第よ?私達は黒の何処かに・・・、宇宙の何処かにいるから暇なら私達を探すのも一興かしら?貴方達の言うソーツもそうやって会いに来た。多くの同族を引き連れてやって来た。そして願って捧げてああなった。愚物だけどそれでも意味はある。」
「ソーツが愚物・・・。魔女さん達の感覚としては底辺とか?それだと人類はミジンコレベル・・・。待って下さい!ならゲートとはなんなんですか?魔女さん達からすればモンスターも片手間に壊せる様な物じゃないんですか!?」
「それをする意味ってある?ゲートは僕達じゃなくてソーツの持ち物だし、それを設置して依頼して回っているのも彼等。僕達はそれを見ているだけで変に干渉する気もない。まぁ、この身体が中身のせいで高性能って話もあるし巻き戻るからね。下手に壊れれば面倒だけどモンスター程度に負けはしても壊れはしないよ。」
賢者がいけしゃあしゃあと山口に言うが、喜んでいいのか分からないゲート探索権ゲット?俺が宇宙に出てもソーツが来ない事は確定したし、なら次を考えるなら祭壇の早期確保である。流石にそこで呼んでも来ないとなれば契約違反だろう。その際はガッツリと意味を否定してやる!
「それをする意味・・・、人を助けるとかではダメなのですか?クロエは人で人の中で生きたいと願ってますけど。」
「上下関係の問題ですよ、上下関係の。魔女の本体は宇宙の何処かにいて見ているんでしょうが、今この場にいる魔女と賢者はあくまで職。それにゲートやモンスターをなくせばエネルギー問題にしろゴミ問題にしろ全て振り出しに戻るし、何より職に就けなくなるんですよ?」
『それは・・・、開戦の煙が上がると言う事か。強ければ生き、弱ければ死ぬ。そして、職の有無は隔絶した戦力差となる・・・。』
「何故今更職の事やゲートの事を暴露したとは言うなよ?私は確かに言葉が足りない所や情報共有に甘い所もある。しかし、開示すべき情報と隠すべき情報の判断くらいはつく。歴史に学びを得るならソレは繰り返される・・・。今日明日ではなく未来で。大国の指導者が秘密裏に集まってるこの時がそれを回避する最善の場でしょう?」
ネットでも国としての戦力と言うものについてよく議論されている。前は軍人の数ではなく兵器の質や威力、或いはどれだけ的確に素早く相手を撃破出来るか?だったが、今は全く違い兵士の数と質こそ文字通り戦力となる。
戦車が陸の王者を語る時代は終わり、航空戦力の数が制空権の確保を決定的にする事もない。その代わりに職をどれだけ扱え個人としてイメージを集め、1人でどれだけの事が出来るのかに集約されて来る。実際剣士とただの戦車が戦うなら軍配は剣士に上がり、その装甲ごと切られてしまうし戦車砲も切り払われる。
「いがみ合うより手を取り合えですか・・・。こんな事態にならなかったら本当に未来永劫隠し通す気だったでしょう?その秘密は重すぎません?」
「主義に主張に国民性なんてものを考えたら、決定的な齟齬が出ない限りそのままの方がいいんですよ。その国ならではの考えから発展する職のイメージと言うものもありますしね。宮藤さんに呼ばれてエマと共にゲートに行った時、私の魔法を止めたのは剣士ですよ?」
「斬り結んだんですか?」
「いえ?出してた水龍を剣で斬られました。助っ人に行っただけで体術もそこまで得意じゃない私が剣士を叩き潰したら問題でしょう?赤峰さんはまだ身内の戯れで勝利を私に譲ったとも取れるし、大会用のパフォーマンスだからとも言える。しかし、近接物理系の多い参加者の中でそれをするのはまずい。」
『なら、我々とも仲良くしてもらえると?』
「政治は政治家やら指導者に任せます。そもそもゲート内の事は不問です。その代わりクローンを作ろうとしたりした事は個人として不満です。ただ、それも今回の貸しの回収で終わらせます。」
『痛み分けではないのか?確かに我々は外宇宙に向かい信号を流したが、それは安全なものとして・・・。』
『中国の、それは虫が良すぎるだろう?キャッチしたのが魔女さんの知り合いだからどうなかなったものの、これが本当にクロエも知らない宇宙人ならスター・ウォーズに突入だ!宇宙から侵略されつつ、或いは侵略と言わず最初から助ける為に支配するとして来たならどうしょうもないじゃないか!』
『それは米国の考えだろう!日本との蜜月を経て技術を学び、個人としても友人関係を築く者を出して・・・。』
『同感だ。大国と言われるのは今は昔、資源カードはブタで国土の広さは管理出来ない人間を産み、下手に他の国に迷惑をかければ今はどの国も黙ってはいない。そんな中で他に助けを求めて何が悪い?相変わらず日本のはだんまりか?』
『特に話す事はないです。日本として意思を示せと言うなら、国際会議での決定が不履行になっていた事に対して遺憾の意を示します。』
『優等生な事・・・。』
『遺憾の意とは期待した結果が得られなかった事や、不満足な状況に対して残念と言う事です。二度とやるなよ?どうせやるなら止められる様に大っぴらにやれ。ゲートの事は知らないがルールくらい守れ。』
今の日本の内閣総理大臣は端的に言えば保守型の人間である・・・と、思う。松田とは話すが総理と話す事はないし、偶に式典なんかで顔を合わせるが手堅い発言とか形式張った話とかする、いわゆる先生タイプ。それが語気を強めてピシャリと言っているのを聞くと、ルール違反には腹を据えかねているらしい。
「そちらの諍いはコチラには関係ない。日本のスタンスとしては松田さんが会議で言った様に地球を離れているのに地球の政治に関わる気はないですからね。取り敢えず、今回の状況は地球ではどの程度広まっています?」
『4カ国とNASAとJAXAの高官のみ。流石に世界に対して発表するのは憚られる。S・Y・Sとしては無事と言う方向で信号送信を行うと言う話で構わないのかい?』
「元よりソーツに呼びかけろと言う話もありましたからね。表向きは中露宇宙ステーションからの救助要請を受諾して救援活動を行い、本来の呼びかけを行ったと言う話にすれば大丈夫だとは思います。」
「確証はないんですか?その思いますの部分が私、気になります!」
山口が鼻息荒く聞いてくるがS・Y・Sが光らせられるなら信号を送るのは大丈夫。問題は地球で当然大丈夫と言う信号を受信する人がいないかと言う点。中露宇宙ステーションは外宇宙に向けた望遠鏡の様な物で送信していたがS・Y・Sの場合ミラーボールの様に全方位、即ち地球にも信号を送る事になる。突然『大丈夫、来なくていい』なんて言うイメージを受信した人が何事かと騒ぎ出さないかも心配ではある。
「地球の方の問題ですね。全方位にイメージを送るので下手すると地球で受信する人も出てくるかもしれません。」
『その点は我々でどうにかしよう。ソーツに対して呼びかけを行うと言うのは初めから話されていた。その際に何かイメージが届くかもしれないとして4カ国共同で発表しよう。中露の方もそれで構わないかな?』
『中露としてはダメとは言わない。それが安心材料になるなら止められない。ただ、確認をするならそれで大丈夫なのだな?』
「その確認をされない為にやるんですよ。中露宇宙ステーションは廃棄する為に指輪に収納しますが、搭乗員はS・Y・Sへ回収します。では、これから色々と準備に入ります。」
俺は煙を出し藤と山口は他の研究者と共にラボからの実験機を整備し、エマと橘は地球側とのやり取りに待機する。さて、橘にお願い事をしておこうか。
「橘さん。地球に帰ったらでいいので、青山に何か中露に対してよろしくない事を吹き込んだ人を探してもらえません?」
「それはいいですけど・・・、青山君が例の?」
「ええ。魔女の知り合い・・・、正確には魔女に奉公する者です。基本的には私や魔女に対して気を使う様な存在がいて、それを青山と共同でやってる感じです。」
「アレで奉公?頭の痛い狂人ではないのカ?」
「魔女曰く、今の奉公する者はまだまともらしいよ?なんにしても脅威は去たとしても何を吹き込んだかは知っておく必要があ・・・、る?」
青山に何かを吹き込むとして誰がそれを出来て、言われた事を重く受け止める相手がどれくらいいるのか?そもそも奉公する者の存在を知る人は限られる。望田に夏目に増田である。別に青山に対して気を使う必要もないし、多少の事なら青山も奉公する者も気にしない。なら、その中でヤバ気な話を持ってくるのは・・・?
「橘さんさっきの話はなしで・・・。心当たりのある人に聞いてそれが見当違いなら再度依頼します。」




