597話 再度ハメられた！ 挿絵あり
連日の獣人職取りは約1週間である程度の落ち着きを見せてきた。職に就けて喜び合う者や次を模索する人達等々、大きな被害や混乱はないものの、連日対応に追われたギルドとしてはエナドリの支給やら勤怠管理やらで忙しい。2月に有給消化月間を盛り込んでいたので、そこまでは頑張ってもらうしかないかな？
獣人の入場試験自体は60日のインターバル期間を設け、数うちゃ当たるを回避しているが今年いっぱいは何度でもチャレンジする人達が多そうだ。実際、試験して入れてみない事にはどの程度の確率で職に就けるかも不明だったし、高確率で職な就けるなら尾を引く事もないと言う予想だったが、現段階で言えるのは職に就ける確率は低く政府としても職に就けた獣人に対して調査を進め、新たなる指針を立てようと躍起になっている。
躍起になっているのだが、国外からの問い合わせも多数外務省に来ていてパンク寸前だと加納が言っていた。下手な事も言えないし、データも揃っていないから正式発表までは沈黙でいいと思うのだが、シェンゲン協定の関係で鑑定師と獣人両方を入国時に使うのか？や、獣人の貸し出しの予定はあるのか等々判断に困るものも多い。
鑑定師でも見通せない指輪の中身が見えると言うのは、有力者からすれば喉から手が出るほど欲しい能力だろう。他の国も獣人をゲートに入れていないわけでもなく、隣人として勉強させていないわけでもないのだが、日本よりも就く率は更に低く職名の様に幻想生物扱いされてるとか。
「ポチ君は残念でしたね。」
「こればかりは気長にやるしかないでしょう。寧ろ私としては確率が低くて安心してますよ。入って全員職に就けばそれはそれで混乱も出てきますからね。友好的な隣人ですが力を持って豹変しないとも限らない、しているでしょう？犬は自分をリーダーだと思えばわがままになる。それが犬としてのわがままなら人は許容するでしょうが、犬人となり職に就いて力を持った時に間違いを犯さないとも限らない。憲章は首輪になりますかね？」
「現段階の話をするなら首輪以前の問題でしょう。職に就いただけでモンスターとも戦っていない獣人からすれば、人間はまだ脅威の対象ですよ。なにせ食うに困って罪を犯せば空腹は継続される。こちらが考えるよりも獣人は割とドライです。」
松田と電話で話すが獣人がすぐさま敵対して凶行に及ぶとも考えづらい。隣人としての扱いが悪い国はどうなのか？それはもう目に見えない他国の事なので反乱されればそれまでとしか言えないが、少なくとも犯罪と言うか人を傷付ける事に忌避感のある獣人がそこまで行き着いていると言う事は、関係修復に多大な時間が必要になるだろう。
効率と言うモノを考えたら反乱よりも逃げに徹するな。なにせ話せると言う事は少子数を相手に1人で立ち向かうより、圧倒的多数に訴えて打開策を講じた方が遥かに事態の収束に繋がるし保護してもらえるならご飯も確保できる。
「ドライな割にポチはよく背中に飛び付いて来ますけどね。そう言えば学校に通うモデルケース獣人達から身体測定データを揃えましたが、体重増減や筋力の増減はあるにしても身長は伸びない様ですね。ただ、新たに母体から産まれた獣人に付いてはその限りではないですが。」
「流石に永遠の赤ん坊では困りますからね。今いる獣人達は生物としての成長過程をすっ飛ばして存在している。なら、今の姿がその個体の限界成長状態なのでしょう。」
今後の結婚状態で色々変わってくると思うが小さい獣人は140cm前後くらいの身長だし、大きい獣人は2m超える者もいる。そこで出て来る最大の謎が元の種類は性別に対して大小が保証されない事。例えばフェリエットと同じキジトラ猫でも170cmくらいの女性猫人もいれば、メインクーンなんて言う体長が120cmを超える猫に飲ませたらフェリエットくらいになったなんて事も。
中身的には大きな違いはないし、外見的な違いを言うなら毛深いとか犬猫寄りとか言うのもあるが中々ファンタジーである。かずさDNA研究所や他の研究機関も色々と研究しているし一定数いる獣人との子孫を！と叫ぶ人は資金提供に協力していたりと、色々と動いたいるようだ。最新のニュースだと治癒師なら結合させれば受精卵が作れるのでは？やら肉壁ならDNA問題を突破出来るのでは？なんて事も議論されている。
混血が産まれたらどうなる問題もあるし、普通に産まれるのかも謎だらけだがオカルトあたりが探求の旅に出れば解明してくれるかも。流石に混血禁止法なんてないし禁止を呼び掛ける根拠もないから野放し状態である。
「今のまま後は年老いる・・・、若返りもあるから長く歩めるパートナーを探すのは難儀しそうだ。今後の獣人の取り扱いとして新しく母体からの産まれた獣人には正式な日本国民として住民登録をするしないと言う議論が出て来ていますが・・・、意見は完全に割れている。現段階の獣人は隣人で全ての帰属はパートナーになる。しかし・・・。」
「選挙ですか。獣人内閣総理大臣を否定したいと言う。」
松田が言い淀むが住民登録した時点で・・・、もっと言うと産まれた子に日本国民であると言う認定を出した時点で選挙権が発生する。獣人的にはどうでもいい権利で今の生活が保証されるなら投票に行かないと言う選択を取る者多数だろうが、政治家側としては大量票をゲットするチャンスである。
慈善事業で炊き出しをする。クリーンでいい事で誰にも止められない上にイメージアップにも繋がるし、何より獣人は飯で動く。つまり大規模炊き出しを乱発する政治家は獣人からの票を集めやすくなるし、仮に職に就いた獣人が正式に立候補したら獣人の票が集まるとも考えられる。
つまり、隣人から国民に変えた時点で人の上に獣人が立つ事を容認しなければならない。そして、その獣人の数は十分に獣人を後押しするだけの人数がいる。
「別に獣人は上に立ちたいとも思わないでしょうし、人が先手を打つならんそれに従いもするでしょう。ただ、オススメするなら国民ではなく家族にでもすればいい。」
「家族？」
「獣人の駆け込み寺はギルドですよ？単純に訴える先をギルドにすればパートナーを罰する事も獣人の問題も解決はしやすい。なにせ警察とも仲いいですからね。まぁ、他の本部長とも話し合いにはなりますが。」
「なるほど・・・、それってギルドが大変になりません？大元は特別特定害獣対策本部ですよ？」
松田が言うのは最もなのだが頻繁にスタンピードが発生するわけでもないし、既にモンスター対策よりもスィーパーの管理やらの方のウェイトが大きくなっている。そんな中で政治と言うか国がゴタゴタしだすと割食うのはギルドなんだよなぁ〜。最近は政治家のスキャンダルもめっきり聞かなくなって、若い人も真面目に政治に目を向けている中で、獣人絡みでゴタゴタすると内乱発生の予兆となる。
なにせ今のパートナーは国民ではないと真っ向から否定する形にもなるし、国民でないなら誘拐しても警察が動く事はなく好き勝手出来ると考える奴も出て来る。なら国民とするとやはり獣人が上に立つのを危惧する人も出て来る。結局時間も足りず人の器にしても未熟だから仕方ない。
「南北戦争やりたいならどうぞ。方や獣人を国民としたいスィーパー、方や人の国を守りたいスィーパー。そしてギルドは中立を示す。戦争にギルドは加担しません。罰するのは犯罪者であって意見の食い違いから発生する争乱を諌めるのは政治家です。それにスィーパーとしても日本でやらかすよりもゲート内でと考えるでしょうね。」
「それはダメですね、流石に国民が減っては困る。いやぁ〜、しかしクロエさんが獣人の引き取り先に名乗りを上げてくれて助かった！獣人もスィーパーに成れるなら意見集約も含めて管理元をギルドに一元化したかったんですよ！」
・・・、もしかしてはめられた？えっ！？もしかして取り込んで票獲得よりも獣人に対する法整備が面倒で、スィーパーも一般人も獣人も納得するであろうギルドが名乗りを上げるのを狙われた？えっ！政治家ってあんなに演説やらするのに票欲しくないの！？
「ちょ！ちょっと松田さん？獣人票って莫大な浮遊票ですよね？それが欲しい人と獣人の政治介入を嫌う人で意見が割れてるんじゃないんですか？」
「今の獣人は『隣人』ですよ？その隣人達の子が選挙権を得るにしても18年、今の政治家は全員引退しているでしょうし隣人同士の子を意見も聞かず勝手に国民に出来る分けないじゃないですか（笑）仮に獣人が犯罪を犯しても属地主義の元に裁けますし、事はもっと前段階で獣人は日本人になりたいのか？そこからです（笑）」
くそッ！所々で笑いを噛み殺してやがる。確かに本人達の意思もなしに事を運べば反発もでるし、なら世論調査結果よろしく無作為に電話をかけてアンケートを取るにも相手が本当に獣人か分からない。その上誰の意見なら納得が得られるのか？と言う面でも不確定で無作為に集約しても意味がない。つまり、松田達としては・・・。
「獣人スィーパーをギルドに職員にでもして橋渡し的な役割を望むと？」
「ええ。世間一般では獣人は隣人でパートナーで何かあればとりあえずギルドに聞きに行く。1番獣人やスィーパーが集まりやすく、政府と民間の中間組織なら意見も出やすくクッションとしての役割も担えるでしょう？」
ぐぬぬ・・・、確かに獣人はどこのギルドにも集まっているし、スィーパーとしても個体成長薬と言う出土品で誕生した獣人の事はギルドに相談しに来る。てかね、猫人にどれくらいマタタビとかお酒飲ませていいかとか聞きに来るなよ！モテたい？甲斐見せるか店にいけ！
小さい猫人や犬人のパートナーになりたいから保護獣人を引き取りたい？それはお前が決めるんじゃなくて獣人が決めるんだよ！まぁ、その人は見初められたわけだが・・・。絵面はともかく稼ぎはいいらしいし、ギルドの調査としてもそこそこ潜ってたらしいし・・・。
「他本部長達と話し合ってからですね・・・。流石に1人では決められないし、タイミングが今時期しかないのも分かりますがが、あまり重大な決断をギルドに投げ続けるとマスターが交代した時に泣きますよ？」
「あくまで意見集約ですよ意見集約。どこかわけの分からない団体に任せるよりも今のギルドマスター達は身元もはっきりしている分、何かを任せるに値するだけの価値がある。政治家として言わせてもらえば信用の置ける人間と言うのは幾ら金を積んでも確保したい。そして、その信用が置ける人間達が肩を並べてくれるならお願いするしかないじゃないですか。」
「言いくるめようとしてません？確かにギルドから信頼が抜けたらただの梁山泊になる。でも、マスターが交代しないと今度は水が濁る。いいですか？私がマスターで居続けるわけでもないんですよ？」
定年は迎えたい。80過ぎた政治家とかいるけど、モンスターは狩るし交渉は行うにしても俺はそこまで仕事をしたくない。少なくとも妻と過ごす余生はこの1回きりで、それを邪魔されたくない。
「本部長引退問題は確かに答えの出ない議題としてあります。若返ればいいとか、長期休暇扱いでサブマスをマスター代行扱いするとか、特定期に再度本部長を選任するとか。でも、モンスターと戦いいつ死が来るのかは誰にも分からないじゃないですか。永遠を歩まれるなら中々離しませんからね？」
「マスターからただのスィーパーになっていいなら考えましょうかね？たまに海外の掲示板でグランドマスターなんて呼ばれますけど、私はそこまでもてはやされるほど出来た人間じゃない。目の前の事や自身の気持ちを優先するタイプですよ？」
「大丈夫、大丈夫。私も含めてこの世に出来た人間なんていません。寧ろ、出来た人間が増えたら面白みがないでしょう？」
「それはまぁ・・・。」
出来た人間って言葉を使ったが、その出来た人ってなんだろうか？なにも迷わず失敗せず常に正論で話し感情で動かない・・・、何1つ面白みがないな・・・。流石にそんなモノに俺はなりたくない。
「獣人の話はこれくらいとして、宇宙行きは当初の予定が狂い2月から3月だろうと想定しておいて下さいね。」
「なにかありました？」
「いえいえ、単純に準備が遅れてるだけですよ。」
