602話 臨機応変っていい言葉 挿絵あり
「そもそもあちらの宇宙ステーションが不測の事態に見舞われたとして、物資の貸与による修理や大気圏突入用の救命艇で地球に降ろすのは無理ですか?こちらのアドバンテージとしてはまだ地球にいる事です。」
不測の事態がどの程度最悪かを考えるとして、出来る帰還可能な方法を提示するのは間違ってはいないだろう。流石にアチラも指輪の中に飯と薬だけ入れているとは思えない。作戦失敗時に身を守る術の1つや2つは用意していると思う。
作戦失敗=全滅なんて言う自爆作戦になんて誰も名乗りを上げないだろうし、宇宙へ行くにしてもその前段階でエマージェンシープランを行く人間も問うはずだ。流石に潜水艦に乗って緊急時に開けろと言われた箱を開けたら、聖書とハンドガンが入れてあったなんて言う笑えないジョークではすまされない。
「それも考えた。指輪には概ねkm単位の物まで入るし量は底が見えない。ブースター抜きのスペースシャトルが約40mなら指輪に十分に入る。まぁ、スペースシャトルは2000年以後老朽化を理由として退役しISSへの補給は日本、米国、ロシアがやってる。そして、有人宇宙船はロシアのソユーズ宇宙船、米国のクルードラゴン、ボーイングのスターライナー、そして中国の神舟宇宙船にウチのS・Y・Sのみだ。」
「ロシアと中国は当然の様に倒産した会社の部品を使用していたと言って船は出さん。米国に宇宙船の貸与をお願いして借りられたとしても、クルードラゴンもスターライナーも民間品。なんならスターライナーは2024年8月に不具合が見つかって地球への帰還は断念してパイロット2人はクルードラゴンで帰還予定。そのクルードラゴンも離発着を飛行ユニットへ換装するとしてバラしてある。スターライナーなら米国に言って勝手に修理出来るかもしれないが・・・。」
「そもそも米国式では運転に不慣れで、宇宙船そのものがウチの手にないか・・・。」
中国って米国からISSへ参加を認められてないから独自の宇宙ステーションを作ったんだよな・・・。その技術を活かして今回の大規模宇宙ステーションを作り上げたのだろうが、宇宙開発の歴史を紐解けば中国の宇宙船やらの技術は旧ソ連から来ているし、宇宙開発大網の863計画を立ち上げた時に米国式再利用宇宙船とロシア式使い捨て宇宙船を比べて選んだのはロシア式。まぁ、当時の技術水準としてはスペースシャトルを作りたくても複雑過ぎたからとも取れる。
そこまで行くと米国式宇宙船は運転出来ない可能性も高いし、ならロシア軍に運転させろと言ったとしてもロシアにはそもそもソユーズがあるからした事ないと言われればそれまで。宇宙開発ってテクノロジー集めてるから信用の置ける人にしか操縦させたくないだろうし、そこで問題が出たらまた抗議しだす。面倒だからと流石に大気圏突入するのに宇宙から落っことせばいいと言うわけでもないしなぁ・・・。
「なら、現地修理は?今回斎藤さんも行くんですよね?鍛冶師ならどうにか直せるんじゃありません?」
「今回行くのは山口さんだよ。斎藤さんは2号機の建設と前回持ち帰ったデータの整理に追われてる。それにな、今浮かんる大規模宇宙ステーションどう言う作りか知ってるか?」
「それは流石に・・・。中露共同開発品だから誰も内部構造を知らない?いや、でもあちらの技術者が修理出来るでしょう?日本と米国に情報開示を躊躇うのは分かる。しかし、自分が死ぬかも知れない状況なら文字通り死に物狂いで直す。」
船底に穴が開いたら板で穴を塞ぐし全員で水も掻き出す。そうでもしないと仲良く死んでしまうから。いや、更に嫌な想定をするなら直せない状態にする?駄目だ、構造も分からず中の電子部品なら俺達はお手上げでアチラが交換出来ないと言い出せば直せない。
先手を打とうにもデータを寄越せでは現段階では拒否されるだろうし、確定倒産と言う事は既にデータも破棄されている可能性もある。仮に破棄していなくても今その話を出した時点で不測の事態発生のトリガーにされるかも。流石に今からネットデータを漁って現地で賢者なので直せますの力技もまずい。
言うは簡単だがそれを信じると口で言った所でスパイ狩りは起こるだろうし、簡単に見つからないと思うが増田の所のスパイが露見すればそれを口実にしてくる。何より面倒なのはリーをぶん殴った武術家が中国国内にいる事。名をリャンと言うらしいが俺の名を出しながら戦わせろと全裸で走り回って騒ぎを起こした。
扇動する者が露見するかと問われればかなり難しいとは思う。そもそもリャンが俺と戦いたいと言うのは本人の希望で、その条件として弱いから修行して来いと言っただけ。と、言うか出たなら襲って来そうなので頭痛の種が増えた・・・。本気で逃げたサバイバーを捕まえるのって難しいし、隠密やらの練度も高かった。不幸中の幸いと言うなら狙うのは俺で人質作戦とか言うまどろっこしい真似はしないとか?最強とか言うものを求めるのに人質なんてせこい事は流石にしないだろう。
「直して駄目でした。それは常套句だろ?中の見えん箱はどこまでも不確かだし、会社の倒産と言うカードを切るならタイム・リミットが仕込まれてるかもしれん。」
大井がブスッとした顔で話すがやはりタイム・リミットありの不測の事態を想定するよなぁ〜。中国の宇宙ステーションってそう言えば中国語メインなんだった・・・。他国を排斥するとかではなく、自国の物を自国の第1言語で使用するれば自ずと緊急対応時に判断や対応のミスが減るから。耳の痛い話だがそれは俺がゲート出現時にやってるので文句は言えない。
そもそもこう言った事態が発生するまでは宇宙ステーションの言語的には英語、ロシア語、新たに中国後が使われていた。そして、スペースシャトル引退後は米国人も宇宙飛行士ならロシア語を勉強する。大規模宇宙ステーションは流石に中国語オンリーとは言わないだろうが、今でも使われているソユーズを考えるとロシア語と中国語オンリーかも・・・。
(け、賢者様?中国語とロシア語って・・・。)
(出来るよ?君の娘の件で遊んだからね。しかし、ネットと言うものは無駄が多すぎるけど見方を変えると宝探し風で面白い。まぁ、その宝を何にするのか?その設定次第だけど。)
(分かった、ありがとう。)
とりあえず賢者がマスターしたそうなので、最悪囁いて助けてもらおう。最大限の力技まで想定するなら魔法と言う手もあるが、その場合俺も一緒に大気圏突入だよな?船外で船を押し上げながら飛ぶか、引っ張り上げながら飛ぶかと言う話になるのだろうが流石に宇宙から地球まで魔法が届くか分からない。
そもそも大規模宇宙ステーションって何人乗員がいるんだろう?ISSで確か6名。ならその倍とか?そこそこ大きいと言う風な認識しかなかったし報道くらいでしか見てないから正式な人数は知らない。知らないのだが下手すると指輪のおかげで100名規模とかもあるのだろうか?少なくとも酸素はどうとでもなるし。
「何にせよ集めたデータ的には何かが起こる。そう言う心構えでいて欲しい。」
「分かりましたがこの情報はエマと共有していいんですよね?」
「いや、今は伏せて貰いたい。その為に橘も連れた来しな。」
「しかし共有していないと足並みも揃えられませんが?」
「今はだ。事態が発生したら開示する方向で頼む。そうすればスパイの話も出さずに済むし、何より事が起きなければ腹も探られんよ。」
「了解しました。なら隊長と言うか指揮者は橘さんいいですよね?私もやる事が多いし行く面子を考えると人選的にそうなる。」
「それは大丈夫だ。NASA側は山口さんが、日本側は橘が表に立ってクロエさんとエマさんはお客様待遇だよ。」
「ふむ。それで離陸はいつくらいにならそうです?」
「予定では明後日。報道機関かも取材要請があるから不意打ちで飛ばすのは諦めるしかない。」
「それは仕方ないでしょう。変に早めればブーイングの嵐で遅らせる事は出来てもそれをする意味はない。粛々と離陸して・・・、高度順応が不要なら早急に大気圏外へ出ましょう。それが最大限の嫌がらせです。」
衛星軌道上を飛ぶ大規模宇宙ステーション。中で何をやっているのやら・・・。大井達と話が終わり離陸までの間をぼちぼちゆっくりと過ごす。今回はゲートを搭載すると言う事で鹿児島から空輸して来た。その間にもエマや橘は取材を許可された報道陣への対応に追われているが、幸い俺は東海林に見つからなかったのでノーコメント。物珍しさで今は取材されるだろうが、そのうちこれも日常になり過去となる。タバコやらの買い忘れもないし、後は取り越し苦労と言う希望的観測を願おう。
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「種子島の東海林です!LUCKが足りず今回は直接インタビューに失敗しました!ですが、ここからでもファースト氏達がS・Y・Sへ乗り込む姿が見えます。今回の日本側の隊長として橘氏が任命され、米国側は高槻製薬の山口女史が研究責任者となっています。」
「現場の東海林さん?今回宇宙へ行くのは地球外生命体ソーツと祭壇以外で交渉できないのか?それが最大の確認事項でよろしいですね?」
「はい。国際会議でもファースト氏は祭壇以内での交渉は無理と話されましたが、個人配信チャンネルのアーカイブでは宇宙へ行き邂逅されていました。その点を踏まえ、まだ祭壇が見つかっていない中で今年の交渉を行うなら宇宙に出向くしかないと言う事から今回のS・Y・S搭乗となります。」
「滞在期間はどの程度とされていますか?政府からの発表では長期滞在の可能性も示唆されましたが。」
「現場でも発表されていません。ただ、今回はゲートを搭載しているので正式に使用出来れば様々な面で常識が変わります!」
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前回の2割増くらいで上昇するS・Y・Sだが、搭乗する前に写真取られた後は特に座席に座る必要もなく解放区画や個人に割り当てられた部屋で過ごす。
どこがいいか聞かれて1番SFチックな部屋を選んだが、多分それは間違いではない。やはり旅をするなら楽しまないといけないしユーモアは大事だろう。
「今、私はここにいる・・・。多分とても暇なここにいる。」
(よく分かってるじゃない主様。)




