612話 打開策
バイクでS・Y・Sへ飛んで帰り中に入ると橘達が出迎えてくれた。そのままコントロールルームで話し合いという流れになったが、JAXAとNASAからも話が来ていて大まかな情報共有は進んでいる。後はどれだけこの映像が出回らないかだが、中露共に今回の件が終われば廃棄する予定だし国として恥を忍んでお願いをしてきている関係上、簡単には流出するものでもないと思う。
仮にこの映像が流出すれば両国の汚名は広がり、関係のない国からも批判をされるだろう。そもそも宇宙人を呼び込むなと言う話は国際会議でもしたし、勝手に来て偶然遭遇するのとわざわざ配信映像を送信してコンタクトを取る前提で動くのは違う。
まぁ、今回は奉公する者が先にブチ切れてその宇宙ステーションをぶっ壊そうとしたのだが、送り続けていれば他の全く関係ない宇宙人が受信してたかも。例えば煙渡した奴とか。
「あちらはどうだったでござるか?」
「宇宙人とコンタクトを成功させているとは思わなかったナ。NASAとJAXAから連絡が来て知ったガ、今からスター・ウォーズの準備をするカ?」
「特定の人には不快らしいですね。どこの宇宙人がそんな事してるか知りませんけど。」
橘は俺の方を見てくるがしらばっくれるに限る。管理限界もあるしそもそも青山になにか吹き込んだのが誰かも何を吹き込んだのかも分からない。人のキレるポイントなんてそれぞれで、腰抜けと言われただけでブチ切れる主人公もいればもっと酷い事をされてもキレる前に諦める人もいる。
推測だけするなら俺に対して何かすると言う話なのだろうけども、そのなにかも直接害する気なのか搦手なのかで変わってくる。例えば俺に対してお願い事をしても断られるから親しい人にお願いしてもらう。そんな話山程あるし将を射んと欲すれば先ず馬を射よと言う言葉もある。
心理学的な話をするなら、テレビをつけてと言うだけだと言われた人は動かないが、ドラマを見たいからテレビをつけてだと割とつけてくれる。それと似たように知らない誰かにお願いされるよりも、知り合いからお願いされた方が一考の余地もあるし、場合によっては多少無理してでも承諾する可能性もある。
いや、今はその話は横に置いておこう。現状でやれる事をやって事態を終息させ、一旦何もなかったと言う話にして貸しを返してもらう。まぁ、その貸しもそこまで悪い話ではない。場合によっては損失でもあるが、それと同時にメリットも大きい。
「それで?あちらでそこそこ長く話してきて打開策は見つかりましたか?私が言うのも何ですが収め方を失敗すると面倒ですよ?」
「ええ、その収め方も模索してきました。要は来るなと言うイメージの送り付けとあの宇宙ステーションの廃棄を実行すればいい。あちらのリュウ上尉とキリロフ大尉、そして両国共承諾しましたが宇宙ステーションの廃棄は構わないとしています。大きさ的には指輪に入るので、収納後ゲート内で廃棄する予定です。」
「宇宙語はどうします?ラボで研究していますけど受信は出来たとしても、対話として成立させるのはまだ無理だと聞いていますよ。波長や光と言ったモノは人としては強弱や数値的な物は分析出来ても、それがどうしてそのイメージに繋がるかは不明で何がどのイメージに対応しているかなんて・・・。」
「橘さん的にもやはり難しいですか?」
「私は鑑定術師ですよ?なんの物品もなく映像を鑑定師ただけでイメージの書き換えが出来るなら、人類の一定数は宇宙言語を話せる事になる。それに、話す相手が何物なのか分からないならどう接していいかも分からないでしょう?輸送機のコアの様な物があればまだどうにか出来るかもそれませんけど、それでも脳への負担は大きいと聞く。流石に倒れるのはゴメンですよ?」
輸送機のコア鑑定で神志那はぶっ倒れそうなったしな。まぁ、アレに類するものは手元にあるし、鑑定して使いこなされてもそれはそれでヤバい気もする。仮に使うとするなら先に見るなと言っておかないとな。
「先ずは確認ですがS・Y・Sを光らせる事は出来ますか?光と波長使うなら先ずは全体を光らせられるのか?そこからです。藤君出来る?」
石英ガラスとは電気を通さない絶縁体である。だからこそ宇宙空間にS・Y・Sを浮かべるとした時に外部からの電気的な誤作動は内部にほぼ起きないと定義されている。そして二重構造にして飛行ユニットと破損後分かりやすいように剥き出しのケーブルと超純水を埋め込んでいる。まぁ、下手にゴムとかでケーブルを保護すると燃えた時とか消火に手間取るしね。
「S・Y・Sを光らせるでござるか?飛行ユニットは光るディスクがコアである故出来ない事はないでござるが、そう言った想定はしてないでござるな。ただ、メンテナンス時に露出させる用意はあるでござる。」
「了解、なら第1段階はクリアかな。寧ろそれが出来ればかなり前進した。」
「前進?藤君に全てを任せる気ですか?宇宙語は理解してませんよ?」
「そこは私が受け持ちます。このキセルの煙、実は色を変えられるんですよ。」
前に手に入れた化粧箱。好きに煙の色を変えられるなら宇宙を利用して対話している風を装える。大量の煙を放出しS・Y・Sに纏わせて来るな大丈夫のイメージ再現を行えば、他の宇宙人も含めて救難信号を受け取った者は来ないだろう。まぁ、様子見とかに来る心優しい者とか暇でプラプラしている奴は覗きに来るかもしれないが・・・。
「エマは煙をS・Y・Sに纏わせるのを手伝って下さい。動かせますけどやはり煙の動きはそこまで早くない。」
「それはいいガ、全体にまんべんなくでいいんだナ?」
「ええ。玉にしてパッケージ化するのでS・Y・Sの回りにばらまいて下さい。最後に皆さんにはこれからある物を見てもらいます。山口さん橘はそれを直接見てもいいですが、橘さんは気お付けてくださいね?無理なら即鑑定を中止して下さい。」
「なんですかそのヤバそうな物は!何を出すと言うんですか!」
「ゲートを旅してる時に手に入れた物ですよ。」
(賢者、ガーディアンのコアって何か語りかけてる?俺としては無言でコードとしては読み解いてるけど『来るな』のコードはないんだけど。)
割と便利と言うか喧嘩っ早いと言うか仕事人と言うか。ガーディアンのコアは話しかけるとオオム返しで返してくれる。しかし、攻撃的な言葉はオオム返ししてくれるが仲良くしようとかには無言である。変換器としては使えるのかな?オオム返ししてくれるし。
(無言も何も身体なくしたからやる事ないしね。無事と言うイメージなら異常なしでいいよ。ただ来るなはガーディアンにはない。基本的に出向いて壊すものだからね。でも、君ならそろそろそれも再現出来るんじゃない?要は拒絶をイメージすればいいし。さっきの虫が嫌いと言うなら、それに対して来るなと言うイメージも持てるでしょ?)
拒絶か。確かにさっきの虫は不快で来るなと言うイメージは強い。人の恐怖感や不快感は色々だが、来るなと言う気持ちは一緒だろう。その来るなと言う部分を強くイメージしてガーディアンのコアに変換してもらう。それを見せて全く同じ波長を作れば『大丈夫、来るな』のイメージが送信出来る。




