600話 再度種子島へ 挿絵あり
2月に突入し色々とデータも揃いだし束の間の休息と言うか落ち着きをギルドは見せている。空白期とでも言えばいいのか、これと言った行事やらはないので当然と言えば当然だが、娘達はそこそこ忙しいらしい。
「チョコを刻むのはフェリエットにお願いするです。」
「刻んで溶かしてまた固めるのに意味はあるのかなぁ〜?業務用お得チョコをガリガリ噛んだ方が腹に溜まるなぁ〜。」
「そこには愛のスパイスが入るはずです!」
「形も味もないスパイスは旨いのかなぁ〜?」
「そこは気持ちよ気持ち。友チョコでも義理チョコでも本命チョコでも渡してありがとうの気持ちや愛情を伝えるの。まぁ、司は甘い物よりお肉が良いってよく言ってるけどね。
「お母さんはやらないですか?頭からチョコをかぶって私を食べてとか。」
「・・・、溶けたチョコって融点以上じゃないとすぐに固まるから熱いのよ?」
やろうとしたのかよ・・・。妻が体験談っぽく話すがそんな姿を見た事はない。まぁ、指に付いただけでも熱いしその辺りからの言葉だろう。今娘達が作ろうとしているのは友チョコで学校で友達と交換会をやるらしい。ウチに来た本田君やらミカンちゃんやら、色々フォローしてくれる長谷川君やらに渡すそうだが業務用チョコを5kgほど買い込んで作っている。
「お父さんは作らないです?ギルドにばら撒く用に。」
「ラッピングチロルチョコ買い込んだからそれを渡すくらいかな?大人の世界は色々と面倒でね。」
各課なんかには渡してもいいが無作為に渡すと面倒なので、受け付けの所にバスケット置いてそれに一口チョコを入れる予定もある。なくなり次第終了で誰が食ってもいいが1人一個までの制限はつける。つけないと青山とかがバスケットごと持っていきそうだし・・・。
それにアレルギーやら手作り苦手やら俺の様に甘い物をあんまり食べない人もいるしね。今の身体は割と甘い物も好きなので本当に嫌いな物以外はなんでも食べる。その代わりナスは嫌いなのでナスしかないならずっと食べずにいるだろうな。
「司がチョコを渡したら勘違いするやつが多そうだなぁ〜。私にも渡していいなぁ〜。」
「渡したら3倍返しな?」
「それは呪だなぁ〜・・・。添い寝ととかでいいかなぁ〜?」
「添い寝も何も今朝は冷えたから抱き着いてただろう?まぁ、3倍返しはいいとしてチロルチョコでいいなら渡そう。」
実際3倍返しも愛の告白も日本ならではのモノで海外だとそこまで盛んではないし、渡す物もチョコレートと言う括りもないしお返しの習慣もない。更に言うなら男性から女性に渡すのがメジャーだし、3倍返しはバブル期の日本で産まれて定着してしまった。
「しかし、那由多は今日も遅いのかしらね?」
「今は常昼だけど配属されれば夜間待機とかもあるし、早い内に仕事を教えておきたいんだってさ。ギルドの暇と世間の暇は違うしシフトで仕事するから対人関係とかでも慣れないとね。まぁ、バイトから就職したから対人関係はそこまで問題じゃないらしいけど・・・。」
「けど?」
「モンスター素材の取扱とか名前覚えたりがね。覚えるのは早いからいいけど、そもそも素材って勝手に名前つけてるから名前が一致しなかったりする事もある。一応欲しい物は画像付けて持って来いとか言うけど、それをしない人もいるし破損やら消えそうな素材を精錬で元に戻して欲しいって人もいるからね。」
モンスター素材もそうだがゲートで分解還元される時は一気に消えるのではなく全体的に透明に分解されて行く。生物は生きていれば消えないが死ぬと消えていく。そんな消えそうな素材は鍛冶師が精錬すると小さくなるものの形を保ってくれる。
まぁ、ゲート内で何度も精錬していると遅延は出来ても消えてしまうので装飾師に固定してもらうか、指輪に入れるか人が接触していなければならないのだが、問題は元に戻して欲しいと言ってもそれがどんな形だったのか分からないと難しい事。
色々なスィーパーがモンスターを映像に残し、政府も色々な国とモンスターの映像や絵を共有してネットに流していて、鍛冶師としてはそこからモンスターの形と言うものを勉強している。
息子は15階層まで行ったがそこまで行っていない新人は早期にそこまで行って、色々なモンスターを実際に見ると言うカリキュラムもあるので鍛冶課の新入社員組は忙しい。実際の話、画像だけではイメージが掴めない事が多く、集団で潜ったりする鍛冶課の面々って結構武闘派なのよね・・・。
タフで筋肉モリモリの山男見たいな鍛冶師達がハンマーとかを持って歩き回る様は中々に圧巻である。まぁ、細身の鍛冶師もいるのだが刀匠よりもドワーフをイメージする人が多かったせいか、どんどんマッチョになるのだとか・・・。
うちの鍛冶課長もゴツい厳しい頑固で職人肌と言う人なのだが、下戸で趣味は編みぐるみを作ることらしい。たまに鍛冶課に縫いぐるみが置いてあってご自由にどうぞの張り紙が貼ってあるが、課長の趣味が爆発して家に置けず奥さんから配れと言われて置いたいるらしい。何にせよ手先が器用な事だ。ただ、これから考えると斎藤もマッチョに・・・。いや、ラボで殴り合ったりしてるし割と筋肉質なのかも・・・。
そんなバレンタインを過ごし妻と夜には仲良くしたりした。エマやら望田、他の職員に日頃の感謝を込めてチョコを贈り青山は包み紙を綺麗にして取っておくとか抜かしていたが、到頭宇宙行きが発令されて、再度俺はエマを連れて種子島に来ている。
港からの移動は迎えを寄越すと言われたが、大名行列も嫌だし場所は知っているので丁重にお断りしてバイクで移動している。装備庁が作ったこのバイクだが、クリスタルリアクター使用なのをいい事にウチの鍛冶課にお願いして飛行ユニットを搭載してもらった。なので、宇宙でも乗れるし今はタイヤで走っているが飛行バイクにもなる。
多少のコツが必要なので仕上がった後はゲート内で練習したが、最高速度から飛行ユニットを起動させるとどんどん加速するので色々とヤバい。まぁ、緩やかに止まる事も出来るし速度も変えられるので大丈夫だが、最高速度時の制動距離はうなぎ登りだな。流石に急停止すれば俺がロケットになる。そんなバイクでニケツして種子島を走る。
「あれがS・Y・S・・・。」
「エマは初めて?前に来た時はハミングさんはいたけど。」
「初めて現物を見ル。あの時は米国内も忙しくてナ、山口と飛行ユニットの制御訓練や他国との連携をどうやって行くのカ?そんな会議に呼ばれていタ。元々米国は世界の警察を自負して動いていたシ、大きな戦争が発生すれば国の名が出てくル。しかシ、その考えを抜本的に変える時が今だとしてナ。」
「米国は武力制圧を念頭に置かないと?まぁ、最初から武力をチラつかせた交渉は愚策だけど。」
「チラつかせなくともそれがある事を他国は知っていル。核の傘に兵器の加護、軍人の数も多くそれを運用する資金力。今でもそれが通用しないわけでもなイ。しかシ、原潜を運用したとしてスパイが紛れ込めば今まで以上の被害想定をせざる負えズ、場合によっては1人で制圧されてしまウ。今世界中が大量破壊兵器を捨てているのハ、たった1人の敵による被害を最小限に食い止める為でもあるしナ。」
「持たざるが最大の防御か。」
下手に兵器を持っていると先制攻撃させられてしまうかもしれない。スパイが入り込みデータを持ち去るならまだいい。しかし、それが工作員として自国に何かしらの攻撃を行ったとしたら?攻撃した国にも鑑定師はいるし、それが工作員の犯行を見抜けたとしても既に遅い。
なにせ相手は何処から攻撃が来るかも察知しているだろうし、攻撃されればその攻撃して来た拠点を破壊する。つまり、証拠が有耶無耶にされた後に残った事実は攻撃して来た事だけになり、その事実を覆す間もなく戦争に突入してしまう。
流石に世界で核兵器が目減りしていき米国もロシアも中国だって廃棄している。下手すれば迎撃ミサイルでさえ射程距離が短い物しか表に出さず大陸間弾道ミサイルも姿を隠している。
それがないと対外的に見せる意義は大きく、ない物での攻撃は出来ない。まぁ、スィーパーがそれをすると言う話はあるが、そこまで人の管理を行うのか?と言う話にもなってくる。う〜ん・・・、ガチガチの共産主義でそれが許される国なら可能かもしれないが、多分そんな国には誰も住まないだろうな。
「先制攻撃さえ防げればまだどうにかなル。相手の国に不利益がありそれを主張したとしてモ、余程上手く偽装工作でもしなければバレる。それこソ、された国単体での主張は意味をなさなイ。」
「流石に殴られて怪我したと主張するのに医者の診断書を出さないのは馬鹿げてる。そして、その診断書を吟味するのは世界中で、拒否すれば逆に殴られた事実を疑われる。」
「そうダ。流石に隠された兵器までは言及出来ないガ、それでもその危機感から新しい防衛網等の構築は急がれていル。」
「人を殺す兵器は時代遅れですよ。そんな物でモンスターが倒せるなら今頃ゲートの中はフル武装した軍人しかいないし、官民一体なんて言わずに軍人を増やす。さて、JAXAに到着です。」




