613話 フェムも進化した? 挿絵あり
「橘さん鑑定は切りましたね?」
頷く橘を見てガーディアンコアを指輪から取り出す。相変わらずだんまりだが、それはそれで安定しているのだろう。これ自体に意思はあるのだろうか?輸送機コアは救難信号を出していたが、これは役目を終えたからスリープモードとか?初期の命令は持ち出されたモンスターの殲滅だが、それをしようにもするだけの身体がないし。
「これハ・・・、輸送機のコアか?そんな物よく再確保したナ。よく落ちていると言うモノでもないのだろウ?」
「これが山程落ちていれば、それはそれで喜ぶ人もいそうだけど残念ながらこれで手持ちは最後。そして、これはソーツとの交渉材料にはなり得ない。」
ガーディアン弄る許可を貰ったソーツとしては今更コレを出されてもいらないと言うだろうな。ドッグで出会う前なら確保に全力だったかもしれないけど、多分ガーディアンをソーツはいじくり回した後だしね。ソーツが複製出来るかは知らないが、彼奴等的には手本にはしてもコレをそのまま使うのは自らの否定につながるからしないだろうしさ。
「これが本物のコア体なんですね・・・、触っても?」
「いいですよ。落としても割れる様な物でもないですし。感触としてはツルツルしているのでガラスとか金属球ですかね?重さも見た目よりは軽いですよ。」
魔法を抜きにすれば少女の腕力とか筋力しかないのだが、重いかと聞かれると答えはNO。しかし掴み所がないのでうっかり落とす可能性はある。まぁ、台に置いても転がらないし軽く叩いたりしても音はならない。強いて言うなら皮膚接触によるペチペチと言うくらい?そんなコアを山口に渡すと色々な方向から見ている。
「ここにいるのは山口女史を除くと全員中位でござるが何も聞こえぬな。何かこれは話しているのでござるか?輸送機の時の様に助けてとか。」
「いや、話してない。基本的には無言で話しかけるとオウム返ししてくれるとかかな?橘さんは触らない方がいいとは思いますが。」
「鑑定するとどうなるかは興味ありますけどね。しかし、話しかけないと回答しないとなると昔のフェムを思い出す。藤君から貰った当初のフェムも基本は受け身でしたし。」
「そうなんですか?始めて見た時から流暢に話してましたけど。」
「それは24時間ずっと行動を共にしていたからですね。基本は私の生存とかを優先しますけど、早々命の危険に陥る事もないでしょう?だから藤君に言われた様に話しかけ続けて今のフェムになったと言える。」
「フェムは私も作って見たいんですけど職が違い過ぎて・・・。至って第2職を得るにしてもやりたい事が!」
山口がテンションバク上がりしている。調合師も作成は入っているが作れるのだろうか?スィーパーのジレンマと言うか至るとして第2職を何にする?と言う話はよく出る。なまじ出来る事が目に見えて増えるので今の職と組み合わせればなんて話なのだが、両方戦闘系を望むと言うかモンスターと戦いまくっている人は最初に出た職に対してシナジー効果を考えたり、引退後に潰しの効く職を夢想するし、山口の様に最初から何かを作る事をしている人は作るモノを増やしたいと望む人も多い。
結局は望もうが望むまいが出た職の中で選ぶしかないのだが、人の夢と言う部分ではいくら語ってもいいし研究者で剣士が出る事もある。初期の頃は自暴自棄になる人も多かったが、時が立つにつれて今までにない実験結果を出せるので再起する人も多い。何せ分子結合をぶった斬って別のモノと結合してもらうなんて話もあるしね。
「その玉何かしら?」
「フェム?もうメンテはいいんですか?」
「いいでござるよ。元々宇宙から地上に降りて不備がないか見るだけでござったし、その地球に降りるにしても飛行ユニットで段階的に降りただけで大気圏突入の様に燃え上がる事もなかったでござるし。強いて言うなら宇宙の劣化速度に対してどれくらい耐性があるかの方が不明でござったが、遥殿の固定処理はピカイチでござるな。して、外で待機していたと思うでござるが?」
コントロールルームは今の所会議室代わりなので隊長クラスしかいないし、他の研究者もシャットアウト状態である。まぁ、他の研究者も自分の研究を優先しているので構わないのだが、行動前には出来る範囲で情報共有しないとな。流石にS・Y・Sが光りだしたり煙で覆われたりすれば驚くだろうし。
「山口がフェムを作れれば私にもサポートユニットとしてくれると言うガ・・・、全てこんな性格にるのだろうカ?話を聞く限りでは違うと思うが下手に性格が合わないと蹴っ飛ばすかもしれなイ。」
「その辺りは本人次第でござるな。それに、拙者と山口女史が作るものが同一とも限らないでござるし。して、コレの光方を真似るのでござるか?」
「今の所無言と言うか待機状態。これから話しかけてそれを変換してもらう予定だよ。まぁ、目視だけだとあんまり変わりはないんだけどね。では、ちゃんと変換してくれるか確かめるとしよう。」
「返した方がいいですか?」
「いや、持ちたいなら持ってても。」
「jwq1twy2qtaup5wm5」
『jwq1twy2qtaup5wm5』
「えっと・・・、言葉なんですよね?なんとなく大丈夫という感じのイメージはコアから伝わって来ますけど。」
「私は安定してるからいいと言った感じかしら?」
フェムも受信出来ていると言うか感知出来ている様だ。元々全てが機械ではなく橘の精神の一部が入った産物なので、鑑定とかも一部は使えたりするのだろうか?謎多きフェムである。
「正確には言葉ではなくて波長ですね。無茶苦茶難しい上に少しでもズレるとイメージも変わる。前に額に押し付けてイメージを直接渡せないかと試した事もありましたけど、雑念まで拾って全く違うイメージが返しされましたよ。」
「なんと言うか口笛の様なオペラの様な喋るモンスターの言葉が綺麗な響きになったと言うか・・・、なんでござろう?アニメなんかの口では表現できない音程と言うか音と言うか。取り敢えず無事と言うイメージはコアから伝わって来るでござるな。」
「結構無理やりだしてるから普通の人なら喉痛めたりするかもね。今のコアの波長を真似れば多分大丈夫だと思う。」
多分人の喉には負担が大きい。有り体に言うなら海産物家族の1番小さい子の足音を人の声帯で一切音程を外さずに出せるのか?そう言った話になってくる。もっと言うなら煙で包んだ方が更に細かく話は出来るが見た目的には何してるか分からないしな・・・。
ラボでコアは出さないものの直近でもアル達とその辺りも話して色々と検証したし、一人カラオケは大台に乗りそうな勢いでエンヤのコーラスと言うか歌というかを歌った気もするし、旧支配者のキャロルも音程だけ取りながら歌った。そのせいで妻から『宇宙ライブ待ってるからね!』なんて事を言われた。なんだろう・・・、キラッ☆とか言わないといけない?
「作戦を話すので穴があったら言って下さい。藤君がラボを光らせ私が煙で覆い強弱をつけて波長にする。エマや橘さんは前段階で煙を撒く。最後に・・・、中露宇宙ステーションは存在すると現時点では不快の対象となるので指輪に収納し、搭乗員はS・Y・Sに回収する。政治的な問題は地球に任せます。」
個人的に言った貸しは後から回収する。まぁ、リー達の身柄を回収すると言う話で、日本としては表向きは無視を決め込むが裏では情報共有を密にしていく。流石に今回の件で無視し過ぎにも限度があると感じたし、青山とはどんなに話しても情報共有の限界もあると感じたしな。




